【完結】罪状記録   作:初弦

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詐欺罪

 真面目くさった顔の武藤が「俺はな」いやに真剣な声音で切り出した。視線の先では笊の中、強烈な勢いの流水が野菜を叩いている。湧き水を汲んでいるらしい。

 

「キャンプって冬にやるもんじゃねえと思ってたよ」

「間違いねえ」

「普通夏だろ」

 

 

  詐欺罪

 

 

 すぐさま同意したのは斑目と望月、灰谷兄弟も追従するように頷いた。

 

「まじで俺ら〝は?〟つったンだよな」

「頭おかしいっての」

「言うほどキャンプでもないだろ。コテージ借りてるし炊事場はガス台つきだ」

 

 後ろを通った純丘がついでのように会話に声を投下した。

 彼は先程から、ガス台付きの炊事場に、なぜか繰り返し薪を運び入れている。お前はなにしてんの? の視線が純丘の背中に突き刺さったまま取れない。なんなら蘭は何回か尋ねている。作業タイミングに話しかけた結果悉く〝ちょっとこれ終わってからでいいか?〟と返されているが。そして終わった頃には蘭は飽きてどうでもよくなっているが。

 

 一定時間の経過で振り出しに戻ります。タイムループものと見紛うやり取りだが実際はリープものです。

 このやり取りについては間違いなくSFは無関係。

 

「冬のキャンプは言うほどマイナーでもなし……そして、竜胆、聞こえてんぞ」

「この距離で聞こえなかったら耳鼻科お勧めするけど」

「アドバイスありがとう」

 

 以前似たような会話を交わしていたよなと思った者、その記憶は正しい。焼肉パーティから半年以上経過しておきながら関係性はそんなに変わらなかった。

 変わらぬ絆といえば聞こえはいいが、進歩が皆無と評しても確かにそう。

 

 問・そも絆とかある?

 答・あった方が(都合が)良いんじゃないですかね……。

 

「まずなんで年末にキャンプ場が開いてんだよ」

「そういうキャンプ場もあるが……今回は谷垣さんの御友人が経営してるとこだから」

「その谷垣はバン降りてどっか行ったけど」

 

 この人数を一度に運ぶのは、もちろんバイクでは不可能だが、かといって車の免許はまだない。

 ……なら警察署の署長をパシれば良いな! はだいぶどうかしているが。

 

「谷垣さんは娘一家の墓参りしてっから、一人が無理そうならこっち顔出すんじゃね」

 

 さらっと純丘は言ってのけた。へーと一瞬聞き流しかけ(て二度見を余儀なくされ)るような、あっけらかんとした声色だった。

 あらゆる意味で初耳情報に、どういうことだよと灰谷兄弟に注目が集まる。しかし彼らも如実に〝ヒキ〟の表情を浮かべていた。

 

 俺らも初耳だが?

 

「……なんでそこねじ込めてるわけ?」

「孫三人いたらしいんだけど、生きてたら長男が俺ぐらい、下二人が君らと同世代なんだと」

「ウワ〜」

 

 どう考えても踏み込んだ事情を把握した上、当の墓参りのとこを捕まえて足にできる、そのコミュニケーション能力と胆力と遠慮のなさが概ねおかしい。この場にいる少年らも後者二つは確実に兼ね備えているがやっぱり方向性が違う。

 

「にしたってフクブはさておき、俺ら相手、マジで孫重ねてる態度じゃねえわ」

「そうか? 君らめちゃくちゃ贔屓されてンのに」

 

 ガラコロと音響かせ、台車の上に薪がまた重なる。ぱんぱんと手を叩いて払う純丘を、蘭は胡乱げに見遣った。

 

「具体的に?」

「今日のキャンプとか、焼肉食べ放題とかな」

「どっちもフクブのおこぼれだろ」

 

 呆れを含んだ笑いに、彼は眉を顰める。

 ちょっと考えるように頭を傾けてから「悪い言い方をするが」純丘はどこか感心した様子の声色だ。

 

「俺のおこぼれ如きで、いわゆる他人が君ら不良に肩入れすると思うのは、些か俺を過信し過ぎだな……警察なら尚更だ。まあ確かに? 俺は文武両道清廉潔白模範的な良い子ちゃんだが」

「悪い言い方よりよっぽど突っ込みたいとこ出たけど今」

「まず食べ放題券は谷垣さんの私物だぜ」

 

 ガラガラと荷台を雑に転がして横に退かす。そうしてまず純丘は、調理台の上にラップを敷く。続いて腕まくり、野菜の入った笊を無造作に流しから上げる。

 大きな身振りで水を切り、調理台の上に上げる。

 

「一月ってこた警視庁遺失物センターに送られるギリギリ、署内にあるのはおかしくない……が、拾得物の権利が切れるのは三ヶ月後だ。もうすぐ期限切れっつっても、あの時点で残り二日あった。食べ放題券って要は金券だぜ、職権濫用で堂々と渡したら署長つったって突っ込まれるし、下手すれば処分になる」

「それこそおこぼれじゃね」

「俺一人なら四人券一枚で事足りるだろ。敢えて二枚ってこた〝再会してはしゃぐぐらい仲良しなお友達と美味しいもの食べてきてね〟じゃん?」

 

 ひとつひとつ一列に並べられていく野菜を、少しばかり眺めて、竜胆が笊に手を伸ばした。適当に取ったじゃがいもを、列の横、ラップの隙間に並べていく。

 

 ついでに一言。

 

「そのノリ寒ィ」

「俺も言ってから思った」

 

 純丘も頷いた。限りなく真顔を意識した表情だ。

 

「まあノリは置いといて、限りなく他人で未成年な学生が身元引受人とか普通はやらねえし、やるにしたって俺だけ贔屓してんならまず連絡は来ない」

 

 それは間違いなくそう。

 

「……というか本当に知らなかったんだな。嫌ならどうにかするが?」

「ん、イーワ。ジゼンジギョーみてえなもんだろ」

「普段の慈善事業の縁遠さがよくわかる発音だこと。鶴蝶くんその調理道具ここに置いてくれるとうれしい」

「はい」

「あざ」

 

 彼らはさすがにもう、タダメシの会とやらがただの料理教室だとは察していた。

 というかその旨が告知されたのは、数時間前、キャンプ場到着時点である。

 

 は? 初手でキレかけたメンバーに〝言っとっけどこのへん明後日までバスとかねえから〟〝年末年始は運休だってさ〟愉快げに笑ったのが灰谷兄弟だ。フクブはこういうやつだよ、巻き込まれろお前らも。心境はそんなん。どうせ決定したことは聞かない人間だと身に沁みているので——いや本当に——慣れてないやつを嘲笑う方向性にシフトした。

 冬のバイクはいかんせん寒いので、お迎えに来たバンに気が利くじゃんと素直に乗ってしまったのがケチのつけ始め。徒歩で帰れと宣うか。

 

 とはいえしかし相手はいわゆる極悪の世代であって。それだけでは協力的になるはずもあるまい。

 

「料理は特に上手くなる気がなくても、切って煮て焼けるだけでだいぶ違うぜ。なにより他人の飯を食べなくて済む」

「言い方〜フクブそんなに他人の飯嫌い?」

「嫌いではないが一人暮らしだと物理的に難しい……し、コンビニ弁当は正直俺には味が濃い。まずくはないが日常的に食べたいほど美味しいとは思えない」

「我儘じゃん」

「そうだが?」

 

 純丘は真顔である。純丘榎は確かに世話焼き気質だが、世話焼き気質と我儘は両立するしそれを押し通す強さもまた両立する。

 そして我が強くなければ、これだけ長いこと灰谷兄弟との付き合いが続くわけもなし。いや続くかもしれないが間違いなくパワーバランスは崩壊していたことだろう。

 

 閑話休題。

 

「まあ、それに……水仙とニラの取り違えによる食中毒は毎年起きているし、アレルギーにしたって、たとえば卵は意外とどこにでも使われているものだから、回避は細心の注意を必要性がある。どこでなにがどう入れられるか大まかなものだけでもわかっておくだけで、リスク管理になる」

 

 つらつらつらりとひとしきり並べて、純丘は「ちなみに」全く同じトーンで続けた。

 

「俺はそこの灰谷どもに対して()()()()怒ってるとき、夕飯に下剤仕込むかどうかで半時間は悩む」

「は?」

 

 愉快げだった数少ないメンバーから笑顔が抜け落ちる事態発生。

 おっと? 争いの気配にうっかりそわつく他メンバー。どうやら打ち合わせにはなかった展開のようですね。

 そも打ち合わせとか特にしないでこの茶番やってるわけだが——面白い展開になってきたご様子。観客と見世物の立場逆転、まあ楽しそうに高みの見物してた輩が慌てていたらばテンション上がる。

 

 世はおしなべて諸行無常。正しいがたぶんここで使うのは用法としておかしい。

 

「実際やったことなかった気がするから安心しろ?」

「〝やったことなかった()()()()〟ってなに?」

「俺はあいにく今まで食べたパンの枚数を覚えてなくてな……ともあれ」

「オイ」

「このように、信用ですら必ずしも絶対ではない。既製品で言うなら、一昨年夏には乳製品メーカーの食中毒事件があったな」

 

 実演という体でまとめてきた。度胸と勇気と蛮勇が微妙に異なる具体的な例とも言える。

 

 きりきりきりと首を締め上げようとしてくる竜胆の腕の隙間に肘を差し込んで「まあこれらは極端な例だが」純丘は何事も起きていないかのような顔で言葉を続けた。

 彼らに関して言及するなら、極端というより特殊な例だ。

 

「限りなく絶対に近い信用を置くにしても、判断基準がなければただの博打でしかない。実際そのような相手を見つけたとして、故意でなくとも危険性はある。言い出したらきりもないが——」

「フクブさあ……俺のこと兄貴の盾にする位置取りやめね?」

「いやです——リスクを把握しないで行うことと、把握した上で行うことは、異なる。せめてその判断基準はつけておくといい。以上、なにか質問は?」

「全く話が入ってこねえんだけどつまりなに?」

「一泊二日のお料理教室やります。三食タダメシ寝床付き。オワリ」

 

 それで済むなら最初からそう言えという話。

 

 ウーンと首を傾げたイザナが、おもむろに、わざとらしくにっこり笑う。鶴蝶はその時点で当然のように一歩引いた。

 

「いいぜ? その前に」

 

 痩躯が弾んだ。強靭なバネはそのようにすら形容できた。純丘の身体は理解の前に——すなわち、反射で——動く。

 組み付いた竜胆ごと自らの身体を引き倒し、地面に転がる。

 

「ふは、やっぱ、避けれんじゃん」

 

 控えめな笑い声が含まれた声。あっけらかんと見下ろすイザナの両眼だけが爛々と光っている。前転でついた土を払い落として、竜胆はこっそり息を吐いた。

 ——だからその位置取りやめとけって言ったろ。

 

「あーあ……俺しィらね」

「その様子じゃ灰谷兄弟とやり合ってたってのはマジなんだろ? なら少しぐらい遊べるよな」

 

 蹴りが当たらなかったわりには愉快げなイザナに、警棒を畳んで蘭は息を吐く。うちの大将、そゆとこ、ある。

 とうに跳ね起きていた純丘は、アなんかこの展開見たことあんなあ、どこか冷静な心持ちで受け止めた。

 

「……こんな山中だと救急車とかすっ飛ばして即ドクヘリだ。そのレベルの怪我は困る。この場合、治療費と責任を持つのは俺じゃなく、唯一成人済の谷垣さんになるからだ。あとフツーに俺も鈍ってっからガチの喧嘩は正直むずい」

「フウン……で?」

「代案だ。鬼ごっこしよう」

 

 自殺教唆罪の前科付きに真顔で提案する内容かというとたぶんそうではない。ただ高二と中三と考えれば意外とアリなのかもしれない。肩書が齎す影響を考えさせられる——とか適当なことを付け加えておけば頭がよく見える。これマメね。

 

「一時間以内に捕まえられたら料理教室に追加してちょっと面白いことしてもいい。動画撮って自慢できるぐらいには面白い自信はあるぜ」

「料理教室はやんの」

「やるためにわざわざ集めたんだから何をどう言われようともやるが……?」

「さっきから思ってたけどお前の優先順位狂ってる? 面白いから呑んでやるよ」

 

 なお勝敗に関しては〝中学時代とはいえ、かつて灰谷兄弟の連携を崩して同士討ちさせた男〟と〝協力……? ちょっとよくわかんないですね……のS62世代〟のカード、といえば結果は自明。

 そもここをキャンプ地としたのは純丘の方なので地の利も当然彼にある。土俵を有利でガチガチに固めているあたり〝大人げない〟には際限がない。いつまでも幼き心を忘るなかれ。

 

 回想終了。

 

 料理教室に話を戻します。

 

「君ら、刃物の使い方は上手いな。思いきりが良くて、下手な力みがない。なによりだ」

 

 その技術がどこで培われたものかはわかった上で、純丘は機嫌よく笑った。軽快にヘタを切り落として玉ねぎを刻む。メンバーに渡されたのは皮を剥いてない人参とぶなしめじ。

 

「やりたくなきゃ、強いて丁寧にする必要はない。最悪火が通ってれば食える。煮物料理は楽だ。……俺が普段気にするのは煮る順番ぐらいか? そこの灰谷ども意外とそのへん好き嫌いあるから」

「は? そんなことねえし」

「ああ、竜胆はシャキシャキの玉ねぎ嫌いだよな」

「にーちゃん!」

「そうそう、蘭は煮過ぎた人参除けるし」

 

 図星突かれると露骨に黙るのでわかりやすいというのが純丘の所感。

 

 馬鈴薯、牛蒡、人参、大根と根菜類。玉葱に長葱。しらたき。白菜や蕪。ぶなしめじ。乾燥ワカメと煮干し魚。麩に油揚げ。

 肉類は、豚肉のロースとバラとモモ、鶏肉の小間とモモ、ハムにソーセージ、いずれも㎏単位の塊と、ついでに卵が二パック、すべてバンに積まれたクーラーボックスから出てきた。

 小麦粉と片栗粉は各々袋で複数。調味料はいわゆる〝さしすせそ〟——砂糖、塩、酢、醤油、味噌——に加え、便利つゆとサラダ油、生姜、ソースに七味が揃っている。

 

 並べた食材の中で苦手なものを尋ねられて、各々が全員正直に答えた。正直に答え()()()()()と言うべきか。勝者の特権を行使されれば従うのが彼らの道理だ。

 

「嫌なものは嫌でいい。そりゃ食べられるに越したことはないが、今無理ならその感性を大切にしろ。全部好きになるのは、同族ですら無茶だしな……ただどのへんが嫌いかぐらいは、わかるようになることをオススメする。味か、食感か、匂いか」

 

 玉葱を一通り刻んだのち、次は馬鈴薯をくるくると回して皮を剥いていく。皮自体は適当な箇所で千切れてばかりで、あまり手際良さげには見えないが、芽等はきちんと取り除いている。

 

「人参の煮る時間は調節できるし、玉葱はしっかり炒めることができる。工夫すれば不味くなくできるならその方がいいだろ」

「苦手克服とか言えねえもんなあ」

「フクブ、トマト嫌いだしな」

「君らは意趣返しがガキだな〜……包丁使ってるときは攻撃をやめろ。本当にやめろ。反射で刺しかねん」

「俺らでもンなことしねえぞ」

 

 じゃれ合いの反射、初手一撃で人を殺さないぐらい手加減する判断力はある。あるったらある。得物使うと足つきやすいのでちょっとは工夫する。

 ……そういうことにしてある。

 

「今更ですけど、何作んですか」

「肉じゃが、味噌汁、きんぴら、浅漬け、ポトフ、サラダ、茄子の味噌炒め……とりあえず一人暮らしで簡単に作れるもので、少量多種メニュー用意すりゃ適当にひとつは食えるだろ。いろいろ遊べるし。鶴蝶くんリクエストとかある?」

「……唐揚げ?」

「……一人暮らしにはお勧めしねえけどこの人数なら誤差だな? 作るの久しぶりだわ」

 

 穏やかに笑うこの男が先程〝プロにアマチュアが手段選んでられるかよ!〟と樹上から投石を仕掛けたとは、現場を目撃していなければ到底思えないだろう。プロってなんだとは皆が思った。

 上方から遠距離攻撃はプロの所業に近いものがありそうだ。

 

「唐揚げ、面倒なんすか」

「ハンバーグよりかは面倒じゃないけどな。揚げるってのは、要は鍋にしこたま油入れて煮るわけだから、終わったあとの油の処理がめんどい」

 

 見様見真似で馬鈴薯と包丁を持った斑目に、包丁の角を指し示すように傾けて、ゆっくりと実演してみせる。

 

「し、少ししか作らないなら正味非効率でもある」

「ハンバーグって面倒なんだ……」

「捏ねてそれなりの大きさに固めて焼くのが本気で面倒だが、俺がその作業自体嫌いなのもあるかもな……俺はハンバーグをタネから作るぐらいなら買う。なんなら冷凍で買う。本当にやりたくない」

「今度フクブんちひき肉持ってくわ」

「いいぜ、炒飯と麻婆豆腐量産するだけしてやるよ。ハンバーグは作らん」

 

 つまんね。音高く舌打ちした蘭に「……お前ら」望月が訝しげに眉をひそめた。

 彼は彼で皮を剥いた馬鈴薯の一部を雑に砕く作業を繰り返している。腕力はあるので。

 

「ずいぶん懐いてんな」

 

 灰谷兄弟は途端に能面のような顔つきになった。

 

「……ハハ、モッチー、マジでねえよ。それはねえわ」

「気色悪ィからやめろホント。本気でやめろ」

「そこの灰谷ども、喧嘩するなら空間有り余ってっから外でやれ?」

「だぁってろ世話焼き節介ババア気取り」

 

 完全に八つ当たりだった。彎曲な事実の羅列でこそあるが、今回ばかりはイチから百まで八つ当たりだった。

 突然の飛び火に純丘はにっこり微笑む。額の青筋はご愛嬌。

 

「そのスカしたお口に剥いた玉葱の皮詰められたいんだな」

「最悪」

「最悪なのは今このときばかりは君らの方だぜ。喧嘩売るほど暇ならこれちょっと揉んでろ、袋破かないように気をつけて〜」

 

 唸る二人に押し付けられたのは、ぺらいプラスチックバッグ、中身は半月切りにした上で、塩と砂糖と酢と昆布の液体に突っ込んだ蕪。揉み込んで時間を置けば浅漬けになる代物だ。

 苛立ったままよりは、作業に没頭することを選択したらしい。カンペキな〝無〟の顔で揉み続ける二人に触れることなく、なにか言いたげな顔が純丘に向けられた。

 

 ……怖いもの知らずアウトローまっしぐらな彼らでさえ、うっかり揶揄う空気を逃したことから、なにかをお察し願いたい。

 

「昔からこうだよ」

 

 言いたいことはわかるので、蔓延する空気を汲み取って、純丘は一言だけ述べた。

 昔からこうだからなんだという話でもある。お前らの関係は結局どういうものなんだと聞いても〝出身中学で同じ部の先輩と後輩だった〟としか答えないのでどうしようもない。

 

 

 

 どうにか作り上げた昼飯がきれいさっぱりなくなって、のち、竈に薪と新聞紙を放り込んで火をつけた純丘に「なにしてんだ」武藤が短く問いかける。

 

「どうせなら竈から米炊いてみようと思って」

「……そうか……」

 

 薪を集めていたのはこのためらしい。変人の評に改めて——ウン回目の〝改めて〟——納得を覚えた武藤を、純丘は見上げた。彼は竈の前にしゃがみ込んでいる。

 

「気になるならやってみる?」

「いい」

「そ? ……ともあれ、なんかあればここにいるから呼んでくれ、このへん電波死んでるし」

 

 さしたる興味もなさげにつぶやいて、純丘は再び視線を竈の火に戻した。ぱちぱちと木が弾ける音がする。ザッザッザッ、靴音がしばしして、そして、遠くに消えた。

 まあまあの火加減にはなっただろうと、鍋を竈の上に置く。中には水を張って、あらかじめ、しっかり研いだ米が浸してあった。再び靴音が響いて、止まって、純丘の横で一連の挙動を眺めていた。

 

「黒川くんは」

 

 イザナはその淡い瞳で、眼前の背中を眺めている。このままそこらの薪で殴りつけたら——そうでなくても後頭部を掴んで、竈に打ち付けたら、呆気なく殺せそうだな。

 と、彼はそんなことを不意に思った。

 

「佐野真一郎とどういう関係?」

 

 純丘はどうでも良いような口振りで言った。手元に火箸を構えている。

 

「そっちは」

 

 イザナはぶっきらぼうに尋ねた。

 

「今のところ俺が開示できる情報は、世話になった昔馴染みで、あと、俺のちょっとした恩人。尤も、恩人くんだりは、あちらに自覚はないだろうが」

 

 おもむろに竈の中に突っ込まれた火箸が、薪を転がして、火の勢いを強くさせる。

 

「どうも君を探しているらしくてな、うっかり確認を取ってからひっきりなしに連絡が来る。君の答え次第では俺は君の情報をいくつか伝える必要が出てくる」

「……まだ伝えてねえんだ」

「さすがに俺が君を知ってることぐらいは伝わってるぜ。ただ、それ以外は何一つ」

 

 かすかに息を吐き出すような音がした。

 

「俺は基本、君らの世界には首突っ込まないから、敢えて情報を持たないようにしているし、下手に話す前に確認が必要なんだ。それこそ、真一郎さんが黒龍(ブラックドラゴン)の初代総長だってのも、ついこないだ灰谷から聞いた。確認してくれていい」

「……へえ」

 

 イザナの位置は純丘の半歩後ろ。しゃがみ込んだ純丘を四十五°の角度で見下ろしている。手持ち無沙汰のように竈の火を弄る、その背中を眺めている。

 

 ——バイクを弄る真一郎は、もっと、オイルの匂いにまみれている。

 

 これを殺したらどうなるだろうとイザナは何気なく考えた。先程想像したように、このまま髪の毛ごと後頭部をわし掴んで、竈に額を打ち付けて、何度か打ち付けて、そうすれば、死ぬだろう。呆気なく。そのぐらいはわかっている。

 そして、たぶん、警察(サツ)のジジイにパクられる。イザナは冷静に判じた。彼にはいくつかの前科があるので、殺人こそ初犯だとしても結構な年月を塀の中で過ごすことになるだろう。

 

 そして、それ以前に、灰谷兄弟を相手するのが手間だろう。

 

 純丘榎を殺しても、灰谷兄弟は、仕返し、ましてや仇討ちなどするわけもない。イザナの分析は正しい。彼らのうちに叩き込んだ上下関係は絶対だ。

 同時に——昼食を調理していた際の、彼らの不自然な挙動をまた思い返す。傍若に振る舞いながら、必ず会話にちょっかいを出す、そのさまも、連鎖的に。

 

 仕返しも、仇討ちも、ないだろう。

 しかし保証されるのはそれだけだ。

 

「……真一郎は」

「真一郎さんは?」

「俺の……兄貴、」

 

 一拍置いて、イザナは付け足した。

 

「だって、名乗ってる」

「……ストーカー?」

「違う」

 

 さすがに哀れが過ぎる疑惑だった。いろいろ思うところはあれども、イザナとてそんな濡れ衣を着せたいわけじゃない。

 

「違うんだ……?」

「……あのさあ、お前」

「ン」

「佐野真一郎の家族構成ってどんだけ知ってる?」

「家族構成?」

 

 素っ頓狂な声が上がる。若干首を傾げた純丘は、少し考えるようにして「親はあの家の場合、言及しにくいんだが」まず指を折った。

 

「親戚……は、どこまでカウントするかによるな。とりあえず兄妹は彼含め四人」

「よにん」

「イマドキだとちと多い方よな。妹と、弟がふた——アー、君、もしかして」

 

 聞き返す(平坦で、ともすれば単なる復唱としか思えない、起伏もない)声に何気なく相槌を打って、そして、純丘の目元がひとつ瞬いた。得心した、に近い心持ちだった。

 だから、彼のこれは何気ないもので、うっかりだ。

 

「エマの言うニィ、の方の弟くんか?」

 

 イザナの唇がわずかに震えた。

 

「ちがう!」

「……ン、了解した。踏み入りすぎたのはゴメン」

 

 謝罪が出たのは、明らかにイザナの様相がおかしかったこともある——が、まず、他者の家族関係に不用意に首を突っ込むものではない。

 イザナの眼差しがふらふらと宙を彷徨う。左に振れて、右に振れて、再び純丘を捉えた。

 

「……いつ?」

「いつって、なんの?」

 

 純丘は敢えて背を向けたまま聞き返した。

 

「……そんなん、いつ、聞いたんだよ」

「いつ、というか……本当によく聞いてるよ。今日はどこどこで遊んだとか、喧嘩が強いとか、ヤンチャしてるっぽいとか、顔を合わせるうち、二回に一回ぐらいの確率で」

 

 純丘のもう片方の手は、火吹き竹を握っている。強く息を吹きかけた竈の火力が増した。灰が舞い上がって、純丘は顔を顰めて数度咳き込んだ。

 

「俺は族の世界に関わらないから、悪用することはない。家族ってほど近しいわけでもないからこそ、逆に、いい話し相手だったんじゃないか」

「よく聞いてる? 聞いてた、じゃなく?」

「よく聞いてる。最近だと、喧嘩した、嫌われたかも、誤解があるなら解きたい、また仲良くなりたい、どうすればいいかわからない、みたいな……」

 

 凍りついたように動かないイザナの前「俺に聞くのは明らかに間違ってるけど」純丘はちいさく独り言つ。火箸を差し込んで、薪の位置をもう少し調節する。

 

「家族は……俺は、あまり、良いものと思えなかったが。真一郎さんは彼なりに、家族を、特別に大切にしたいんだろうな」

「……何、言ってんだ。血がつながったやつだけが家族だろ。真一郎と、血は、繋がって、ないだろ……そいつは」

 

 ……血がつながってないこと、俺、言ってないんだがな。

 

 イザナの失言への指摘を、純丘は、嘆息とともに飲み込んだ。

 

「血がつながってないことを、家族の基準のひとつに据える人は、確かにいる。それなりの数、いるよ、確かにな」

「……何が言いてえ?」

「少なくとも、真一郎さんはそうではない、ということは言いたい」

 

 竹筒にまた息が吹き込まれる。狭い空間の中で、炎が燃え上がる。煌々とあざやかに。赤くあかく朱く燃えている。

 

「そして彼は、無節操でもないんだよな……真一郎さんは間違いなく自らを四人兄妹と言うよ。彼は、隠す必要がなければ、隠すよりは自慢する」

 

 というか、純丘の知る佐野真一郎は実際そうだ。たぶん純丘が頑なに〝清廉潔白な学生〟で通そうとしていなければ、真一郎の不良武勇伝や黒龍(ブラックドラゴン)のことももちろん話されたのだろうなという確信がある。

 

「義理の弟妹が野球チームぐらいいてもおかしくなさそうな振る舞いしてるわりに、あの人、そのへんしっかりしてるよな。俺は真一郎さんのそういうとこ好きだよ」

 

 静かな声音である。本気の滲んだ声音でもある。純丘は、その声色だけでも、戯れと真面目の差がわかりやすい。

 付き合いの浅いイザナにすらその差は歴然だ。

 

「真一郎さんは、軽々しく、他人や知人を家族と括る人間じゃない。……実際、家族は唯一、公的な書類で浮き彫りになる関係だ。なぜならと言うべきか、だからこそと言うべきか、友人や恋人と比べて一括りにされやすい」

 

 小難しいことをつらりと並べて、純丘は一度間を置いた。竈の中では薪が燃えている。木材の表面は火に舐められて黒く染まっていた。

 

「家族を所有物ぐらいにしか思わない者もいる。家族を作る上で、覚悟の有無に考えが及ばない人間もいる。人を人として認識し、領分を弁えた上で、最後まで責任を持つ覚悟を持てるのは、尊敬できるよ」

 

 これまた小難しい話だった。その小難しい話こそが、純丘の言う佐野真一郎を示している。

 

「だからなんだよ」

 

 平坦にイザナはつぶやく。

 

「俺が間違ってんのか?」

 

 吐き捨てるようで、同時に、嘲るような声でもあった。

 

「俺が、間違ってて——だから、一人だけ、捨てられたわけ? だから、なんにも、俺には、なんもねえっての?」

「知らん」

 

 純丘は素気なく言ってのける。

 

「正解なんぞ知らない俺が、正しさも、間違いも、判断できるかよ。君に何もないのかどうかも、正味、俺にはよくわからん。そこまで俺は黒川くんのことを知らない」

 

 火箸で薪をいくつか取り出し、火の勢いを雑に弱める。手早く。そろそろ蒸らしの時間に該当するので。

 適当に火加減をゆるめて、立ち上がった純丘が軽く伸びをした。しゃがみ込んで固まった腰の筋肉を少しほぐす。

 

「でも、俺から見ると、君らは鬼ごっこ、楽しめてそうだったけどな」

「……それが、なに?」

「んー、小学生からでも、全体遊びを初対面でやらせりゃ露骨にぎこちないし、仲が悪いやつらなら思っきし雰囲気ギスるんだよ。学童保育ボランティアに首突っ込んだ経験談だが」

「お前さあ、さっきから、何言いたいわけ? 説教? それとも、ガキなら騙せるって?」

「そうじゃねえよ、馬鹿にもしてない」

 

 人のパーソナルスペースなぞ頻繁に踏み込むものでもなく、的確な対処法など知る由もない。純丘自身、まだ高二だ。

 ただ開講している教室や、塾、空手教室のバイト、ないし、今言った学童保育ボランティアでも、人間関係を俯瞰する機会は、多い。

 

「みんなでちゃんと楽しんで遊べる関係って、結構、作りにくい。人脈とか人望はあるんじゃん?」

「ねえよ」

「……そう?」

「あるわけねえだろ」

 

 ビー玉のように透き通った紫が、きつく、閉じる。

 

 人の心は十人十色。千差万別。多種多様。それらを組み合わせて形作る人間関係にも、また、あらゆる可能性がある。ゆえに付き合いも浅い他人の事情に、世話焼き気質の純丘とてあれ以上なにを述べる気もない。

 

 ……ないが、ただ、言い切られてもどうなんだろうな。

 

 バンの中、すよぴーと斜め後ろの位置で眠りこける兄弟を、バックミラー越しに見て。ふいに純丘はそう思った。

 彼は助手席に腰を落ち着けている。窓枠に頬杖をついて、寝息の響く車内で、物思いにふける。

 

 キャンプ内では結構全員が好き勝手遊んでいた。本来ならクローズ中のキャンプ場を借りているので、事実上貸切。大人の目はなく、純丘は大抵のことは〝まあどうにかすっか……〟と後始末を引き受ける。彼は遵法意識は持ち合わせているが、いつも活用するわけでもない。

 ただし建築物破壊は隠蔽が効かないのでヒくほど怒る。そういうラインは知っていた灰谷兄弟が、意外と気を配って、奇跡的な均衡が成立した。

 

「……谷垣さん」

「はいはい」

 

 運転席の初老の男は穏やかに相槌を打った。彼がキャンプ場に戻ってきたのは、元旦、正午過ぎ。キャンプ場到着から丸一日と少し。帰宅予定時刻で、食糧もちょうどそれぐらいに尽きることを予定していた。

 墓参りののち、どこにいたのか、純丘は知らない。聞かないし、言わない。

 

「谷垣さんが思う、家族って、なんだと思います?」

「うーん……私の、妻と、娘かな? 息子と孫は、結局会ったことなかったから。できることなら家族になりたかったけどね」

「あ〜……そすか」

「……なにかあったのかい」

「あったっつか……」

 

 こつんと車の窓にこめかみをぶつけて、純丘はちいさく唸った。なにかあったかといえば、おそらく、なにもない。そうとしか言いようがない。

 

「……ほら、あの」

「うん」

「俺、アレじゃないすか。こう。……恵まれた環境で良いとこの坊っちゃんなのに、ぜーんぶなんもかんも放り出しちゃった世間知らず能天気無鉄砲生き急ぎバカ」

「必ずしもそうではないと思うけれどねえ、それで?」

「谷垣さん人が好いからそう言ってくれますけど、あそこらへんでの俺の評価ほんとにこのまんますよ……それで、ですね」

 

 指先が意味もなく編むように組まれる。嘆息とともに純丘は目を瞑った。記憶が、情景が、感情が、鮮明に、瞼の裏に浮かぶ。

 さして特筆すべきこともない。どこにでもあるわけではないが、どこかにはある話だ。ありふれてこそいないが、珍しくはない話だ。

 

「……自分たちが信じる正解以外、全部間違ってる判定で、家族と宣った人間を、お綺麗な善意押し付けて潰す愚かども。そのお仲間とか、俺も、言われたくなかったし。なんなら、たかだか血が繋がってる程度で家族ヅラすんなって言ったのあっちの方なんで、この際快く他人になりますけど。養育費ぐらい全然返済しますけど」

「本当に訴えよう? 私の知り合いに弁護士もいるよ?」

「今のペースだと訴訟より返済のが早く終わります」

 

 純丘の城は、三帖風呂なし、その他水場は各々共用のボロアパート。洗濯機すらない。

 良いとこの出だというのに高校にして扶養から外れ、塾の開業、アルバイトの掛け持ち、学費と税金を込みしてなお節約を極めるだけの理由はある。

 

「やほんとに気にしなくていいんですよ。まじでまじで。俺も気にしてないし。どうでもいいし」

「うん……」

「……だから、気にしてないんですよ。実際」

 

 若干伸びた前髪を掌がかきあげる。いかにも日本人、東アジアに多くある——日本ではおよそマジョリティに分類される色の瞳が、靴先だけを見ていた。

 

「気にしてないってことを前提に、聞いてほしいんですけど」

「わかったよ」

「……家族になりたいって思ってもらえるのがどうしても羨ましくて、同時に、羨ましく思ってる俺がもう嫌すぎて自己嫌悪で吐きそうなんですよね」

「……エチケット袋いる?」

「あるんで大丈夫す……」

 

 本当に取り出した紙袋——ビニール袋でさらに包装されている、エチケット袋はこのように二段構えにすると良い——を口元に当てて、純丘は息を吐いた。茶色の紙袋が若干膨らんで萎んだ。

 

 目は瞑ったままだ。

 

「羨ましがるものじゃないってわかってんすよ。ほんとに。個人には個人の事情があって、個人の幸福があって、個人の地獄がある。俺が棄てた他人だって人によっちゃ理想的な家族だし」

「うん」

「散々あいつら罵っといて、俺だって、自分だけ逃げ出した意気地なしで」

「……」

「……所詮は同じ穴の貉だ」

 

 ウィンカーを出して車が左折する。チッカ、チッカ、チッカ、独特の音が響く車中で、しばらくそれ以外の音は聞こえなかった。

 

「……いやマジで羨ましいしそう思う自分が嫌すぎてそろそろ死にたくなりそうでどう回復しよっかな。俺は幸せに老衰が目標なんで死ぬ気はないんですけど、少なくともこれは幸せじゃないすよね」

「とりあえず、寝て起きてから考えるのはどうだい」

「ハイ……」

 

 少年課に在籍していた経験もある谷垣は、人を宥める声に長けている。

 

 助手席を横目で見、純丘がすこーんと寝落ちたことを確認——わずかな時間で寝られるスキルは、多忙な人間には必須だ。沈黙が車内を支配して数分後、谷垣はおもむろにバックミラーを傾けた。後方を確認するためだ。

 

「狸寝入りはいつまで続けるのかな?」

「……折角優ァしく空気読んだってのに、ジーさんてば、言うに事欠いてそれか?」

 

 呆れの滲んだ言葉とともに、竜胆が身を起こした。メンドクセー、頭を掻きながらわざとらしく蘭は言ってのける。

 

「谷垣はめんどくせえしフクブは気持ち悪ィ。フツーに。キモい」

「ほんとそれ。ジーさんには言うとことか一番キモい。……ッチ泣いてねえし、つまんな」

「マジじゃん。弄り倒せね〜」

「声小さくしないと、彼、起きると思うけどねえ」

 

 口を閉ざした灰谷兄弟は、それでも、助手席の後ろ側から純丘を頻りに覗き込む。谷垣がぴしゃり「シートベルト締めなさい」言った。有無を言わせぬ口調だ。

 

「……あーあ、ジーさんがいなけりゃな」

「ほんとな。いっつも来世だの前世だの七十年後だの言うくせよ」

「フクブのそういうとこ俺嫌ァい」

「顔面陥没よか苦しませねえ自信あンですけど〜」

「再犯計画を立てないように」

「ジゼンジギョーだろ」

 

 最近覚えた言葉が如く拙い発音だ。わざとか否か、それは本人のみぞ知るだろう。谷垣はあえてそこに何を言うことはなかった。

 

「……君たちこそ、どうでもいいとか一蹴しそうだったけれどねえ」

「ヤ、どーでもいいけど」

 

 代わりに投げられた言葉に、兄弟は各々眉を上げた。

 

「俺の弟は竜胆だしフクブはフクブだし、で、だから? なに? だろ」

「そうそう、フクブはフクブだし俺の兄貴は兄ちゃんだし。てかなんかこういうの女から聞いたことある、アレ、O型男性! いやA型?」

「フクブB型だしそっちじゃね?」

「血液型性格診断に科学的根拠はないよ」

 

 へーとユニゾンで相槌を打つ声は羽のように軽い。わりあい、いつものことだ。

 彼らは同じ、いつものトーンで、自らの兄弟と元先輩を同列のように並べてもいた。

 

「マ、下らねえ占いはさておき」

 

 蘭が投げ出した足が運転席の背部を軽く蹴り飛ばす。マナーがなっていない。

 付き合いを続けるには、少々の根気と、それ以上の忍耐と、更なる度胸を要するだろう。

 

「俺らいるときのフクブの飯、店の買うか、同じ鍋掻き混ぜてよそえる状態のモン作るか、絶対ェどっちかなワケ。小分けにしねえし人参の茹で方はちょっと固め」

「あと玉葱はちゃんと炒めるし。だからどーでもいいしキメェけど、そんだけ。好きにしろよって感じ」

 

 心底どうでも良さげだ。そして現に、彼らにはどうでもいいことだ。

 彼らには。




キャンプ場
:冬どころか年末年始も開いてるとこは全然ある

娘一家
:グレて家を飛び出し、出奔先で結婚
 時間とともに両者和解の方向性に向かっていた
 再会のため実家に戻る中での交通事故
 という特に出す気のない死蔵設定の開示

年末年始は運休
:運休しないとこもある

水仙とニラの取り違え
:よくある

卵は意外とどこにでも
:とてもよくある

夕飯に下剤
:なんだかんだやってない

パンの枚数
:ジョジョの奇妙な冒険三巻より
 一九八八年四月単行本発売

乳製品メーカーの食中毒事件
:二〇〇〇年六〜七月のアレ

救急車とかすっ飛ばして即ドクヘリ
:ド田舎だと診療所の設備がほぼ役に立たない
 &地形次第ではまず救急車が道路を通れない
 知人は熱中症でドクヘリ呼ばれた

ちょっと面白いこと
:万が一億が一負けた場合、職人のスゴ技料理芸的なのをやるつもりだった
 今ならついったで上げれば間違いなくバズるタイプのやつ

バンに積まれたクーラーボックス
:大所帯&スーパーが遠いとクーラーボックスに食糧しこたま買い込む

ハンバーグをタネから
:とても きらい です(自己申告)

このへん電波死んでるし
:まだ3Gすら始まったころ


:事故後に心労由来で体調も崩す
 その後病死

養育費ぐらい全然返済
:さすがにこれ請求されるのは訴訟まで行かなくともだいぶおかしいので公的機関の介入もワンある

血液型性格診断
:科学的根拠はない 信じるのは勝手
 見てると面白い
 灰谷竜胆が言いたかったのはA型男性の話
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