【完結】ロリコンハゲトレーナー(仮)に拾われたら地獄でした 作:シェーク両面粒高
模擬レース当日を迎えました。
平地用のトレーニングコース前からハゲを先頭にして、舗装された道を通って私とワル子、そしてそれぞれの取り巻きと共に障害用トレーニングコースへやって来ていました。私と一緒に来ていたのはもちろんクロとプロンです。
「ひゃー、こんなとこあったんだ」
「森に囲まれてて、神秘的だね~」
コースを訪れた時の2人は感心したようにそう言っていました。ワル子の友達も同じような反応をしているようでした。
ギャラリーは私たち当人と取り巻きとハゲ男の一味のほか、障害ウマ娘たちも何人かいるようでした。ハゲ男はこの時間コースを貸し切っているようでしたので、噂か何かを聞きつけてやって来ていたのでしょう。
選抜レースや有名なウマ娘が参戦した平地の模擬レースとは比べものにならないほど静かではあります。しかし、私の心は燃え滾っていました。なので、アップを終えた私はワル子の目の前まで行って宣戦布告することにしました。
「ワル子、悪いけど私が勝つよ。今までのいぢわる、私に謝ってもらうからねっ!」
「やけに強気だなクソチビ。自信でもあんのか?」
「あるよ! 昨日特訓したんだから!」
「特訓……フッ、笑わせんなよ。俺はあれから動画見て勉強して角バ場にある障害使って夜遅くまで練習してたんだ。せいぜい今だけ吠えてろよ。どうせいつもみたいに体育館の裏でぴょんぴょんやってたんだろ?」
「なっ!? なんでそれを知って……ふふっ、まあいいよ。今回の特訓はそれじゃないからね! あとワル子、ちゃんと首は綺麗にごしごし洗ってきたかなー? なんか汚れてなーい?」
「んだと!」
ワル子と火花が出るほどバチバチと目線がぶつかり合います。
「……///、……フンっ!」
そうしてワル子が目線を逸らすのと同時に、ハゲ男が私たち2人に声をかけました。
「始めるで~。コースはさっきここに来たときに渡したプリントの通りや。2人とも頭入っとるな?」
「はい」「ああ」
「よろしい。でも一応道中にコースの誘導員を配置したから忘れても大丈夫や。安心して走ってな」
今回の模擬レースのコースは3350mで行われます。内回りのホームストレッチからスタートして時計回りに周っていき、2周目の第2コーナーあたりから外回りに入っていくコースです。障害数は合計11個……生垣障害、竹柵障害、ハードル障害にて構成されています。
「じゃあこれ着てゲートに向かってくれ」
ハゲは私たちにゼッケンを渡してきました。ワル子が1番、私が2番です。
ゼッケンを被り、内回りコ-スに置かれたゲートの方を向きました。ワル子は既に歩き出しています。
「レオ、頑張るのはいいけど無理しないでよー」
「レオちゃん、ふぁいとー」
「クロ、プロン……うん! 行ってきます!」
2人の応援の声を背に受け、覚悟を決めてゲートへ私も向かっていきます。
やるしかありません。昨日1日限定とはいえ特訓したのです。その成果をここで全てぶつけるのです。
『さあ、めったにない障害の模擬レースが始まろうとしています! しかも2人は障害未経験! いったいどのようなレースになるのか!? 勝手ながらレースの実況と解説をさせていただきます!』
そこで、ゴール前に設置されたパイプテントにあるスピーカーから拡声されたウマ娘の声が聞こえてきました。テントの下には長机とパイプ椅子が置かれ、そこに2人のウマ娘が座っていました。実は、その1人は見覚えのあるウマ娘です。今喋っているパイロットゴーグルをしたウマ娘は──
『実況は私、アポロマーベリックが担当します! そして解説は名障害ウマ娘、ブロードマインドさんです!』
『…………うう』
『あれ? 先輩?』
『……昨日、の……トレーニングの筋肉痛が、今日も来たのよ……もう駄目だわ……年だわ……』
綺麗で流れるような黒鹿毛に黄色のメンコとヘアバンドを着けているウマ娘が長机に突っ伏していました。
『先輩、まだ疲れ取れないんですか!?』
『マーベリックちゃんみたいな若い子と一緒にしないで……こちとらお酒が飲める歳になってもう何年も経つのよ……がくっ』
『ちょ、ちょっと先輩!』
『──というわけで、解説は私、アップトゥデイトが急遽担当することになった。よろしく頼む』
『アップちゃん!?』
昨日偶然見てしまった障害レース版逃げシス(仮)で構成されているらしい解説席の方はドタバタとしています。チラッと後ろを振り返ってそのテントの方を見ると、昨日見た芦毛ロングのウマ娘、アップトゥデイトがブロードマインドの代わりに座っていました。
(……気を取られちゃダメ! レースに集中!)
レース前から力が抜けてしまいそうになりましたが、気を取り直してパチッと両頬を叩いて気合を入れます。
そして簡易ゲートがあるスタート地点までたどり着きました。
(──あれ、心臓が……)
私はそこでやっと心臓がいつもより高鳴っていることに気づきました。緊張、しているのでしょうか……
「よし! 発走や。2人ともゲート入ってくれ」
ワル子が内側の1番ゲート、私が外側の2番ゲートに入ります。大きく深呼吸してスタートを待ちます。
「……はあ~……ふぅ……」
ワル子の方は向かず、心臓の高鳴りを感じながら目の前にあるゲートだけを見つめます。
なんにせよ、勝負の時がやってきました。集中──
──ガシャン!
『テイクオ……いやっ、スタートしましたあっ!』
ゲートが音とともに開き、一気に視界が開けます。踏み出す足に力を入れながらスタートを切りました。
ワル子の背中が私の少し先に見えます。どうやらスタートはワル子の方が速かったようです。
『スタートはゼッケン1番が先行、その2バ身後ろに2番がいます!』
2バ身差の位置を保ちながらワル子を追走します。
ワル子は内ラチ沿いぴったりに、私は内から少し離れて真ん中からやや内側のあたりを走っています。最初の障害が目の前まで迫ってきました。
『まずは第1障害。普段は水ごう障害ですが、今日は水抜いて埋めてあります! なので障害の高さは2mと低めです!』
『障害レース初心者に水ごう障害は危険からな。当然の判断だろう』
『アップちゃんなんか普通に解説してるし……おっと、1番が障害に近づいて──』
ワル子の背中が障害の手前でぐんっと低くなり、そこから片足で力強く跳ねていきました。
『踏み切って、ジャンプぅっ!』
ワル子の体が浮き上がり、スピードを保ったまま障害の上を飛んでいきます。そして瞬く間に障害の向こうにその体が消えていきました。足先でかき分けて、がさっと障害が音を立てています。
『1番無事飛越しました! 着地も問題なさそうです!』
『障害自体が低いとはいえ見事な飛越だな。スピードを殺さずうまくかき分けている』
『さあ次は2番ですが──』
そしてすぐに私の番がやってきました。昨日散々やった障害です。特訓通りにやれば大丈夫なはずです。そして
外に膨らんで横位置を修正、距離を測りながらステップし、最後の一歩でグッと膝を曲げ、下肢の筋肉に力を入れ地球を捉えるように踏み切っていきます。
目の前の障害が一気に視界から消え、障害の向こう側の景色が見えました。私は今、飛んでいるのです!
「──やっ!」
障害を足先でかすめながら高さギリギリを飛越していきます。
そして下に見えたターフに片足を下ろし、スピードとバランスを天秤にかけながら次の一歩のストライドを調節して踏み出します。
まずは1つ目、完璧に飛べた手ごたえを得ながらワル子の背中を追っていきます。
『2番も飛越! いや~本当に2人とも障害初心者ですか!? 2人とも見事な飛越です!』
『…………』
『ん? アップちゃ……失礼、解説のアップさん、黙っておられますがどうかしましたか?』
『いや、なんでもない。気のせいかもしれない』
『そうですか? とか、言ってるうちに1番が第2障害に向かっていきます。第1障害より1m高くて幅もほぼ倍となっていますっ! このコースでは最難関と言っていいでしょう! さあ、飛越できるでしょうか!』
加速しきったところと同時ぐらいに第2障害が待ち構えています。
ワル子がまず飛越していきました。さっきより低く屈んで力強いジャンプです。第1障害よりかき分ける音が大きくなっていました。
『踏み切ってジャンプぅ! 膝から下でかき分ける形になりましたが、1番は無事飛越を終えましたっ!』
『かき分けてもバランスを崩していないな。上手い』
『初心者とは思えない飛越です! これにはアップさんも太鼓判!』
レース中も聞こえる実況によると、ワル子は飛越をこなしたようです。角バ場だけでの練習でここまでできるなんて、流石はオープンまで勝ち上がれるウマ娘といったところでしょうか。性格はワルいですがそのセンスはまではワルくないようです。悔しいですが、そこは褒めるしかありません。
そんなことを考えられるぐらいには冷静だと、自己分析しながら第2障害に挑みます。心臓の高鳴りはいつの間にか消えていました。
「はっ……はっ……」
ワル子の一定の息遣いを耳にしながら、その背中を追っていきます。
やるべきことはさっきと変わりません。さっきより更に外へ膨らみ横位置を修正、障害との距離を測り頭に思い描いたステップの位置をターフに投影し、それをなぞるように脚を運んでいきます。最後の一歩で思いっきり踏み切って飛越します。
『2番、踏み切ってジャンプっ!』
生垣に必要以上足を引っかけないようにして、足首から先だけでかき分けながら飛越しました。着地もうまくいき、ピッチ走法から小気味よく体を加速に乗せます。
『全く危なげなく飛越! 小柄ながらなんというジャンプ力! 飛越だけなら1番より安定しているように見えます! どうですかアップさん? ……なんで後輩に訊いてんだろ……』
『…………ふっ』
『ちょっとアップちゃん、笑ってどうしたの?』
『いや、なんでもないよ先輩。後半、面白いものが見れるかもな』
『なに面白いものって……あっ! 失礼しました! 2人はコーナーを曲がって第1コーナーから第2コーナー間にある第3障害に向かっています! 2人の間は差が開いたでしょうか、3バ身から4バ身ほどの差がついています』
ワル子のペースは速く、少しずつその背中が遠くなっています。悔しいですが、未出走の私とオープンクラスのワル子なら、普通に平地を走るだけでどんどん差がつけられます。でも──
(そんなこと最初から分かってるの! それにこれは障害レースなんだから!)
そう、これは障害レース。ただ平地を走るだけではありません。
今のところ、
「……ふふっ」
思わず笑みがこぼれます。作戦が成功するかどうか確証はありませんが、それに賭けている今の状況を楽しんでいる自分に気がつきました。
走ることで劣っている私が勝つ……なんて素敵な響きでしょう!
やってやります、やってやりますとも!