別にアンチしたい訳じゃないんですよ? ただあまりに敵側メインの話が無いんで味方したいなぁ、と思っただけで。
入学から数日後。
初日の自己紹介後程では無かったが、それでも立香は注目の的・話題の中心であった。
ずば抜けて美人という訳でもないが、それでも十中八九整った顔立ちと答えるだろう顔に、来る者を拒まないその立ち居振る舞い。八方美人と言われそうで、なのに会話を交わして誰も不快にならない話術。授業態度も良く、忘れ物があれば遠慮無く貸し与える。当然と言えば当然と言えるかもしれない。
その一方で……
(ヒーロー科受かっといて、態々それ断って普通科に来るとか……嫌味かよ)
人使の様な、"ヒーロー科に落ちて尚諦めきれずに普通科に滑り込んだ者達"からある種のやっかみ、嫉妬の様な目を向けられているのも事実。
だがそれでも、立香はそんな視線を向けられている事を理解した上で彼等に歩み寄り、親交を深めようと笑顔で接する。
因みに立香の挨拶を無視した場合、人使の時と同じ様にマシンガンの如く煽りと罵倒が飛んでくる為釣られて返事をしてしまう。尚、未だ無視しきれた者はいない。
そんなこんなである日の授業中、C組の教室に珍しい来客が現れる。
「藤丸立香はいるか?」
開口一番に立香を名指ししたその来客は、一見して浮浪者と呼んで差し支えない男だった。
伸ばしっぱなしのボサボサの黒髪に、上下とも真っ黒な服装。目立つのは、首元に巻かれた限界まで引き延ばした様な包帯らしき物。
不審者にしか見えないが、彼の名は相澤消太。雄英高校の卒業生であり、ヒーロー科一年A組の担任教師であるプロヒーロー『イレイザーヘッド』でもある。
「私に何か用ですか?」
そんな消太に対し、立香は疑問符を浮かべながら席を立つ。消太は担任に「暫く藤丸借ります。……ついてこい」と言い、立香を伴って教室を出て行く。
「さて藤丸、お前にはウチの救助訓練の手伝いをしてもらう。具体的には、救助される一般人役をやってもらう」
「その前に一ついいですか?」
連れ出された理由を説明されながら、立香は消太に疑問をぶつける。「何だ?」と言いながら振り返った消太に、立香は驚きの質問を投げかけた。
「誰ですか? 会った事無いですよね?」
その言葉を聞いた瞬間、消太は信じられないものを見る様な目つきになった後に天を仰ぐ姿勢になる。その姿はまざまざと「ありえない……」と語っている。
「……はぁ。A組の担任の相澤だ、お前とは入試の時に会っている」
「そうでしたっけ?」
以前に会っていると告げられて、立香は記憶を探る様に頭を捻る。
すると……
『マスター。この男、確かに面識が御座います。ヒーロー科への入学を断った際に……』
「ディル? ……あぁ、あの時のか」
『はい、あの時のです』
頭の中に響くランサー──ディルムッド・オディナの指摘に、立香は小声で答えながら消太の事を思い出す。
そしてもう一つ思い出したという様に手をポンと叩くと、そのまま消太に問い掛ける。
「あぁはいはい、思い出しました! 入試の時はお世話になりました。そう言えばちょっと前のマスコミ侵入騒動の時、先生の所の生徒が活躍されたそうで。誇らしいんじゃないですか? あ、そうそう! 入試の時と言えば……」
「──脇腹の傷はどうですか? 塞がってないんでしょう?」
世間話の様に気軽な流れで発されたその言葉に、消太は思わず頬を引き攣らせた。
「お前……あんな事しておいて、覚えてなかったのか?」
「あぁはい、今の今まで忘れてました。すいません、お見舞いにでも行けばよかったですかね」
"眼中に無い"と言わんばかりのその物言いに、消太は思わず戦慄を覚えた。
数ヶ月前、雄英高校ヒーロー科一般入試。
その時既に推薦入試を満点合格しながらも辞退していた立香は、改めて一般入試を受け直して再び満点を取り、その上で再度合格を蹴った。
結果発表の日、それを学校側に伝えた立香は校長室に呼び出された。
校長直々にヒーロー科に来てほしいと誘われた立香は、そこで一つの取引を持ち掛けた。
──『教師として所属しているプロヒーローと戦って、私が負けたら諦めてヒーロー科に入ります。その代わり、私が勝ったら今後ヒーロー科に誘うのは止めてほしい』と。
その時立香の相手として白羽の矢が立ったのが消太──イレイザーヘッドであった。
結果は今の状況から分かる様に、立香が勝った。但し、その勝ち方が問題であった。
完封勝ちだった。その上、立香は不治の傷を与える呪いの魔槍・"
それを見て制止に入った教師を四名病院送りにし、事実上の引退に追い込んだ。
立香は弱冠十五歳にして、歴戦のプロヒーロー五名を圧倒する実力を証明したのである。
そして現在。
「えっと、授業協力でしたよね? 救助される役をすればいいんですね?」
「……あぁ」
「分かりました! あっ、そっちの都合で授業抜けて来てるんですからその分の単位引くとか止めて下さいね?」
そうして立香は、自身を警戒する消太の背を追い廊下を歩いた。
どんな感じで原作から離れていくかお楽しみ下さい。