Dearest__ (PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

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Dear friend

 

 

 

 

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大好きな、命の恩人でもある。

戦友、"親友"の元へ――

 

 

 

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部屋に来客を知らせるチャイムが鳴り響く。

ある人物がインターホンに触れ、画面を確認すると、微かに嬉しそうに笑みを浮かべる反面、相変わらず投げかける言葉は辛辣だった。

 

 

 

 

 

「うっわ、来たわね。久しぶりにあんたの阿呆面を拝めたわ。」

 

画面に映るのは、ニヤニヤと笑みを浮かべる舞白。Tシャツに長袖のジャケットを羽織り、インディゴ染めのデニム姿。完全オフモードの舞白を見るのは久しぶりだ。

 

『酷いなー、"美佳ちゃん"。ほら!早く開けてよ?』

 

「はいはい。」

 

ピッとボタンを押すとマンション入口の扉が解錠される。予定だと宜野座も来る予定だったのだが、モニターに映っていたのは舞白のみ。急に仕事が入ったのだろうと、"霜月"は予想していた。

 

 

 

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「おじゃましまーす。そして久しぶり!美佳ちゃん」

 

 

「久しぶりね。舞白。」

 

 

久しぶりの再会に笑顔を浮かべる2人。

"はい、お土産です"と、舞白は霜月に九州土産のお菓子を手渡す。

 

 

そして、霜月の家のリビングからの外の景観に、舞白は瞳を輝かせていた。2年前とは違うマンションに越した霜月。広さも、景色も、申し分ない程"素敵"な部屋だった。

 

 

 

 

 

「いいな〜この景色!夜景とか凄そう。」

 

窓に近づく舞白を横目で見つつ、受け取った茶菓子を開封すれば、コーヒーの準備に取り掛かる霜月。いくつになっても呑気そうで天真爛漫な親友に、呆れたような小さなため息を吐いていた。

 

 

「あんた達もそれなりにいい所に住む予定でしょ?それに、景観なんて室内のホロをイジればどうとでもなるんだし?」

 

「そうだけど、やっぱり目の前に高いビル群が沢山見えると"都会〜"って感じがするね。うちは、まだ決め兼ねてる最中でさ――」

 

うーーん、と腕を組み、外の景観に目を向けたまま悩む仕草を見せる。

 

「あんたの実家は?お兄さんの名義の、あの海沿いの家はどうするの?」

 

港区の海沿いに建っている低層マンション。狡噛兄妹の実家でもあり、2年前の事件では犯人に侵入されたという、過去を持つ"あの家"。

 

くるっと、舞白は霜月に振り向く。

 

 

「お兄ちゃん所有のまま変わらないよ?東京に戻ってる時は、私があの家に住んでるの。お兄ちゃんは殆ど戻ってこないしね?」

 

「宜野座さんは?」

 

コポポポポ…、と出来上がったホットコーヒーをカップに移し、甘いカフェオレを作りながら問いかける。

 

「外務省管理のマンションを間借りしてる感じ。」

 

「…という事は、まだちゃんと一緒に住んでないの?」

 

「うん、実はそうなんだよね。どっちみち、九州と東京と海外を行ったりきたりで忙しいし、そんなに休みも被ったりするわけじゃないし…。――あ!そういえば、今日来れなかったのは理由があってね」

 

霜月は出来上がったコーヒーをダイニングテーブルへと運ぶ。舞白も窓から離れると、椅子に腰かけ、目の前に座る霜月に視線を送る。

 

 

「まさかの、昨日課長から連絡が来て。急遽、出島に行かないといけなくなってね?"霜月によろしく"って言ってたよ?」

 

そう口にすれば、"いただきまーす"とコーヒーカップを手に取る。

 

「籍入れて、これから新婚生活〜って感じなのに。なかなかそうはいかないのね?外務省の捜査官様は…」

 

「まあ、分かってたことなんだけどね?ちょっと寂しいかも…」

 

 

舞白の左薬指に光る指輪に視線を送る。外務省の捜査官が平凡な生活を送ることなんて無謀だろう。でも、潜在犯としての制限の撤廃。それは即ち"自由"を手に入れることでもあった。そのお陰もあり、舞白と宜野座はようやくそれなりの幸せを手に入れることが出来た。

 

霜月は手土産の茶菓子に手を伸ばせば、微かに笑みをこぼす。

 

「でも、結果的には良かったと思うわよ?…あんた前よりも、なんか幸せそうだし?」

 

相手の意外な言葉に驚く舞白。口につけていたコーヒーカップをテーブルに戻せば、じっと霜月に視線を送る。

 

 

「そ、…そう?」

 

 

「なんていうか…、前は思い詰めてたというか、自分のことは二の次って感じだったし。でも今は、自分の身に起こったその幸せを噛み締めてる感じがする。」

 

「……わかんないなあ…、でも、そう見えてるんだ…」

 

「他の人には分からないだろうけど――」

 

 

まるで"親友の私にしか分からないわよ"と言わんばかりの口調に、舞白は嬉しそうにクスクスと笑っていた。

茶菓子をパクッと口に放り込む霜月のその姿に、舞白は懐かしさを覚えると、テーブルに両肘を付き、手に顎を乗せる。

 

 

「久しぶりに美佳ちゃんの話も聞かせてよ?ほら、あれ、着任した執行官の話とか――」

 

「そうそう!聞いてよ…もう愚痴りたくて仕方なかったのよ。」

 

 

前もって聞いていた新任の執行官達。

聞く限りではあるが、かなりクセ者揃いだということは分かっていたものの、舞白の想像を上回る状況だった。

 

舞白はひたすらに、霜月の溜まりに溜まった愚痴を聞き入れる。

 

 

 

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「…って言う訳。ほんとに嫌になるわよ。」

 

「それは大変だね。心中お察しします……」

 

お互いに、空になったコーヒーカップ。

霜月はバンッとテーブルを叩けば、疲れ果てたようにため息を吐き出す。

 

 

 

 

「あのね…こうなったのも、あんたの課長に――」

 

「"引き抜かれた"でしょ?」

 

宜野座、須郷。

2人の抜けた穴はかなり大きいものだった。

 

「そうよ。先輩も拘留されて、もう無茶苦茶よ。…まあ、"あれ"は仕方ない事だけど。自業自得よ、…先輩は――」

 

"コーヒー入れ直すわね"と呟くと、椅子から立ち上がりキッチンへと向かう霜月。

彼女の表情や口振りから、いつもは辛辣な彼女なりにも色々と思っている事はあるようだった。

 

 

キッチンに立つ霜月を、ボーッと眺める。話の限り、霜月の置かれている状況はかなり大変そうだった。

 

 

 

「新しく、監視官の人員補充はないの?」

 

「今の時期は、厚生省公安局のキャリア研修の入所が始まったばかりだし、よっぽどの事がない限り、新任の監視官の補充はないわね。」

 

「…その中に、優秀な人材は居そう?」

 

舞白の問いかけに、霜月の手元が一瞬動きを止める。その様子に、微かに舞白は気づくも特に横槍を入れることなく、相手の言葉を待っていた。

 

 

 

「…まあ、何人かはいるわよ?推薦したいって思える人物。すでに押さえてるわ。」

 

霜月の脳内に、とある2人の人物が浮かび上がっていた。

あの事件の関係者、しかし、それを外務省の舞白に易々と話すことはできない。

 

「さすがー、抜かりないね、美佳ちゃん。」

 

「当たり前でしょ?二係、三係に取られる前に、ある程度目星をつけておかないと。」

 

コーヒーを入れ直し、再び椅子に座る霜月。微かに、相手の表情や動きを察した舞白。それ以上、特に何も口にすることなく、2人はコーヒーを口に含む。

 

 

 

「で?あんたはどうなのよ?舞白。休みはいつまでなの?」

 

話しを切り替えようと、今度は舞白の話を聞き出そうと霜月は口を開く。

 

 

「本当は明後日まで休みだったんだけど。案の定、ノブ兄も呼び出されちゃったし…。私は明日新居探しを終えたら、海外調査に向かわないといけなくて。」

 

「ブラックすぎない?外務省行動課。」

 

「まあまあ、"行動こそ、私たちのモットー"だからね?」

 

「あーー、嫌な台詞。あの金髪に何度も聞かされたわ、その言葉。」

 

未だに花城の事を毛嫌いする霜月。おそらく、一生分かり合えるような関係性には慣れないだろうと察す。

 

「でも、課長は優しいよ?結婚のことだって、真っ先に祝ってくれて。これでもプライベートの調整はしてくれてるし。…そもそも、同じ職場に"実の兄と配偶者"がいるこの状況を、快く歓迎してくれてるし。」

 

「"お互いの危険な事は承知の上で"……怖くないの?公安局よりも危険な仕事で、いくら潜在犯としての制限は撤廃されたとしても、別々に行動することも多いだろうし。」

 

「それは勿論、不安なことか全く無いわけじゃないよ?でも、楽しいんだよね。お兄ちゃんとも、自分の旦那さんとも、危険は多いけど目的を一緒にしてるって分かっていれば、頑張れるというか、なんというか…」

 

うーーん、と口を尖らせ、上手く伝えられないことに悶々とした様子。

 

 

「それに!須郷さん、なんでも許してくれるし、お兄ちゃんとノブ兄みたいにガミガミ煩くないから、働きやす――」

 

「あのねー、舞白?須郷さんは言わないだけで、本心はあんたの事とんでもない奴って分かってるからね?」

 

 

へへへっ、と後頭部に手を添え、掻く仕草を見せる舞白。その様子に、ふぅー、と呆れた様子で肩肘を立てれば、微かに笑みを浮かべていた。

 

 

 

2人は和やかな雰囲気に、久しぶりにそれぞれが抱えている心の荷を下ろせているような感覚だった。まだ、出会って数年。しかも、2人の出会いは最悪な状況下だった。

 

新疆ウイグル自治区の収容所での出会い。命を失いかけたお互いを、お互いに助け合い、今こうして、語り合っている。それは不思議な光景だった。

 

そして、まさかここまで分かり合える仲になれるなんて思ってもみなかった。

 

 

 

 

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「日本に帰ったら一緒にお茶でもしようね、美佳ちゃん?」

 

「私は監視官の職務が忙しいから、たまにだったら良いわよ」

 

 

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昔交わした言葉を思い出す。

そして、握手を交わした、あの時のことは鮮明に覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、美佳ちゃん」

 

「何?舞白」

 

 

 

舞白は、微かに口角に弧を描き。真っ直ぐと霜月を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

「また、こっちに帰ってきたら、お茶しようね?」

 

懐かしいフレーズに、霜月もクスッと笑みを浮かべる。

 

 

「私は、監視官の職務が忙しいから、たまにだったら――」

 

 

"たまにだったら良いわよ?"と言おうとした霜月の言葉が止まれば、霜月はふいに右手の人差し指を、舞白の額にツンっと弾くように当てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて。時間が許す限り、いつでも良いわよ。」

 

 

ニッ、と珍しくやんちゃそうな、クシャッとした笑みを向ける霜月に、舞白は嬉しそうに、満面の笑みで微笑み返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと、ちゃんと面と向かって言ってなかったわね?」

 

 

霜月は手を元に戻せば、再び視線を向け直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結婚おめでとう。舞白。」

 

 

 

 

霜月の珍しい表情。

 

満悦の表情を隠せないその様子は、何ら、他の同じ歳の少女たちと変わらない笑顔だった。いつもはピリピリと、どこか殻を被ったような雰囲気しか見せない霜月。唯一、親友である舞白に向けられたその笑顔は、舞白の心をキラキラと輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。美佳ちゃん」

 

 

 

舞白はそっと、義手の右手を差し出す。

霜月も何も言わずとも、そっと手を差し出せば、あの時と同じように2人は握手を交わしていた。

 

 

 

同い歳、同じ境遇、接点の多い2人にとって、お互いはかけがえのない存在だった――――

 

 

今後、何があったとしても、2人の仲を引き裂くことは誰にもできないだろう。

 

 

 

 

 

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