【完結】原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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九三話:第二ラウンド/vsヒロインB

 

 

「アタシは、主人(マスター)と戦う。……で(・)も(・)、そ(・)れ(・)は(・)ア(・)タ(・)シ(・)一(・)人(・)で(・)よ(・)」

 

 

 戦闘開始前、イヴリンの肉体に宿ったアドレイドは単刀直入にそう切り出した。

 パチパチ、とそれを聞いたブレンダは瞬きを繰り返す。

 

「同時では駄目なのですか? 相手は六道君だけじゃなく、あの第一位もいます。二対二の方が勝率は上がるでしょう?」

「ダメ。アタシが辿り着いた魔法の最奥は究極の広範囲攻撃。誰かと一緒に戦うなんてできないわ」

 

 それは確かに、とブレンダも同意する。

 アドレイド・アブソリュートによる災害染みた魔法の中ではブレンダは思うように動けず、ブレンダに気を使っていてはアドレイドも本領を発揮できない。

 戦力の逐次投入。現代の軍事学では愚策としか言えない戦力運用でしか、アドレイドとブレンダの協力は成り立たない。

 

「そして、戦うのはアタシが先よ」

「……ええ。それは構いませんが、理由を訊いても?」

「単純に、ダメージ量の話よ。もしアンタが負けた場合、アイツに残るのはアンタのダメージのみ。でも、もしアタシが負けたなら、アイツはアタシのダメージと異能の使用による反動の二つが残る」

「異能を使わせられる貴方が初戦の方が、後の者が楽になる……という訳ですね」

 

 実際、それは正解だった。

 六道伊吹が初戦にアドレイド・アブソリュートと殺し合った結果、彼の体は余命一時間があるかも分からないレベルにまで傷付いた。

 少なくとも、あと一度異能を発動すれば動けなくなるまでに自壊するほど。何周も人体を破壊された経験から、六道伊吹にはそれが自覚できた。

 

「ま、アンタの出番はないけどね。第一位も、あのバカも、アタシがブッ飛ばしてやるんだから」

「期待してますよ」

「…………でも、さ」

 

 アドレイド・アブソリュートはブレンダの裾を掴む。

 それはまるで、子供が親に頼るような姿で。

 

「もしも……あり得ないけど、もしもアタシが負けたら」

「…………、」

「その時は、全部任せるわ」

「…………はい」

「助けられたアタシや椎菜とは違う。勝ち目のない折手メアとも違う。アダマスの群れを薙ぎ倒し、自らの実力で生還したアンタなら……この世界で最も強いアンタなら、きっとあのバカにも殺されない。世界を守って。世界を救って。アタシに体を分け与えたこの子達が愛した……あのバカの故郷を、お願い」

「任せてください」

 

 少女は何の気負いもなく受け応えた。

 だって、それはいつもと変わらない。

 いつだって、その少女の双肩には世界の命運が託されていた。

 

 

「救ってみせます。世界も、六道君も」

 

 

 


 

九三話 第二ラウンド

VS_BLUE-BLADE.

 


 

 

 

「熾天使(セラフィム)“剣(スペード)”、洗礼名(コードネーム)はブレンダ。天命規則に基づき、神罰を執行します」

 

 

 ドッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 衝撃の洪水があった。

 

 ブレンダ先輩は目に見えない。

 それは透明という意味ではなく、速すぎるという意味で。

 戦うとかの次元じゃなかった。余りにも一方的に攻撃を受ける。まるでRPGで、自分だけ『たたかう』も『にげる』もないみたいに。

 

 実際の所、その動きを捉えられない訳ではなかった。

 視覚でブレンダ先輩の挙動を認識するのは不可能に等しかったが、俺には常人から逸脱した第六感がある。

 

 異能感知。

 世界全てが異能と化した今、俺は世界全ての粒子一つ一つを把握できるようになった。

 アドレイドの魔法という単一の異能が世界を支配していた先程までならば兎も角、今ならば『椅子』の在処を探り当てられるほどに。

 

 だが、それも今となっては役に立たない。

 ブレンダ先輩の挙動をいくら捕捉できた所で、俺の体が追い付かない。根性論では超えられない、物理的な制約。

 

 ほつれた神経。

 千切れた筋繊維。

 クッキーより脆い骨。

 蓄えのない脂肪。

 圧倒的に足りない血液。

 内臓(パーツ)の欠けた伽藍堂(なかみ)。

 熱で茹だった脳味噌。

 一時間と保たないテロメア。

 

 どうしようもない。

 《名前のない怪物》という肉体の形状を変化できる母親譲りの特別な肉体を持っていようと、質量保存の法則は俺にさえも適用される。

 異能の過剰使用やアドレイドの攻撃によって欠損した肉体を埋めるため、俺は自分の内臓やら血液やらを戦闘能力の維持に回した。

 

 だ(・)が(・)、そ(・)れ(・)で(・)も(・)足(・)り(・)な(・)い(・)。

 欠(・)損(・)が(・)大(・)き(・)す(・)ぎ(・)て(・)俺(・)の(・)人(・)生(・)を(・)全(・)て(・)費(・)や(・)し(・)て(・)も(・)身(・)体(・)能(・)力(・)が(・)戻(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 戦闘能力の維持とかの段階じゃない。

 生命を維持するために、肉体のほとんどを脳の補填に使っている。

 体は動かない。動かすための質量(からだ)が足りない。

 

 勝てない。

 それどころか動けない。

 この損傷(ダメージ)が癒えない限り、逆転の目などありはしない。

 

「昔は、パン屋さんになりたかったんです」

 

 淡々と作業のように俺を処理しながら、ブレンダ先輩は気軽に話しかける。

 こんなグロいのを見ながら食事の話なんてよくないですよ、なんて。冗談めかして答えようとしたが、口から溢れるのはドス黒い血液だけだった。

 

「『こんな組み合わせアリなの⁉︎』みたいなご当地パンが好きで、自作のオリジナルパンが作りたくて。だから、母に料理を教えてもらったりしていて」

「      」

「……しかし、笑えますよね。私はパンを作るより、暴力を振るう才能がありました。作るより、壊す方が得意だったんですから」

「  っ 。  」

 

 全身が砕かれ、全身から液体が漏れ出し、全身の範囲が縮小する。

 叩かれ、切られ、貫かれ、砕かれ、削られ、毟られ、抉られ、壊される。

 

 ほんの一瞬でも接触できたら、それで殺せた。

 あるいは血の一滴でも汚れがあったら、それを媒介にして異能を発動できた。

 

 なのに、ブレンダ先輩には一切の穢れがない。

 手袋を付けた両手で俺の生命を甚振り、革靴を履いた両脚で俺の生命を踏み躙る。それでいて、纏う服装には血の一滴たりとも付いていない。

 ブレンダ先輩が汚れていない所か、はめた手袋や履いた革靴にさえ汚れは見当たらない。どんな殺人技術だ、化け物か。

 

「でも、今の使命(しごと)に不満がある訳じゃありません。私は私の理想を失いましたが……私の理想の世界で生きる事はできませんでしたが。それでも、現実を私の理想へ少しずつ近づけるというのは有意義な事だと思いますから」

「      」

「ですから、六道君。貴方の理想が叶わなくとも、貴方が現実を諦める理由にはなりません。……私は私の理想よりも、私の現実を優先します。世(・)界(・)を(・)救(・)う(・)た(・)め(・)な(・)ら(・)、第(・)一(・)位(・)を(・)殺(・)し(・)ま(・)す(・)」

 

 動けない。

 話せない。

 何もできない。

 

 ──そ(・)の(・)、は(・)ず(・)な(・)の(・)に(・)。

 

 

「ふざ、けんな」

 

 

 どうしてか。

 反抗の言葉が出た。

 

「諦めてんのはそっちだろ。理想を諦めて、中途半端な現実で妥協した。アリス・アウターランドを諦めて、彼女の生きられない世界で妥協しろとでも言うつもりか? 産まれた時に母親(セカイ)が死んだ赤子(アリス)に対して、人殺しって責めるってのか⁉︎ 巫山戯るんじゃねぇぞッ、正義の味方ァ‼︎」

 

 四(・)肢(・)に(・)力(・)を(・)込(・)め(・)て(・)立(・)ち(・)上(・)が(・)る(・)。

 

 その姿はもはや人間に見えない。

 血みどろの人と言うより、ヒトの形に固められた血袋。

 生きているのか死んでいるのかも分からないと表現するより、それが生命の成れの果てだとは思えないほどの赤と黒の塊。

 同級生が今の俺を見ても六道伊吹とは分からない。凄腕の医者でさえ一目見ただけで諦めるような惨状。猟奇殺人鬼の歩く被害現場。

 

 それなのに、そのヒトガタは立ち上がった。

 両脚で力強く地面を踏み締めた。

 

「…………妥協、ですか」

 

 ブレンダ先輩は俺が起こした奇跡を見ても驚かない。

 それが二度目の奇跡だったからか、単に表情に表れていないだけか。……そ(・)れ(・)と(・)も(・)、奇(・)跡(・)の(・)絡(・)繰(・)に(・)気(・)が(・)付(・)い(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)。

 

 根性論で物理的な不可能は覆らない。

 物理的に立ち上がるのが不可能な脚が、奇跡的に使えるようになんてならない。

 

 絡繰(トリック)は簡単だった。

 肉体の形状だけでは怪我を癒せないのなら。

 質量保存の法則で肉体を補填できないのなら。

 別(・)の(・)所(・)か(・)ら(・)必(・)要(・)な(・)分(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)く(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)。そ(・)し(・)て(・)、こ(・)の(・)街(・)に(・)は(・)大(・)量(・)の(・)死(・)体(・)が(・)う(・)よ(・)う(・)よ(・)と(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

 それはまるでフランケンシュタインの怪物。

 死体をツギハギに繋げて、六道伊吹というバケモノを誕生させる。

 

(異能は……乱用は無理か。他人の死体を繋げた所で、俺の肉体じゃない。異能の過剰使用の反動で壊れるのは基となっている俺の肉体。そして、俺の肉体のほとんどは脳に固めている)

 

 確率の問題だ。

 異能の過剰使用によって壊れる肉体の箇所はランダムであるが、俺の肉体の八割は脳。その他は全部他人の死体。

 次の異能使用後、八割の確率で脳機能の一部が破壊される。

 

(一発勝負だ。ブレンダ先輩に触れる。あるいは血の一滴を垂らす。その一発で、異能を発動する‼︎)

 

 ガリガリがりがりッッ‼︎‼︎ と。

 爪で自分の首を掻きむしり、頸動脈を傷付けて血液を吹き出させる。

 

 視界を覆う赤。

 どれほど速く動こうと、俺に近付くには血を被らなければならない。

 

 ダンッ! と強い足音が響く。

 血(・)の(・)中(・)を(・)突(・)っ(・)切(・)り(・)、ブ(・)レ(・)ン(・)ダ(・)先(・)輩(・)が(・)肉(・)薄(・)す(・)る(・)。

 

(気(・)付(・)か(・)れ(・)た(・)か(・)ッ⁉︎)

 

 血液はブラフ。他人の死体から採取したもので、決して俺の肉体ではない。故に、異能発動の媒介にさえならない。

 本来の目的はあえて血液を避けさせる事で、行動の幅を狭めること。だが、逆を突かれた。こちらの思惑を見抜いた上で、それを利用して虚をついた。

 

 

「──妥(・)協(・)し(・)て(・)い(・)る(・)の(・)は(・)貴(・)方(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)」

 

 

 ドグバッ‼︎ と心臓が衝撃で破裂する。

 胸を掌底が叩いたのだ。

 一瞬、思考に隙が生まれる。

 ブレンダ先輩はその刹那を見逃さない。

 

 全身九箇所を叩く乱撃。

 まるで体のツボを押すみたいに、打撃が筋繊維の間をすり抜ける。

 筋肉が痙攣するように麻痺し、肉体の制御を容易く手放してしまう。

 

 ああ、やはりそうだ。

 この人には勝てない。

 単(・)純(・)に(・)、強(・)す(・)ぎ(・)る(・)。

 

「気付いていますか、六道君?」

「なにが、だよ……」

「貴方はかつて言いました。二三万人の街の人を救うために栗栖椎菜一人を殺すのならば、栗栖椎菜が死んだ時は世界七六億人を皆殺しにすると。天秤なんて関係ない、どちらも救うべきだと」

 

 思い出す、ブレンダ先輩との会話を。

 そうだ、確かあの時も、俺は彼女にボコボコにされていた。

 

「あの時、実は感動したんです。私には真似できない。それでも、極論であったとしても、貴方の言動が理想なんだって」

「…………っ」

「なのに、今の貴方はどうでしょうか。天秤の片方が重すぎて、かつての言葉も忘れましたか? 私の知っている六道君なら、きっとこう言います」

 

 言葉が出ない。

 物理的にではなく、心理的な理由で。

 

 

「世(・)界(・)も(・)、女(・)の(・)子(・)も(・)、両(・)方(・)救(・)う(・)と(・)」

 

 

 ああ、ひどい一撃だ。

 剣のように、言葉が心に突き刺さる。

 

「だって、そうでしょう? 産まれた時に母親が死んだ事で赤子が責められるのが間違いだと言うのなら、お前が死ななければ赤子は苦しまなかったなんて母親を責めるのもお門違いです」

「…………っ‼︎」

「貴方のそれは妥協です。両(・)方(・)を(・)救(・)う(・)の(・)を(・)諦(・)め(・)た(・)か(・)ら(・)、世(・)界(・)を(・)終(・)わ(・)ら(・)せ(・)る(・)だ(・)な(・)ん(・)て(・)第(・)二(・)希(・)望(・)で(・)妥(・)協(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)で(・)す(・)よ(・)」

 

 バギッ‼︎ と噛み締めすぎた奥歯が砕ける。

 強く握り締めた拳の爪が掌を傷つけ、噛み締めた下唇からは血が流れる。

 

「……なら、どうしろってんだよ」

「………………、」

「分かってんだよ、そんなこと。世界に責任転嫁してるだけって事はよォ! それでも許せねぇんだよ! 耐えきれねぇんだよ! だったら怒りをぶつけるしかねぇだろうが! 世界もアリスも両方救うなんて不可能なんだから‼︎ だって、時間がない! あと一時間もない、たった数十分でどうしろってんだよ‼︎ この世界は救えない! アリス・アウターランドを殺さない限り‼︎ アリス・アウターランドは罪悪感に苦しむ! この世界が滅んでしまう限り‼︎ だったら俺が壊すしかねぇだろうが! 誰も苦しまないようにッ、俺がこの世界を終わらせるしかねぇだろうが‼︎ なんか代案はあんのかよッ! テメェなら世界もアリスもどっちも救えるって言うのかよ‼︎ だったら教えてくれよ! 俺はどうすりゃ良かったんだよ‼︎ どうすりゃこの理不尽(デッドエンド)を覆せるって言うんだよ! 言ってみろよ‼︎ オイッ‼︎」

「ありませんよ、代案なんて。あるなら私がやってます。両方なんて救えないから、私は世界を選んだんですよ」

 

 俺の慟哭をブレンダ先輩は一刀両断する。

 天秤を見て見ぬフリをした俺とは違う。

 彼女は世界とアリス・アウターランドを天秤に掛けて、この世界を選んだ。

 

「貴方と私は同じです。だから、自覚してください。貴方も私も、理想を妥協した中途半端な人間なんだと」

「…………っ、ぁ」

「ぶつけ合いましょう。私と貴方の第二希望を」

「ッッッぁぁアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 《破界(ワールドブレイカー)》。

 叫びと共に異能を叩き付ける。

 過剰使用の反動とか、次は脳味噌が破壊されるとか、もうどうでもよかった。

 

 破壊したのは時間という概念そのもの。

 ほんの数秒間、時間が停止する。

 動きも意識も止まった無防備なブレンダ先輩の体に、直接拳を叩き付ける!

 

 

「──────なッ⁉︎」

 

 

 だ(・)が(・)、ブ(・)レ(・)ン(・)ダ(・)先(・)輩(・)が(・)見(・)つ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 彼女が持つのは神の目さえも騙す隠密技術。

 たとえ時間が止まっていようが、異能感知で世界中の粒子を把握できようが、俺の目には彼女の姿が映らない。

 否、映っている事に気が付けない。それはまるで、かけている眼鏡を探すようなマヌケさ。人間の認知の穴を突いた叡智の極限。

 

 ごんっ‼︎ と顎に衝撃が突き抜ける。

 止まった時間が動き出す。

 チカチカと点滅する意識を必死に繋ぎ、どこにいるかも分からないブレンダ先輩に向かって叫ぶ。

 

「……テメェが世界とアリスを天秤にかけたってんなら、俺もアリスと一緒に乗せろっ! 俺はッ────」

「──分(・)か(・)り(・)ま(・)し(・)た(・)」

 

 

 正(・)面(・)。

 俺(・)の(・)目(・)の(・)前(・)に(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)ブ(・)レ(・)ン(・)ダ(・)先(・)輩(・)が(・)手(・)刀(・)で(・)脳(・)を(・)貫(・)い(・)た(・)。

 

 

 やはり、彼女は俺の天敵だ。

 俺じゃ彼女には勝てやしない。

 

 最初から彼女は俺を殺す事ができた。

 なのに躊躇ったのは彼女の優しさだ。

 あるいは、悪癖と言うべきか。

 

 出会った時からそうだった。

 ブレンダ先輩は事件の解決に必要な犠牲の最低人数を決めた後、それよりも多くの命を殺す事を極度に嫌がる。

 椎菜の犠牲で地方都市一つを救おうとしていた時、俺を殺す事を躊躇ったように。

 

 だから、踏ん切りをつけようとしていた。

 アリス・アウターランドという犠牲の上に、俺の屍を積むために。

 そのための戦い、そのための対話、そのための殺し合い。

 

 

 だ(・)か(・)ら(・)、殺(・)害(・)の(・)瞬(・)間(・)に(・)の(・)み(・)隙(・)が(・)生(・)ま(・)れ(・)る(・)。

 

 

「──────《破界(ワールドブレイカー)》」

「なっ、この状態で⁉︎」

 

 

 俺を殺す際には念入りに脳を破壊する事は予測できた。だから、あらかじめ準備していた。

 つ(・)ま(・)り(・)、脳(・)以(・)外(・)の(・)肉(・)体(・)の(・)二(・)割(・)。モ(・)デ(・)ル(・)ケ(・)ー(・)ス(・)は(・)ア(・)ダ(・)マ(・)ス(・)。脳(・)味(・)噌(・)が(・)破(・)壊(・)さ(・)れ(・)て(・)も(・)脊(・)髄(・)を(・)利(・)用(・)し(・)て(・)動(・)け(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)、脳(・)機(・)能(・)を(・)分(・)散(・)し(・)て(・)配(・)置(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 血に触れた部分から消滅する手袋。

 咄嗟に手を引き抜いて、後退するが──そ(・)こ(・)ま(・)で(・)が(・)俺(・)の(・)予(・)測(・)通(・)り(・)。

 

 時間停止の間に罠は仕掛けた。

 ブレンダ先輩が後退した先にあるのは、俺(・)の(・)血(・)液(・)で(・)描(・)か(・)れ(・)た(・)円(・)。

 他人の血液に紛れて気付かなかったかもしれないが、その血を媒介として異能を発動し、足(・)元(・)の(・)空(・)間(・)を(・)破(・)壊(・)す(・)る(・)。

 

 

「正面から戦っても勝てねぇ。だ(・)か(・)ら(・)、テ(・)メ(・)ェ(・)は(・)退(・)場(・)だ(・)」

 

 

 アドレイドと戦った異空間へブレンダ先輩を突き落とす。

 試合放棄。勝てないのなら、戦う必要なんてない。だって、俺に必要なのは『椅子』であって敵を殺す事ではないから。

 

 異空間に落ちゆく彼女を見送る。

 

 

「────────」

 

 

 言葉はない。

 だが、彼女の目が訴えかけていた。

 こ(・)の(・)ま(・)ま(・)進(・)ん(・)で(・)も(・)第(・)一(・)希(・)望(・)は(・)叶(・)え(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)ぞ(・)、と(・)。

 

「うるせぇ。分かってんだよ」

 

 忘れよう、と頭を振る。

 異能感知によって『椅子』の場所はもう分かっている。

 さっさとこの世界を終わらせようと『椅子』の方向へ走り──

 

 ────ん?

 ………………、

 ……………………………………………………。

 

 

 転(・)ん(・)だ(・)。

 

 

「……………………ぁ」

 

 走(・)り(・)方(・)が(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 ど(・)う(・)や(・)っ(・)て(・)二(・)本(・)足(・)で(・)バ(・)ラ(・)ン(・)ス(・)を(・)取(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)速(・)度(・)を(・)出(・)せ(・)ば(・)い(・)い(・)の(・)か(・)見(・)当(・)も(・)つ(・)か(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 異能の過剰使用、その反動による脳破壊。

 あるいは脳味噌を手刀で貫かれたからか。

 運動機能を司る手続き記憶に異常が見られる。

 走り方が分からない。バランスの取り方が分からない。箸の持ち方が分からない。瞼の閉じ方が分からない。膝の曲げ方が分からない。唾の飲み込み方が分からない。分からないという文字の書き方がわからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。

 

 分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)が(・)、特(・)に(・)困(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

「歩ける。なら、十分だろ」

 

 あとたった数十分の命。

 脳に異常があったって構わない。

 記憶の異常も、鈍い感覚も、白黒(モノクロ)の視界も、うるさい耳鳴りも、アイスピックで刺されているみたいな頭痛も気にならない。

 

 何でもいい、構わない。

 足が動くのなら。

 前に進めるのなら!

 

「…………はぁ、またか」

 

 それでも、行き先を阻むモノはある。

 アドレイド・アブソリュート、ブレンダ先輩に続く三人目。

 

 歩く道の先に、一人の少女が見える。

 攻略対象(ヒロイン)の二人が来た

 なら、あと一人が来たっておかしくない。

 

 

「椎菜。お前がそっち側に立つとはな」

「伊吹さん。ちょっと話しませんか?」

 

 

 第三ラウンド。

 世界すら壊す狂気(あい)を持った簒奪者が来訪する。

 

 

 世界終末まで 

 残り30分 

 

 






次回→「九四話:第三ラウンド/vsヒロインC」

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