鍵使いな問題児   作:プックプク

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暇潰しと片手間で書いてますのでクオリティは低いかもしれませんがご容赦ください


第一話

 

名も無き世界。

 

そこには人間はおらず、ましてや心だけの存在となった者達が来る場所でもない。

 

そこにいるのは一人の青年である。見た目だけで言えば年の頃は二十にも届かなそうであった。だが少年のような幼さは全くなく、その青年の表情には何の感情も浮かんでいなかった。

 

肩までは届かないほどに伸びた灰色の髪に、左右異なる色をした瞳。宝石であるルビーとサファイアをそれぞれ嵌め込んだような美しさがあった。

 

青年はこの世界に生きる唯一の人間であった。

 

青年のいる世界には何もなく、ただ見果てるほどにまでの闇が広がっているだけであった。

 

青年がいるのはそんな真っ暗な世界で唯一とも言える、岩が重なりあってできた山のような場所の上。そこに座って永遠に続く闇の世界を眺めていた。

 

世界の終わった後の世界とでも呼べるような、何もないこの世界。最も心が揺さぶられる場所でありながら、最も心が休まる、相反する感情を抱かせる。

 

そんな中で唯一と言っていい、光を放つものがそのの手に握られていた。

 

心が形となった武器、巨大な鍵のような形をしたキーブレード。だが青年が持つキーブレードには、武器でありながら針金細工のような装飾とハートが施されている、芸術品とでも呼べそうなキーブレード。

 

そのキーブレードは最強の一振りと名高い究極の名を冠する代物であり、彼はキーブレード使いとなったその日から握っていた。

 

青年も初めからこの世界に居たわけではない。

 

元は他のキーブレード使い達が住んでいた場所であるキーブレード使い達の都、スカラ・アド・カエルムに住んでおり、そこで青年もキーブレード使いとして生きていたがそれは遥か遠い昔のこと。

 

既に青年の記憶の中には、どんな街並みであったかも、五人の予言者達をトップとしたキーブレード使い達の集まる組織、ユニオンでの日々も、なにも残ってはいなかった。

 

最後に残された記憶は、キーブレード戦争と散り行く世界の終わりの瞬間であった。

 

 

「また湧いてきたか」

 

 

キーブレードを地面へと突き立て立ち上がると、青年の瞳に力が宿り、握る力にも更なる力が込められる。

 

青年の視線の先には相変わらずの暗闇が広がっているが、先程までとは違っていた。

 

ウヨウヨと、黒い液体のようなものが暗闇の中で大量に蠢いていた。それはやがて形を為すと、人の半分程度の大きさの触覚の生えた二足歩行の生物へと姿を変え、青年のいる場所へと向かって進軍を始めた。

 

それらは心なきもの(ハートレス)と呼ばれる人の心を奪う魔物であり、ピュアブラックと呼ばれる種類の中でも最も有名な、シャドウと呼ばれる個体の群れであった。

 

より大きな心を求めるハートレスは、各世界に存在する扉と鍵穴のさらに奥にある、その世界の心を求めている。

 

キーブレード使いの使命は、全ての心の行き着く先であるキングダム・ハーツを守ることであり、心を狙うハートレスと戦うことはキーブレード使いの使命の一部でもある。

 

 

「鍵が導く心のままに」

 

 

それだけを呟くと、アルテマウェポン片手に岩山から飛び下り一人、シャドウの群れへと突貫する。

 

落下の勢いを抑えることなく空中で体勢を整えると、落下地点にいるシャドウ達へと向けて、キーブレードを振り下ろす。

 

ドシャァ!!とシャドウを複数体まとめて吹き飛ばすが威力は収まることなく、真っ黒な地面を粉砕する。数百を越えるシャドウの群れであるが、それら全てを巻き込むほどの規模にまで地面が蜘蛛の巣状に衝撃が走り、足場が崩れ去る。

 

 

キーブレードを、太陽も何も無い真っ黒な空へと掲げながら一言。

 

 

「エアロラ」

 

 

その身から溢れんばかりの魔力の奔流と共に、青年の周囲に風が吹き始める。

 

初めはフワリと、青年の灰色の髪が靡く程度であったが、徐々に吹く風の範囲が広くなっていくと、青年の込めた魔力の影響を受けて、風の威力そのものが引き上げられる。

やがてそれはそよ風から一つの小型な竜巻へと姿を変え、青年の一撃によって足元が崩れて慌てているシャドウ達には抗う術はなかった。暴風の中で、風によって舞い上がっていくシャドウの群れは、さながら風に流される木の葉のように、洗濯機の中で回っているかのように。

 

その竜巻の中心で、青年はアルテマウェポンを空へと掲げたままエアロラは維持しつつ、もう一つ新たに魔法を発動させる。

 

「サンダラ」

 

シャドウの竜巻のさらに上空の雲も何も無い場所に、アルテマウェポンから一筋の電撃のようなものが走る。

ズガガガッ!!と空から何十もの雷が、青年によって作り出された竜巻の中のシャドウ達目掛けて駆け抜ける。空から駆ける雷は、その一つ一つが十を越えるシャドウを闇のように霧散させながら地面へと落ちる。

 

最後の雷が落ちきる頃には、あれほど大量にいたシャドウの群れは消え去っていた。

キーブレードの一振りと、魔法をたった2回発動させただけであの規模のシャドウの群れを殲滅させるのは、並大抵のキーブレード使いの実力ではできやしない。それはキーブレード使いの中でも最強の一角とされるユニオンリーダーこと、予言者の実力をもってしても、これほど簡単に殲滅とはいかないだろう。

 

ましてや青年は、その実力を微塵も発揮していない。

 

その事実だけで、青年がどれ程規格外の力を持ったキーブレード使いかが分かるだろう。

 

辺りには消滅したシャドウ達の闇の残骸のような、煙のようなモヤが漂っているが、青年がキーブレードの持っていない左手を翳すと、そこに吸引器でも付いているかのようにモヤが集まり、青年へと吸収されていた。

 

 

「今回は簡単に片付いたな」

 

 

そして青年以外に何もいなくなると、元いた岩山へと戻るために歩き出した時であった。

 

 

「何だこれ」

 

 

ヒラヒラと、突如として青年の目の前に一通の手紙が落ちてくる。

 

普段ならば罠かと警戒するところだが、突然目の前に現れた事と、ただの紙だと認識してしまったため反射的に掴んでしまった。

 

だが幸いなことに、掴んだ瞬間に刃物が飛び出てくることも、ましてや毒が染み込まれていることもなく、青年は自分のとってしまった短絡的な行動を反省しながら安堵していた。

 

 

『グロード様へ』

 

 

封筒には青年の名前が書かれているが、その事で本格的に意味が分からなくなってしまう。

 

青年の名前を知っている者に心当たりはないし、ましてや知っていた所で、青年が今いる場所に届けることは容易なことではない。ひっくり返してみるものの、裏側には何も書かれていないため送り主が誰かも分からない。

 

ご丁寧に封筒に入れられていたため、送り主のことなど考えることなくビリビリと破り、中に入っていた手紙を取り出し目を通す。

 

 

『悩み多し異彩を持つ少年少女に告げる

その才能を試すことを望むのならば

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て

我らの箱庭に来られたし』

 

 

「家族も友人も俺には残っちゃいないがな」

 

 

自虐のように呟く青年であるが、その事は全く気にしていなかった。

 

この身はキングダム・ハーツを守るためにあると、ただそれだけで戦うことも生きることも、十分だから。

 

そもそも青年本人が言ったように、家族も友人もいない側からしてみれば、あと一つだけ捨てればいいということになってしまう。

 

それに財産といったところで、青年の持ち物は今着ている服ぐらいで、あとは青年本人に宿っているモノであるため、どの世界に移動しようとも捨てる必要はない。

 

手紙に書かれている少年少女という単語にも言えることであり、青年の年齢は見た目とは異なっており、世間一般の範疇からして当てはまらない。

 

だがそんなことは問題ではない。

 

手紙には、世界すらも捨ててという一文がある。これは断じて許容することはできない。

青年はキーブレード使いであり、全ての心の行き着く先、キングダム・ハーツを守ることを絶対としており、そのためにはハートレスから様々な世界を守らなくてはならない。

 

だからこそ、青年からしてみれば他の全てを捨てたとしても、世界を捨てることなど有り得ないのだ。

 

この手紙は本当に自分に宛てられたモノなのかと疑いすら持ち始めた、そんな青年の思いとは裏腹に、その身は強制的に移動することとなる。

 

上空四千メートルの高所へと。

 

まだ見ぬ新たな世界、修羅神仏が闊歩する世界の箱庭へと。

 

 

 





キーブレード使いはロマンがあるよね

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