【完結】罪状記録   作:初弦

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 よいお年を。


ぬるま湯に肩まで浸かる

 純丘榎は——稀咲榎は、彼の言葉には、一切の嘘もなかったようだ。

 その日の夜には花垣にも、いくつかの連絡が入った。彼らはほとんど東京卍會のメンバーで、口を揃えてこのように切り出す——

 

〝聞いたか!? 稀咲の話!〟

 

 どのツテをどう当たったのか。翌日の昼のワイドショーでも、1コのコーナーを取り扱って、サイコパスの兄と被害にあった弟や暴走族チームの話が、熱心に議論されていた。

 登場人物の名前はすべて、仮名として伏せられていたが、偶然視聴した花垣には心当たりが百個ぐらいあった。

 

 稀咲とは、あれ以来、顔を合わせていない。

 

 花垣はテレビを消して、パーカーを羽織り、外へと足を踏み出した。彼には今日、人と会う予定があった。

 いざ、カラオケ店。

 

「相棒、ようやく来た! 遅刻……じゃねえけど遅えよ! いつまで場地さん待たせんだ!」

「ヤ待ち合わせまだだからいいけど」

「実際なんで花垣なんだよ」

「知らねえ」

「はァ?」

「塾長が、聞きたいなら聞けっつったのがタケミチだった」

「意味わかんねえなあのひと」

「テメーが言うかよ」

「つかテメエはなんでアイツのことまだ塾長って呼んでんだ? もう塾長じゃねえだろあのヒト」

「……ケジメだよ」

 

 既にお察しかもしれないが、人と会う予定というのが、千冬、場地、三途の三名だ。

 つまり、タイムリープを知っている人間二人と、タイムリープは知らないが稀咲の呼び出しを代行させられた人間だ。

 

タケミッチ(ふおふっほ)

「……マイキーくんも来たんすか?」

 

 ただ何故か予定にない人間が紛れ込んでいたので、花垣は思わず尋ねた。

 

 万次郎は澄んだ目で見つめ返した——口の中に鯛焼きを突っ込んでいるので、喋れない。

 頬張った鯛焼きを無造作に咀嚼して、嚥下、ようやく口を開く。

 

「部長と稀咲の話なら、俺は聞く権利あンだろ」

 

 東京卍會総長としても、危うく妹を取りこぼしかけた身としても、純丘の雇い主の孫としても、聞く権利があるかどうかでいうとないわけがなかった。

 

「イザナも連れてこって思ったんだけど、聞ィてみたら、知ってるからいいって返ってきたんだよなァ。どっから知ったのかしんねーけどさ、てか教えろよ!」

「どうせ灰谷かなんかから流れたんだろ」

「だろーな」

「なんで灰谷?」

 

 場地と三途が訳知り顔で頷き合うので、万次郎は不可解そうな表情を浮かべた。幼馴染三人組の中でひとりだけ仲間はずれの気分だ。

 

「あー……」

「タケミッチも千冬もなんか知ってんの? マジで仲間外れじゃね、おい場地ィ」

「知ってるけど言っていいのかわかんね」

「ジコホーコクでも塾長は許してくれんだろーけど他が問題、雑にリンチされんじゃね」

「リンチで済めばむしろマシだろ。……事故じゃなくて事後報告な?」

「たぶん本人聞いて問題なかったら教えてくれるッスよ」

 

 花垣は次善策(というか、最善策)を提示した。しかし万次郎は、ますます不貞腐れた様子で、また鯛焼きをかじった。

 

「……会えねえの。面会謝絶だし、電話もメールもなんっか言いくるめられるし」

「面会謝絶!?」

「……塾長ンとこ、今下手に面会許可するとマスコミ押しかけてくるんじゃねーの?」

 

 よく考えたらばそりゃそうだ。花垣は滑り込みセーフのタイミングを狙われたわけだ。

 

「……まァ、ウン、本題入りますね。説明下手くそかもだけど」

「アそれは諦めてっから良い」

「俺最初から諦められてんの?」

 

 ともあれ。

 病室での出来事を、花垣は粗方語った。

 

 稀咲の計略のこと。狙われた日向のこと。純丘榎が弟への対策として打った手のこと。

 

「ハァ!? 薄々思ってたけどよォ、それほぼ無罪放免じゃねえか!?」

 

 三途が机を殴りつけて叫んだ。カラオケの個室で声が変に反響し、場地が思わず耳を塞いだ。

 

「馬鹿じゃねえの!? あのヒトんなにゲロ甘ちゃんだったかよ、膾にして三枚にオロスべきだろ!」

「殺してんだよソレはよ」

「膾にしたあとに三枚に下ろせんスか?」

「どこに食いついてんだ」

「殺しゃいいだろ!」

「良かねえよ」

「あっちは殺る気で来てたんなら殺られても文句ねえだろ!」

「ヤ文句はあるっしょ。あれよ」

 

 語彙力は物騒通り越してただの犯罪だが、主張として間違ってはいない。

 

 稀咲は、不良界隈には居づらくなるだろう。実家の締め付けにより、今後の行動は困難になるだろう。

 しかしそれだけ。実際に明確な罰が下ったわけでもなく、拘束されたわけでもない。

 

 手ぬるいのだ、あまりにも。

 もっと言えば、別の場所で素知らぬ顔で似たような事件を起こすことも、可能だ。

 

「タケミッチさー」

 

 話のさなかに鯛焼きを六匹ほど腹に入れていた万次郎。彼は七匹目の尻尾を食みながら、なにやら考えていたようだが、不意に花垣に目を向けた。

 

「ッス」

「部長の処分、手ぬるいって思った?」

「思っ……」

 

 正直に言えば、思いはした。実際花垣も一回キレたので。

 

 純丘の滔々とした説明に、口を噤まされたが、改めて思い返すとやはりぬるい。

 刑事罰が下ったわけでもなく——確固たる証拠もない現状では、下すまでかなりの手間暇がかかるとしても——かと言って、不良のケジメとして、ボコボコに袋叩きにされたわけでもない。

 

「……思ったんスけど」

「けど?」

「それ以上に稀咲が……ガチの焦り方してたんスよね」

 

 なんで? と、そっちに気を取られているうちに、灰谷兄弟がやってきて無事に病室を追い出された。

 それから花垣も、純丘に会えていない。

 

「ンー」

 

 万次郎は首をひねって、もう一口、鯛焼きを今度は腹から食む。もそもそもそ。

 咀嚼して、飲み込む。

 

「部長、たぶんガチギレしてたんだろーな」

「……あのヒト、キレたりすんの?」

「怒ってもほとんどキレねーけどさ。俺一回やらかしてキレられかけたことある」

「えなにを」

「反抗期ってやつ? で心配してくる爺ちゃん鬱陶しくてうっかりマジで吹っ飛ばした」

 

 一瞬で全員が真顔になった。

 

 東京卍會最強たる万次郎が、本人曰くの〝マジ〟で吹っ飛ばす、それはもう普通のご老人は死んでいる。むしろそれは、今も万作が生きているのが奇跡にすら思える。

 

「あと場地もキレかけられてたろ。ハロウィンぐらいン頃」

「……塾長のあれは、キレてるってか、見捨てるかどうか考えてたんだろ」

「ああウン、そうとも言う。てかそれだな。それだわ!」

 

 勝手に納得して、ウンウン、と万次郎は頷いた。

 

「それでいうと一虎とかは……なんだろーな、それこそ判断中? てかソレ以前の問題? みたいな顔して見てたカンジする」

「あー……わかるっちゃわかる、が……」

「だからアレだ。場地はギリ見捨てられなかったけど——」

「おいギリって言うな」

 

 なまじ自覚がある場地、声がチョット震えた。

 

「——マジで見捨てたんだろ、稀咲のことは」

 

 万次郎は無視してさっぱり言い切った。

 鯛焼きの頭の部分を放り込んで、もっしゃもっしゃと顎を動かす。

 

「ング。……なんかさー、部長って、見捨てるまでのカウンターみたいなのがあるワケ。ちゃんと反省して、頑張ってると減るけど、何個か貯まるとマジで見捨てる」

 

 こう、と万次郎は水平に何本か線を引く仕草を見せた。段階的に溜まっていく様子を示すように、上へ上へと線を引き、最後にピッと首元を切ってみせる。

 現在進行形で議題にしている男が、首の血管をかすめて死にかけたばかりなことを考えると、本気に洒落にならない。

 

「貯まるってのは、えーと……同情できねえ理由で、不良でもなんでもねえ無関係のやつに被害出したとき。で、それが部長にバレたとき」

「そんでなんも反省してねえときナ」

「そうそう」

 

 場地の補足に万次郎は大きく、何度も頷いた。

 

「タケミッチの聞いてるカンジ、稀咲への罰ってより、部長がやりたいようにやった上での脅しなんだよ」

「やりたいように」

「たとえば部長、実家とマジで仲悪くて、縁切りてェってなんかあるたんびにぼやいてた。じゃあなんで切らねえのって聞いたら、弟いるから切ったらそっちに負担行くって話で」

 

 自分が肩代わりしていた負担どころか、己にかかっていたぶんごと、そっくりそのまま押し付けた。

 

「脅しってのはさ……タケミッチの話だと、部長、起きてすぐあかりっちに連絡したっつっても、実際噂広まるまでたぶん二、三日もかかってねえだろ」

 

 あかりっち誰だよと皆が一瞬思った。文脈で堤だと察しがつくにしても、誰だよ。

 

 あいにくこの花垣はディズニー行きを覚えていないので、その場のノリでつけられたあだ名を知らない。

 

「てことは()があるとしても、稀咲が止めらんねえまま、おんなじくらいの速度で広められる」

「次ってなんすか」

「次は、次だよ。実は稀咲が犯人で、兄貴が庇ってたんですってハナシ、テレビに載せんの」

 

 鯛焼きのおかわりを探しながら、この総長、さらっとえげつないことを言いよる。

 

 しかし……と、花垣はしわくちゃの顔になった。そんなの実行できるのかと尋ねられれば、つい先程放映されていた、昼のワイドショーがそれを示しているだろう。

 純丘榎の化け物じみた手腕は、とうに証明されている。

 

 そうすれば日常生活を送ることさえ難しい。純丘は現在入院中につき、ある意味、一定の安全圏が保証されている。

 

「あとフツーに、いくら普段話さねえっつったって、兄貴と仲悪くなかったんなら、しんどそー……」

 

 口調はしみじみとしているが、紙袋の底の方から取り出した鯛焼きにかぶりつきながら言われても若干説得力が薄い。

 

「なんっか話聞いてるとビミョーに違和感あるし、他にも策ありそーだよな」

「他にもって、たとえば?」

「たとえば……実は稀咲がヒナちゃんのこと好きで、部長がソレ知ってて、もしもなんかあったらヒナちゃんにバラすとか?」

「ヤ、ソレはねえだろ」

「あれが恋愛にうつつ抜かすタマかよ」

「武道じゃねえんすから」

「千冬〜?」

 

 大正解なのだが誰も知らなかったので一笑に付されて終わった。

 

「ああてかそう、あとな、ソレ」

 

 万次郎が指を振る。もちろん鯛焼きを持っていない方の手だ。

 

「ヒナちゃん」 

「え? ヒナすか」

「考えてみろよ。ヒナちゃんたしかにめっちゃ気ぃ強ェけど、自分の代わりに誰かが死にかけたとかゼッテー気にする」

 

 くるくるくると回した指先は、最後に花垣の鼻先に向けられた。

 

「でもめっちゃヒデー奴が死にかけたんなら、ただの自業自得だろ?」

「……ヒナたぶん信じねえッスよ。エマちゃんだってそうっしょ」

「それな、部長そのへんビミョーにアホ」

 

 花垣の反論に真面目くさった顔で頷いて、万次郎はごっくんとまた鯛焼きを飲み込んだ。

 ……今噛んでなかったよな? 千冬は思わず訝った。

 

「ところでタケミッチ、今タブンっつった?」

「は? はい」

「もしかして、まだヒナちゃんとより戻してねえの?」

「……アッ、スーッ……」

「日和ってんじゃねえよさっさと腹ァ括れ」

「久しぶりにマイキーの総長モード見たな」

 

 

 

  ぬるま湯に肩まで浸かる

 

 

 

「——と、あともうひとつだよなァ」

 

 灰谷兄弟のうち兄の方、こと蘭。ハンモックに揺られて今さっきまで熟睡どころか爆睡していた男。

 彼が不意に落としたつぶやきに「なにが」鶴蝶がなんとなく反応した。

 

「フクブが思ってること」

 

 横浜にある廃墟は相変わらず彼らのたまり場だ。

 犯罪なんぞなんのその、あまりに今更身勝手集団。勝手に電気を引き、冷蔵庫を置き、ウォーターサーバーを動かし、エアコンを取り付け、ソファとハンモックを設置し、スクリーンとディスプレイとパソコンと適当にかっぱらってきたインターネット回線と、それはもう別宅では? そう疑問視したくなる環境が形成されている。

 

 たぶん彼らのアジトに踏み込んだ瞬間そこそこの数の罪状でしょっ引ける。

 

「……稀咲の話か?」

「ンー、そーってか、それだけじゃねえってか。……フクブさあ、あいつマジで感性めっちゃヘンだろ」

「否定はしねえがオマエに変な感性だとほざかれる純丘に同情する」

 

 武藤が口を挟んだ。

 

 間髪入れずにウイスキー(バーボン・500ml・瓶)がぶん投げられたので無言でキャッチして脇に置いた。

 これで頭部に当たっていたらよくて傷害、悪くて傷害致死の被害者と加害者だが、きちんと受け止めたので期せずして手に入れた酒だ。灰谷兄弟でも竜胆は酔えればなんでも良いタイプだが、蘭の方が飲んでいたなら期待できる。

 

 ——何度も申し上げている通り、二十歳未満の飲酒は犯罪です。悪しからず。

 

「あいつ、俺らがなんかやらかしてんの知ったら爆速で通報するっつってるだろ」

「聞いたことあるわな」

「差し入れも寄越すつもりっぽいんだけど」

「しっかり懲役想定されてんな」

 

 相槌を挟んでいるのは、一応聞く気があるからだ。

 相槌が揃いも揃って皆あんまり興味なさそうなのは、今のところ出てくる情報全部〝意外でもねえな〟と思っているからだ。

 

 ハンモックに飽きた蘭、えいとひっくり返し、着地。

 

「フクブはさァ。間違えてもやらかしてもいいけど、やるならやるでケリもつけろって思ってんの。いっつも」

「……正しくなくても賢く使え?」

「あとは全部無価値の話か?」

「根っこは一緒?」

 

 なんだかんだで天竺メンバーにも端々の話が記憶に引っかかっている。

 蘭が言いながらも首をひねった。

 

「俺らのこと気に入ってっし好きなようにやっていいけど、それはそれとしてやらかしてることはべっつに好きでもなんでもねえわけで」

「そりゃ腹の野郎はそうだろうな」

「でこっからがオマエらが知らねえ話な」

「なんのマウントだよ」

「ヤ真面目にあいつ猫被りヤベェから。初対面で口にモップ突っ込んできやがったからな、この俺のご尊顔見た上で。正気じゃねえ」

「まだそのウソ引きずるのか……」

 

 嘘ではないのだが未だに誰も信じない。そういうことはしないだろと思われている。

 

「とにかく」

 

 蘭は舌打ちののちに話を戻した。灰谷兄弟は再三主張しながらも、いい加減諦めてもいる。

 

「俺らと遊んでるときに気分悪くなるのはあいつも嫌なわけだ、人間だし。だったらやらかしてることケリつけさせて精算させといたら、気にしねえでスッキリ遊べんじゃねェのって、そういう」

「思ったより斜め下に最悪だな」

 

 望月がぼやいた。

 

「フクブだからな」

「オマエそれ言ってりゃいいと思ってんだろ」

 

 実際事実なので如何ともしがたい。

 

「だから……あいつが稀咲の代わりに責任取ったの、そういうこったろーなって、そんだけ?」

「だからなにが」

「要するに今回、フクブは、稀咲本人に責任取らせなかったわけだ。本人引き摺り出してケリつけさせる方法なんて、あいつのことだし、いくらでも思いついたろうにな」

 

 灰谷が言うには、稀咲鉄太が行ったことを勝手に推察して、処分も勝手に決めて、根回しも行って、稀咲当人への言伝は最後の最後、もはや取り返しもつかない段階になってからだった。

 

 珍しいぐらいカチキレてんな——灰谷兄弟の報告を聞いた天竺としては、そう思った。

 沙汰の内容の問題ではなく、手法だ。弁明をさせず、釈明の余地はなく、措置を先に敷いた上での事後報告。

 

 ……天竺にすら、事前の警告を一度は挟んでくる男が。

 

「形だけでも、償わせる気がねンだよ。許すとか許さねえとかの段階じゃねえから」

「場地たちのことも全然まだ一ミリも許してねェぐらい根に持ってんだろ」

 

 指摘したのはイザナだ。

 

「そりゃ場地どもはな? ただソレとは次元が違ェよ、一生許させんな、ぐらい思ってそう」

「死にかけたから?」

「それもある。ンでもたぶん、やっぱ、根っこのとこ」

 

 にしてもシケてんなとつぶやいて、ようやく引きずり出したのは柿ピーだ。パッケージには油性ペンで大きく〝リンドウ〟と殴り書きされている。

 持ち込んだ人間は一目瞭然だが蘭が躊躇う素振りはない。

 

 ……竜胆また嘆くだろうな、と、目撃者たちは思った。すぐに興味をなくした。

 また、とついた副詞の通り、ほとんど恒例のことだからだ。

 

「俺らもマイキーたちも巻き込んで、カタギも巻き込んで、挙げ句に復讐鬼一匹作って——一番は、それぜんぶ自分の弟がやらかしたってのが、マジでキツかったんだろうな。あいつ的には」

 

 無造作に柿ピーを開封し、ついでのように蘭は付け加えた。

 

「繊細だし」

 

 若干の笑いが起きた。純丘あいつそういうとこあるよな、の意図である。

 

 

 

「つーわけで、抗争に関してのイザナの指定はこんなカンジ」

 

 ところで不在の竜胆と斑目はどこかといえば、メッセンジャー役として、渋谷までやってきていた。

 シンプルに、極悪内では年下ゆえにパシらされているS63生まれと、先輩風を吹かせてついてきた九代目である。

 

「……オマエら、よくもまあ当然みてェなツラで来れたな」

 

 龍宮寺は言った。

 万次郎が不在のタイミングだったので、東京卍會側は副総長たる彼と、壱番隊隊長もこれまた不在だったので、三ツ谷が顔を見せた状態だ。

 黒龍(ブラックドラゴン)の側は大寿と、乾が選出された。

 

「は? なんか問題?」

「ボス殺しかけたとか」

「八戒に手ェ出したとか」

「なんなら神社燃やしたしな」

「内輪揉めさせようともしたろうが」

「なんか問題?」

 

 矢継ぎ早の指摘に、竜胆は繰り返した。「煽ってんじゃ——」乾が反射的に噛みつきかけたものの、眼鏡の向こうで本当に不思議そうにまばたきをするので、一瞬押し黙った。

 ……コイツ、まさかマジで言ってんのか?

 

 斑目は後ろで面倒そうにシッシと手を振った。これが蘭であれば故意犯だが、竜胆なので確信犯だ、正しい意味での。

 つまり〝本気でなんで責められているのかわかっていないのでこの反応をしている〟なタイプだ。

 

 蘭があからさまにヤベーだけでコイツも充分ヤベーんだよ。

 

「……他に必要な擦り合わせとかねえなら、イザナのパシリはこれで終わりナ」

 

 ミジンコほどの良心によってほんのごくわずかに同情したので、斑目は無理やり話を戻してやった。

 

「そんで別件でよォ、オマエら東卍(トーマン)、壱番隊って今呼び出せんの?」

「あ? なんか用か、極悪が?」

 

 反射的に凄む龍宮寺。表面上大人しいが、直近でエマが害されかけたのもあって、だいぶん気が立っている。身内へのちょっかいの気配に過敏だ。

 

「そもそもウチの壱番隊なら、隊長と副隊長揃って今日野暮用だけど」

 

 これは三ツ谷の補足。彼もまた、警戒の目つきで斑目を眺めた。

 

「あいつらどっちも、斑目とコト構えたときはまだ東卍(トーマン)ですらなかったけど、なに? 新参なら手軽に潰せるって目論見なら、ハズレとしても、まず俺らが相手になるけど」

「ちげー! 今の俺が勝手にケンカやったらイザナにシメられんだよ要らんこと言うなや!」

 

 斑目が悲鳴を上げた。慣れない気を利かせるから逆に警戒されて酷い目に遭いかけている。

 

 東京卍會側は未だに半信半疑のようだが、うんアイツはめちゃくちゃやりそうだな……と、黒龍(ブラックドラゴン)側にそんな気配が漂った。

 特に八、九代目時代にも黒龍(ブラックドラゴン)に所属していた乾は深く深く頷いた。イザナくんはそういうところがある。

 

「てか用があんの、獅音センパイじゃなくて俺。俺ってか、俺たち。兄貴と灰谷兄弟でってコト」

 

 ったく仕方ねえなセンパイは。

 いかにもそう口にしそうな素振りで、竜胆が話題を引き取り直した。

 

「灰谷兄弟? 尚更なんで……」

「千堂と、タクヤ? だけ知ってんだけど他知らねーな、なんかいたっぽいけど。とにかくそいつら」

 

 ぺんと渡された——龍宮寺は反射的に受け取った——のは冊子であった。和牛の画像が表紙に掲載されていて、デザイン的にも明らかにお値段がとんでもない額をするタイプの……おそらくカタログギフト。

 

「好きなの頼んで良いっつっといて。べつにあとから請求もしねえから」

「……マジでなに企んでんだ……?」

 

 目的が読めないにも程がある。

 

「企むとかねーけど」

 

 わかりやすく心外そうな竜胆。

 

「フクブがお礼しに行かなきゃなんねえけど下手に身動き取れねえってぼやいてたから、こっちで回してんの」

「……フクブ?」

「あー。通じねえのメンド。純丘榎な」

「部長くんあのひとマジであだ名多いな……千堂たちが居合わせて救急呼んだって話、か?」

「そうそう。感謝はハナガキにも言ったけど〜とかなんとか」

「……そういやイザナくん経由で知り合いだったか」

 

 人間関係がややこしすぎる上に各々の認識も複雑なので、誤解されたまま話が進む。だからこの部分はイザナの使いじゃねえんだけど、と思ったが、まァ特に訂正の必要もないので、竜胆は肩をすくめた。

 

「本人たちに渡しとけよ〜オマエらしなさそうだけど、パクったらわかるぜ」

「ッス……」

 

 しっかり釘を差されたので、東京卍會二人は頷いた。コイツらに身内以外の人間手伝う概念とかあったんだな、とも思った。

 特に三ツ谷は、12・1宣言で暴力すら無いままさんざん好き放題にやらかした天竺幹部を見ている。

 

 ……そんでもって曲がりなりにも概念実装させた部長くんはなにをやったんだよ? とは彼らの嘘偽りない心境である。

 

「……」

 

 一方で大寿は考えていた。思うことがひとつ、今日は置いてきた黒龍(ブラックドラゴン)の財布役こと九井一。

 チラと乾に視線を下ろせばこちらも考えることは同じなようである。

 

 つまり——九井が苦手とする対象、純丘榎。

 苦手なのはもうあからさまとして、あの少年は、未だに苦手に至った原因を一言も話さない。加えて大寿は純丘について、九井に〝灰谷兄弟の知己〟として紹介された記憶がばっちり残っている。

 

 物言いたげな視線に気がついて、竜胆は、にっこりと笑みを深めてみせる。

 

 ——〝オマエら余計なこと言ったらボコるからそのつもりでな?〟と、言わんばかりに。

 

「……便所ならそこに公衆トイレあるぜ?」

「違う」

 

 渋面に気づいた龍宮寺の親切を大寿はあっさり突っ撥ねた。




日和って
:マイキーといえば!

オマエに変な感性だとほざかれる
:キャラブック3巻の灰谷蘭、わりと好きだが、本当にただの変人

初対面で口にモップ
:「隠しきれない」時効より
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