くじら島の朝は早い。
海の向こう、水平線から覗く太陽の光が窓から射しこむ。
小鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。
「朝か…」
オレは目を時計に向ける。
午前5時か…。
そろそろ起きるか。
オレは手早く着替えると階段を降りてキッチンへ入る。
キッチンに入ると良い香りが漂ってきた。
女性が朝食の支度をしている。
「おはようございます、ミトさん」
「おはようエルク、今日も早いわね」
「ゴンは?朝起きたら居なかったけど」
「あの子ならいつもの場所でしょ
まったく!何度言っても聞かないんだから!」
「ははっ!ハンターになるのはゴンの夢だからさ
ミトさんもいい加減に認めてやればいいのに…」
オレの言葉にミトさんはムッとした表情を向けてきた。
おっと、コワイコワイ…。
オレが世話になっている家の主ミトさんだ。
くじら島の砂浜で目覚めて既に1年。
オレを発見した少年(ゴン)の好意に甘え、この家で暮す事になった。
余りに物を知らないオレに記憶喪失かと思われたが、世話になる手前ウソを言う訳のもいかない。
オレは誠意を持って本当の事を話した。
異世界から来た事、ハンターの事、精霊の事、魔法の事…。
実際に火の玉を出して見せてやった。
ゴンは目を輝かせて「ホント?スゴイや!」とか言うし、ミトさんも「大変だったわね」と割と簡単に信じてくれた。
なんでもこの世界には未知を追うハンターという職業があるらしく世の中の不可思議な事が毎年のようにハンターによって発見されているのだという。
オレの知るハンターとは少し違うようだ。
共通していることといえば、ある意味何でも屋といったところかな。
それからが大変だった。
何せ覚えなければならない事が山程あったのだ。
文字の読み書きから常識など、全て頭に叩き込むのに1年以上も掛かったのだ。
ミトさんや島の人達の仕事の手伝いの合間に勉強してきたが、かなり大変だった。
しかしソレ以上に良い事があった。
一年という歳月は、オレに新たな絆をもたらした。
ゴンとは兄弟の様に仲良くなったし、ミトさんもオレを弟のように扱ってくれる。
島の皆にも受け入れられている。
今まで殺伐とした人生を歩んできた分、島での生活は順風満帆だ。
しかし何処か物足りないのも事実だ。
そこは矢張りオレが『ハンター』だからなのだろう。
閑話休題
「ところでエルク」
朝食作りの手を止めずにミトさんがオレに声を掛けた。
「なに?」
「アンタもゴンと一緒に島を出るのよね?」
「ああ、ゴンが『賭け』に勝ったら一緒にね」
「そう、でも『主』を釣り上げるなんて不可能よ
ここ十年以上、島の大人達が何人も挑戦したけど
誰一人として主を釣り上げる事が出来なかったもの
まだ十二歳のあの子には無理よ」
「かもな」
「言っとくけど、エルクが手を貸すのはダメよ」
「分かってるよ」
オレは溜息をつきながら席についた。
窓の外を眺めて溜息を付く。
「今日で十日か、よくやるよアイツ…」
それから数分後、ミトさんの出した朝食を手早く完食したオレは外に出た。
納屋に向かう。
この世界に流れ着いた時に共にあった武器を置いてあるのだ。
納屋に入ると槍、斧、剣が立てかけられていた。
何れも刃の部分は布で覆ってある。
オレは一番慣れた斧槍(ハルバード)を手にとって外に出た。
腕を鈍らせない為の鍛錬は今じゃ日課だ。
この世界にも魔物というか魔獣は存在しているが、くじら島には危険な魔獣は極僅か。
それに領域(テリトリー)さえ犯さなければ襲ってくる事はない。
訓練にはなるかもしれないが、態々殺すためだけに魔獣の領域に足を踏み入れるつもりなどない。
今は黙って鍛錬有るのみだ。
オレはくじら島にある森林に入る。
少し進むと開けた場所に出た。
最も開けた場所はオレが鍛錬によって作り出したものだが。
オレはハルバードを構えると鋭く振るう。
突き、払い、斬りと。
槍を振るう度に鋒から炎が奔る。
オレは武器そのものに自身の『属性』を付与することが出来るのだ。
この技術は以前の仲間の殆どが習得していた技術だ。
魔力を制御して自身の属性の力を操る。
勿論、戦闘だけじゃない。
簡単な火種を起こして焚き火をすることも出来るのだ。
実際ゲームでもエルクが槍を振るう度に火柱が上がっていた。
自分がそうなって気づいたが、あれは戦闘において初歩技術に過ぎないのだ。
オレは周りの木々に炎が燃え移らないように力を制御する。
「せぇいっ!」
日もくれる頃、オレは一万回目の素振りを終えると、タオルで汗を拭った。
「そろそろ帰るか」
オレはハルバードの刃を布で覆うと、肩に担いで歩きだした。
「あ、エルクーッ!」
森林を出たところで声をかけられた。
「その声はゴンか?」
声の先に視線を移す。
「へえ…」
コチラに向かってくるゴンの姿にオレは思わず溜息を漏らした。
どうやらゴンは『賭け』に勝ったらしい。
ゴンは巨大な幻魚を肩に担いで嬉しそうにコチラに走ってくる。
「エルク!オレ、遂にやったよ!
これでミトさんも認めてくれるよね!」
「ああ、大したもんだ
これで大手を振ってハンター試験に望めるな」
「うん……っととと!」
ゴンは肩の上でピチピチと暴れる幻魚を押さえながらバランスを保つ。
「じゃあ帰ろうぜ
ずっと池で貼り込んでたんだろ?
碌なもん食ってないはずだ」
「うん!じつはハラペコなんだ!」
こうして俺達は凡そ十日ぶりに顔を合わせたのだった。
続く?
次回は旅立ちです。