【完結】原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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九九話:─────────

 

 

 そ(・)し(・)て(・)、因(・)果(・)改(・)変(・)が(・)始(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 

 第一摂理の完全破壊。

 その衝撃が未来から過去へ遡及する。

 

 異能の存在する歴史から、存在しない歴史へ。

 宇宙創世(ビッグバン)から始まる一三八億年の歴史──それを超える無限の世界(ループ)が繰り返された歴史が丸ごと書き換わる。

 

 もう二度と、異能事件は起こらない。

 六界列強(グレートシックス)達が引き起こす傍迷惑な悲劇も存在しない。

 

 

「……そう、だよな?」

 

 

 そ(・)の(・)は(・)ず(・)が(・)、ど(・)う(・)し(・)て(・)か(・)ま(・)だ(・)俺(・)は(・)存(・)在(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 もしも因果改変が始まったのなら、世界中を駆け巡った異能バトルも無かった事になっているはずだ。

 六道伊吹というヤツは何処にでもいる普通の高校生のまま過ごし、何の変哲もない平凡な人間としてその人生を終えているはずだ。

 

 なのに、まだ俺はいる。

 異能の存在する世界に生きた、六道伊吹という人間が。

 

(因果改変がまだ始まっていない……? いや、でも、異能は使えなくなっている。第一摂理が破壊された事は確かだ。それに、俺が散々壊したはずの世界だって元通りに──)

 

 

 ────い(・)い(・)や(・)、こ(・)こ(・)は(・)何(・)処(・)だ(・)?

 

 

 そ(・)う(・)気(・)付(・)い(・)た(・)瞬(・)間(・)、世(・)界(・)の(・)カ(・)タ(・)チ(・)が(・)書(・)き(・)換(・)わ(・)る(・)。

 あ(・)る(・)い(・)は(・)眼(・)前(・)に(・)あ(・)る(・)モ(・)ノ(・)が(・)本(・)物(・)の(・)世(・)界(・)っ(・)て(・)ヤ(・)ツ(・)で(・)、俺(・)達(・)人(・)間(・)が(・)元(・)々(・)知(・)覚(・)で(・)き(・)て(・)い(・)た(・)モ(・)ノ(・)は(・)脳(・)味(・)噌(・)の(・)中(・)に(・)し(・)か(・)存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)ハ(・)リ(・)ボ(・)テ(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)。

 

 感覚で分かる。

 世界自体に何か変化があった訳じゃない。

 変わったのは俺の認識────世(・)界(・)観(・)。

 

 当たり前の話だが、世界なんて巨大なモノを通常の人間がそのまま認識する事など不可能だ。

 それは、人が聞き取れる音波は一定の範囲しかないなんて話から、受け取っていても認知の偏りによって取りこぼす情報はいくらでもあるなんて話まで。

 人間の脳味噌は世界という莫大な情報量をそのまま受け取る事ができない。無意識の内に必要な情報を削ぎ落とし、ダウングレードされた『世界』の光景を頭の中に作り出す。

 即ち、その無意識の取捨選択こそが世(・)界(・)観(・)。人間はいつだって世界観というフィルターを通して世界ってヤツを観測している。

 

 だ(・)が(・)、そ(・)れ(・)が(・)ブ(・)ッ(・)壊(・)れ(・)た(・)と(・)し(・)た(・)ら(・)。

 そ(・)の(・)目(・)に(・)見(・)え(・)る(・)の(・)は(・)ど(・)ん(・)な(・)セ(・)カ(・)イ(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)。

 

 多分、第一摂理を破壊した影響だろう。

 異能という存在を前提にした世界観を持つ俺が、異能が存在しない世界を作り出した結果、一時的に俺の脳が不具合を起こしている。

 今、目の前にある光景こそが本物の世界の像。世界観というフィルターが廃された真の世界。

 

 それを何と表現すれば良いのだろう。

 極彩色のピースで描かれたジグゾーパズルか。あるいは万華鏡のように輝く星空か、

 きっと言語では伝わらない。例えを乱用する度に世界の情報量は剥がれ落ちていく。だって、それは頭の中で作られたモノだから。

 ブラウザの奥に潜む文字列を言い表すようなものだ。言葉にしても味気なくて、その情景を思い浮かべる事はできない。

 

 

「あ(・)れ(・)は(・)、白(・)黒(・)……?」

 

 

 しかし、そんな世界をあえて言葉で表すなら。

 世界には迫る『白(・)』と裂ける『黒(・)』があった。

 実際にそんな色のモノがある訳じゃない。ただ、俺の語彙では『白』と『黒』としか表現できない何かがそこにある。

 

 何となく直感で分かった。

 運命とか因果とか、そういった世(・)界(・)の(・)軸(・)となる概念がそこにあった。

 

 真なる世界、此処は多分ゲームのサーバールームのようなものなのだろう。

 世界観を挟んでは見えない、一段階上の次元(レベル)のモノまで見えると言うべきか。

 もしかすると、カミサマとはこういった視座を持つ存在なのかもしれない。

 

 

「白黒か。確かに、そう捉える事もできるかもね」

 

 

 カツーン、と。

 地面を叩く足音と共に世界が切り替わる。

 

 『世界観』。

 先ほど見た真なる世界にフィルターがかけられ、分かりやすく都合の良い光景へと世界が変わる。

 そこはまるで、殴り合い(ボクシング)の舞台(リング)のようだった。

 

 『白』と『黒』も分かりやすく世界に現れる。

 迫る『白』は空を照らす夜明けの光に見え、裂ける『黒』は大地に開いた底なしの深淵(あな)になった。

 

 少女は歩く。

 背後に輝く夜明けは彼女の後光のようで。

 あるいは光に背いているかのようにも思えた。

 

 その、少女の名は──

 

 

「────折(・)手(・)、メ(・)ア(・)」

 

 

 最後の最後。

 終末に対面するのがこの少女とは。

 これも何かの因果なのかもしれない。

 

「……これは?」

「この空間? さぁ、ボクにも分からないなぁ。冗談抜きで本当にボクも困惑しているよ。世界の見え方が変わっただけだと思うのだけど、ボクシングのリングってセンス悪いよねぇ。ボクの世界観がキミに影響を与えた理由もよく分からないし」

「お前の異能じゃなくてか?」

「いいや、全く関係がないね。確かにボクの《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》があれば似たような事はできるだろうけど、キミが第一摂理を破壊したんだろう? ボクの異能だってもう使えないよ」

「…………、」

「というかキミ、ボクの事を警戒してない? なんか他人行儀っていうか……」

「当たり前だろ。さっきまで戦ってたんだから」

 

 油断できない。

 目の前にいるのは俺との思い出が存在しない、改心する前の折手メア。

 彼女には異能を持たずとも因果改変を覆せそうな恐ろしさがあった。

 

「あ、それね。じゃあ勘違いを晴らしてあげよう」

「?」

 

 しかし、折手メアはこう言った。

 俺(・)の(・)予(・)想(・)を(・)裏(・)切(・)る(・)彼(・)女(・)ら(・)し(・)い(・)一(・)言(・)を(・)。

 

 

「ボ(・)ク(・)は(・)い(・)ぶ(・)き(・)と(・)過(・)ご(・)し(・)た(・)全(・)て(・)の(・)ル(・)ー(・)プ(・)を(・)思(・)い(・)出(・)し(・)た(・)折(・)手(・)メ(・)ア(・)だ(・)よ(・)」

 

 

 言葉を失う。

 思考すらできない。

 

「────────は?」

 

 一瞬の間の後に、バカみたいな声をあげた。

 俺が世界を破壊するまでして掴んだ奇跡。

 折手メアはほんの一瞬でそれを凌駕したのだ。

 

「…………マジで言ってんのか?」

「マジマジのマジだね。えーっと、何か思い出を語ったら証拠になるかな。直近の記憶なら、キミに精神攻撃するフリしてアリス・アウターランドの心を甚振って自害に追い込んだ事だけど……」

「改めて聞くとサイテーだよお前。……そうか、マジなのかよ」

 

 気が抜ける。

 改心前の彼女ならば兎も角、改心後のメアならば信頼できる。

 

「……で、どうやって? お得意の《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》だろうけど、お前が記憶を取り戻した方が面白いなんて思うのか? そもそも記憶を失ってる事すら気付けないのに」

「初めの時点でループか死に戻りかってのは分かってたよ? だからボクは信頼関係が築かれていないが故に敵対する味方をやりながら、最終的には記憶を取り戻す方が面白いと考えたんだね」

「無茶苦茶だよ……お前」

「今更だろう?」

「だな」

 

 銀の少女と笑い合う。

 最期の思い出が彼女でよかった、なんて。

 直接言ったら調子に乗りそうだから胸に秘めておくが、俺はそんな事を思った。

 

 空が淡い紫色、あるいはピンク色に輝く。

 夜明け前の薄明(マジックアワー)。

 因果改変直前に相応しい光景だった。

 

「多分、あの夜明けが因果改変なんだと思うよ。キミの表現を借りるなら迫る『白』、この世界の内側にある可能性の光。決まりきった過去が白紙の未来になるって感じかな」

「あれが、因果改変……?」

「ボクらが因果を認識する際に、夜明けだなんて分かりやすい記号を当てはめているだけだけどね」

 

 多分だけどね、と少女は語る。

 それは原作に書かれてあった内容なのか、それとも《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》を通して因果というモノに誰よりも触れてきた彼女だからこそ気付けたのかもしれない。

 

「迫る『白』っていう表現はなかなか的確だと思う。第一摂理の破壊は未来から過去へ遡及する形で衝撃が走ったけど、因果改変は世界の始まりから終わりに向かって、異能という概念がハナからが存在しない世界に書き換える。過去から未来に迫っているのさ。まあ、世界の終わりギリギリにいるボクらに届くまでにもう少し時間はありそうだけどね」

「だったら、あの裂ける『黒』──大地に開いた大きな深淵(あな)も?」

「……あれは、逆かな。『白』が世界の内側にある可能性だとするなら、『黒』は世界の外側にある可能性。簡(・)単(・)に(・)言(・)え(・)ば(・)、あ(・)の(・)穴(・)は(・)異(・)世(・)界(・)に(・)繋(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)」

「は? それってどういう──」

 

 咄嗟に更なる説明を求める。

 まさに、その瞬間の事だった。

 

 

 ゴ(・)ン(・)ッッッ‼︎‼︎‼︎ と(・)。

 小(・)さ(・)な(・)拳(・)が(・)俺(・)の(・)顎(・)を(・)撃(・)ち(・)抜(・)い(・)た(・)。

 

 

 脳が揺れる。

 いつもなら大した事のないダメージでも、六界列強(グレートシックス)との七連戦の疲労で倒れそうな今、一気に意識が遠のく。

 ごんっっっ‼︎ と、もう一度頭を叩いて必死に意識を掴む。危なかった、あと一秒でも遅れていたら俺は気絶していた。

 

「これで気を失わないのか……。異能がなくたって変わらないね。無茶苦茶だよ、キミは」

「何をッ、何をしてやがるメア‼︎」

 

 訳が分からなかった。

 だって、この戦いには何の意味もない。

 あともう少しで因果改変が起こって全てがなかった事になるのに、今ここで勝っても負けてもどうしようもない。

 

 なのに、それなのに。

 折手メアはこう言った。

 

 

 

「世(・)界(・)の(・)命(・)運(・)を(・)賭(・)け(・)た(・)最(・)終(・)決(・)戦(・)は(・)終(・)わ(・)り(・)。な(・)ら(・)、次(・)は(・)酷(・)く(・)個(・)人(・)的(・)な(・)ど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)戦(・)い(・)を(・)始(・)め(・)よ(・)う(・)か(・)」

 

 

 

 

 

九九話 原作主人公vsオリ主

 

 

 

 

 

「勝(・)て(・)る(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)い(・)、こ(・)の(・)ボ(・)ク(・)に(・)」

 

 

 あ(・)ま(・)り(・)に(・)も(・)一(・)方(・)的(・)な(・)戦(・)い(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 折手メアの拳は的確に俺に刺さり。

 俺の拳は折手メアに掠りさえしない。

 俺(・)の(・)動(・)き(・)が(・)連(・)戦(・)の(・)疲(・)労(・)で(・)鈍(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)事(・)を(・)差(・)し(・)引(・)い(・)た(・)と(・)し(・)て(・)も(・)あ(・)り(・)得(・)な(・)い(・)結(・)果(・)。

 

「ボクの強さは《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》による現実改変だけだと思ったかい? いいや、違う。むしろ、それはボクの弱みでもあった。《ご都合主義(・・・・・)》が(・)あ(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)キ(・)ミ(・)が(・)ボ(・)ク(・)に(・)勝(・)て(・)て(・)い(・)た(・)の(・)だ(・)と(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)か(・)?」

「なんだよ……それッ⁉︎」

 

 明らかにおかしかった。

 異能のない戦いで押し負けるはずがない。

 なのに、現実には一方的に殴られている。

 それには勿論、理由があった。

 

 アドレイドのような高い身体能力ではない。

 ブレンダのような極めた戦闘技術ではない。

 栗栖椎菜のような狂気の潜在才能ではない。

 

 折(・)手(・)メ(・)ア(・)の(・)強(・)み(・)は(・)、い(・)つ(・)だ(・)っ(・)て(・)そ(・)の(・)異(・)常(・)性(・)に(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

 

「何(・)だ(・)ッ、こ(・)の(・)鎖(・)は(・)⁉︎」

 

 

 異(・)能(・)の(・)な(・)い(・)世(・)界(・)で(・)、異(・)能(・)染(・)み(・)た(・)光(・)景(・)。

 無(・)数(・)の(・)鎖(・)が(・)俺(・)の(・)肉(・)体(・)に(・)絡(・)み(・)付(・)い(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 一つ一つは大した強度ではない。

 振り解けば簡単に壊せる程度のものでしかない。

 だが、無数の鎖が俺の動きを縛り、折手メアの動きに合わせて俺の肉体を引っ張る。

 

 彼(・)女(・)の(・)拳(・)が(・)俺(・)に(・)当(・)た(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)。

 俺(・)の(・)拳(・)が(・)彼(・)女(・)に(・)当(・)た(・)ら(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)

 

「“鎖”? ふーん、そんなのが見えるんだね」

「……なん、だと? これはお前の異能じゃねぇのか⁉︎」

「まさか。第一摂理は破壊された。ボクの《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》だって使えなくなっている。だから、キミが見えているモノは異能なんかじゃないよ。そもそも、ボクにはその“鎖”とやらは見えちゃいない」

「………は?」

「ふふふ。ボクの解釈では“引力”って感じなんだけど、キミの目には“鎖”という形で可視化されているのか。キミってば本当に逆張り人間だなぁ」

「なにを……何を言っている⁉︎」

「さ(・)っ(・)き(・)も(・)言(・)わ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)な(・)? 夜(・)明(・)け(・)の(・)光(・)は(・)因(・)果(・)改(・)変(・)、底(・)な(・)し(・)の(・)穴(・)は(・)異(・)世(・)界(・)へ(・)続(・)く(・)道(・)。な(・)ら(・)、キ(・)ミ(・)が(・)見(・)え(・)る(・)鎖(・)は(・)?」

「────────」

 

 つまり。

 つまり。

 つまり。

 

 

「因(・)果(・)────運(・)命(・)、な(・)の(・)か(・)ッ⁉︎」

 

 

 因果、運命、そういった世界の軸となる概念。

 世界を左右する何かが可視化されていた。

 

「厳密には、ボクの運──幸(・)運(・)かな」

「な、」

「ボクは異能抜きでも運が良い。それこそ大好きな『テンプレート・トライアンフ』の世界に転生して、大好きな六道伊吹と出会えるほどにね。だから、ボクは負けない。運命力の差でボクは勝つ」

「…………っ‼︎」

「偶然小石を踏んで滑るとか、ガラスの破片が日光を反射して目を眩ませるとか、本当は多分そんな感じなんだろうね。でも、因果さえも可視化できるこの空間においては、も(・)っ(・)と(・)直(・)接(・)的(・)に(・)鎖(・)が(・)キ(・)ミ(・)を(・)縛(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)認(・)識(・)さ(・)れ(・)る(・)」

 

 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 内臓をひっくり返すような拳の衝撃があった。

 幸運。ただそれだけの概念が六道伊吹を蹂躙する。

 

 はぁ、と折手メアはため息を吐いた。

 まるで自分もこんな事はしたくないと被害者ヅラで言うみたいに。

 

「別にさ、ボクも好きで喧嘩してる訳じゃあない。諦めてキミが倒れてくれるなら──そこから退いてくれるのなら見逃すさ」

「っ、……そこ、だって?」

「用があるのはキミの後ろ、異(・)世(・)界(・)と(・)繋(・)が(・)る(・)穴(・)な(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)」

 

 折手メアが迫る『白』──夜明けの光を背負うように、俺の後ろには裂ける『黒』──底なしの深淵(あな)があった。

 

「この世界は終わるギリギリ、残り一秒って所だっただろう? 世界という容器はパンパンで、今にも溢れ出しそうになっていた。そ(・)れ(・)こ(・)そ(・)、世(・)界(・)の(・)内(・)側(・)と(・)外(・)側(・)に(・)接(・)触(・)点(・)が(・)生(・)ま(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)に(・)」

「……それがあの『黒』だって?」

「ペットボトルに水を注ぐのを思い浮かべると分かりやすいかもね。歴史という水を世界(ペットボトル)に注ぎすぎた結果、水は今にも溢れそうになっている。ボクらという存在はギリギリ、表面張力で何とか耐えているに過ぎないんだ。だから、ほんの少しだけ世界から飛び出している。外気という世界の外側と接触している。多(・)分(・)、一(・)歩(・)踏(・)み(・)出(・)せ(・)ば(・)こ(・)の(・)世(・)界(・)の(・)外(・)に(・)出(・)ら(・)れ(・)る(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)か(・)な(・)?」

 

 裂ける『黒』、底なしの深淵(あな)。

 俺は直感的に、その因果が何であるかを知っていたのだろう。故に、そのように言葉にした。故に、そのような形で認識した。

 天蓋の先にある宙(ソラ)、あるいはアリス・イン・ワンダーランドへ続く地面の孔のように。

 

「お前が異世界への片道切符を求める理由は? 今更、元の世界に帰りたくなったかよ」

「まさか。未練なんてカケラもない。ボクはこの世界に転生できて、キミと出会えて幸せだったから」

「だったら!」

「──だ(・)け(・)ど(・)っ‼︎」

 

 俺の声が遮られる。

 折手メアは制服のスカートを掴んで、苦しそうに言葉を吐き出す。

 

「ボクは、この世界にいちゃいけない。異能のない世界で、キミと出会っちゃいけないんだ」

「……なんでだよ」

「ははッ、キミも分かりきっているだろう?」

「………………、」

 

 折手メアの瞳に涙がにじむ。

 それでも、少女は必死に耐えていた。

 重大な決心を一時の感情なんかで揺るがしてたまるか、と。

 

 血反吐を吐くような表情で。

 折手メアはその言葉を絞り出した。

 

 

「因(・)果(・)改(・)変(・)後(・)の(・)世(・)界(・)で(・)も(・)、ボ(・)ク(・)は(・)キ(・)ミ(・)を(・)苦(・)し(・)め(・)る(・)」

 

 

 分かっていた。

 彼女の言いたい事など気づいていた。

 因果改変により全てはなかった事となる。

 異能による悲劇は覆り、本来の歴史が取り戻される。

 

 で(・)も(・)そ(・)れ(・)は(・)、折(・)手(・)メ(・)ア(・)の(・)改(・)心(・)さ(・)え(・)も(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)事(・)に(・)な(・)る(・)の(・)と(・)同(・)義(・)だ(・)。

 

「異能のない世界でも、ボクはきっとキミを求める。……いいや、キミじゃない。異能を持った六道伊吹という名の『原作主人公(タイトルロール)』をボクは求めてしまう」

「…………」

「具体的にはどうするのかな。キミを追い詰めたり、原作では死んでるはずの両親をこの手で殺したり、最悪の形でキミにちょっかいをかけるのかもね。ボ(・)ク(・)は(・)異(・)能(・)の(・)な(・)い(・)世(・)界(・)で(・)も(・)、異(・)能(・)の(・)あ(・)る(・)キ(・)ミ(・)に(・)し(・)か(・)解(・)決(・)で(・)き(・)な(・)い(・)事(・)件(・)を(・)ぶ(・)つ(・)け(・)よ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)は(・)ず(・)さ(・)」

 

 異能は存在しないなんて彼女は信じない。

 自分が気付いていないだけでこの世界には異能が存在する、この世界は前世で好きだった『テンプレート・トライアンフ』の物語(セカイ)に決まっている、『六道伊吹(タイトルロール)』ならばきっとあらゆる試練を乗り越えてくれる。

 そ(・)ん(・)な(・)盲(・)信(・)が(・)、異(・)能(・)が(・)な(・)い(・)世(・)界(・)に(・)生(・)き(・)る(・)六(・)道(・)伊(・)吹(・)を(・)苦(・)し(・)め(・)る(・)。

 

「因果改変前にボクがやらかした悪行に比べたらなんて事ないのかもしれない。世界の終末だなんてスケールのデカい大騒動は異能のないボクには引き起こせないだろうし。……でも、確実にキミは苦しむ。六(・)道(・)伊(・)吹(・)を(・)苦(・)し(・)め(・)る(・)た(・)め(・)だ(・)け(・)に(・)ボ(・)ク(・)は(・)人(・)生(・)全(・)て(・)を(・)費(・)や(・)す(・)」

「…………っ」

「そうなる前に、ボクという存在をこの世界の因果の外側に押し出す必要があるんだ。裂ける『黒』を通って、この世界の因果が届かない異世界へ行く事で。因(・)果(・)改(・)変(・)後(・)の(・)世(・)界(・)で(・)ッ、ボ(・)ク(・)と(・)い(・)う(・)存(・)在(・)が(・)生(・)ま(・)れ(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)‼︎」

 

 六道伊吹を不幸にしないために。

 ここで確実に、折手メアの存在を消す。

 

 だって、そうだろう?

 異(・)能(・)の(・)な(・)い(・)一(・)度(・)き(・)り(・)の(・)世(・)界(・)で(・)も(・)折(・)手(・)メ(・)ア(・)は(・)改(・)心(・)す(・)る(・)だ(・)な(・)ん(・)て(・)誰(・)が(・)確(・)約(・)で(・)き(・)る(・)?

 

 折手メアは一体何度敵対した?

 一度倒して改心したか?

 改心した後も面倒ごとを起こさなかったか?

 無限のループの中で折手メアが改心した確率なんて一%にも届いたのか?

 

「……上手くいく訳がない。既に因果改変は始まってる! 無限のループの中にいた折手メアはもう飲み込まれている! 最終周にいるお前だけが異世界に逃げたって意味はねぇだろうが‼︎」

「そうかもね。で(・)、そ(・)れ(・)が(・)?」

「──────ッ⁉︎」

「まあ、正直無理だとは思う。でも、それでも、ほんの僅かでもッ、小数点の彼方にでも希望があるのなら実行するしかないだろう⁉︎ 指を咥えてボクがキミを不幸にするのを見てろってのかッ⁉︎ ほ(・)ん(・)の(・)僅(・)か(・)の(・)も(・)し(・)も(・)に(・)賭(・)け(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)か(・)っ‼︎」

 

 どぼっっっ‼︎‼︎‼︎ と。

 少女の小さな拳が胴体の中心にめり込む。

 まるで溺れているような声が腹の底から湧き上がった。

 

 チカチカ、と意識が点滅する。

 体がぐらつく。平衡感覚がブッ壊れた。

 

 もう倒れても良いんじゃないか。

 耳元でそう誰かが呟いた。

 誰でもない、俺自身の弱音だった。

 

 彼女の計画は九九%以上の確率で失敗する。

 折手メアは因果改変後の世界でも生まれる。

 そして、もしも計画が成功して折手メアが生まれなくなったのだとしても、そ(・)れ(・)は(・)六(・)道(・)伊(・)吹(・)が(・)幸(・)せ(・)に(・)な(・)る(・)事(・)を(・)意(・)味(・)す(・)る(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)の(・)か(・)?

 

「………………ッ」

 

 自分の弱音を知った、その上で。

 

 

「こ(・)の(・)俺(・)が(・)ッ、頷(・)く(・)と(・)で(・)も(・)思(・)っ(・)た(・)か(・)⁉︎」

 

 

 拳(・)を(・)構(・)え(・)る(・)。

 力(・)づ(・)く(・)で(・)弱(・)音(・)を(・)捩(・)じ(・)伏(・)せ(・)る(・)。

 

「確かに、お前は最低だよ。因果改変後の世界でも俺や人様に迷惑をかけ続けるに決まってるし、正直そこを擁護する事は俺にもできない。絶対にお前は俺と敵対する。折手メアは俺の幸せを台無しにする」

 

 言葉ではボロクソに言いながら。

 どうしてか、俺の頬は緩んでいた。

 

 折手メアは最低だ。

 折手メアは最悪だ。

 彼女と出会う前の俺ならば真っ先に殺しているタイプの人間だ。

 

 で(・)も(・)。

 そ(・)れ(・)で(・)も(・)。

 

 

「メ(・)ア(・)の(・)い(・)な(・)い(・)世(・)界(・)で(・)幸(・)せ(・)に(・)な(・)る(・)の(・)な(・)ら(・)、メ(・)ア(・)に(・)幸(・)せ(・)を(・)台(・)無(・)し(・)に(・)さ(・)れ(・)る(・)方(・)が(・)ま(・)だ(・)マ(・)シ(・)だ(・)」

 

 

 それは告白だった。

 長いループの中でも初めてしたような、心の底から湧き上がった愛(・)の(・)言(・)葉(・)だった。

 

「それがたとえ一%に満たない確率なんだとしても、それでたとえ因果改変後の自分を不幸にする事になったとしても、未来のメアの悪行を理由に目の前のメアを切り捨てるなんてできる訳ねぇだろうが‼︎ 俺の幸せのためにお前という存在を消すなんて本末転倒だって気づかねぇのかよ‼︎」

 

 ぐらつく視界を叩いて直す。

 じゃらじゃらとうざったい鎖を引き千切る。

 運命も未来も知ったことか。自分自身という理不尽に嘆く少女を目前にして、考える事など他にあるのか。

 

 この場所では、全ての因果は可視化される。

 だから、きっとこの舞台(リング)さえもそう。

 始(・)め(・)か(・)ら(・)、六(・)道(・)伊(・)吹(・)と(・)折(・)手(・)メ(・)ア(・)は(・)激(・)突(・)す(・)る(・)宿(・)命(・)に(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

「なぁ、メア。テメェが折手メアなんて存在しない方が幸せだって言うのなら! 自分勝手に六道伊吹の幸せを決めやがるのならッッ‼︎」

 

 そうだ、メアが初めに言った通りだった。

 この戦いは酷く個人的なモノに過ぎない。

 世界の命運なんか関係ない。

 人類の存亡だってどうでもいい。

 あるいは、勝っても負けても何も起こらないのかもしれない。

 

 そ(・)れ(・)で(・)も(・)、眼(・)前(・)に(・)は(・)愛(・)す(・)る(・)人(・)が(・)い(・)る(・)。

 俺(・)の(・)た(・)め(・)に(・)我(・)が(・)身(・)を(・)擲(・)つ(・)覚(・)悟(・)の(・)少(・)女(・)が(・)。

 そ(・)れ(・)だ(・)け(・)で(・)、拳(・)を(・)握(・)る(・)に(・)は(・)十(・)分(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 

「そんな結末(デッドエンド)は覆してやるッッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 ガンッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 一歩、踏み込む。

 握(・)り(・)込(・)ん(・)だ(・)拳(・)を(・)メ(・)ア(・)の(・)顔(・)面(・)に(・)叩(・)き(・)付(・)け(・)る(・)‼︎

 

「がばっ⁉︎」

「ははッ、分からねぇとでも思ったか! 一体どれだけ人生を共にしてきたと思ってやがる。テメェの弱点なんざ始めから分かってんだよ‼︎」

「ッッッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 もう一発。

 横殴りの一撃が頬を張り飛ばす。

 男女平等の暴力言語がメアの頭を揺さぶる。

 

 折手メアが有する無敵の幸運が崩れる。

 俺は折手メアの“因果(くさり)”を破壊した──な(・)ん(・)て(・)事(・)は(・)な(・)い(・)。

 

 異能のない世界だ。

 単なる人間でしかない俺に因果は壊せない。

 幸運だなんて巫山戯た理屈(ロジック)の完全防御は崩せない。

 

 な(・)ら(・)ば(・)、ど(・)う(・)す(・)る(・)か(・)?

 

 

「テメェの弱点はたった一つ────俺(・)が(・)好(・)き(・)す(・)ぎ(・)る(・)事(・)! 当(・)た(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)な(・)ら(・)、メ(・)ア(・)が(・)当(・)た(・)り(・)た(・)く(・)な(・)れ(・)ば(・)良(・)い(・)‼︎」

 

 

 つ(・)ま(・)り(・)、い(・)つ(・)も(・)の(・)ヤ(・)ツ(・)だ(・)。

 

 あえての大振り。

 見栄えは良いが当たらない攻撃。

 構わない。俺が当てる必要はない。

 メ(・)ア(・)は(・)当(・)た(・)り(・)た(・)が(・)る(・)、ア(・)イ(・)ツ(・)は(・)そ(・)う(・)い(・)う(・)ヤ(・)ツ(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

 運命、因果、幸運。

 大層な言葉で誤魔化されるが、それは折手メアにとっての幸(・)せ(・)を引き寄せるモノでしかない。

 それならば、やってる事は《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》とほとんど変わりがない。折手メアにとって面白い現実に改変する能力が、折手メアにとって幸せな現実を引き寄せる能力になっただけ。

 

 運命を超える必要はない。

 因果を捩じ伏せる理由はない。

 ただ、メアの心だけを屈服させたら良い。

 

「諦めろ、メア。俺の幸せにはお前が必要だ。だから、諦めて俺を受け入れろ! お前の幸せにも俺が必要だって認めろ‼︎」

「……分かってたさ。だから、最初からキミに奇襲を仕掛けた。ボクの説得に、絶対に応じてくれないって知ってたから。ボクじゃキミに勝てないって信じてたから‼︎」

 

 互いに意地があった。

 相手を助けたいとか、救いたいとか。

 そんな善人のような感情はもはやなかった。

 

 た(・)だ(・)自(・)分(・)の(・)幸(・)せ(・)の(・)た(・)め(・)に(・)相(・)手(・)を(・)救(・)う(・)。

 剥(・)き(・)出(・)し(・)の(・)エ(・)ゴ(・)と(・)エ(・)ゴ(・)が(・)衝(・)突(・)す(・)る(・)。

 

 

「「負けられないっ! 負けてたまるかッ‼︎」」

 

 

 瞬(・)間(・)。

 互(・)い(・)の(・)拳(・)が(・)共(・)に(・)顎(・)を(・)撃(・)ち(・)抜(・)い(・)た(・)。

 

 クロスカウンター。

 メアの軽い体を跳ね飛ばした代償に、俺の頭がぐわんぐわんと揺さぶれる。

 脳震盪。吐き気を必死に抑える。視界が蜃気楼のようにぐにゃぐにゃと歪み、俺の膝が地面につく。立ち上がれない。

 

 だが、今のダメージはメアの方が大きかった。

 体格差と重量差。軽い体は簡単に宙を舞った。

 

 

 

 そ(・)し(・)て(・)、そ(・)の(・)ま(・)ま(・)空(・)を(・)飛(・)ん(・)だ(・)。

 

 

 

「────────────────は?」

 

 そうだ、メアはこんな事を言っていた。

 俺には“鎖”に見える因果を“引力”だと解釈した、と。

 

 “引力”。

 では例えば、それがメア自身を上に引っ張ったのならどうなるか。

 

 ゆっくりとした浮上。

 地べたで少しずつ浮いていたのなら掴むだけでよかった。

 だが、最初から殴り飛ばされて体が浮いている状態で更に浮き始めたら、もはや俺の跳躍力では届かないほど高く彼女は飛び立つ。

 

「ッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 そして、メアは別に俺を倒す必要はなかった。

 彼女の目的はただ一つ。裂ける『黒』──底なしの深淵(あな)に落ち、因果改変の届かない外に行くこと。

 障害物を実力行使で取り除けないのなら、飛び越えればいいだけの事だったのだ。

 

 無論、メアがそれを狙った訳ではない。

 幸運。拳の角度も、体を浮かす威力も、メアの幸運の因果(くさり)が全て仕組んでいた。

 折(・)手(・)メ(・)ア(・)は(・)六(・)道(・)伊(・)吹(・)の(・)幸(・)せ(・)こ(・)そ(・)が(・)何(・)よ(・)り(・)も(・)自(・)分(・)の(・)幸(・)せ(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)、そ(・)ん(・)な(・)結(・)末(・)が(・)引(・)き(・)寄(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)。

 

 手の届かないほど高くから少女は落ちる。

 裂ける『黒』──底なし穴に向かって。

 この世界の外、異世界へ向かって。

 因果改変後の世界に折手メアが生まれないよう。

 そんなクソったれな結末が俺の幸せだなんて勝手に決めて!

 

「巫山戯るなァァアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 だ(・)か(・)ら(・)、俺(・)も(・)跳(・)ん(・)だ(・)。

 

 

 縦の跳躍では届かない。

 だから、リングを蹴って横に跳ぶ。

 墜落する少女をタイミングよく抱きしめた。

 

 ぎゅっ‼︎ と、腕に力を込める。

 彼女を二度と離さないように。

 二人で共に底なしの穴を落下する。

 

「なっ、バッ……馬鹿かキミは⁉︎」

「逃げるなよ、メア! つーか俺から逃げられるとでも思ってんのか⁉︎ 俺の幸せな結末にテメェは必要なんだよ‼︎」

「おちッ、おちるんだぞ⁉︎ 異世界に‼︎ 友達にも家族にもッ、キミは二度と会えなくなる! それなのにッ、なんでキミは……‼︎」

 

 ドンドン! と彼女は俺の背中を叩く。

 だが、そんなの知ったことか。

 腕の中にいるメアに至近距離から目を合わせ、額をぶつけて言う。

 

「ふざけんな。テメェも知ってんだろ。俺は九九点なんかじゃ我慢できねぇんだ。テメェも、友達も、家族も、全部手に入れた一〇〇点満点の未来が欲しい‼︎」

「──────っ」

「異世界だろうが何だろうが関係ねぇ。世界の壁を破壊したって元の場所に帰ってやる。でも、そんな事よりも、目の前で泣いてるお前を見逃せる訳がねぇだろうがッ‼︎」

 

 暗い暗い地の底。

 まるで宇宙、あるいは瞼の裏側。

 何もない虚空に少女の鼻をすする音だけが響く。

 

「笑えよ、メア。これがテメェの大好きな六道伊吹だぜ」

「ふふっ、ははは! ほんとにキミは────大好きだよ、いぶき」

 

 落ちる。

 落ちる。

 落ちる。

 

 世界という枠組みを突き抜ける。

 全くの未知、正真正銘の『外』。

 世界観なんてハリボテではない、本物の異世界へ突入する。

 

 

 ────そ(・)の(・)、直(・)前(・)。

 

 

 が(・)く(・)ん(・)、と(・)。

 急(・)に(・)俺(・)達(・)の(・)落(・)下(・)が(・)止(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

「……は?」

「……え?」

 

 じゃら、と金属音が鳴る。

 何も見えない暗闇の底なし穴に、銀(・)色(・)の(・)光(・)があった。

 

 

「…………く(・)さ(・)り(・)、か(・)……?」

 

 

 メアの幸運。

 俺を縛り付けていた“因果(くさり)”が、俺を世界に留めていた。

 

 いいや、それだけではない。

 鎖だけあっても落下を止めるのは不可能。

 銀色の光を辿った先には、鎖(・)を(・)引(・)っ(・)張(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)モ(・)ノ(・)が(・)い(・)た(・)。

 

 

「お(・)前(・)ッ、首(・)斬(・)り(・)────」

 

 

 言い切る事はできなかった。

 直後、世界が光に包まれる。

 

 迫る『白』、夜明けの光。

 即ち────

 

 

 ──因(・)果(・)改(・)変(・)が(・)や(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)。

 

 






次回→「最終話:エピローグ/ED」

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