【完結】罪状記録   作:初弦

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他人事よりはやや近い

 瓦城千咒、もとい明司千壽が佐野家と没交渉になった経緯は、二〇〇〇年七月三十日に起きた事件に起因する。彼女の、その当時の心境については——ここでは言及しないものとして。

 

 なんとなく足が遠ざかり、なんとなく疎遠になって、なんとなくそのまま経過していた。

 

 本来辿るべき物語の流れに於いて、この件に関しては、差異はあれどおおまかな流れに例外はなかった。事件(あるいは、事故)そのものが消失するルートたる〝ハッピーエンド〟を除いて。

 些細な齟齬が積み重なり、あるべき道筋から徐々に逸れて、やがて大きな意味を持つ。

 

 エマと千壽は、この夢物語において、偶然にも再会した。その再会が佐野家のうち二人の命まで救っていたことは、当事者たちは知らないが、少なくとも彼らが窮地から助けられたことは確かだった。

 交流はなんとなく復活した。やり取りはなんとなく続いた。

 

 この()に至るまで。

 

「たしか、そろそろつわりとかあるんだろ? 大丈夫なのか?」

「今日は平気! っていうか、たしかにちょっとダメな食べ物とかにおいはあるけど、ウチはけっこう軽い方みたい」

「へー、そういうもんなんだ」

 

 二十代後半ともなれば、結婚や出産の話も珍しくない年頃だ。

 とはいえ千壽はまだどちらも予定にないため、苦しくない方がいいもんな! の気持ちである。

 

「でもなんかしんどくなったら言ってくれよ? あとジブン気をつけることとかあったらすぐに教えて!」

「アリガト。マでもウチからすればそっちも大変じゃない? って思うけど……ニュースとか」

「……アレな〜……」

 

 千壽はストローで手元のフロートをかき混ぜた。

 

「ホント、エマも佐野爺ちゃんもごめんな……」

「ウチは話聞いただけだけどね」

 

 エマは肩をすくめてみせる。

 

「おじいちゃんも、なんか変なことはされなかったし。っていうかおじいちゃんの話聞くとその二人はむしろいなかったっぽいんだけど。マジでなにしてんだろー」

「エッいなかったって、じゃあなんで(タケ)兄は今ツラ晒されてんの」

 

 言いながら、千壽はちらりと窓の外に視線を投げる。

 

 こうして喋っている間にも、道路を挟んだ向かいの家電販店では、大画面テレビがワイドショーを流している。指名手配犯寺野南と明司武臣の顔がタイミングよく放映されている。

 

「千壽ちゃんって、部長ってわかるんだよね?」

「榎さんだよな? ……あ〜……そういえば……」

「察したと思うけど、ソユこと。あと、ニィ……ウチのお兄ちゃん、前にも話したと思うけど、血が繋がってない方ね? とか、あとその仲間とか来てたっぽい」

「……そこって取引関係とかなのかな? ちょくちょくセットで聞くけど」

「案外昔っからの仲だからつるんでるだけとか」

「ただの仲良しってこと? 面白いからそれでいーや」

「でもなんか今揉めてんのかも。あーそうそう聞いてよ、ケンちゃんとかマイキーに呼ばれて今日ウチの実家行ってるんだけどさ、その件で話し合うみたいで」

「え? でもマイキーもドラケンも、もうカタ……一般人だよな?」

「なんかねー。揉めてんのかもって言ったのも、どーもそこにニィも来てるっぽくて。てかだからウチ、今日から佐野家出禁なの」

「実家なのに?」

「実家なのに!」

 

 彼女らの会話で固有名詞がほとんど出ないのは、意図的で、要するにどこで誰に聞かれているかわからないためだ。

 

 公安の監視だの身辺警護——無許可——等はさすがに双方感知していないが、海をわたった先のギャングはさておき天竺(反社会的組織)の名前は本邦でもそれなりに知名度が高いため、場合によっては変な人に絡まれる。実際絡まれたこともある。

 龍宮寺や、初代等にヘルプコールをすれば、何分手を出さずとも強面かつ風貌がそこそこヤバいのが来るため事なきを得る。最悪でも、なまじ千壽の実力ならば自らとエマをゆうゆう守り切る。が、もちろん、わかりきったリスクは回避するに越したことはない。

 

 ちなみに万次郎はヘルプコールの選択肢からは外された。身長が伸びなかったのと顔がそこまで怖くない(しかし万次郎が手を出すといよいよ過剰防衛だ)ため、あまり効果がなかった。

 本人は落ち込んでいた。俺はお兄ちゃんなんだぞ……。

 

「……なんかさー。変なカンジ」

 

 エマの指先がストローのゴミを意味もなくもてあそぶ。

 

「ガキの頃はさ、どーいう大人になるかなとか。進路とか就職とかどーしよっかなとか。ケンちゃんとは絶対ワンナイトは狙う、イケればそのまま付き合う、あわよくば結婚するとか。いろいろ考えてたけど」

「ドラケン多いね」

「ウチってば、初めて会ったときからケンちゃん一筋だったからね」

「一目惚れだろ、そのノロケ十回は聞いたー!」

 

 千壽は呆れたように笑った。

 

「ヒナちゃんとセットで、倍、二十回」

「ウチらもう一目惚れ仲間で三時間語れるからね。語り尽くせるからね」

「高校の頃とかフリータイム使い切ったもんな。あー、懐かし!」

 

 彼女たちにとって、高校生の頃なんぞずいぶん昔の話になってしまった。

 中学時代と変わらず、授業では程々に不真面目で、服装検査をくぐり抜ける手段に関しては大真面目だった。放課後に和気藹々と盛り上がったことも、夜空を見上げて長電話をしたことだってあった。

 

「なんかねー。思ってたより大人ってかんじじゃないけど、思ってたよりフツーに生きてるし、でも思ってたよりフツーって感じじゃないんだよね」

「ンーマわかるな」

 

 とりとめもなく喋るエマに、千壽は同意した。フロートももうちょっと飲んだ。

 

「ジブンもシゴトとかぼんやり考えてたけど、こうなると思ってなかったし」

「まずウチらがちっちゃい頃とかYouTubeどころかスマホもなかったじゃん」

「あそれこないだ聞いてびっくりしたんだけど、スマホよりYouTubeのがギリ早いらしい」

「エそなの」

「なんかこないだヒナちゃんが言ってた。頭いいヤツってなんでも知ってるよな」

 

 日向もべつになんでもは知らない。勤め先でたまたま聞いたので、豆知識だ、と思いながら友人に共有しただけだ。

 

「あとウチ、知り合いがニュースに載るのはまだ慣れないかな」

「それはな……ホントに今でもびっくりする」

「マジでね〜良いニュースならいいんだけどね〜」

「悪いニュースはなァ……しょうもねえニュースもかな。マイキーは良いのとかあるじゃん、こっちの兄貴二人しょうもねえか悪いニュースなの、なに」

「でも春千夜ってたまに、誰々と付き合ってる、みたいなニュース出てない? 好きな人できたり付き合えたりするの自体はいいことじゃん……ペース早いかもとは思うけど」

「エマ、聞いて、YouTuberの惚れたはれたとか八割はただの炎上だから。そんでもって(ハル)兄は十割」

「そっか……」

「ヤまァ(ハル)兄は恋愛以外もそうだけど……は、話変えよ!」

「ソダネ」

 

 万次郎のオートレースの結果やインタビューも、三途の炎上も、度々ニュースに載っている。万次郎はたまに過去遍歴が掘り下げられて、暴走族の総長云々で炎上したりしなかったりしている。時効が過ぎていてよかったね。

 

「周りの大人って……真一郎クンとか、ワカとかベンケイとか、(タケ)兄もどうしようもねえやつだったけど、なんだかんだで歳上ってかんじだったし。大人になったらあんな感じになれるかなと思ったけど、未だにぜんっぜんなれないんだよな……」

「なんかね。もちろん、わりと生活とか違ってきてるし、昔は気にしなかったこと気にするようになったし、そういうのはわかるんだけど。根っこのとこであんましっかり変わったとかは、思わないよね。だってめちゃくちゃ変わったけど、ぜんぜん変わらないじゃん?」

「ね」

 

 テーブルを挟んだ女二人。真剣な顔で頷き合う。

 

 エマはふと、自らの下腹部にてのひらを当てた。

 彼女の出産予定日は六月ごろ、梅雨である。目敏い人なら腹囲の変化に気づくかもしれない程度で、まだお腹はさほど目立たない。

 

「……えっ、待っ、」

「なに?」

 

 今しがた話題になった、噂の小洒落たのインスタグラムに、新しく投稿が上がっていた。

 

「カフェ、臨時休業……」

「……マジ?」

「お子さんが熱出したって……」

「それは……それはとってもしょうがないネ……!」

 

 個人営業のどうにもならないところである。

 

「どうしよっか、このへんでおすすめとか気になるとこって他にある?」

「なくはないけどお昼ってかんじじゃないんだよな〜……」

 

 千壽は渋い顔で記憶を辿った。最近目星をつけていた店のほとんどが、昼営業していない、あるいはランチというには些かデザート寄りな店ばかりだ。

 

 普段ならばじゃあちょっとその辺ぶらついて気になったところに、という行動も取れたが、普段と異なるのはエマが妊婦という事実である。

 つわりもあるが、妊婦は常ならば平然と食べられるものが非推奨だったりするわけだ。たとえば、エマはお酒は好む方だが、それでも最近は控えているとのこと。

 

 千壽は、友達と生まれていない友達の子供をあえてリスクに晒すことはしたくなかった。

 

「よし、前行った中華行こ」

「あー、あそこたしかに美味しかった!」

 

 でも新しいトコ行きたかったよね〜、今度は絶対行こうよ、そんなことを話しながらDiorに出向き、その足でMACに入り、さらにEléganceを物色した。コスメショップをはしごしていくスタイル。

 お互い金に困っているわけではないので、思う存分、あれこれと思案できる。

 

 そしてEléganceでのことである。

 

「……あれワカくんじゃない?」

「……見ないようにしてたんだけど」

「……千壽、仲悪くないよね?」

 

 エマの慎重な問いかけに——もしかしたらなにやら喧嘩しているのかもしれない——千壽は絵に描いたように渋い顔で「だって」と呻いた。

 

「絶対アレ、今引っ掛けてる女へのプレゼントだよ。ジブン、実の兄貴より兄貴してるやつの色恋沙汰とか二度と巻き込まれたくねえから」

「巻き込まれたことあんの」

「どれから聞きたい?」

 

 どれからと言えるほどのラインナップ。

 

「……お、お昼行こっか〜」

 

 エマもまた目を逸らしかけたそのとき。

 

「薄情だな、千壽」

 

 ゲッ、と千壽は顔をしかめた。

 溜息をついたエマが「久しぶり、ワカくん」と声を掛ける。

 

「おー」

 

 若狭はヒラヒラと手を振った。視線が左右に振れて、かすかに首を傾げる。

 

「オマエらだけ? ツレは? エマはおまえ、本命はどうしたの」

「ケンちゃんってか元東卍(トーマン)、みんなマイキーに集合かけられてんの。おかげでウチはダーリンを実のお兄ちゃんに取られたし、実家出禁」

「ハ? なにそれ」

「ニュース観てねえの、ワカ」

「最近は忙しくて、あんま。なに、なんかあった?」

「ウチの兄貴とか部長……榎サンとかの件だって」

「……あー。……それは観たな」

 

 切れ長の瞳がうんざりしたように細められる。

 千壽にとって明司武臣は兄だが、若狭らにとっては旧友に値する。呆れつつも面倒を見ていたのは日本にいた頃の話だ。

 

「てことは議題はそれか」

「そ。……なーんか、ヒナちゃんの弟とか、あとニィの方も駆り出されてるっぽいしね?」

「そりゃまた……」

 

 黒川イザナと佐野家の関係と、現在の職業は、十二年のうちに若狭や慶三も把握するところとなった。

 警察と日本有数の反社会的勢力が立ち会う会議とはこれ如何に。

 

 ——てことは……万一があったとき、コイツらすぐに助けに来れるやつがいねえな。

 ——……このまま放置は些かマズくねえか?

 

「……だったらオジサンが警護してやろうか」

 

 若狭の妥当な提案に、とはいえ、エマと千壽は目を合わせたのち、非常に疑わしそうに若狭を眺めた。

 

「……その歳になるとオジサンって言ったほうがいろいろウケがいいのか?」

「信用しろよ。テメエの授業参観にまで行ってやったんだぜ?」

「世話になったけどさ、授業参観はマジで来ないでくれてもよかった。遠慮とかじゃなくてマジで」

「マあの日朝までオールのノリで行ったから酒抜けてなかったしな」

「だからあんなに酒臭かったわけ!? さ、最悪……」

「正直女だけだといろいろ面倒なこと多いし、ありがたいけど、ウチ、修羅場はイヤ」

「どっちか片方ならともかく、女二人連れて浮気疑われることは早々ねえだろ」

「片方なら疑われんだよなー……」

「しかも早々って二人でも疑われるときは疑われるみたいな」

「二回しかねえよ」

「……あるの? しかも一回じゃなくて?」

 

 墓穴を掘った若狭はさておき。

 

「じゃあさ、なんか美味しいご飯知ってる? ナマモノ系はナシで」

「そういやエマはおめでたか。ふーん、ならちょっと奮発してやるよ。千壽も奢ってやる」

「いや、エマの祝いだろ? ジブンも出すよ」

「いい女はここで大人しく奢ってもらうんだよ」

「さすがアラフォー。その価値観古いぜ」

「よし、表に出ろ」

 

 店の近くの物陰にて、若狭は千壽の頭を締め上げた。千壽は悲鳴を上げた。

 はたから見れば犯罪現場である。通報されなかったのは運が良かった。

 

 エマはのんびりと店内で会計をしていた。

 

 

  他人事よりはやや近い

 

 

 若狭が紹介した店はイタリアンだった。

 大通りから逸れた路地、少し見つけづらいところにあるものの、昼時を少し過ぎた時間帯でも席が八割埋まっている。それなりに繁盛しているようだ。

 

「そいやさァ、ワカとベンケイって十二年前のことどこまで知ってたの」

 

 メニューを各々注文すれば、当然、調理と配膳の待ち時間が生まれる。世間話の時間に転用することも可能だろう。

 

「……ンだよ急に」

「最近、なんか思い出してさ。クリスマスとか」

「あーたしかに、タイミング良かったよね」

 

 妹分二人から口々にそう言われ「あいにく、とっくに引退してたんでな」若狭は肩をすくめてみせた。

 

「俺はほとんど知らなかったよ。ベンケイも同じだろ。そりゃ、東卍(トーマン)の動向も、天竺の話だって、入ってきちゃいたけどな。実際裏でなにがどう動いてんのか、なんてのは普通は話さねえ。俺たちも聞きゃしねえ。現役の頃の俺らなら絶対話さねえって、わかってたしな。オマエと佐野のじいさんに会ったのは完全にたまたま」

 

 若狭はここで一度お冷を口に含んだ。

 

「それこそエマちゃんのがよっぽど知ってたんじゃねえの?」

「……ウチは、たぶんあんま変わんないよ」

 

 エマは、配られたお手拭きでひととおり掌を拭いたのち、丁寧に畳んだ。

 その仕草も口ぶりもいつも通りのものだった。

 

「……エマちゃん、キレてる?」

「キレてないけど」

 

 お手拭きは箸置きのすぐ横に安置された。

 

「ウチ、マイキーのこともケンちゃんのことも大好きだし、愛してるし。部長にもお世話になったし。ただ十二年前のこと〝エマは関係ないから〟って置かれたのは根に持ってるだけ」

「……あいつらにも考えがあったんだろ」

「そーだね。護衛みたいなのもつけられてたし。いろいろ言いつけもあったし。ウチはちゃんと守ってたよ。ウチに言い聞かせた本人たちは、そのあと、全部自分たちで片付けちゃったなーとか思ってただけで」

 

 エマの声色は至極淡々としていた。

 若狭と千壽は視線を交わした。エマに気取られぬようにすぐに視線を外した。

 

「誤解しないでほしいけど、責めたいわけじゃないの。ウチにはわかんないことも多かったんだろうし。それこそ、マイキーとか、ドラケンとか、総長と副総長なんだからよく知ってただろうし、ウチに教えることと教えないことをちゃんと分けてたんだろうし」

「ウン、まァ、だろうね」

「部長もなんか、いろいろ思ったんでしょ。ヤンキーのことはホンットよくわかってなかったから、ウチよりも知らないこと全然あったもの。それなのにああなった。……だからなに、って、思うだけ」

 

 爪先がかつん、かつんと音を立てる。

 エマの爪を彩るネイルは本人が塗ったもので、ラメ入りのグラデーションは至極丁寧な出来だ。彼女の指先をうつくしく染め上げている。

 

「キレてないよ。怒ってもない。許してないとかでもない……顔合わせて、あのときのこと、ちゃんと話してもないのに、許すとか許さないとか言わないでしょ」

 

 色とりどりのネイルが指の動きに合わせて重なり、組み合わさる。繊細な色合いが彼女の末端を彩っている。

 若狭は、千壽は、エマの爪先のあわいを染めた、その色の名前を知らない。

 

 名前のない色。名前を知らない色。

 彼女の兄や夫となった恋人は、果たして、その色の名を知っているのだろうか。

 

「いろいろあったのはわかってるから、言わないケドね」

 

 エマはつとめてあっけらかんと締めくくった。

 

「十二年も根に持ってるなんて、ウチが子供っぽいじゃん」

「……怒ってもいいんじゃねえの?」

 

 尋ねたのは千壽だ。

 彼女にしてはすこし控えめで、慎重な言い方だった。

 

 若狭は黙して、二人を眺めた。

 

「ウチもそう思う。でも、だって、あのときのマイキーもドラケンも、今のマイキーもケンちゃんも、悪くはないでしょ。ニィは……あのときからいろいろしてたし、今もいろいろしてるけど、そもそも本人と話せてないし。部長は話す話さないとかじゃなくなっちゃったし」

 

 会話が途切れたところで、タイミングよく、前菜のサラダが配膳された。

 三人で取り分けて、しばらく雑談と共につついていた。

 

「……エマちゃん、さっきの話だけど」

「さっき? どれ? 場地が国試に落ちたのは三回で合ってるよ」

「あいつはもう大人しく自分の頭の出来と向き合えよ、トリマーのがまだ向いてるだろ。……じゃなくて」

 

 脇に置くジェスチャー。

 

「さっきの、十二年前の。キレてないし、怒ってないし、責めてないし、そもそも話せてすらないんだから許す許さないでもねえ、そういう話」

「……まだ続けるの?」

「話せンなら、話してェか?」

 

 エマのフォークがプチトマトを刺したところで停止した。

 

 若狭はちょっぴりレタスをかじった。収まりきらなかった葉っぱが唇の端でもごもごと動いていた。

 

「……どういうこと?」

「どうせ鉢合わせたんだし、ちょうどよかったから、千壽に聞くぐらいはするかと思ってたんだよ」

「ちょい待って、ジブン? マジでなんの話」

「話せンなら、話したいか、だ」

 

 若狭は繰り返した。レタスの取れたフォークをエマと千壽にそれぞれ差し向ける。

 千壽が無言で押し戻したので、大人しく、フォークは取り皿の端に立てかけられた。

 

「俺の、元ダチ。千壽にとっちゃ、テメエの兄貴。オマエらが言う部長クン。俺にとっちゃ、(シン)ちゃんの小間使い」

「……話せるの?」

「確実じゃねえが。朝方の話だ、(シン)ちゃんの墓参りをしてくると、ったくあいつは一方的に……ベンケイは、行ってツラぐらい見てくるっつってたが、」

 

 若狭はそこで不自然に言葉を切った。

 ふと伏せられるように彼の瞼が下りる。瞬きにしては長い瞑目だった。

 

「……オマエらが行くなら、俺も行こうかね」

 

 エマの手の甲がかすかに白く染まった。フォークを握る手に力をこめたようだった。

 千壽が溜息をついた。

 

「ワカ」

「あんだよ」

「そういう聞き方、ズルいって言うんだぜ」

「……知ってる」




二〇〇〇年七月三十日に起きた事件
:27巻241話

つわり
:妊娠5〜6週ではじまりがち
 悪阻とも
 個人差がかなりある

俺はお兄ちゃんなんだぞ
:当方は呪術廻戦も好きです
 血塗が好きです

スマホよりYouTubeのがギリ早い
:Youtube創立が2005年2月
 初代iPhoneは2007年1月9日発表

ナマモノ
:寿司とかだめだと聞きます

場地が国試に落ちた
:獣医になるのって大変なんですよ
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