【完結】ロリコンハゲトレーナー(仮)に拾われたら地獄でした 作:シェーク両面粒高
──以上が、今に至るまでの一部始終……回想パートでした。
気性難との逃走劇はトレセン学園中で繰り広げられました。
ヒトであるハゲ男の足の遅さに業を煮やしたロリウマ娘たちは、逃げ始めてそうそう3人で神輿でも担ぐかのようにハゲ男を持ち上げて走って逃げていました。そんな状態でも3人の足は速く、ちょうどそれでベンチを持った気性難と同速度といったところでした。
私は流石にそれよりは速いのですが、ハゲ男とロリウマ娘を見捨てるわけにもいかず、4人を先導する形で走っています。中庭からトレーニングコース外周やスタンドを回ったり、昼休みのウマ娘たちがいるエントランスを突っ切ったり、プールやウェイティングルームを巡ったりと、学園案内ツアーでもしているかのように走り回りました。そして今、私たちはトレセン学園の校舎内を走っています。
ちなみにハゲ男は担がれてずっと揺さぶられていたせいかグロッキーになっています。血色の良い肌は青白くなっており、「吐きそう……」と連呼したのち黙ってしまっています。
「い、いつまで追ってくるの~。ぜえ、ぜえ……」
そんな泣き言を漏らしたくなるぐらい、ベンチを振り回しながら追ってくる気性難はしつこく、まったく諦めてくれません。息が切れかけている私と違って疲れている様子もありません。無尽蔵のスタミナと言うべき他なく、疲れて追うのを止めてくれるのを狙っていた私にとっては誤算でした。
そして、無尽蔵とスタミナは何もあの気性難に限った話ではなく──
「あはは~たのしぃ! いろなとこいったね~!」
「エナ、たのしんでるばあいではないわ。かいけつさくをみつけないと!」
「ひっく……ふぇ……」
──このロリウマ娘3人衆も同様でした。それぞれ言っていることは違いますが、まだまだ余裕がありそうです。
(どういうスタミナしてるのこの娘たち!?)
そう心の中で言わざるを得ません。将来有望なウマ娘というのはこの歳にしてここまで体力があるものなのでしょうか?
「……って、あ!」
そんなことに気を取られていたからでしょうか。気づけば危機的な状況に陥っていることに気がついてしまいました。
無我夢中に逃げるうちに、廊下の行き止まりに来てしまっていたのです。必死になって周りが見えていなかったのでしょう。思わぬ失態です。
みんなして立ち止まってしまいました。
「いきどまりじゃない!」
「うぅ……みんなであやまろうよぅ……」
「やっと、追いついたぜ……!!!」
振り返ると、私たちから10メートルほど離れたところでベンチを片手で持ったままの超気性難が立ち止まっていました。ゆらあっと、彼女のポニーテールが揺れています。
「オーさん……あなた、ごかいしているわ! トレーナーがかわいくなんでもかいていいっていったのよ!」
「ほう……それは本当なのかハゲ?」
「…………ま、まあ……うっぷ」
ハゲ男は口を押えて何かに抗っています。それを見かねてエナが口を開きました。彼女たちが言っているのはチークピーシーズの悪戯の件でしょうか?
「トレーナーさんがなんでもしていいっていったのはほんとだよ! だからあたしもハニーもトレーナーさんもノリノリでやってたよ!」
「そうよ! われながらいいできだったわ!」
弁明しているのか開き直っているのかよく分からないスタンスです。
「……クックック。結局、みんな共犯だったって訳だ。覚悟は、いいか……?」
覚悟を決めたような気性難は体を捻ってそのベンチを持った片手をテイクバックさせました。どう見ても彼女はベンチを投げようとしているようにしか見えません! 改めて問いますが、ベンチは座るものであって投げるものではないですよね?
まずい。非常にまずいです。後ろは行き止まりで逃げ場がないのです。背壁の陣とでも言いましょうか。水なら飛び込めるものを……
(ほ、ほんとに投げるの!?)
どこか神頼みのように心の中でそう思ってしまいました。
でも彼女は見ただけで分かる気性難です。今更止まってくれるとは思えません。さすがにこのロリウマ娘たちには危険すぎます。最後に一縷の望みをかけて彼女に訴えてみました。
「せ、せめてこの娘たちには──」
「ハア!? 知らねえな! オラァ!!!!!」
聞く耳を持たない超気性難は振りかぶってベンチをこちらに投げつけました。
──ぶうぉん!
投げられたベンチがこちらに向かってきています。これに当たればウマ娘といえどただでは済まないでしょう。人間のハゲなんかは大怪我するかもしれません。
せめてロリウマ娘たちだけでも守らないと、と考えた私は彼女たちの前に割り込もうとしたのですが、そうはなりませんでした。なぜなら彼女たちがある行動に出たからです。
ハニーがエナとシューに声をかけました。
「エナ、シュー! とぶわよ!」
「うんっ! トレーナーさんは?」
「うえになげるっ!」
「おっけー! シュー!」
「……ひぅ!」
そのやり取りが終わった瞬間、ハゲ男が「…………おぅ!?」と言いながら高く宙を舞いました。3人が上空へ放り投げたのです。廊下の電灯を反射して空中に浮いているハゲはさながらミラーボールのようでした。
ベンチは既に3人の目の前に迫っていましたが──
「「「やあっ!」」」
──3人はジャンプして、ベンチを避けました。相変わらず見事な跳躍力です。ひとまずは彼女たちが大丈夫そうで良かった……って、次は私が危ないじゃないですか!?
目前に迫るベンチがスローモーションに見えます。これがかの有名なタキサイア現象ですか……とか考えている場合ではないです。こうなったら私も跳ぶしかありません! 幸か不幸か、これまでの自主トレの成果が生かされるときが来たようです。身長を考慮すれば、私は彼女たちより高く跳ばなければなりません。
膝を曲げて脚に力を溜め、縮めたバネを解放するように、意を決して跳び上がります。
「──やっ!」
跳び上がると一瞬で目線が高くなり、見下ろすとベンチが私の真下を通り抜けようとしています。
どうやらうまくいって、ジャンプして避けることができそうです。
(やった! 避けれ──あっ!)
──なんて、油断したのがいけませんでした。ジャンプだけで脚を畳むのを忘れてしまったのです。
つまり何が起こったのかというと、私の足首あたりにベンチが当たってしまったのです。それにより、空中の私は前方へバランスを崩し、地面に向かって頭から突っ込むように落ちていきます。
そして見事に、私は廊下と幸せなキスをしてしまいました。
「へぶっ!」
まるでギャグマンガのような声を残して、私の意識は遠のいていきます。
薄れゆく意識の中で見えたのは、落ちてきたハゲ男をキャッチして華麗に着地する3人のロリウマ娘の姿でした。
◇
(……ちゃんと避けたな)
ロリウマ娘3人衆とトレーナー、それと名も知らない背の低いウマ娘が投げたベンチを避けたのを見て、気性難のウマ娘はそう心の中で思っていた。
頭に血が上ってベンチを投げるという暴挙に出ていたが、実はちゃんと手心を加えていた。
と言うのも、投げたベンチはほぼ樹脂製で重量自体はとても軽いものだったのだ。普通のヒトでもなんとか片手で持てるぐらいの重さだった。逆に一発目に脅しで投げたベンチは木と鉄を使っていたものだったので、派手に中庭を転がっていったのだ。
そして最後の最後に投げる速さを手加減していた。もし当たったとしても頑丈なウマ娘なら幼くても怪我もしないだろうし、ヒトのトレーナーでも打撲程度に済むぐらいに調節していた。更に地面スレスレに投げて避けやすいようにもしていた。
──なお、当たり所が悪ければ……というところまで彼女は配慮していなかった。彼女は札付きの気性難なのである。
(ま、避けるとは思ってたが……)
ロリウマ娘たちの実力をよく知っていたので、あの程度を避けられたことに何も驚いていなかった。さすがは
もう1人の背の低いウマ娘……その素性は知らないが、このトレーナーと接触していることから
チークピーシーズの悪戯に関わった奴かと思っていたのだが、どうやら弁明しているのを見るに違うらしい。いつもとはイタズラの方向性が違っていたので、てっきり一枚噛んでいると思ったのだが……。床で倒れているのを見ると、申し訳ない気持ちがないでもなかった。
(こいつらはこんなもんでいいだろ……あとは)
元々、愛用の水色のチークピーシーズにイタズラされたことから始まった。
昼休みにトレーナー室へ忘れ物を取りに行くと、机の上にピンク色にスプレーで塗装されていたそれがあった。まだそれだけなら許せたが、「華麗に跳ぶのよ」だとか「がんばれー!」とか「誰がハゲや」とか「ハゲを無礼るな」などと、もこもこのチークピーシーズに細筆かなにかで丁寧に書かれていた。
流石に今回のことは度が過ぎていたので、今日はわざと追いつかない程度に走って追いかけ回した。これで十分にロリウマ娘たちにはお灸を据えることはできたので、あとはトレーナーの番だった。
トレーナーはロリウマ娘にキャッチされた後床にうつ伏せでその場に置かれていた。なぜなら、ロリウマ娘たちは顔面をぶつけたウマ娘の元へ行ったからだ。
「おねえさんだいじょうぶ!?」
「はなぢがでてるわ! はんかちでおさえて……」
「は、はなぢがでてるなら……からだ、おこしたほうがいい、よ。エナ、いっしょにおねえさんおこしてよう?」
「わかった!」
そんな彼女らを横目にして、うつぶせに倒れているトレーナーの元まで行って彼を見下ろした。
「おいハゲ」
「…………」
呼びかけてもトレーナーは微動だにしなかった。
「チッ、お前なにすっとぼけてんだ!」
気絶しているふりをしてる彼を引き起こそうとすると──
「トレーナーさんに手を出すより先に、彼女の身を案じるべきではありませんか?」
──と、背後から澄んだ声が聞こえた。もちろん、その声の主が誰だか知っていた。3人と一緒に海外からやって来た、サクと呼ばれているウマ娘だ。
掴んでいたトレーナーの肩から手を離して振り向くと、そこには毛先がウェーブがかったエアリーボブの艶やかな黒髪で、ルビーのような深紅の瞳をした嫌味なほど顔立ちが整っているウマ娘が立っていた。学園の制服に袖を通しているが、敬虔なシスターらしく頭にはシスターの帽子……ベールをかぶり、首から十字架のネックレスを下げていた。また、ベールから出ている右耳には赤地に青い横線が入ったリボンを結び、リボンの結び目に青色の星型の飾りをつけていた。その物腰は柔らかく、見方を変えればか弱さや儚い印象を抱かせるウマ娘だ。
しかし、その物言いには有無を言わせない威圧感のようなものがあった。
「なんであんたがここにいんだ?」
「あれだけ騒ぎになっていれば嫌でも耳に入ります。トレーナーさんは私が……あなたは寝たふりをしてると思っているのでしょうけど、彼、本当に気を失ってますよ?」
「はあ? ……マジかよ」
そう言われてトレーナーをひっくり返した。仰向けになった彼は顔色が悪く、目を回して気を失っているようだった。
「あなたはそっちの娘を。彼女も気を失っているだけでしょうから、トレーナー室のソファにでも寝かせてあげましょう」
「なんでオレが……」
「────」
悪態をつくと、細められたサクの深紅の瞳に貫かれた。それに気圧されて、渋々と言われたことを聞くことにした。
「……チッ、分かったよ。オラどけチビども」
倒れている彼女の元へ近寄り、囲んでいる3人を押しのけて彼女を肩に担いだ。
「あのね、オーちゃん」
「あん?」
「ごめんね。いたずらして。かわいいとおもったんだけどさ、おこらせちゃったんだね」
さっきまでのはしゃいでいた姿はどこへやら、エナは殊勝な態度で謝っていた。
「わたくしも、わるふざけしすぎたかもしれないわ……」
「ごめんなさい……」
それに続いてハニーとシューも頭を下げてきた。
3人とも本当に反省しているような様子だった。ここまでされて許さないほど、心の狭いオレじゃない。第一、1番ムカついたのはハゲのことを書いたトレーナーに対してだったのだ。
「……次はねえ。分かったな?」
「「「……うんっ」」」
聞き分けよく返事をした3人を背に歩き始めようとしたのだが、そこでトレーナーを起こしているサクの姿が目に入った。
「……おい、そのハゲはどうするんだ?」
「トレーナーさんは寮の自室へ。目を覚まされるまでお傍にいるつもりです」
「ケッ……献身的なこった。そんなハゲのどこがいいのかねえ」
「あなたは彼の良いところを知らないだけですよ……私も最初はそう思ってましたけどね? あなたにも、きっと分かる日が来ますよ」
「永遠に来ねえよ」
そう言ってその場をあとにし、トレーナー室へ向かっていった。肩に担いでいるウマ娘はまだ気を失っているようだった。
未実装の史実ウマ娘たちについてはいずれ解説します