「……出口だ!」
階段を只管上ること更に約1時間。
俺達は差し込む光に希望を感じた。
出口の先に広がっていたのはだだっ広い湿原だった。
ヌメーレ湿原、別名『詐欺師の塒』。
「十分に注意してください。騙されると死にますよ」
サトツは湿原について話し始める。
この湿原の生物達はあらゆる方法で得物を欺き捕食しようとする。
敵を騙して喰らう生態系、それこそが詐欺師の塒たる所以だった。
「騙されること無く私に付いてきてください」
「嘘だ!ソイツは嘘を付いている!」
その時だった。
一人の男が傷だらけで現れた。
「ソイツは偽物の試験官だ!本物の試験官はこの俺だ!」
男は証拠とばかりに奇妙な生き物を放り出した。
人の顔、サトツの顔に酷似した人面猿だった。
「そいつは試験に集まった奴らを一網打尽にする気だぞ!」
その時だった。
男に数枚のトランプが飛来、顔面に突き刺さった。
同時にサトツにも。サトツは苦も無くカードを受け止める。
ヒソカだった。
奇術師ヒソカは不気味な笑顔を浮かべながらトランプを弄ぶ。
「くくく♠なるほどなるほど♠」
人面猿は死んだふりを止めて逃げ去ろうとする。
が、ヒソカが再び放ったトランプによて絶命する。
「これで決定◆」
ヒソカはサトツを指さす。
「そっちが本物だね♥」
試験官は審査委員会から依頼されたハンターが無償で付く。
自分達が目指すハンターが弱い訳がない。
ヒソカは自分の攻撃を防いだサトツに嬉しそうに言った。
「褒め言葉として受け取っておきましょう。しかし、次からは如何なる理由があろうと私への攻撃は試験官への反逆行為として即失格です。よろしいですね?」
「はいはい◆」
ヒソカに殺害された偽物にハゲタカの様な鳥が群がってくる。
そして瞬く間に骨に変わっていった。
「あれが敗者の末路です」
それでは気を取り直して行きましょうか。
サトツはそう言うと再び歩き出した。
そして再びマラソンが始まる。
レオリオも少しは体力が回復できた様で、愚痴りながらも走りだした。
暫く走ると霧が出始める。
それと同時にオレは異様な殺気を感じた。背後からだ。
視線を向けるとヒソカがいた。こいつか。
離れていた方が良いな。
「レオリオ、クラピカ、出来るならもう少し前に出よう」
「出来るならやってるよ!」
「私達に構わずにエルクは前に行けばいい」
クラピカはそう言うが…。
そうだな。この試験で他人を気遣う余裕はない。
クラピカもそれが分かっているから…。
「分かったよ、けど何かあったら呼べよ」
オレはそう言うと少しスピードを早めた。
実は少しゴンの事が気になっていたのだ。
アイツが落ちているとは思えないけどミトさんにも頼まれたしな。
他の受験者をグングンと追い抜いて暫く、ゴンとキルアの背中が見えた。
「よう!」
「エルク!レオリオ達といたの?」
「ああ、ヒソカの殺気がスゴイから前に来たんだ」
「へえ、アンタ気づいたんだ」
キルアは感心しながら言った。
「一応、レオリオとクラピカには注意したけど…」
オレは後ろの方を振り返った。
二人の姿は見えない。
どうやら結構離れてしまったようだ。
そう思っている間にも霧が一層濃くなってくる。
「うわああああ!?」
「ぎゃああああ!」
「ひっ!」
「た、たすけ…ぐふっ!?」
霧の奥から悲鳴が上がる。
同時に後ろの気配がかなり減った。
恐らくこの湿原の生物の仕業だろう。
オレは槍を持ち直すと、刃を隠している布に手を掛けた。
何時でも戦えるようにする。
ゴンも心配そうに後ろを見ている。
「ゴン、ぼやっとするな!人の心配をしている場合じゃないだろ」
キルアが横で注意する。
何時の間にか横を並んで走っていた人が霧に隠れて霞んで見える。
「ぐわっ!」
また悲鳴が上がる。
この声はレオリオ!?
オレとゴンの足が止まった。
「レオリオ!」
ゴンは振り返ると、いち早く走りだした。
キルアが叫んでいるが、構わずオレも後を追う。
少し走る。血の匂いが漂う。俺は思わず鼻を塞いだ。
視線を凝らすと、十数名の死体が転がっている。
その先にはレオリオに手を伸ばそうとするヒソカの姿があった。
ヒソカの手がレオリオを捕らえる瞬間、ゴンの放った釣竿がヒソカの顔面を捉えた。
「ゴン!」
「やるね坊や」
ヒソカは嬉しそうにゴンを見つめる。
「釣竿?面白いね、ボクに見せてよ」
「テメエの相手はオレだ!」
ゴンを守ろうと背後から襲いかかるレオリオ。
しかしヒソカの無造作に放った裏拳にぶっ飛ばされてしまう。
「レオリオ!」
ゴンはレオリオを助けようとヒソカに挑む。
あれはヤバイッ!!
「ちぃ!」
オレは足に力を込めると本気で地を蹴った。
一瞬の内にゴンとヒソカの間に割り込むと同時に槍の柄をヒソカの腹部に叩き込んだ。
だが寸でのところでヒソカは腕でガードしていた。
しかしオレは更に力を込めると、構わずヒソカを吹き飛ばした。
ヒソカの目が驚きに見開かれる。
「なろうっ!」
ヒソカは木に激突する瞬間、身を捻って木を足場に、そのまま地面へと下りた。
「くくく♥」
心底嬉しそうにオレを見つめてくる。
殺気が更に強くなる。
なんだ?この感じ…。
何か異様な空気がオレの全身を覆ってくる感じ…。
オレはハルバードの刃を晒して構えをとった。
更にヒソカの顔が愉悦に染まった。
「へえ…動けるんだ◆ 驚いたよ♠」
ヒソカはトランプを手に歩き出した。
「キリの良いところで切り上げる気だったんだけど♥キミの所為で滾ってきちゃったよ◆そんな訳でもう少しだけ遊んでもらおうかな……♣」
瞬間、オレの腕に『何か』が近づく。
オレは身を捻って『何か』を躱した。
またヒソカの目が見開かれる。
「もしかして見えてる◆」
「何のことだ?」
どうやらヒソカが何かをしたようだ。
見えない攻撃。
確かに見えない何かを感じる。
常人なら対処は不可能だろう。
だがオレは炎使い。
空気の変化に違和感を感じる事が出来る。
正確には熱だが。
何らかの熱が空気を掻き分けながらオレへと伸びてきたのだ。
オレはそれを感じて身を引いたに過ぎない。
ヒソカの体術やトランプは勿論、見えない攻撃にも気を付けないと。
「くくく◆」
オレの視線を受けてヒソカは嬉しそうにトランプを弄ぶ。
ヒソカは凄まじい速さでオレに接近する。
しかし想定内の速さだ。
ヒソカの蹴りをオレは躱しつつ槍を突き出す。ヒソカの頬を掠めて血が流れる。
「なろぉ!!」
オレはヒソカに手を出す暇を与えない様に弾幕のように槍を繰り出す。
だが再び何かがオレを襲う。
「くくく…いい◆ キミはいいよ♥見えてもいないボクのオーラをソコまで感じ取れるなんて◆」
「オーラ?」
「やはり知らないようだね♠」
「よく分かんねえけど見えない攻撃なら慣れてんだよ!」
オレがこれまで戦ってきたモンスターの中には影に隠れて襲ってくる奴もいた。
影の中に潜ることも出来る。
それ以上に手強いモンスターは多くいた。
しかもモンスターの全ては常人どころか本職の戦士よりも強いのが大半だ。
更に上の化物もゴロゴロしていた。
ヒソカはたしかに強い。
それにヒソカの言うオーラの所為で動きづらいというのも厄介だが、魔法で動きを封じられたり弱体化させられる方が遥かに厄介だ。
自分の能力を制限された状態で戦うなど今更なのだ。
しかし…。
「ちぃ!」
「つかまえた♥」
オレの腕にネバネバした何かが絡んで着る。
ガムのようなゴムのような何か。
ハルバードの刃を入れてみるがビクともしない。
これは簡単に外せそうにない。
瞬間、オレの身体は宙を舞った。
地面に叩きつけられる。
「くくく◆ これからどうしようか♥」
「「エルク!」」
ゴンとクラピカが叫ぶ。
「来るなゴン!クラピカ!オレなら大丈夫だ!」
「へえ?どう大丈夫なのか見せてほしいな♥」
ヒソカが腕を引き寄せる動作をすると同時。
オレの身体も奴に向かって引き寄せられる。
その先にはヒソカの拳が待っている。
このままでは無防備な状態でヒソカの攻撃を受けるだろう。
しゃあないか…。
オレは使う事にした。
ボウッ!!!
「……っ!?」
ヒソカの拳を受ける瞬間、オレの身体から燃え盛るような炎が吹き出した。
オレを捉えていた『何か』が焼き尽くされていくのを感じる。
ヒソカは警戒して後ろに下がる。
自由になった腕を確かめながらオレはヒソカを睨みつけた。
「触ると火傷するぜ」
ここに世界初の精霊魔法と念能力者の戦いが始まる…。
続く?