俺達はくじら島の港に居た。
ゴンが賭けに勝って一週間、申し込み受諾の通知書が来たのだ。
オレとゴンは旅支度と島の皆に挨拶を済ませて港にやって来た。
それでも皆は見送りに来てくれる。
「これ餞別だ、もってけ」
「うん」
「体に気を付けろよ」
「ありがとう」
「ゴン、あれ」
オレの視線の先にはミトさんの姿がった。
ゴンがミトさんに駆け寄っていく。
「ミトさん、今までありがとう」
「ゴン…」
ミトさんは寂しそうな表情でゴンを見つめる。
そしてハラハラと泣き出した。
何かを話した後、ミトさんは嬉しそうにゴンを抱きしめた。
そろそろ出航の時間だ。
「もういいか?」
オレはゴンに声をかける。
「うん」
「エルク…」
「はい」
「ゴンの事、お願いね」
「はい」
こうして俺達は船に乗り込んだ。
「またねー!オレ、立派なハンターになるからーっ!」
ゴンは島が見えなくなるまで手を降っていた。
「ケケッ…」
「立派なハンターになる?舐められたもんだ…」
そこに居たのはガラの悪い数名の男達。
オレの見た印象は唯一つ。
「なんだ唯の雑魚(チンピラ)か…」
「なんだと?」
「口の効き方に気をつけろ兄ちゃん」
「弟と仲良く一緒に試験かい?」
「ああ」
オレは当たり前のように肯定する。
瞬間、チンピラたちは爆笑。
「この船だけでもう既に十人以上もの受験者がいるんだ。んで毎年全国からその数万倍の凄腕共が受験する。だが選ばれるのは一握りだ」
「ライバル同士での殺し合いも珍しくねえ。ナマ言ってんじゃねえボウズ…」
男達はニヤニヤと笑う。
中にはナイフを弄ぶものも居る。
コイツらはそれがカッコイイとでも思っているのだろうか?
オレが見る限り、コイツらはその『一握り』にはとても選ばれるとは思えない。
ゴンも興味なさそうに男達から視線を外した。
「……こりゃ荒れるな」
船長は舵を取る手に力を込めながら水平線の向こうを睨みつけた。
ピカッ!
真っ黒な空に光が奔る。
空はゴロゴロと呻きながら雷光を発する。
海は荒れに荒れ、横殴りの風と雨が船体の横っ腹を殴りつけている。
船内は激しくシェイクされ、人も物もゴロゴロと転がり壁や床、天井へとぶつかる。
船員が操舵室に飛び込んで叫ぶ。
「船底から浸水です!」
「そのへんのバカのケツで塞いどけ!」
船長は面倒臭そうに吐き捨てると襲い来る波を睨みつけて叫んだ。
「取舵一杯!どっかにつかまれ!飛ぶぞ!」
船はサーフボードの様に見事に大波に乗ると宙を舞う。
船体が更に激しく揺れ中の者達は悶絶する。
因みにオレ事エルクは…。
「ははは!おもしれー!」
結構、この揺れを楽しんでいたりする。
マストに捕まったオレは叩きつけてくる雨も気にせずに大波を浴びる。
昔乗ったジェットコースターよりも遥かにスリルがある。
くじら島の生活にはない刺激。
嫌いではなかったが、こういうのが欲しかったんだ。
それから約1時間後。
そして嵐は過ぎ去り、海は元の静けさを取り戻していった。
オレは船内に戻り炎の熱気で服を乾かす。
ゴンは持ち前の元気さとお節介でダウンしたチンピラ達を看病していた。
よくやるね。
ゴンのお節介が一段落したところでオレは声をかける。
「ゴン、甲板に出てみようぜ」
「うん!」
服も乾いた事だし外に行こう。
正直、グッタリしているムサ苦しい男共と一緒には居たくない。
「おお、見事に晴れたな」
海鳥達が空で元気よく鳴いている。
なんか平和だね。
ゴンは海鳥をじっと見つめて一言も喋らない。
なんだろう?
「どーした小僧共、流石にへばったか?」
振り返ると船長がパイプを吹かしながら歩いてくる。
ゴンは振り返らずに答える。
「……もっとでっかいのが来るよ」
「分かるのか?」
「風が生ぬるく塩っ辛い……、それにウミズル達も注意しあっているから…」
そういやゴンって動物の言葉、結構理解してたっけ…。
こんな野生児、前世を含めて一度も見たこと無かったな。
船長は驚いた表情でゴンの横顔を眺めている。
「小僧、おめえら…くじら島から入船したんだったな!」
「うん」「ああ」
「親父は何をしている?」
「それってゴンの事か?」
「ああ。ガキの方に聞いてる」
「ハンター!」
「そうか…」
船長は嬉しそうに帽子をかぶり直すと再び声を張り上げた。
「ゴン!次に来る嵐の到達時間と規模は分かるか?」
「波はさっきの倍くらいの高さかな?この調子で行けば3時間くらいで衝突するよ」
なんかオレを無視して話が進んでいく。
ちょっと寂しいが、オレも思わずゴンの言葉に吸い込まれていく。
マジでスゴイ…。
ゴンにこんな特技があったとは。
感心している間にゴンは船長に連れられて行ってしまった。
なんでも操舵方法を学ぶんだとか…。
オレはどうしようか?
海を眺めているとキィンという音が響く。
これはスピーカーのスイッチでも入れたのだろうか?
そして船内に船長の声が響く。
「これからさっきの倍ほどの嵐の中に入る!命が惜しい奴は直ぐ救命ボートで引き返すこった!」
同時に船内から男達の情けない悲鳴が聞こえてきた。
暫くするとワラワラと男達が救命ボートに乗り込んでいった。
そして船に残った者達は船長室に呼び出された。
オレを含めて四人か…。
船長の前で並ぶ。
「名を聞こうか?」
「オレはレオリオという者だ」
先ずはスーツを着たサングラスの男が答える。
次にゴンが元気よく答える。
「オレはゴン!」
民族衣装の青年が名乗る。
「私の名はクラピカという」
「オレはエルクだ」
最後にオレも名を名乗った。
「お前等なんでハンターになりたいんだ?」
「別にアンタには関係無いだろ?」
どうして初対面の奴に教えなきゃなんねえんだ?
オレの意見にレオリオとクラピカも同意見なようで訝しげに船長を見ている。
ゴンは空気を読まずに「親父が!」って感じで答えてる。
「おいガキ、勝手に答えるなよ」
「いいじゃん理由くらい」
「ダメだね。オレは嫌な事は決闘してでもやらん」
レオリオは不機嫌そうに言う。
クラピカも頷きながら口を開いた。
「私もレオリオに同感だな」
「おい、お前歳幾つだ?人を呼び捨てにするんじゃねえよ」
「嘘をついて質問を回避するのは容易い。だが偽証は強欲同様最も恥ずべき好意だと考える」
「おい、レオリオさんと訂正しろ!」
クラピカはレオリオの言葉を見視して話を続ける。
「かと言って初対面の人間に正直に告白するには私の志望動機は私の内面に深く関わりすぎている。したがって質問に答える事は出来無い」
「オレは大した理由はないけど、まぁ話す義理はないな」
オレもクラピカとレオリオに同意見だ。
自分が他の世界から来て戸籍がない。
身分を証明する物がないからライセンスを代わりにしようとは言えん。
まぁ、この世界のハンターにも興味あるけど。
俺達の答えに船長はつまらなそうに言った。
「ならお前等は今直ぐ船を降りるんだな」
「なんだって?」
「わからんか?既にハンター試験は始まってんだぜ」
「あんた、試験官か?」
「雇われものだけどな…」
船長は俺達の顔を見渡すと説明する。
ハンター試験を取りたがっている者はクサルほど居る。
だけど全員を審査できる時間も試験官の数も余裕が無い。
だからこそ、ふるいにかけられる。
先程船を下りた連中は不合格者として既に通知されたらしい。
「お前等が本試験を受けられるかはオレの気分しだいだ。心してオレの質問に答えることだな」
俺達は顔を見合わせた。
誰から答えるか。
クラピカが船長の前に一歩踏み出す。
「私はクルタ族の生き残りだ。四年前、私の同胞を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団を捕らえるためにハンターを志望している」
次に答えたのはレオリオだ。
両手を広げてイヤラシい笑みで答える。
「オレの目的は金さ!金さえありゃ何でも手に入るからなぁ!豪邸、クルマ、いい女に旨い酒っ!」
「品性は金では買えないよレオリオ」
クラピカの言葉にレオリオから笑みが消えた。
「表に出なクラピカ…うす汚ねえクルタ族とやらの血を絶やしてやるよ」
今度はクラピカの表情が変わる。
凍るような目付きでレオリオを睨みつける。
「取り消せレオリオ」
「レオリオさん、だ」
互いの間にピリピリとした空気が流れる。
「来な」
「望む所だ」
そして二人は甲板に出ていった。
「おい!質問はまだ終わってねぇんだぞ!オレの試験を受けねえ気か!オイ コラ!!」
「ほっとけよ」
「なに?」
「オレもそう思うよ『その人を知りたければ、その人が何に対して怒りを感じているのか知れ』ミトおばさんが教えてくれたオレの好きな言葉なんだ」
「多分二人にとって大切な理由があるんだろ?放っとけよ……、ここは止めるべきじゃねえよ」
「むぅ…」
「で、オレへの質問は良いのか?」
「……仕方ねえな。最後だボウズ、テメエはどうしてハンターになりたいんだ?」
ここは正直に答えるか。
異世界出身だということだけは言わないほうが良いか。
言っても理解も信用もされないだろうけど…。
「身分証明書の代わりになればと思ってな。後はハンターって仕事に興味があるからかな?」
「おめえ、流星街の出か?」
「リュウセイガイ?なにそれ?」
その時だった。
「船長!予想以上に風が!」
船員が慌てて飛び込んできた。
そういえば少し前から船の揺れが激しくなったような気が…。
レオリオとクラピカが心配だ。
オレは甲板へと飛び出す。
外は既に激しい嵐だった。
吹き荒れる暴風が船体を激しく揺らす。
クラピカとレオリオはお構いなしに互いに睨み合っている。
そして互いの得物を構える。
レオリオは鋭利なナイフ、クラピカは鎖で繋いだ二振りの木刀だ。
「行くぞ!」
「来やがれ!」
クラピカがレオリオに向かって走りだした。
その時だった。
マストが暴風に耐え切れずにへし折れた。
「うわあああ!?」
マストは船員に直撃。
船員の身体は勢い良く吹き飛んだ。
「カッツォ!」
船員の身体はレオリオとクラピカの間を通り過ぎ船の外へと投げ出される。
こりゃヤバイ!
オレは走りだす。
ゴンとクラピカ、レオリオも船員の方へと走り始めている。
まず一番近くに居た二人が手を伸ばすが手が届かずに歯噛み知る。
船員の身体はそのまま海へと。
しかし間一髪のところでオレとゴンが足を掴んだ。
瞬間、オレはワイヤーフックを投げて船の一部に固定。
同時にレオリオとクラピカが俺達を掴んでくれた。
「ワイヤーなんてリーザを助けて以来だな」
「いてて…鼻打っちゃった」
「なんて無茶を!下は人魚でさえ溺れる危険海域なんだぞ!」
「俺達の助けがなけりゃ今頃海の藻屑だぞ!」
「でも掴んでくれたじゃん。エルクも、助けてくれてありがとう」
「おう」
「あ、ああ…、まぁな」
レオリオとクラピカは照れくさそうに互いに見合わせた。
クラピカは笑みを見せる。
「非礼を詫びよう。すまなかったな レオリオさん」
「何だよ水くせえな。レオリオでいいよクラピカ。オレもさっきの言葉は全面的に撤回する」
「く、くくく…、ははははは! 気に入ったぜお前等!今日のオレ様は気分が良い!お前ら四人!俺が責任をもって試験会場最寄りの港まで送って行ってやらぁっ!」
「試験は?」
「嬉しくて忘れちまったよ。それよりも操舵のコツを教えてやる 来な!」
「うん!」
これが生涯の友となるレオリオとクラピカとの出会いだった。
オレは静けさを取り戻した海を一瞥すると、嬉しそうに船長についていくゴンの後を追った。
続く?