使命を胸に、もう一度。   作:悲しみの抹茶

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すみません。遅くなりました。
前話からオリジナル要素の続きです。


8話 紫苑と手毬

 

 

 俺達が育った場所は小規模な児童養護施設だった。

 

 そこの児童はある程度の年齢__、大抵の場合小学校に入学する前には、里親に引き取られる。

 そして優秀であればある程、里親が早く見つかる傾向だった。

 

 数十人いた児童の中で、俺達兄妹は特に優秀であった。

 異常なスタミナ量。それによって激しい運動をしても小一時間は息切れせず、常に最高のパフォーマンスを発揮できた。

 

 俺もその異常性は自覚していたし、その特別さ故に引き取り手は直ぐに見つかるだろうと確信していた。

 

 そうして俺が六歳に、妹が五歳になる頃に現れたのが、かの有名なアラン機関を思わせる梟のブローチを身に付けたスーツ姿の男だった。

 

 

「君達の才能を見せてほしい」

 

 

 見定める様な目を隠そうともせず、男は言った。

 もちろん、それは今までの親候補も同じであった為、慣れてはいた。

 俺達は持ち前の運動能力や知能を見せびらかし、良い反応を貰えた事で手応えを感じていた。

 

 それから男は何度も施設に訪れては俺達の様子を見に来くる様になった。

 

 男は一日中施設に居座る事もあれば、俺達を外の娯楽施設へと連れ出す事もあり、自然体の俺達を見定めている様子だった。

 それが数ヶ月続いた頃、なんとなくではあるがこの男が俺達の親になるのだろう、と思っていた。

 

 

「私が、君達の保護者代わりになろう」

 

 

 予想通り、俺達はその男に引き取られた。

 しかし男は、親ではなく保護者代わり、である事を強調した。

 何でも、アラン機関の規則で支援対象との接触は禁じられていると言う。

 

 故に、住む家と金を与えられた後は、妹と二人暮らし。

 男は稀に様子を見に来るが、俺達に貸し与えられた家には一切立ち入らなかった。

 

 そこでの生活は、意外と丁度良かった。親が居ない寂しさはあれど、妹という家族が居るだけで十分だった。

 寧ろ、余計な監視が無い分、俺達は才能を思う存分に使い、好き勝手生活した。

 

 そして外の世界を歩き見て、妹が言う。

 

 

「紫苑が私にしてくれた様に、誰かを導き、助けてあげたい」

 

 

 兄として、妹を愛し、導く事は当たり前の事で、それは俺が思う理想でもあった。

 妹から俺はそう見えているのだと知り、俺は歓喜した。

 故にその気持ちを、願いを、叶えてあげたいと思った。

 

 そうと決まれば俺達は街へ繰り出し、困っている人を探した。

 幼さ故に上手くいかない事もあったが、どんな小さい事でも誰かの助けになるのであれば、と片っ端から手を差し伸べて周った。

 

 

「君の才能は素晴らしい! 世界へ、送り届けなければならない!」

 

 

 ある日、男は言った。

 妹の才能こそ、男が、そして世界が求めていたものだと。

 男は梟のペンダントを妹に渡し、手を引いた。

 

 

「お別れだ。彼女には使命がある。必要とされる場所がある。君達は共にいても足枷にしかならないだろう」

 

 

 理解が出来なかった。

 何故、俺達兄妹を引き離すのか。使命とはそれ程にまで大事な物なのか。

 俺達の生活は間違っていたのか。

 

 どれだけ否定し、どれだけ力任せに足掻いても、男の意見は覆る事は無かった。

 

 本当に子どもの様に駄々をこね、特に俺はその運動能力を容赦無く発揮して、抗った。

 当たり前の様に、男に怪我を負わせてしまった。

 

 それを数回繰り返したある日、男は武装した青年達を連れて来た。

 奴らの訓練された動きに俺達はあっという間に組み伏せられる。

 妹は気絶させられ、男に抱えられた。

 

 俺は少し頑丈であった為、何度も急所を殴打され、意識が飛びそうになる度に歯を食いしばって耐えた。

 妹の背に手を伸ばし、必死に問いかける。

 俺達の幸せは間違っていたのか、幸せを許されない妹の使命とは何だ、と。

 

 

「彼女は生きる意味が、道が、幸せが、産まれながらにして決まっている。この才能で『誰か他人の役に立ち、幸せを譲る』と。君の言う幸せは本来彼女が幸せにする予定だった誰かの幸せだ」

 

 

 意味が分からなかった。

 だとしても。

 俺も連れて行けと、俺達兄妹は唯一血の繋がった家族なのだと、叫んだ。

 すると男はこちら目を向け、言った。

 

 

「ならば君にはサブプランとして動いてもらおう。君の身体機能は評価に値する。その体に負荷をかけ、より強固に成長すれば、検討しよう」

 

 

 吐き捨てられた言葉と共に、妹は連れ去られてしまった。

 そうして俺は武装した奴らに連行され、その組織、リリベルで生活する事となった。

 

 そう、初めは妹と再会する為だった。

 血反吐が出るくらい努力した。男が言った言葉を何度も反芻し、スタミナがある事を良い事に無茶な努力を続けた。

 リリベルをクビにされない様に、必死に生にしがみついた。

 

 

 

 

 そうして一年が経ち、ある日突然、妹と再会した。

 

 DAに備えられた応接室で、梟のブローチをしたあの男に連れられ、妹は以前と変わらない笑みを浮かべていた。

 

 

「最期に会えて良かった」

 

 

 妹は笑ってそう言った。

 

 俺は問い詰めた。

 最期とはどういう事か、俺の努力は間に合わなかったのか、もう妹と暮らす事は出来ないのかと。

 

 

「私には、どうしても助けたい、……役に立ちたい人がいます。なのでもう、会う事は出来なくなります」

 

 

 少し他人行事で、妹は淡々と述べた。

 それは、本当に妹の__手毬(てまり)の決めた事なのか?

 

 

「__紫苑、少し話そう。紫苑はこの一年何してた?」

 

 

 俺達は男がいる前にも関わらず、色々な事を話した。

 まずはお互いに、この一年であった出来事を。

 手毬はこの国中を飛び周り、様々な人の手助けをしてきたと言う。

 

 

「これが紫苑の仕事道具? ……こんな物騒な物を紫苑が持ち歩く様になるとは……。考えられない」

 

 

 手毬にせがまれ、銃を手渡して見せた。

 今度は俺が、リリベルとしての日常を語る。

 生殺与奪が当たり前で、死は隣り合わせ。誰かを救う為に誰かを殺している。そんな狂った組織の話。

 それでも、いつか手毬と暮らせる様に。何事も無い、平和な日常を夢見て、頑張っていると。

 

 

「……そっか、紫苑も誰かを助けていたんだ」

 

 

 最期に心地良かった幸せな日々を二人して振り返る。

 手毬はその二つに結んで分けた黒髪を揺らし、コロコロと笑う。

 

 一通り話終え一息付くと、手毬は声のトーンを少し落としてポツリポツリと話だした。

 

 

「__リコリスの子で、才能があるのに心臓が悪くて死んでしまう子がいる。……その子が生きて、幸せになる為には普通よりも丈夫な心臓が必要で……」

 

 

 そこで始めてリコリスという組織を知った。聞くに、それは女の子版リリベル。

 そんな組織であれば誰かが命を落とす事は日常茶飯事だろう。

 それでも、その才能とやらがアラン機関に認められた事で救われようとしていると。

 

 

「__だから、アラン機関は代わりになる心臓を探して、……見つけた。それが、()()ある。それを捧げる事が使命となったんだって」

 

 

 それは、つまり、身代わりになる、という事だ。

 誰かを助ける。それが使命だとしても、その結末は悲惨すぎる。

 余りに現実味が無い。

 

 俺は唇を震わすだけでただ呆然と聞いていた。

 しかし手毬はそれを受け入れている様子で、さも当前の様に話す。

 

 

「__だから、さよなら。……紫苑は、私の分まで幸せに生きてください」

 

 

 抱擁が交わされる。

 

 手毬が死ぬ。

 見ず知らずの誰かの代わりに。

 手毬と引き離された時と同じく、俺はまた何も出来ずに。

 

 深い悲しみと、怒り。どうしようもない虚しさ。

 

 胸は痛みを帯び、入り乱れた感情が抑えきれずに涙として零れ落ちる。

 気がつけば、謝罪の言葉が口を衝いていた。

 

 

「__ごめん、ごめん。ごめんな。……助けてあげられなくて」

 

「__ううん。今まで助けてくれて、ありがとう」

 

 

 お互いの涙が頬を伝って混じる。

 

 たったの七年。産まれてから共に育った半身。

 その別れ。

 側から見るそれは、悲劇的で、感動的で、そしてドラマチックであっただろうと思う。

 

 

 故にアラン機関の男は、ほんの少し、気まずそうに目を逸らしたのだ。

 

 

 その隙を、待たれていたとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「__だから、今度は私が助けるんだ」

 

 

「__は……?」

 

 

 

 

 ドンッ

 

 

 銃声が響く。

 

 俺の胸元、痛む程強く突きつけられた俺の銃。

 それが手毬の手によって引き金を引かれていた。

 

 

 

 俺の体は天を仰ぐ様に傾き、遠くなる意識の中で、手毬が自らの頭部に銃を向け__

 

 

 ドンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __気がつけば、俺は病室のベッドで寝かされていた。

 

 痛む胸。脈動と共に痛む()()

 その脈拍に耳を傾けていると、唐突に声がした。

 

 

「__してやられたよ。まさか、勘付かれていたなんて」

 

 

 やけに渋い表情をしたアラン機関の男が、いつのまにか病室に居た。

 

 

「プランが台無しだ。まさか、彼女が君の心臓を破壊するとは」

 

 

 心臓? を、破壊?

 何を言っているのか。

 破壊等されていない。ここに確かに、脈動しているではないか。

 

 呆然とその様な事を言った。

 

 

「それは、()()()()()だ。君は彼女に殺され、救われた。彼女は使命を果たした。しかしこのままでは一つの才能が世界に届けられずに……」

 

 

 思い出す。

 夢だと思っていた、妹との再会を。

 

 思い出す。

 抱擁で交わした涙と体温を。

 

 思い出す。

 撃ち抜かれた衝撃と、最後の光景を。

 

 

「これからは、君がその使命を背負うのだ。今の君ならその意味が理解出来るだろう? 才能を世界に届ける為に__」

 

 

 

 唐突な吐き気を催し、えずいているにも関わらず、男は言う。

 

 血で赤く染まったペンダントを枕元に置いて、男は足早に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり__」

 

「千束に心臓を渡す。その為に生き、その為に死ぬ事が俺の使命でした」

 

 

 喫茶リコリコで、俺は手短に使命を課せられた経緯を話した。

 

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「……(おっも)いわね」

 

 

 店長は目頭に手を当て顔を伏せ、クルミは眉を顰めて口を閉ざす。

 唯一、これまで黙って話を聞いていたミズキだけがいつも通りの口調で言葉を発した。

 

 

「もう十一年も前の話で、心の折り合いは付けているつもりです。そう重く受け取らないでください」

 

「……そうか。……この事を千束には?」

 

「伝えていません。見ず知らずの男から心臓を渡す予定だったと言われても気持ちが悪いだけでしょう」

 

「ならば、そのまま伝えないでいて欲しい。千束には頃合いを見て私から上手く伝えておこう」

 

「承知しました。よろしくお願いします」

 

 

 そう店長が締めくくると、いつもよりも優しい表情で肩を叩かれる。

 ……同情されてしまったか。

 そんなつもりで話した訳では無かったのだが。

 それを言葉にして伝えるべきか悩んでいると、ミズキさんが態とらしく座ったまま伸びをした。

 

 

「さーて、私は飲み直すか〜」

 

「それじゃあ僕はそろそろボドゲ会の準備をしよう。紫苑も参加するだろ? 手伝ってくれ」

 

「了解した」

 

 

 彼、彼女らの対応が、やけに大人染みた優しさを帯びていて、ふと前世の家族を想起させる。

 千束がここの皆んなを家族として扱っている理由を垣間見た様な気がした。

 

 

 今回、俺は前世の知識について触れずに語った。

 しかしいつか、彼らであれば、前世の事も含めて秘密を打ち明ける時が来るのかもしれない。

 

 

 

 





 紫苑の使命が明かされましね。

 手毬も自分が紫苑とまた暮らす為に、という理由で人助けをしてしまっていたので、純粋に使命を全うしているとは言い難く、アラン機関としては紫苑の存在が邪魔。
 アラン機関の想定では、紫苑の心臓を有効活用すれば紫苑は死に、手毬は枷が無くなる為、使命の為に生き続ける事となる。一石二鳥でした。
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