【完結】罪状記録   作:初弦

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And…

 ……

 

  ……

 

   ……

 

 

 

 すなわち。

 

 罪と向き合うとはなんぞや、という話だ。

 

 加害者はもちろん、罪と向き合わなければならない。

 そして被害者も、冒された罪と向き合わねばならない。

 

 償うと言うのは簡単だ。自分のせいではないと言うのも、簡単だ。

 許すと言うのは簡単だ。許さないと言うのも、簡単だ。

 

 言うだけならば誰にでもできる。

 

 年月を過ぎれば、傷は癒えて、痛みは和らいでいく。傷なんてなかったように思えることも増えていく。

 それでも、古傷は時折、思い出したように痛んで、身を苛む。

 

 傷を負う前には戻れない。

 傷を負った直後にも戻れない。

 

 許すとして。なにを基準に許せるだろう。

 許さないとして。なにを基準に許さないでいられるだろう。

 償うとして。なにをもって償ったと言えるだろう。

 自分のせいではないと言うとして。しかし手には罪の感触が、間違いなく、こびりついている。

 

 贖うとして。

 贖わせるとして。

 

 その行為は、何のために行われるのか。

 誰のために行われるのか。

 どんな方法で。どれほどの価格を。どのような意味を以て。行いに至る、その動機は。

 

 終わりは、どこに、あるのか。

 

 

 誰も「正解」を知らない。

 

 

 

 罪状記録【破】上篇

 

  「正しき贖い」完

 

 

 

 ——ところで。

 

 灰谷兄弟はあくまでも傍観に徹していた。マァちょこちょこ野次を飛ばしたりうっかりお手伝いしちゃいたが基本的には傍観に徹していた。

 

「竜胆〜?」

「俺のせい!? なあ俺のせい!? 違くねえ!?」

「鶴蝶にチクったのはテメェだろ」

「兄ちゃんがいっつも鶴蝶に変な気ぃ回すから俺に連絡来ただけだろ!? 鶴蝶がフクブにヘルプしたのはイザナが原因だろ!? 俺どうこうって話じゃなくねえ!?」

「弟は兄の理不尽を被るもんだろ」

「理不尽ってのわかってんじゃんまじ折れる折れる折れる」

 

 べしべしべしと床を叩く竜胆はわりと必死で抗おうとしている。極悪の世代の拠点のうちひとつ、廃墟ビル五階での出来事だ。

 兄弟間の制裁もとい戯れを、なんかやってる……の顔で望月は眺めていた。助けてやれよ。

 

「なにしてんだ、アレ」

 

 これは武藤のコメント。ちょうど階段を上がってフロアに踏み込んだところだった。

 

「久々だな」

東卍(トーマン)の揉め事が一旦片付いたからな」

 

 望月の言葉に彼は答えた。そしてこちらもまた観戦の姿勢に入った。

 いや助けてやれよ。

 

「あァ、抗争やってたらしいな……イザナが乱入したってマジか?」

「二度見したせいで一発雑魚から顔に食らった」

「ダッセェ」

 

 わりと本気で背中をド突かれた望月、すかさず武藤の脇腹を殴り返した。武藤は即座に肘鉄を入れた。

 

「……なにやってんだよオマエら」

 

 斑目が訪れたときには、灰谷兄弟はお互いの首に足で関節技をキメに行っていたし、武藤と望月はお互いにジャブを打ち合っていた。プロレスとボクシングが同時開催されている。

 

「オマエこそ顔どうした」

 

 ぎょっとした表情の望月が、直後、顎にアッパーを食らった。舌は噛まなかったが、脳を軽く揺さぶられたのか、くらくらと振れて座り込む。

 武藤はふぅと息を吐いたのち——満足——入口に立つ男へ視線をやる。

 

 斑目は目元に綺麗にパンダを作っていた。つまり両目にドス黒く痣ができていた。目は真っ赤に充血している。体調不良由来の隈や、色素の沈澱ではなく、明らかに外傷性の打撲痕である。

 強くぶつけた、直裁に言えば殴られたか蹴られたか。

 

 斑目は、わりといいことナシな場面が多いが、正直、弱くない。

 

 そも極悪の世代が揃いも揃って頭ひとつ飛び抜けた面々で構成されていて、唯一例外の鶴蝶は幼い頃からあのイザナに鍛えられている。

 因縁ある東京卍會も総長隊長格は一人一人が精鋭、なによりもそれよりも無敵のマイキーが一番のバグ。

 

 斑目が両目両方にもろに打撃を喰らう相手は、意外と限られてくる。

 

「イザナ」

 

 果たして斑目はパンダのまま、死んだ目で答えた。

 

「はあ、イザナ? 獅音またなんかやらかしたのかよ」

「やらかし、ッ……まァ、半分ぐらい灰谷のせいだけどな」

 

 斑目はじっとりと灰谷兄弟を睨んだ。未だに取っ組みあう彼らは、今回はいつの間にか竜胆が優勢になっていて、蘭の肩に絡みついて関節を外しにかかっている。

 双方本気なので無言で、皮膚はうっすらと赤くなっていって、血管が浮かんでいる。

 

「……あいつらなにしてんの?」

「知らねえ。なにしてんだアレ」

「俺もよく知らねえよ。鶴蝶がどうこうとか純丘がどうのとか言ってたのは覚えてる」

「……あァ、アレだ、ハロウィンの抗争」

 

 納得したように頷く斑目。

 

 ……彼は東京卍會と芭流覇羅(バルハラ)の揉め事において、ほぼほぼ関係ない立場だった。

 しかし、イザナにパシられ、灰谷兄弟とかなり近い位置で観戦していたために、リアルタイムでなにが起きていたのかをかなり正確に把握している。そして無関係がゆえにわざわざ隠したい話もない。

 

「イザナの命令で観に行ったんだけどヨ」

「……イザナが乱入したの、オマエ経由かよ」

「あ? あァそう。武藤(ムーチョ)は知ってんだろーけど、あのあと鶴蝶とフクブくん来たろ」

「来たな」

「全員集合か?」

 

 現場にいなかった人間は望月だけなので、先程からツッコミ役が彼しかいない。

 

「アレ鶴蝶がイザナ心配してフクブくんにチクって、竜胆から状況聞き出して乗り込んだらしい」

「なるほど、それを蘭がシメてんのが今か……」

「胡散くせえ三つ編みお下げのくせして、相っ変わらず鶴蝶のこと妙な気に入り方してんな」

「うるせえ三つ編み似非チャイナ」

 

 罵倒にばかり耳聡く、悪口にはやたらと応酬が速い。

 さて竜胆に味方してくるか……腕まくりをする望月を斑目と武藤の二人で拘束しておく。これ以上ややこしくすんな、そろそろイザナ来るから。

 

 今回、彼らが一拠点に集まったのは、イザナ直々の号令に応じたからだ。

 

 元々、イザナが時折指示を下す以外では、個々で好き勝手に極悪(キワメ)る方針だったのが彼ら極悪の世代だ。イザナが隠居生活に入ってからは彼からの連絡自体もほとんど途絶えた。

 本当にたまに、ごくごくまれに、一緒に飲むぜイエ〜イ(※二十歳未満の飲酒は犯罪です)とか、ツーリングで峠攻めようぜウェ〜イ(※無免許運転は犯罪です)とか、その他であれば純丘が突発的に鍋パだのバーベキューだの焼肉の会だのを開催すれば気分次第では全員が集まる。

 ただし気分次第と述べた通り、出席はまばらで全員集まることは滅多にない。

 

 そしてなによりイザナが計画して提案したことは今まで一度もない。

 

「あァ、全員いるな? ならさっさと本題に入るが」

「いやイザナまずその前に蘭と竜胆の喧嘩一旦……望月(モッチー)も暴れかけてないか? 全員イザナの話の後に回してくれ」

 

 濃茶のライダースジャケットを翻し、カツカツと踵を鳴らして、フロアを横切っていく。黒川イザナ、本日はいつにも増して芝居がかった様子だ。

 その後ろからひょっこり顔を出した鶴蝶は、灰谷兄弟の諍いと望月に各々注意を飛ばす。

 話の後なら勝手にしろと言わんばかりの表現は、鶴蝶が今日も元気にイザナの下僕をやれている所以だ。全員類友。

 

「先々週のハロウィンの抗争で、東卍(トーマン)芭流覇羅(バルハラ)が吸収された」

 

 どこか愉快げなトーンで、イザナはそう切り出した。

 

 タイムリーというか。つい先程まで、イザナ不在の中展開された話題のトピックである。

 

「今までは歴もある十代目黒龍(ブラックドラゴン)が拮抗していたが。これで、東京最大の暴走族が東卍(トーマン)になった」

 

 かつんと踵を鳴らして、それからイザナは振り返った。諍いをやめて立ち上がった灰谷兄弟、一旦蘭の襲撃を諦めた望月、彼の拘束をやめた武藤と斑目。

 五人を見渡して、顎を上げる。その隣に鶴蝶が立つ。

 

「ところで、柴大寿を知ってるやつは?」

「……十代目黒龍(ブラックドラゴン)の総長だろ」

 

 答えたのは武藤だ。訝しげな顔でイザナを見上げている。

 

「オマエが中身壊して、斑目で名実潰れたチームを再建して、まとめ直して、傭兵団の真似事に舵切った」

「たぶんそれ。そいつ」

 

 たぶんってなんだよと思ったが全員黙っていた。

 まさか知らないで言い出したわけもあるまい——が、イザナの傍若無人さを考えるとワンチャン有り得る。

 

「そいつの殺害依頼が俺に来た」

 

 イザナはさらっと言った。

 

「は?」

 

 誰よりも先に鶴蝶が聞き返した。

 目を見開いているあたり彼も完全に初耳のようだ。下僕には下僕の苦労がある。こんなふうにね。

 

「依頼者は柴八戒。仲介者は稀咲鉄太」

 

 鶴蝶の慌てぶりも素知らぬ顔。どちらかといえば驚かせたくて黙っていたイザナ、顔はしれっと取り繕ったままに言葉を続ける。

 同時に紫の瞳がさっと振れて、眼前の顔触れを確認した。動揺と驚愕。困惑。ここまではあるべき感情だろう。

 

 そのうちにひそむ別の色。

 

「——武藤(ムーチョ)は当然として、オイ俺の目ェ誤魔化せると思ってんじゃねえだろうな、そこの凸凹兄弟」

 

 黒川イザナはなにかと鋭い。知識と経験で嘘を引き当てる純丘にも、苦々しげな顔をされるほど。

 地頭ゆえか、第六感か、イザナのそれは限りなく正確な精度を誇る。

 

「あー……」

 

 竜胆は露骨にバッと視線を逸らした。蘭は低くも呻き声を上げた。

 もはや誤魔化せないのは二人とも理解している。

 

 武藤にとってはどちらも東京卍會の幹部クラスなので、少なからず反応するのは当然。

 しかし灰谷兄弟にその必然はない。幹部クラスと把握していてもいなくても、チーム同士の生死のやり取りに興味は持たない。

 

 個人の事情がなければ。

 

「オマエら、なに隠してる?」




  罪状記録 破 上篇
   2022/02/22-2022/10/30連載

 序(罪を認識する、背負う)
  一から十まで原作前捏造
 破(罪の精算方法を模索する)
  前半:血のハロウィンまで ← 今ココ
  後半:関東事変まで
 急(罪××××××××)
  俗に言う梵天軸

 の構成
 ……予定

 本当に原作が先に完結してしまった。おめでとうございます。

 拙文内でちょこちょこ「アレここ前後微妙に繋がってなくね?」「この話明らか原作と違うけど文中で言及されてなくね?」な部分があったと思います。ぜんぶ今後のための仕様と裏設定なので意図的な取り違え……と言いたいのは山々なものの、当方の単なるミスが混じっている可能性もだいぶかなりあります。この二次創作ユニバースではそうなっていますで押し切らせてください。
 致命的なミスはないと信じています。あったとしても挽回はあとから考えます。誤字はガンガン生えるので諦めてます。

 現在、破の後半部分を書いています。ただ思いの外聖夜決戦部分だけでボリュームが増えているので、もしかしたらそこだけ切り取って投げに来るかもしれません。こんなに長くひとつの話を書いたことないのでなにもかもわかりません。
 リアルの動向次第で書くペースが大幅に変わるので、投稿されてたら「投稿されてるな〜」と思ってください。お気に入りやしおりの変動でちょっとうれしくなってたりするお手軽精神なので、反応いただけて大変ありがたかったです。励みになりました。
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