「君に、万次郎、ドラケンくん、堤に御門、橘ちゃん、タケミッチくん……」
メンバーを指折り数えて「それで、俺も?」純丘は確認を取った。
「そ!」
エマは大きく頷いた。
佐野家にはなんだかんだ、週三程度のペースで赴くので、顔を合わせる機会が多い。
「確かに俺の手が空いていたら外出にも付き合うとは言ったが。……なんか多くないか?」
万次郎と龍宮寺は各々、絶賛トラブル発生中の東京卍會ツートップ。しかもエマにとっては兄と想い人に該当するので、彼女の外出に付き合うのはむしろ当然まであるとして。
純丘の同中二人は、エマと引き合わせた張本人が純丘榎そのひとなのでそれもいいとして。
日向と花垣の名前が出るのは、マァ日向の方がエマの友人で、恋人がくっついてきたと解釈すれば理解できるとして。
つまり全員理屈はわかるとして。
でも多くないか?
そんでもってそこに俺、要るか?
純丘の感想はそんなかんじ。
「ぶっちゃけマイキーとドラケンがいるからだいたいのコトなんとかなるし。部長はクアドラプルデートの数合わせくらいで気楽に気楽に!」
「ダブルデートと似たような用法なのか、それ」
しかし合同デートの数合わせ相手が昔ながらの知人。本当に数合わせだ。
「……マァ確かに気楽だな」
と、純丘も頷く。
それにメンバーを考慮する限り、龍宮寺とエマ、花垣と日向が各々くっつくのは目に見えているので、純丘が欠席した場合は万次郎と旧知の女子二人があぶれるかたちになる。
友人知人の身内かつ年下という前提があっても、暴走族総長は身構える対象になり得るだろう。万次郎もあれでかなり人見知りが激しい。
ついでに、男女で分かれるとそれはそれで花垣が一方的に不利になる。東京卍會ツートップは大概どちらも自由人だ。
「ちなみに部長ってば、あかりさんといい感じになるつもりない?」
「ない」
「ほんとに一ミリもない?」
「皆無だな」
「ちぇ……」
男性側の保護者枠、それはそれとしてなにやら期待していたようだ。純丘がバッサリと切ればエマは拗ね気味につぶやいた。
もとより純丘榎は、昔馴染はもちろん、色恋沙汰を意図的に避けている。その点はエマも前々から知っているので、ダメ元で振っただけなのは察せられる。
「というかそれこそあいつのほうが言ってただろ、俺とはないって。なんならあいつ、まだ引きずってる男がいるはずだが」
「えでもあかりさんの初恋って聞いた感じすごくダメ男に引っかかってるから。部長はまだマシだし」
「まだマシて」
これはありとあらゆる各方面に対して容赦が皆無の評価。
「実際気は合うから長い付き合いなんでしょ?」
「堤の初恋がダメ男は全く否定しないが、手近で済ませようとするな」
「人聞き悪ーい! ウチだってマイキーがもっとダメなことはわかるけど!?」
「人聞き悪いのは明らかに君の今の発言な?」
なお、佐野万次郎なる少年が恋人にきわめて向かないのは確かなので、その点も純丘は否定しない。
「ていうかずっと気になってたんだけど、部長が恋愛しないの、なんで? 好きな子とか気になる子とかいたことないの? ちょくちょくモテてるんだから一回くらい付き合ったりしなかった?」
「君なんで今日そんな突っ込んでくるんだ……?」
「ケンちゃんもしかしたら部長みたいなスタンスなのかなって……」
「たぶん違うと思う」
両想いに気づいていないのはエマくらいである。
むしろ根底では気づいていて、だからこそアプローチのない今が不安な可能性も高いか? 純丘は内心首をひねって、それから思考を放り出した。
当人同士の事柄なんぞ、考えるだけ無駄だ。好きで根掘り葉掘り聞きたいならさておき、純丘は少なくともそうではない。
「……気になる子や好きな子は、いたことがなくもないが」
どうもこの男が身内に入れた対象に甘いとは、彼の知り合いにとってほとんど周知の事実と化している。
天竺でさえしばしばその性質を利用していたのだから、それ以上に付き合いの長いエマは、当然知っている。
「ウチの家系は恋愛すると大概ろくなことにならねえから」
「なにそれ呪い?」
「体質かな……致命的に向いてないんだと思う。あァあと、俺の場合は実家が口出してくる可能性がまだあるってのもな?」
「部長のオヤって聞いてるとアレみたいだよね、DV束縛元カレ」
「ははは。だいたいそう」
笑い声は明らかに空笑いだった。
「ウチ、ママがそうだったらそれはそれで絶対嫌だったナ……」
エマはしみじみとつぶやいた。三歳から今に至るまで、一切連絡がないからこその実感籠もった言葉である。
複雑家庭環境実親はお互いに周知、もはや掘り下げても意味がないので「マァ俺はせいぜい独身貴族を謳歌するとしてだ」純丘は冗談めかした物言いで、話に一区切りをつけた。
「いつどこ集合だよ」
「明日の十時半」
「……水曜だが、君ら学校は?」
「インフルで学級閉鎖してんの」
「学級閉鎖中に出歩こうとするなよ、なんのための学級閉鎖だ」
「部長のガッコは創立記念日で休校でしょ?」
「流すなよ。というかもしかして、俺の個人情報、堤あたりからぜんぶ君に流れてたりしないか?」
「これはおじいちゃん」
「ナルホドな……」
万作相手だと純丘が強く出られないことをよく理解されている。
すれ違い通信
さてところ変わって時間も変わって翌日である。
ダッフルコートの隙間を埋めるようにマフラーで首元を巻き上げた純丘に「この季節、フクブチョってばよく着込んでますよね」「鍛えてるわりに寒がりだからね」つぶやいたのは、それぞれ御門と堤だ。
「よォ堤、御門は久しぶり」
「お久しぶりでーす。顔合わせるのは半年ぶり?」
「マァそれぐらいは経つな、あんまり実感はないが……」
「わりと連絡はまめだし、なんなら堤センパイから月イチペースでフクブチョの話聞きますからね」
「ちょっと待て俺それは知らないぞ、堤?」
矛先を向けられた堤は、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「そういえば純丘くん、あなた自分のこと部長って呼ばせてるわけ? 高校は帰宅部だったよね、実は部長職羨ましかったりしたの? 中学当時は音楽できないからトップは嫌だって副部長席確保してたと思うんだけど」
「なんでこの一瞬で俺が詰められる側に回されたのか至極不思議だ……」
「久しぶりに見ました、お二人の修羅場!」
「恒例扱いをしよる」
先輩諸君の間に走った緊張に、楽しげに手を叩く御門。二人の諍いを戯れと認識しているゆえの反応だ。
間違ってはないんだが俺が詰められてるのはやっぱりなんかおかしくねえかな……。
島部長が由来とか純丘だって自分で説明するのはちょっと微妙な上、自分でつけたあだ名ではないし呼ばせてないし、なんなら拒絶しているはずだ。
ただそろそろ諦めてもいる。
「部長なにしてんの? 喧嘩? 俺部長に賭けるワ」
「女相手だとムリだろ、なんならもう押し負けかけてるし。部長くん、マイキーがテンション上げちまうんで早めに済ませてくださいよ」
「でも部長ってば引かないトコ引かないから、これがマジなら部長の勝ちじゃない?」
「エマと俺が部長派な。タケミッチどっち?」
「ヤ俺、喧嘩賭博はちょっと……」
「俺は早くも来たことを後悔している」
続々と集まってくる誰もが面白がっている。日向でさえも「榎さんがさっちゃんさん紹介したって、ホントだったんですね」のんびり述べた。
ホントってなんだ、このやり取りでなにを納得したんだ。
純丘はよっぽど抗議したかったがやめた。揚げ足を取られるのがオチだ。
「ヒナ知り合い?」
「うん、エマちゃんと女子会するときに、さっちゃんさんは何度か……あかりさんは初めましてかな? お話は聞いてたけど」
「さっちゃんさん? ああ、御門幸だからか。可愛らしいあだ名だな」
「フクブチョそゆこと言ってると刺されますよ?」
「今日は俺の味方は誰もいないのか?」
「御門ちゃんも純丘くんですらあだ名あるんだし、私もあだ名ほしい。かわいいやつ」
「
「さすがにあかりんとかあるでしょ」
「こういうのでの部長のセンス、ダメだからな〜」
賭けの勝敗で一人勝ちした龍宮寺には、後日の純丘がビッグマックを奢ると決定したところで。
仕切り直そう。
そもそも彼らが本日行くのはどこかといえば、夢の国と名高いとあるテーマパークである。
ディズニーって平日だと空いてていいですよね〜とは御門談。
渋谷から舞浜までは、電車ではおよそ一時間、車では渋滞を除外してスムーズに走れば三十分ほど。連休間際でもない平日となれば、当然高速も空いていた。
エマが純丘を頼ったのは彼が運転免許を所持しているから、という点も大きい。バイクはどうしても団体行動には不向きだ。
「つうか部長ってばヒナちゃんと会ったことあったんだ?」
万次郎がこの疑問を口にしたのは、パーク内で手に入れたミッキーのカチューシャを自らの頭に刺した頃合いである。絵に描いたような満喫の姿。
目の前のジェットコースターが席を微妙に二人分余っていたので、じゃあ俺らで先乗っとくかとさっさか先行した結果、今は後続待ちがてら物販店を物色中。
「興味あるか?」
尋ね返した純丘は愉快な形のサングラスを傾げて、照明に透かしている。
遮光には向かねえな、というコメントは喉の奥に飲み込んだ。
「ついこないだ、二人の映画デートに鉢合わせてひとしきり惚気けられた話でもしようか?」
「フッハハハハ最高」
「とはいえ話をしようかもなにもそれで終わるが。六歳も下のカップルの戯れ見てると、俺ってもう若くないんだなと……」
確かに肉体的には六歳下だが、映画デート当時の花垣の中身はむしろ純丘の六歳上だ。
「部長まだハタチだろ。まだまだこれからってやつじゃね? シンイチローもハタチのころ言ってたぜ」
「……それは、そうだな……」
「んなこと言ってたくせにそっから三年で死んじまったけど」
「思ったよ。めちゃくちゃ思ったけど君が言うんだなそれ」
センシティブに自ら踏み込んでいくスタイル。ええ……の顔をした純丘に、万次郎はからころと笑った。
「マジでシンイチローには似てねえから、部長は長生きすんじゃねえの?」
「ハハハありがとよイヤ褒めてんの? マァ俺はきっと七十年後に布団の上で死にます」
「大往生じゃん俺百年後な。キリいいし」
「俺より長生きする気満々だな」
「てか俺ホンテ行きたい。ホンテ。部長の七十年後のために幽霊見学しとこーぜ」
「ご親切ありがとうと言いたいところだが、ここはシーだから、ないな」
コートのポケットから取り出したパンフレット(入口で取っておいた。他の誰も取らなかったので、現状パーク内の地理は、純丘のパンフレットと大学の空きコマを利用してディズニーに通い詰める御門にかかっている)を開いて目を通す。
記憶の知識を諳んじただけだったが、やはり万次郎ご所望のアトラクションはない。
「あれホンテってランドだっけ? しょうがねえなセンタは?」
「そっちはあるが。……一台六人乗りだぞ、また確定で二人あぶれる」
「タケミッチとケンチンじゃあ次ので来いよっつったら面白そうじゃね?」
「やめてやれよ」
額を突き合わせてパンフレットを覗き込み、二人乗りないし四人乗りのアトラクションを探している間に、次の回のジェットコースターが終わったらしい。
後続の六人の先頭で、エマがきょろきょろと周りを見回していた。
「お前ら〜、こっち!」
万次郎が手を挙げた横で、純丘もパンフレットから顔を上げる。目を丸くしたエマが真っ先に万次郎に駆け寄った。
「えなんでマイキーめっちゃミッキーしてんの? カワイーね」
「ミッキーと目ェ合ったから」
「カチューシャに目、ねえだろ」
「フクブチョは……そのサングラス、なに? すっごく星型」
「俺も知らん。星だなと思います」
「他に言い方あるでしょ」
口々に突っ込まれた二人は、顔を見合わせると、万次郎がひらひらと手元の紙袋を振った。
開封された痕跡はあるが、中身が入っているのか、振るたびざかざか音が鳴る。
「ほんとは部長にもミニー着せようとしたんだけど、部長めっちゃ嫌がったからサングラスんなった」
「絶対耳当てにぶつかって隙間風が入る。絶対だ。俺にはわかる」
「寒がりですもんね」
「寒がりとかいう問題かな。……あなたたちでカップルコーデするつもりだったの?」
「これカップルコーデになんの? じゃあ俺部長はイヤ」
「潔すぎるくらい失礼だな」
キッパリと言い切られた純丘は言うわりにどうでも良さそうだ。パンフレットを畳み直してコートのポケットに突っ込んだ。
「誰ならいいんだ逆に」
「うーん? ……ヒナちゃんはタケミッチに怒られるし」
「怒り……怒る、マァヤだなって思うッスね……」
「わたしもやるなら武道くんとがいいなってなります」
「あかりっちとさっちんは部長ガードが入るだろ」
「いつの間に新しいあだ名を」
「かわいいね、私あかりっちで」
「俺の提案への反応とはずいぶん違うな……」
当然だろう。
「てなるとエマしかいなくね?」
「ウチはケンちゃんとがいい!」
「ケンちゃん言うな」
そこ否定するの呼び方だけなんだなとは突っ込まない。
ただ生ぬるい目になった純丘を他所に、万次郎は紙袋からミニーのカチューシャを取り出して「ハイ」無造作にエマの頭に刺した。
「ちょっと待ってコレ部長がつけたんじゃないの!?」
「つけてないつけてない俺は買わされただけ。買わされて不意打ちでつけられそうになって死守しただけ」
「後ろからつけようとしたらめっちゃ逃げられた。マァエマのが似合うもんな」
スタイリストマンジローは満足げに鼻を鳴らす。続いて自らの頭からミッキーを抜いた。
突発スタイリストに真っ直ぐに見つめられた龍宮寺、なにかを察した様子。
「俺はフラレたしケンチンにやるよ、総長命令」
「総長命令をここで使うな」
苦言を呈したものの、しかし問答無用でミッキーのカチューシャをつけられた。
龍宮寺は側頭部を剃り込んでいるので、どうにもカチューシャが微妙に安定しない。居心地悪そうに抜こうとして……佐野兄妹のきらきらしい瞳に押し負けてきちんとつけ直した。
「タケミッチとヒナちゃんどうする、ミッキーミニーでお揃いにしとく? 二人でペアルックがいいならドナルドとデイジーとかどーよ」
「アレッもしかしなくても買う前提ッスね?」
「今なら奢ってくれるぜ、部長が」
「予想はしていた」
純丘は落ち着き払った様子で財布を取り出した。彼の今の財布は、小さめの二つ折り財布だ。ポケットに入れやすいので重宝している。
「お好きなものをどうぞ」
「思ってたんだけど純丘くん最近金欠じゃないよね、なにで稼いでるの。シノギ?」
「シノギにしてもなんのだ……合法です」
「え、フクブチョまで稼ぎ方に非合法の選択肢あるタイプのひと?」
「その解釈はなにか致命的に違くないか?」
「そういえば部長くん、黒川イザナとつるんでたんすよね。まさか……」
「今日は本当に味方がいないな。俺なんかした?」
「イザナのこと黙ってた」
「板挟みってこういうとき不利だよ……」
渋い顔ながら純丘はそれでも財布を開いてお札を数え始める。むしろ慌てたのは花垣と日向だ。
「え、あの、私ちゃんと自分で買いますよ!」
「お、俺も! いちおうデートなんスから」
「……そう? ちなみに値段見た? 四時頃には切り上げるだろうけど、まだ時間あるからその分遊ぶぞ?」
「ねだん。……あ、うーん……いやでも!」
「うん、今日は俺が二人分買っとこう。次に二人きりのデートで来たときに今度こそ自分で買いな」
無事ドナルドとデイジーのカチューシャをお買い上げ。
結局次のアトラクションはインディー・ジョーンズに決まったところで。
「つうか俺腹減ったんだけど」
「十二時半か……俺も正直腹減りましたね」
「は〜いフクブチョ、チュロス食べたいです!」
「チュロスはもう少し栄養になるご飯を食べてからにしてください」
午後二時頃のファストパスを確保したため、この間に昼を済ませようとゾロゾロ列は移動を始める。
御門が先導する列の最後尾、純丘はふと、斜め前の万次郎に意識して近寄った。
「ん、なに」
「わかるとしたら君だろうから聞くんだが」
差した影に気づいて振り仰いだ少年に、少し声をひそめる。
「タケミッチくん、今日なんか様子妙じゃないか?」
……人間観察を習慣どころか無意識の癖レベルで行っていれば、当然、気づくだろう。
純丘はもとより、大して密でもない付き合いでも嘘を見抜く男だ。ここ数時間は団体行動でほぼ常に共に動いている。
そもそも彼と花垣が今まで会ったのは、いずれもタイムリープの最中。差異は浮き彫りになり、明白だった。
「そう?」
純丘の問いに、一瞬不思議そうに首を傾げた万次郎は「……あーわかったアレか、」と続けて思い当たった様子だ。
こちらは独特かつ鋭い感性や、それだけでは説明のつかない勘から、的確に正解を引き当てる。ある種イザナのそれに類似しており、また似て非なる力でもある。
イザナは己の発達した五感と経験から、無意識に計算して、結論を出力している。理論には満たないレベルの道筋があり、見えないながらも過程がある。
万次郎の直感は、あえて別の語で表現するならば天啓に近しい。知らぬはずのことを、過程をなにもかもすっ飛ばして結論だけ手に入れている。
「タケミッチ、なんかちょくちょく人格ちげェの」
「そ、そこまで違うのか? なんとなくヘンだなとは思ったが」
「え? そこまでっつうか、こう、あるだろ。そういうの」
「……君ちなみに人格の意味知ってる?」
「フインキみてえなやつじゃねえの?」
「雰囲気」
「フンイキ」
「……とりあえず、君が言いたいことはわかった。君と俺はおそらく同意見だな。ただ人格はそういう意味じゃない」
プラス十余年ぶんとはいえどちらも同一人物だ。
しかも花垣は実は精神年齢がさして変わっていないので、純丘の評価通り、多重人格ないし解離性同一性障害レベルの違いはない。
「へー」
「すごく興味なさそう」
「だってどっちにしろタケミッチはタケミッチだろ? どっちでもおもしれェし、なんでもいーよ。でも部長がそー言うってことはホントに違うんだ」
「うん……彼は俺と会ったことを覚えているようだし、言葉に矛盾もなく、根本は変わらない。ただ間違いなく
純丘は少し首をひねって「そうだな、」と言葉を続けた。
「今の花垣くんは〝詳しくはホントに事情があって言えないんですけど〟とは言わなそうだよな」
「……部長タケミッチとなんかあった?」
「愉快だよな〜あの子」
「もしかしていじめた?」
「今日は本気で味方が皆無だな……いじめてないです」
また今日の花垣であれば、もしも万次郎と意見を違えたとき、訣別はしても実力行使で止めにかかりはしないだろう——たとえば、ハロウィンのように。
純丘はそのような印象を抱いた。
「皆さんごちそうさまでした!」
「チケ代もお土産もあざっす! マジでホントに……」
「それに送っていただいて」
「いーよいーよ、また暇んとき遊ぼーね」
テーマパークではつづがなく特に事件もなく一頻り楽しんだ。ジェットコースターで殺人事件が発生するのはやはり推理漫画くらいだ。
佐野家兄妹と龍宮寺は既に佐野宅で降ろし、日向と花垣は指定された渋谷駅まで。デートなので二人で歩いて帰るらしい。青春である。
朗らかに挨拶する御門の隣にて。こちらも手を振りながら、純丘に耳打ちしたのは堤だ。
「お土産代は各自だけど、チケットとご飯料金は私たちが持つって言っ……てたよね?」
「さすがに全額とは思わなかったに一票」
「なるほど。……ねえ待って、親御さんに急遽根回ししてたことは本人たちに言ったの?」
「ハハハやっべそっちはマジで忘れてた」
「……今回のお出かけは純丘くんに幹事担当させちゃったし、そのへんなにかあったら私がどうにかしとくね」
「助かる」
元軽音楽部メンバーと東京卍會関係者は歳が離れていて、特に純丘と堤は二十歳かつ社会人としての自覚がある。
お互いのフォローは長年の付き合いで慣れている。
「ちなみに聞きたいんだけど……」
「うん?」
「もしかしてヒナちゃんって、あなたの実家周辺に住んでなかった?」
「……会ったことあったか?」
「やっぱりそうだよね、たまに塾帰りのあなたたちを見かけたもの。なんなら鉄太くんが好きだった子だよね?」
「……過去形かどうか確かめてない話、する?」
「やめて」
たとえ現在進行形であっても、どこからどう見ても円満カップルに付け入る隙はない。
「……今の一瞬でなにかあったんですか?」
御門が怪訝そうに尋ねた。振り返ってみればげんなり顔が二つ並んでいれば、妙にも思う。
先輩方は同時に首を横に振った。二人とも、他人の恋路に首を突っ込んで馬に蹴られる趣味はない。
学級閉鎖
:既にクラス内にウイルスが蔓延していることを踏まえ、感染を広めないための処置なのでなるべく出歩いちゃダメです
ファストパス
:東京ディズニーリゾートでは二〇〇〇年九月から導入された
二〇二三年六月に廃止が発表された模様
ジェットコースターで殺人事件
:俺は高校生探偵工藤新一……
すれ違い通信
:2005年頃より、任天堂がニンテンドーDSおよび3DS等で提供した機能……が、元ネタ
なお任天堂の方の正式名称は「すれちがい通信」
外出時等に、無線通信を用いて同一ゲームの他プレイヤーと交流する、といった仕様
当然Wiiにはない
Switchにもない
なんなら3DS用のすれちがい通信の中継スポットも2018年にサービス終了している
本体の方の機能は生きているので、DSや3DSを持ち歩いている場合、まれにすれちがい通信が起きる