「オマエら、なに隠してる?」
——そのとき、王将は、冷たく睥睨した。
咄嗟に竜胆は己の兄を盗み見た。
結局のところ、灰谷兄弟の立ち回りの決定権は蘭に集約される。
もちろん竜胆とて、できる限り自分の意思を通すすべを心得ている。しかしそれも、最終的に蘭が否と言えば否であり、是と言えば是だからこそだ。
かつての灰狂戦争ですら例外ではない。
口を滑らせて締められる程度で済めば……まだ、いい方だ。たとえばそれこそ、つい先日のハロウィンのように。
蘭は、内心悪態をついた。どこぞの腐れ縁のせいでなにかとややこしい。本人に毒づいても困惑されるだけだろうが。
純丘は本当に僅差で、弟に手をかけそうになったイザナを見ていない。弟が東京卍會の隊長として名乗りを上げたところも。もとより暴走族の事情には疎い男だ、特攻服の仕様がヒラの隊服と違うと気づいているかどうかも怪しい。
そもそもだ。
どこぞの元副部長から漏れ聞いた話と、今の振る舞い、あまりに乖離が著しい。何故わざわざ、よりにもよってイザナに——考えるには材料が足りない。
それよりも今尋ねられることはある。
「大将、俺ら、最初っからなんか疑われてたわけ?」
イザナ個人に持ちかけられた話である。極悪の世代たちに声をかける理由がない。
しかしイザナは、わざわざ皆を集めた上で宣言した。
反応を観察する前提の行動だ。
蘭の問いに、イザナは呆れた様子で首を振った。
「オマエら、俺が誰殺そうが興味ねえだろ。加えて順番なんざ気にするタマでもないくせして。疑われてたのかって、ならハナっから慣れねえことしてんじゃねえ」
「……あーね?」
順番、と述べられれば灰谷兄弟にも心当たりがひとつ。
かのハロウィンにおいて蘭は、イザナの殺意の標的を、一虎へ誘導し、稀咲から逸らした。
……下手人が誰であろうと、結果的に死ぬなら、イザナの目的自体は達成できる。殺した相手が二人だろうと三人だろうと隠蔽の手間に大した差はない。
直接手を下したかった、とか、灰谷兄弟はわざわざ気遣わない。手段がどうあれ結果が出れば良しとする。出力だけが一致していればわざわざ気を払わない。
彼らはすでに数年来の付き合いだ。竜胆がイザナの事情をいくらか把握しているように、蘭がイザナの思考をある程度読めるように、イザナもまた、灰谷兄弟の性格の傾向を知っている。
ただの気まぐれの可能性もあった。すぐに消去された。
鶴蝶は、ハロウィンの抗争当時、状況を確認するために竜胆に電話を入れたらしい。そして竜胆は素直に答えた。
イザナが連れてきた下僕を蘭は気に入っている。イザナの意志で連れ出すなら例外にしても、巻き込めば実弟相手だろうと制裁が下る。数年の付き合いのイザナが理解している蘭の気質など、十数年来兄弟であり続けている竜胆は、彼以上によく理解しているはずだ。
——制裁が下るとわかっていても、イザナの凶行を止める必要があった。
「そーだな。隠してることはある」
両手を挙げて降参の意を示す。蘭はへらっと軽薄な笑みを浮かべてみせた。
イザナは元来、腹の探り合いを好まない。圧倒的な暴力の才能を有する彼にとって、直截な方法こそ最も手っ取り早く、迂遠な手段も話も不要だった。
総合力ではなく分野を限定するなら、間違いなく、腹の探り合いでは蘭に軍配が上がる——それにイザナは、出自のせいか、血縁関係に固執する。
気づいていればストレートに血縁に言及しているはずだ。なにを、と問うのであれば、隠し事そのものはまだ割れていない。
稀咲鉄太周辺になにかあると知っていても、何故かは、わかっていない。
「けど、大将にデメリットはねえよ。アレだって、ついでじゃなくて本命なら、最初から順番とか言い出してない」
「相変わらずオマエは口が上手ェな。……言わねえつもりか?」
「イザナがどうしても言えってンなら言うぜ」
衒いもない答えである。
差し出した言葉はすべて本音だ。一見そうは見えなくとも。
イザナは短く息をついた。
「我が強ェんだよなあメンドクセ」
「えそれイザナが言う?」
「なんか文句あんのか?」
空気が明らかに変わったところで「話終わったよな? 戻すが」武藤が軌道修正を図る。
普段はあまり口を出さず、一歩後ろで俯瞰する男が、この挙動は珍しい。
「
「中坊の
「言ってる場合か」
斑目のからかい混じりの言葉を、ぴしゃんと武藤は撥ねつけた。思いの外強いトーンだったことに驚いて、斑目、思わず口をつぐむなどする。
「俺が初耳なら、マイキーにも通ってねえだろ。通ってんならとっくにドラケンから話が回ってる。マジで実行されたら、十代目とウチで戦争が起きる。頭を分断して潰せんなら散らしやすいが、ターゲットは柴大寿一人か? 今の幹部メンツだと、下手にしくじって団結されりゃ手に負えねえ」
「落ち着け
矢継ぎ早に言葉は連ねられる。本当にいつもの武藤とは異なる挙動だ。イザナを親指で指さした望月に——指された当人は露骨に嫌そうな顔をした——だからだろ、武藤は強調した。
「デカイ頼み事を断られりゃ、大概のやつはだいたい勝手に思い詰める。知らねえとこで突っ走られたら後始末すんのは誰だ? 俺だろうが」
チーム同士の均衡の崩壊や、人間関係の悪化を危ぶんでいるが、人一人の命が失われることそのものがここに来てもなお一切問題視されてない。
極悪の世代、本当にそういうところである。
「つうか、なんで俺が蹴った前提で話してんだよ」
「誰でもわかるわ。殺す理由もねえだろ」
「マァ蹴ったケド、」
望月の反駁に、イザナは表情も変えずにつぶやく。
予想通りの返答だ。相槌代わりに呆れたように一瞥して、望月はてのひらを無意味に振った。
「コイツに話が回ったのは、アレじゃねえの、仮にも八代目だ。初代をリスペクトしてたことは割れてる」
「だから十代目のやり口にキレるって? まず
「ああー……そりゃアレだ。伝説の話はいろいろ大げさになってっから、イザナが総長だった頃を、初代っぽいって言い出すやつもいたんだよ。俺の頃もそーいうやつがちょいちょいいたな。イザナ、やるだけやっててもパンピーには手ェ出さねえから」
「……興味ねえし意味ねえから出さなかっただけじゃねえか?」
「まァそこは鶴蝶の言う通りだろうけど。今の獅音の話にゃ一理ある。当人がどうだろうが外野は好き勝手考えて祀り上げるもんだぜ、大将だし尚更だろ」
喧々諤々。もはや議論の争点は移行している。
黒川イザナは、やる気が出るならなんなら枠外にはみ出すことも度々ある一方、やる気がなければ梃子でも動かないタイプだ。取扱注意のラベルが貼られるべき気質の男である。指示を聞かせるには難しい。
だからイザナ以外の者どもは、話題を出されたのは灰谷兄弟を揺さぶるためで、そこが本題だと思っていた。
イザナがこれ以上話すことなど、せいぜいが言葉遊びの戯言程度だと思っていた。
「——殺す理由はあるぜ」
思っていたのだ。ぽんと言葉が投げられるまでは。
既に争点は移行していた。タイミングが遅れた返答が、果たしてなにを指し示しているのか、一瞬彼らは考えた。
極悪の世代らが勝手にアジトにしている埃っぽい廃墟では、差し込む日光が空中のゴミを照らし出し、ある種のエフェクトとして機能する。
背景に光を散らして、イザナはいかにも不服そうに腕を組んでいた。指で己の二の腕を叩いている。苛立っている。
ぐるりと見回して、注目が戻ってきたことを確認した。
彼はその表情通り、実際不服だった。本題を切り出せないならわざわざ集合させた意味がない。
イザナは迂遠な手段を好まない。灰谷兄弟に探りを入れるだけなら、一対一で呼び出して詰めれば終わりである。呼び出しに従わないなら自ら出向くまで。
全員集結させて油断させることもない。
尋ねたのはあくまでついでに確認する意味しか持たない。
イザナの目的は別にある。全員に通達する必要事項が存在する。
「
普遍と異変の分岐点
そもそもの話を語ろう。
蘭が読んだ通り、イザナは血縁関係に敏感だ。良好な兄弟関係に妙な表情を浮かべる。当然骨肉の争いにも過敏に反応する。贅沢者がよぐらいの気持ちになるし、バカデカイ舌打ちをかますだけで済めばまだいい方。
例を挙げれば純丘榎とかひたすら気に食わない人種だ。いくら苦しかろうと家族を見捨てる人間は正気の沙汰じゃない。イザナは断言する。
なおこのイザナの価値観は自他ともに適用されるので、イザナは己を血縁以外の理由でも兄失格だと思っている。
彼の無自覚の後悔と自責は今話すことでもない。省略。
家族を見捨てる人間は正気の沙汰じゃないが、兄貴を殺す弟も解釈違いだ。兄弟の有様は人それぞれであるのは自明。十人十色、人それぞれの解釈と可能性がある。
しかしイザナはその点過激派なので、解釈違いは視界に入れたくないし捻じ曲げたいし捻じ曲げられないなら殺したくなる。人災以外の何物でもない。
これがうっかり実現してしまった未来こそ、俗に言うフィリピンマイキー軸だ。
脱線修正再起動。
だからイザナは、殺す理由がないというのももちろんだが、価値観の不一致的な意味でも、最初から一蹴するつもりだった。
自分に話をしに来た理由もどうでもよかった。情け容赦なく万次郎と競り合うところを見たからか。殺人に躊躇がないと知られたからか。なんだかんだ場地を助けてしまったのは事実なのでそこかもしれない。
心当たりがありすぎる上にどの理由でも平等にどうでもいい。
超絶適当に相槌を打っていたし、それにしてもよくわかんねえな稀咲コイツと思っていたし、なんなら途中から夕食に思いを馳せていた。鶴蝶にオムレツ要求しようかなとか考えていた。
これが十一月八日のことだ。
極悪の世代全員集合より、一週間は前の話である。
イザナが宗旨変えをした理由は、日付的にも同日、なんなら柴大寿殺害依頼を持ちかけられたわずか十数分後にあった。
「ねえ、さっき八戒といたでしょ」
「ハ? 誰オマエ」
先程までの密談の記憶をダストシュートにダンクシュート決めようとしていたイザナは、このように声をかけられた。
無断路駐していたバイクのエンジンをかけたタイミングでもあった。
「柴柚葉。八戒の姉」
反射的にガンつけたイザナ(モード:空腹)に、しかし、イザナよりも年下と思しき少女——柚葉は顎を引いて、イザナを見据えていた。怯む様子もない。
イザナは少し目を細めた。観察の意図をもって、柚葉を眺める。明らかに値踏みする視線を、彼女は、気に留めない。
「アンタは、八代目だよな?
形だけは問いかけるものだったが、語調は断言の響きを含んでいる。
確信を持った発言である。
「……そうだけど。それが?」
八代目の頃合いに所属していた乾青宗が、今十代目のもとにいる。イザナは元部下の動向を把握していた。
大半に興味がないのは知れていることだが、乾は、真一郎の店で直々に声をかけた少年だ。
バイクのハンドルの上にイザナが両腕を重ねて、顎を乗せる。ジッと柚葉を見据える男。
彼の目は笑っていない。
「八戒は……アンタに、なにかを頼まなかった?」
慎重に言葉を選ぶような質問に、首を傾げるイザナ。
彼の内心はこうだ——どう言うのが最も面白いか。
八戒曰く、彼の実兄の大寿は、
また女子供にも容赦はなく、間違っていると思えば己が妹にまで暴力を振るう。愛するが故という主張を盾にして。
イザナは、八戒の話からいくらかの誇張を嗅ぎ取っていた。しかしおおよその話の内容自体は嘘ではないだろうとも考えた。
その上で、だ。
確かに八代目
家庭内暴力も犯罪です、とは少年院にブチ込まれて一切更生しなかった人間に対して、あまりに今更だ。
八戒の嘆願を思い返して、イザナはにっこり微笑んだ。
血縁を重視せず、拒絶すら行う人種と、黒川イザナは相容れない。
たとえそこに、拒絶が正当とすら呼べる理由があろうとも、生育環境と境遇の違いから価値観は形成される。根を張った嫌悪はどうしようもならない。イザナとて嫌悪を取り除くつもりもない。
ぐっと背を伸ばす。顔を近づける。まるで聖人のような顔で微笑んでやる。
それこそ、八代目総長として振る舞っていた頃、よく利用した手段だった。
「オマエらの兄貴。柴大寿。殺してくれって言われたよ」
——ぬか喜びさせてやろうと思っていた。
イザナの言葉に、柚葉は、大きく目を見開いた。
笑顔のまま、イザナは言葉を続けようとした。
「やっ——ぱりか、あいつ」
顔を歪めた柚葉が首を横に振ったので、喉まで出かかった言葉を、一旦引っ込めた。
柚葉は「アンタは手を出すな」とまで言うので、呆気にとられて、イザナは目を瞬かせた。
「ンだよ、ラッキーじゃねえの」
「全く。これっぽっちも。一切」
三連続で強めに否定されて、イザナはシンプルに気を害した。
露骨に表情を消した男は、なんだよ、嫌味ったらしい声音でつぶやく。
「兄貴に殴られてるってのは、嘘か」
イザナとしては意地悪のつもりだった。
真偽はこの際どうでもいい。この際どころではなくイザナにとってはどうでもいい。
嘘だとすれば、おまえの弟が実兄に濡れ衣を着せているぞという嘲笑であり、真実であれば、おまえの知らないところで弟がそこまで追い詰められているぞ、という告発に至る。どっちにしろ嫌がらせになるという判断に基づく告発、あまりにろくでもない。
柚葉本人は殴られていないのだろうとイザナは判じた。でなければ、八戒の殺してくれという依頼は、渡りに船であるはずだ。
彼の目論見は再び外れた。
「……それは、嘘じゃないよ」
柚葉は、答えた。
苦虫を噛み潰したが如く表情は歪んだまま。
柚葉は、大寿のことが嫌いだ。大嫌いだ。暴力を振るって支配する、そういう側面をよく知っていて、虐げられ続けて、好きになれるわけもない。
理由をなにひとつ言葉にすることなく、結論だけを押し付けて従わせようとする兄を、いったいどうやって好ましいと思えるだろうか。
柴大寿は性差も体格差もその他あらゆる個人差も無視して、己が基準をもとに結果を要求する。
そこに一切の手加減もない。
幼少期の年齢差はたった一年でも絶対にも等しい。まだ覚束ない幼少期に、徹底して上下関係を叩き込まれた八戒は、成長した今に至っても、大寿への怯えが消えない。
末っ子で、次男たる八戒は、跡取りでもないから父に目をかけられる機会はほとんどなく、母親もいわゆる物心がつくかどうかの頃合いに死んだ。特に親に構われた記憶が薄く、教育もほとんど行われなかった。
そのことを、大寿はひとつも考慮しなかった。
「でも、八戒はアタシの弟で、大寿の弟でもあって……大寿は、アタシの兄貴で、だから柴家の問題だ。アンタが手を出すようなことじゃないし、八戒がリスクを背負うことじゃない」
好き嫌いと、家族は、両立する。
柚葉は己が身を以て知っている。
どうしても一緒にいることが苦しくても、どうしたって嫌いにしかなれなくても、過ごした月日がある。そこから生まれてしまう情がある。情が愛に転じてしまって、二進も三進も行かなくことも、ある。
少なくとも柚葉はそうだった。
柚葉は弟が大好きだ。柚葉は兄が大嫌いだ。
柚葉は、それでも兄弟たちを愛している。
八戒が——柚葉にとって、守らなければならない、意地っ張りで意気地無しでそれでも可愛い弟が——それほど追い詰められているなら。
誰かに託してまで実現を望んでいるというなら。
「柴大寿はアタシが殺すから。必要ないよ」
部外者の介入は不要だ。
黒川イザナは、とびきり残虐で有名だったらしい。彼の行いは、八戒の精神には、大寿の尊厳には、きっと欠片の配慮も行わない。
「変なこと聞かせて悪かったね。とにかく、だから八戒のことは——」
「アイツの依頼はもう蹴った」
イザナは既にバイクに座り直していた。一拍置いて「……ハァ!?」柚葉は頓狂な声をあげた。
「アンタさっき、請けたみたいな言い方してたろ!」
「ああ言えばおもしれーかと思ったけどアテが外れた。いいよなァ、家族がいるような奴らは」
吐き捨てたイザナはクラッチを握る。彼の足は同時にペダルを押し下げていて、条件反射で柚葉は一歩退いた。
判断として正しい。黒川イザナは必要とあらばバイクで人を轢く。
「他を当たれっつったよ。なんで俺が、金積んだだけの他人の命令で、興味もねえ野郎を殺さなきゃなんねえんだ」
「……そりゃあそうだけど、なら……」
「ハシゴ外された奴がどう動くとかどうでもいいしな。追い詰められた雑魚ほどろくなことはしねえ」
「……アタシの弟は雑魚じゃない。勝算のないことも、しない」
「お綺麗な信頼だな」
イザナは笑い飛ばした。八つ当たりだ。
……家族が無償で差し出す感情こそ、イザナが最も欲していて、手に入らなかったものだ。手に入らないと諦めて、切り捨てたものだ。
柚葉の言葉は、信頼ではなく、弟を知っているからこその理解だ。勝算を揃えないと大寿への恐怖に打ち勝てない。
もしくは、それこそ命綱を切られれば——彼らきょうだいの関係はそこまで崩壊している。
イザナが知る由もない。
「でも俺は、オマエが喋ってる間に考え直したよ」
いっそ朗らかな口調である。
柚葉の顔に走ったのは間違いなく警戒だ。明らかに様子が違うのは初対面でも汲み取れる。
「確かに、俺の
「ちょっと待ちなよ、八代目は引退したんだろ? 第一、アンタさっきまで大寿のこと興味もないとか、話が違う!」
「それに、そんな奴でも家族がいる」
イザナの声はごく小さかった。「……なんて?」聞き取れず聞き返した柚葉に、わざとらしく肩をすくめる。
取り繕うのはお得意だ。一片でも隙を見せれば嘗められる。嘗められれば付け入られる。
法律も大人もイザナを守ってはくれなかった。一切の後ろ盾を持たないからこそ、強者の位置を確保し続けるのが、イザナにとって生き延びるすべだ。
「元々俺は隠れんのはガラじゃねえんだよ。
「踏み台にしようっての、」
「俺のモンを取り返すだけだろ? そんときは、邪魔な埃は払うかもな」
最後に告げた言葉は明確に追い込む目的があった。
同時に本心でもあった。
「最悪だな……」
一連の流れをぺろっと白状されて開口一番、これは鶴蝶の台詞である。末っ子かつ忠実なる下僕にしか許されない批評だ。「ウルセェ」イザナは悪態をついた。この極悪ランキングワーストがよ。
イザナの独断と偏見だけで作られたランキングが果たしてどれだけ機能しているものか。
「勢いで決めンな、マジで」
「
「下手にイベント入れらんねえ……獅音センパイは今フリーっすよね?」
「ンまあ、つるんでるやつは別にチームでもねえし」
「俺の次が獅音、蘭に竜胆、
辟易と呻く望月は、とはいえ総長なので彼の決定が絶対だ。蘭の言うようにチームを畳むか、引き継ぎを行うか、おおよそ二択のうちどちらかが行われるはずだ。
シマ周辺の勢力図や関係者に話をつけるくだりもあるだろうが、諸々の必要な処理を済ませれば合流できる。
灰谷兄弟はチームを持たない。彼らの言うことをよく聞く手足は有り余るほどにいて、狂獄および六星コミュニティから引き継いだネットワークがあるので、今後の取扱の決定と通達に少々の時間を要するかもしれないが。それくらいか。
斑目は、
指折り数える鶴蝶の事情はご存知の通りとして。
「イザナおい、テメェ俺どうしろって」
なので頭を抱えるとしたら武藤一人だ。
東京卍會が明らかな爆弾を抱えていることが判明したばかりで、新設チームへ移籍の命令。他の誰であっても突っ撥ねれば終わりだったところを、よりによって王様直々に。
イザナが
「テメェの事情なんざ知らねえ、こっちが先約なんだからさっさと荷物まとめて来い——」
「鬼畜」
「人でなし」
「——とか言いたいとこだが、ところでヤキ入れられてえのかそこのバカ兄弟はよォ」
利き足を不穏に引いた(つまり構えた)イザナに灰谷兄弟は首を横に振った。野次にムキになるなよ〜とか煽っても許されるのは、彼らの知り合いだと某フクブくらい。
「言いたいとこだが」
気を取り直して。
「万次郎に気取られんのも面倒くせえ。今
再び腕組みしたイザナは、険しい顔でそう述べた。さながら警察から逃げ回る指名手配犯の台詞である。素行も状況も似たようなものである。
「……マイキーがオマエを追ってんの、どうも恨み節じゃねえらしいが」
「それは知ってる。もっと面倒だからいい」
控えめな提言は即座に切り捨てられた。なに……? の顔をするのは斑目と武藤と望月と灰谷兄弟と。つまり極悪の世代全員。
なんちゃって義兄弟関係を知っている鶴蝶だけが、すっと視線を逸らした。
たぶんこの場に純丘がいても同じ反応をした。
「稀咲鉄太がなんで俺に持ってきたのかもわかんねえし。……あいつマジでなに考えてんだ?」
「強ェからじゃねえの」
「俺はハロウィンであいつを殺しかけたぜ」
「……。マイキーに忠実だから、それじゃねえか」
武藤の台詞の前の三点リーダは、あらゆる意味で〝なんで?〟を聞こうかどうか迷った間である。
武藤は当時、抗争の只中にいた。だからこそ、総長が傷害どころか殺人未遂まで至った状況で、イザナの一挙一動まで注視していなかった。
「それに
「……三途か?」
「たぶんそれ。腹のヤツのメシ会に連れてきてたやつ」
「三途だな」
デジャヴを感じさせるやり取りを挟んで。
「あいつ……俺らが何してようが、スルーすンだろうけど。オマエが扱いをしくじると面倒だ。タブン」
「タブン」
「俺の勘」
「勘かよ」
こればかりはイザナが特別鋭いのではなく、〝兄であってほしかったひと〟に執着する者同士の、無意識かつ無自覚のシンパシーに由来している。
ともあれ理由が揃い踏み。
これにて結論はひとつと相成った。
「
「なあイザナ、チームって
「最初に確認すんのそこか? ないから勝手にやっとけ」
「俺と竜胆黒でいい?」
「フザケてんのかオマエら。イヤもういい好きにしろ」
フリーダム・ハイタニ・ブラザーズ。しっしと手を振るイザナも、確実に諦めが半分入ってきている。
傍らで、望月は脳内でカレンダーを思い描いて、顎をさすった。
「……オマエそれいつ動くつもりだ? なるべく早くとか言い出したらさすがに殴んぞ俺は」
「今何日?」
「十一月の十七だな」
「なら半月後……キリいいから来月一日にしとくか、まずは
「スケジュールがシビアなんだよ……」
「なあそれもうチーム名あんの」
「テメェまで確認すんのそこか? ……とっくに決めてる、横浜天竺で行く」
げんなりと言ったイザナに「エ、かっけえじゃん」斑目は素直に口にした。
斑目はこういうところがあるので〝しょうがねえなコイツは……〟で許されるのである。ちゃっかりしている。
王将
:将棋の歴史的には玉将が先にあって次に王将ができたので
佐野真一郎→黒川イザナ的な意味でも良いかなと思った
でも横浜(中華街)の王将だと当方は餃子の王将を連想する
無断路駐
:するな
必要とあらばバイクで人を轢く
:贖いの結末を知らない「筺底の結果の確定法」で実際轢きかけている
極悪ランキング
:キャラブック3巻参照