というわけで「ちょっと続く」ぶんです。償い篇&破はこの話を以て完結です。
時を大幅に遡る。
二〇〇五年十二月二十五日。
目を覚ました純丘は、自身の状況を把握し、ナースコールと診察、諸々の状況把握ののち(当然ながらこれだけで、数時間食った)堤への連絡を終え、更に場地を経由して約束を取り付けた。
そのおよそ三十分後。
「よォ、純丘。ダチが来てやったぜ」
「なんでだ」
初めての見舞客は寺野だった。
さすがに純丘は呻いた。マジでなんでだ。というかコイツ相変わらず友達を主張するな。
理由はわからない——知り合いが死にかけたっつったって見舞いに来るタイプじゃないだろ——が、原因には見当がついた。
「というか君、また堤のところに入り浸ってたな……?」
「よくわかったな」
「わからいでか」
起床して初めて連絡を入れたのが堤、次点で場地なので、純丘が目覚めたと知っている人間はかなり絞られる——純丘の独断で親族は後回しにした、二十歳に付与された責任はこういうときにこそ利用すべきだ。
寺野が堤の家を謎に気に入っていることは、純丘も、御門を通して知っている。
「切りつけられたってな?」
こちらは機嫌の良い寺野南。横のサイドチェストに勝手に腰を落ち着ける。
サイドチェストは決して椅子ではない。果たして翌日に座られた窓枠とどちらがマシだっただろうか。
「オマエがわかりやすく恨まれるとも思えねえが……弟がやらかしてたな、巻き添えか」
「……まさかそういう諸々知ったうえで君は堤や俺に近づいてきたわけ?」
「シガインだ! ンな理由でわざわざ死にかけたりしねえし、ダチは作らねえ! 俺はこれでもオマエを気に入ってんだぜ」
「それはごめんな。あとシガインではなく心外だ」
「シンガイ」
「そうそう心外」
覚え方のトーンがよりによって〝コカイン〟の発音だったのもよくないので、純丘は迅速に訂正した。寺野の見目と素行も相まって、新手の成分の名前に聞こえる。
「狙われたのはオマエか? それにしちゃ、ろくでもねえ手使うな?」
「……君、堤への連絡どこまで聞いてた?」
「ゼンブだな」
「最悪だ……」
「ハハ、アタリか!」
顔をてのひらで覆って呻いた純丘に、寺野は機嫌よく手を叩く。反応は幼くも見えるが、喜んでいる内容がきわめてろくでもない。
これでいて極悪の世代とほぼ同年代だというのだから、純丘は気が遠くなった。最近の若いのってみんなこうか?
「オマエの言いつけは何度か破りそうになったが——」
「君は本当にな……」
「——ちゃんとやっといて正解だったな」
寺野の笑みは、目をかっ開く点が特徴的だ。
「いろんなところで気に入られてる、気に入られる方法を知ってて、わざとそうする。どうやって利用すんのかもわかってて、半端には使わねえ。なにより、運がある」
遠慮なく語られる己への分析に、純丘は不快そうに目を細めた。
「会った縁を逃さねえ。確実に自分のものにしてく。オマエ本人を叩くにしたって、そこそこ強ェから、割りに合わねえ。一番めんどくせえ」
「……ご評価くださり、どーも」
皮肉げにつぶやいて、もぞもぞと純丘は姿勢を変えた。寝てばかりだと特定の箇所ばかりを下敷きにして、そこそこに痛い。
「これからどうする」
「なにが」
「オマエこそが東京に居られなくなるぜ」
「さてな、わりにそうでもない。手はいくらでもあるよ」
さしたる興味もなさそうに返された寺野、む、と眉を寄せる。
「そいつは困る」
「そいつは困るっつった?」
鸚鵡返しにもなるだろう。
「実力があンのは血が騒ぐがな」
「騒がせる前に帰ってもらっても?」
「俺は二進も三進も行かなくなって、首の回らなくなったオマエを勧誘しに来たんだ。そうでもなきゃ頷かねえだろ」
「……知ってるか? それ、闇金の手口なんだぜ?」
純丘は心底引いた。
「知ってるぜ」と、寺野は訳知り顔で頷いた。
「似たようなことを何度もした」
「余計なことを聞いてしまったことだけはわかった……」
「が、今はオマエの話だ。面倒だな、どうするか……」
「……そもそもなにを勧誘されそうになってるんだ?」
心底聞きたくないが知らぬ間に外堀を埋められるのも困る。
尋ねた純丘に、寺野は先に尋ね返す。
「頷くか?」
「場合による」
「ッチ。……まァいい、俺の故郷はブラジルのリオデジャネイロだ」
「そんなこと言ってたな」
純丘は記憶を掘り起こした。
故郷ではギャングの手先だったんじゃないか、そんな噂が流れていたことも知っている。似たようなことを何度もした、の説得力が補強された気もしたが純丘は気づかなかったことにした。
「ファベーラでは俺がトップだったんだが」
「俺がトップだったんだが!?」
気づかなかったことにした直後、さすがに聞き捨てならない発言が飛び出した。
「ちっと揉めて日本に亡命したのが、だいたい二、三年前だ」
「そう、なのか……俺にその話されてるの、既に、すごく……嫌な予感するな……」
「しょうがねえから日本でもトップを取ってやろうとしてた矢先、オマエが俺に釘を差した。おかげでオマエをなんとかしなけりゃ俺は
「天竺関係者だってわかってたのかよ……」
「最初からな」
「最初から……?」
初耳案件が多すぎて純丘は正直頭を抱えたい。瀕死の重傷から帰還してまず行う会話として、どうよ、これ。
「とくればむしろ、オマエを取り込んで、故郷を片付けてきた方が話が早い。そうは思わねえか?」
「一ミリも思わない。第一、俺がそれに乗ると思っ……アだから、二進も三進も行かなくなったところを、と……」
「そうだ! ったく、空気を読まねえな」
「そんな空気は読みたくもない」
そうだ! じゃないんだよ。
純丘は深々と長々と嘆息をこぼして「——君がわざわざ見舞いに出向いてくださった理由は、よーくわかった」と、つぶやいた。
「応じてやっても良い」
「あ? なに企んでる」
「勧誘してきたのは君なんだよな?」
素直に頷かれるとは微塵も思っていなかったので、露骨に疑いの目をかけられる。妥当な反応なのだが、それにしても本当に勧誘をかけてきた側の態度ではない。
「……ちなみにファベーラ構成員の出入国ってかなり面倒な規制かかってたと思うんだが、パスポートとかどうした?」
「どうにでもなるが」
「日本政府はこんなの野放しにしてる場合じゃないだろ。……まァ好都合か。諸事情により、一人連れて行きたい。それを呑むならついてってやる」
提示された条件に、寺野は首をひねった。
「灰谷か? あいつらは二人だが」
「なんでバレてるんだ? そろそろ本気で怯えたくなってきたな」
「堤に卒アル見せてもらった」
「あいつふざけんなよ今後は見せる相手を選んでくれ頼むから。……違う!」
話を無理矢理軌道修正。
純丘としてはそもそも、なんだかんだで灰谷兄弟が天竺を気に入っていることを知っているため、選択肢にない。一応聞いてみるかと思うぐらいだ。
「明司武臣という人間はご存知か? 一昔前はわりと有名な不良だったらしい」
「……知っちゃいるが、とっくに地に落ちた。今じゃ借金まみれの口だけ野郎だ」
「なるほど、
「だから?」
「こっちの話。ともあれ……」
一般人なので当然ながら(しかし純丘の遭遇率から考えると、奇跡的にも)対面したことこそないが、度々噂に聞いてはいる。大言壮語と誤魔化しばかり、
だからこその提案だ。
「何事にも使い道はある」
正しくなくても賢く使え。どんなものも初めは無価値だ。
肝心な点は、いかに上手く活用できるか。
・二〇一七年十二月三日
東京卍會幹部の三ツ谷隆と会話、情報交換を行う
・二〇〇五年十二月二十四日
瓦城千咒と佐野エマが再会する
・二〇一七年十二月十六日
天竺幹部が能力者を殺す
・二〇〇五年十二月二十五日
稀咲鉄太の実績が実兄に横取りされる
・二〇〇六年一月一日
借金により正真正銘首が回らない人間、明司武臣。正月でもどんちゃん騒ぎの気分など到底起こらなかった。これは彼にしては極めて珍しい話だ。
財布の中の小銭数枚——全財産——と睨めっこして。
……ちらり、と、踏切を見やる。
黒と黄の遮断桿は今は上がっていて、警報機も沈黙している。
「身投げならホームでしょ」
「は!?」
「あれ違いました? 死亡保険でもせしめようとしてるように見えましたけど、明司サン」
いつの間に傍らにいたのか。軽快な調子で言葉を投げて、ニコ、と微笑んだ男に明司は顔をひきつらせた。
彼はすぐさま全財産を一緒くたにポケットに放り込んで、両手をパンと顔の前で合わせる。
「た、頼む、あと一週間、いや三日! もうすぐ耳揃えて返済できるから!」
「あいにく俺はアンタの借金取りではなくてだな」
呆れた様子でつぶやいて、それから男は小首をかしげた。
やはりテレビもろくに観られる環境ではなく、弟妹や昔の仲間から連絡が回されているわけでもないようだ。不幸中の幸いと言える。
タイトルコール
「明司武臣さん、あんた、儲け話に興味ありません? 衣食住付きの高給取り、ついでに借金返済も手伝ってくれる——とっても美味い話」
罪状記録【糾】
「■■■■■■」
Q・コレ話自体はまだ続くんですか?
A・はい(はい)
罪状記録 破 下篇
2023/05/18-2023/12/16
序(罪を認識する、背負う)
一から十まで原作前捏造
破(罪の精算方法を模索する)
前半:血のハロウィンまで
中間 : 聖夜決戦まで
後半:関東事変まで ← 今ココ
急もとい糾(罪に対する罰を受ける)
俗に言う梵天軸
の構成
……予定
予定は未定
加えて、この物語における聖夜決戦編や関東事変編が三回転半ひねり着地したように、梵天軸が「22-23巻で描写されたような梵天軸」とは言ってない。そんなかんじ。
ただ、この物語が「梵天に至るまでの過程」であり「いずれ天竺に辿り着く旅路」なのは確か。
ともあれ【破】はきちんとアニメ天竺編より先に書き終わっていたのでセーフです。たぶん。きっと。こちらに投稿した日付はさておき。
【糾】は伸びても【序】ぐらいで終わると思います。思いますがこの物語に関しては予定の文字数を越えなかった試しがないので、話半分に捉えてください。自分自身ですら書いていて説得力皆無だなと思っています。
そして以前からも述べている通り、リアルの動向次第で書くペースが大幅に変わるので、投稿されてたら「投稿されてるな〜」と思ってください。というか卒論発表と新社会人生活秒読みで本当に多大に滞る可能性が高いです。ただでさえ滞っているのはそうです。
お気に入りやしおりの変動でちょっとうれしくなってたりするお手軽精神なので、反応いただけて大変ありがたかったです。細かいとこだとここすきとかもわりと見てます。励みになりました。
なお伏線の可能性はなくもないですが、それはそれとして誤字脱字誤謬矛盾報告は見つけた場合は一報くださるとありがたいです。伏線でなかった場合は迅速に手直しが入るので。
本当に助かっています。本当に。