【完結】ロリコンハゲトレーナー(仮)に拾われたら地獄でした 作:シェーク両面粒高
「う、う~ん……」
目を開くと、靄がかった視界の向こうに見慣れない天井と電灯が見えます。どうやら仰向けに寝かされているようです。その天井をぼんやりと眺めていると、徐々に意識が覚醒してきました。
(あれ? 私……たしか……──!)
そこで意識が戻った私の目に天井が焦点を結びはっきりと見えます。目をパチッと開き、体が勝手に動いたかのように勢いよく起き上がりました。どうやらソファに寝かされていたようです。お尻にふかふかとした感触を感じます。
(そうだ! ベンチを避けてジャンプしたら、脚引っかかって地面に……いたっ)
額と鼻に違和感を覚え、鼻の頭を触ると鈍い痛みを感じます。そして微かに血の味がします。口の中を切ったか、鼻血でも出していたのでしょうか?
そもそも、私がいるここはどこなのでしょう。あたりを見回してそれを確認しようとすると──
「────ん」
窓から入ってくる風が優しく吹いている部屋の真ん中に、キャンパススタンドに向かいペンのようなものを走らせている1人の小さいウマ娘の横顔が視界に入りました。くるくるのくせ毛の鹿毛ボブに黄色いベレー帽を被っているウマ娘でした。私はそのウマ娘を知っており、思わず彼女の名前が口をついて出ました。
「……シューちゃん?」
「……ふぇ?」
呼びかけられたシューは手を止めてこちらを向き、見るからにあわあわとし始めました。相変わらずくせ毛で目元は見えませんが、口を開けたり開いたりして「あうぅ、あうぅ」と言ってどうしたらいいのか分からないといった感じでした。彼女には失礼ですけど、正直カワイイです。愛でたい。あのくせ毛に指を入れて撫でまわしたい。
とかトリップしている場合ではないです。怖がってる彼女を安心させないと。引っ込み思案で人見知り気味の娘であるのはこれまでの関りで大体分かっていました。
「ごめんね。怖くないよ。ここって、どこ?」
「ひぅ……あうぅ……と、トレーナーさんのへや……だよ」
トレーナーさん……おそらくあのハゲ男のことでしょう。気を失った私をここに運んできてくれたということでしょうか。
と、そこである重要なことに気が付きました。あの気性難のウマ娘はどうなったのでしょう?
「えーっと、シューちゃん? 訊いてもいいかな?」
「な、なな、なに……?」
まだ私に対して警戒しているようです。肩を竦め、身を守るかのように両手を胸にやっています。
「あの、ベンチを振り回して追いかけてたウマ娘は……?」
「お、オーちゃん、どっかいっちゃった……」
「え? もしかして、まだ追いかけてきたりする?」
「……ううん。ぼくたち、わるいことして……で、でもオーちゃんゆるしてくれたんだ」
「じゃあ、もう大丈夫ってことだよね?」
「うん……」
「……はあ~、良かった~」
オーちゃんというのがその気性難のウマ娘のことなんでしょう。逃げているときにエナもハニーもそう言っていたことを覚えています。それを聞いて胸を撫でおろしました。とりあえず命の危機は去ったとみてよいでしょう。
「あ、あのっ……!」
「どうしたの?」
シューが声を張って何かを伝えようとしてくれています。できるだけ笑顔で、彼女が怖がらないように心がけます。
「オーちゃん、わ……わるいことしたな、っていっといて……って」
「……え? 私に?」
「う、うん。かんけい、なかったからって……」
どうやらあの気性難は勘違いして私を襲ったことを謝っているようです。それなら最初からこっちの話を聞いて欲しかったのですが……まあ、こうして私は元気にいるわけですし、結果オーライでしょう。
いつまでもソファにいるのも落ち着かなかったので、立ち上がって体を伸ばしました。顔面以外は特に痛みもないようで、怪我もしてないことに安堵しました。
「……ひぅ……」
私がそうしているのを見て、シューがこっちを見て身構えています。
こ、これでも怖がらせてしまうのですか……反省した私は仲良くしようと彼女に近寄っていきました。ちょうど、話題になりそうなものが彼女の目の前にあります。
「シューちゃん、絵描いてるの?」
「えっ……う、うん……」
「見てもいい?」
「……いい、よ……」
「どれどれ……えっ?」
キャンパススタンドに置かれた紙に描かれていた下書きを見ると、思わず驚きの声を上げてしまいました。そこに描かれていたのは風景……開けられたトレーナー室から見える外の風景が精巧に描かれていたのです。絵には明るくない私ですが、これが素晴らしいものであることぐらいは分かりました。
「これ、シューちゃんが描いたの? すごいね! すごく上手だよっ!」
「ふえっ!? ……そ、そう、かな……えへへぇ」
絵を褒めるとシューはへにゃっと口元を緩めて笑ってくれました。柔らかそうな頬がゆるゆるです。強張っていた肩の力も抜けたようでした。
「絵、描くの好きなの?」
「うん。すき……」
「あ、絵描くの邪魔しちゃったかな? ごめんね」
「ううん、いいよ。ちょっと、やすもうっておもってたから」
さっきまでと比べるとシューは滑らかに喋ってくれるようになりました。とりあえず、お近づきにはなれたようです。
「……ん? そういえば──」
そこで唐突に気づいたことがありました。気性難に追っかけ回されていたのが昼休みで、そこから気絶して今ここにいるということは、今何時なのでしょうか?
部屋を見回して見つけた壁時計を見ます。その時刻はとっくに昼休みを過ぎており、午後最後の授業時間の真っただ中でした。つまり──
「うわっ! 授業サボっちゃった!」
「ひうっ!?」
「あ、シューちゃんごめん。驚かしちゃったね……」
私が出した大声に反応してシューの体がビクッと跳ねました。彼女に謝罪してこれからどうしようかと悩みます。無断欠席をしてしまっているのでおそらく教師陣は激おこでしょう。とりあえず今からでも授業に出るべきでしょうか?
「あ、あの、おねえさん」
「え? なに?」
なにかを伝えようとしているシューが私に声をかけました。
「えっ……と、あのね。じゅぎょうはね、サクさんが──」
「教師には体調が優れないと報告しておきましたので、心配は無用ですよ」
「えっ?」
背後で扉が開かれる音とともに、初めて聞く女性の声が聞こえてきました。
扉の方に振り向くと、シスターの帽子をかぶった制服姿のウマ娘がトーレナー室に入ってくるところでした。彼女は肩にかからない長さでふんわりとした黒髪に赤い瞳をした恐ろしいほど美人のウマ娘でした。制服を着ているということは学園の生徒なのでしょうが、いままで見たことがないウマ娘です。こんな美人で特徴的な帽子をかぶっているなら、普通知っていると思うのですが……ん? シスターの帽子をかぶった美人? はて、どこかで聞いたような……
「サクさんっ……!」
「シュー、お留守番ありがとう」
サクと呼ばれたりウマ娘は、自身のもとへ駆け寄ってきたシューの頭を優しく撫でています。
(そういえば、プロンが何か言ってたな……えーっと)
昨日の昼休みにプロンがハゲ男について言っていたことを思い出します。たしか彼女は──
──『あと~、小さい子以外に見たことのないウマ娘も一緒にいたって言ってる娘もいるよ~。なんか、シスターさんの帽子かぶってる黒髪のすごい美人さんだとか~』──
と、言っていました……!
つまり、このウマ娘もあのハゲ男の一味でしょうか!?
そんなことを黙って考えていた私を見かねてか、このウマ娘は不思議そうな顔をして首を小さく傾げました。美人がするとめちゃくちゃ絵になる仕草でした。
「いかがされました?」
「いえっ大丈夫です……いやっ、あなたは? それに教師に報告って……?」
そう訊くと、彼女は納得したように手をポンと合わせて答えてくれました。
「私のことはサクとお呼びください。貴女が会った、あのトレーナーさんのウマ娘です。気絶していつ目覚められるか分からなかったので、クラス担任に午後の授業を欠席するとお伝えしておきました」
「そ、そうなんですか。どうも、ありがとうございます……って」
あのトレーナーさんのウマ娘……つまり、このサクってウマ娘はハゲ男の担当ってことですか? しかしなんであんなハゲ男にこんな美人が……とか、どうでもいいことを考えている場合ではないです。彼女たちの事は気になりますが、本来私はハゲ男の一味には関係ないウマ娘です。あの気性難もハゲ男の一味ならとんだ内輪揉めに巻き込まれたと文句のひとつでも言いたくなりますが、これ以上再び何かに巻き込まれる前にさっさとここを去るべきでしょう。なにか嫌な予感がぷんぷんするのです。
「では、私はこれで失礼します」
「あら、行かれるのですか? もう少しゆっくりしていかれても……お茶でもいかがです?」
「いえ、結構ですっ!」
サクの引き留めを躱して出入り口の扉を開こうと手を伸ばした瞬間、私の手が取っ手に触れる前に扉は開かれました。そこにいたのは──
「あれっ! おねえさん! おきたんだね! おはな、いたくない?」
──元気いっぱいのエナ。
「おねえさま。ごきげんはいかがかしら。そのようすだと、だいじょうぶみたいね」
──お嬢のハニー。
「おう、起きたんか。スマンかったな、ウチのアホが」
──ハゲ男。
「WOW☆ アナタがそうなのねっ!!! デジーよっ!!! ヨロシク☆」
──芦毛のサイドテールを紺色のシュシュで左に結っている、学園の制服を着ているウマ娘です。右耳には蘭の花飾りを着けています。もちろん初めて見るウマ娘です。周囲に星が漂っていると錯覚するようなキラキラしたオーラを放つウマ娘です。金色の瞳は星のように輝いています。
何がとは言えませんがこんなキラキラ人間はキツイです。キラキラしすぎて胡散臭ささえ感じられそうです。ていうか、そうなのねってなんですか。
以上、4人によって私は出口を塞がれていました。
──『プロン、それ本当? 私はやたらキラキラした芦毛のウマ娘だって聞いたけど』──
と、クロが言っていたことが思い出されます。この状況を鑑みるにこのウマ娘もハゲ男の一味なのでしょう。
「ん? もう帰るんか?」
「…………」
囲まれた私はその場に立ち尽くしていました。こんな状況で、帰れるわけないじゃないですか!
そう心の中で悪態をつくことしかできませんでした。
「帰らんのやったら中入ってくれ。ちょっと話したいことがあるねん」
「話したいこと……?」
今更何を話したいのでしょうか。このハゲ男にはセクハラされそうになったり騒動に巻き込まれたりと碌なことがありません。
「ああ。適当にどこでも座ってや。茶と茶菓子ぐらいは出すで……サク、茶出すの手伝ってくれへん?」
「はい、承知しました」
ハゲ男とサクは簡易キッチンのスペースに行き、カップなどを出して準備し始めました。残された私はとりあえず長テーブルまわりにあるパイプ椅子に座りました。するとその正面にデジーという芦毛のウマ娘が座り、こっちを真正面から見つめてくるではありませんか。
「…………」
「な、なんですか……?」
「……ワタシが誰か、気づかない?」
謎過ぎて怖くなってきます。もしかして知り合いでしょうか? いや、こんなウマ娘知りません。
そんな私たちを感じ取ったのか、ハゲ男が背中越しにこっちに声をかけてきました。
「デジー、そんな見たって相手は分からんて。日本じゃお前のこと知っとるやつなんてほとんどおらんって言ったやろ?」
「Hmm……ザンネンッ☆ でもこれから覚えてもらえればいいのっ!」
デジーはそう言うと立ち上がりピースサインをしてポーズを取り、更に私に向かってパチッ☆っとウインクしてきました。
「ワタシはデザートオーキッド。イギリスのトップウマドルよ☆ デジーって呼んでネ☆」
「は、はあ……デジーさん……うまどる?」
ウマドルとはウマ娘のアイドルのこと。中央でもどこかのウマ娘がユニットを結成して精力的にライブを行っていることを耳にしたことがありますが……
それよりイギリス! やっぱりこのウマ娘も海外のウマ娘だったのですね。
「デジーさん、あっちじゃいっぱいテレビでてるよ! ライブもいっぱいしてるんだあ。ダンスもうたもすごいんだから! おねえさんしらないのっ?」
「エナちゃん……うん」
私に寄ってきたのはエナでした。不思議そうな目でこちらを見ています。エナの言葉から察するに、知らないのが不思議なぐらい有名なウマ娘なのでしょうか。
「じゃ、ワタシはまた『ニゲシス』を探しに行ってくるわねっ! バイバイ、リトルガール☆」
「あ、はい。さようなら……」
デジーはそう言い残してトレーナー室を去っていきました。ニゲシス……どこかで聞いたことがあります。確か中央のウマドルユニットだったような。私はあまり詳しくないので細かくは知らないのです。
「さ、茶入ったで。エナも座りや。昨日はハーブティやったから今日は緑茶な」
茶を淹れ終わったハゲ男がテーブルにカップを並べます。サクはお茶菓子をそれぞれ椅子に座ったウマ娘たちに配っています。配られたそれは小皿に乗せられたきんつばでした。
そのカップに入った緑茶を見て露骨に顔をしかめているウマ娘がいました。高飛車なお嬢様、ハニーです。
「……さとうはないのかしら? りょくちゃはしぶくてのめないわ」
「わたしはすきだけどなーりょくちゃ。ハニーはまだまだおこちゃまだね!」
「なっ……! エナ、いってくれるわね」
「はいはい。ハニー、お砂糖あげるから無理はしないでね」
サクはハニーの前に角砂糖の入った瓶を置きました。ハニーはそれに目をやるも手を付けようとせず、緑茶を睨みつけたのちその小さい口をすぼめてふーふーしてから口をカップにつけました。
「……うぅ、やっぱりにがいわ……」
カップをソーサーに置いた彼女は「うえ~」と舌を出し眉根に皺を寄せてそう言うと、瓶から角砂糖を取り出して1つ2つと入れました。
そんなハニーと対照的にエナとシューは緑茶をそのまま飲んでいます。2人で身を寄せ合って笑い合いながらなにか話しているようです。最初会った時からそうでしたが、この2人は本当に仲が良いようです。
そんなロリウマ娘たちを横目して、自分もカップに口をつけます。ふわっとした瑞々しい香りが鼻を抜け、爽やかな渋みを舌に感じたかと思えばすっと引いていきました。端的に言うと、めちゃくちゃおいしいです。ハゲ男、なかなかやりますね……
「で、話なんやけどな」
いつの間にかデ私の正面に腰を下ろしたハゲ男。その横にサクが控えています。
「と、その前に。トレーナーさん、オジュウさんのことについて誠意をもって謝罪するべきかと」
「あー、そうやな。謝らなアカンな」
話を続けようとしたハゲ男をサクが制していました。オジュウサンとは一体……?
ハゲ男は背筋を正してこちらを真っすぐに見てきました。
「さっき追いかけてきたウマ娘……ウチのチームのウマ娘やねん。あのゴタゴタ、キミには関係無かったのに巻き込んで怪我までさせてすまんかった。本当に、申し訳ない」
そう言ってハゲ男はハゲ頭を下げました。頭頂部までつるつるのハゲでした。
……ハゲは置いといて、ここまで真面目に謝られたのだから許すことにしました。オジュウさんと言うのがあのウマ娘の名前なのでしょう。
「体は大丈夫ですから、いいですよ。それより話って何ですか?」
単刀直入にそう訊くと、ハゲ男は頭を上げて口を開きました。
「キミを、ウチのチームにスカウトしたいんや」
「…………」
やっぱり、というのが正直な感想でした。最初に会った時、セクハラじみた迫り方をされた際にそうじゃないかなと思ってはいたのです。
「はっきり言って、トレーナーさんに良い印象はありません。最初……体育館裏で会った時だって、私の体がいいとか、脚を触らせてって迫ってきたりとか、ひ、一目惚れしたとか、本気で気持ちわ……怖かったんです」
「うっ、それは……」
「──へえ、一目惚れ。トレーナーさん、そんなことを」
焦るハゲ男の横から氷のように冷たいサクの声がしました。サクはこちらを向いて柔らかく微笑んでいるように見えるだけに、その声色の温度の低さに驚かれました。焦っているハゲ男の額に汗が浮かんでいるように見えます。
「ご、誤解やサク。言葉の綾なんや……」
「トレーナーさん、後からお話が」
「ああ……」
がっくりと項垂れるハゲ男と相変わらず微笑んでいるサク。なんとなく、この2人の関係性みたいなものが見えてきた気がします。
ハゲ男はため息をついたあと、ごほんと咳ばらいをしてこちらに向き直りました。
「怖がらせたんなら謝る。すまんかった」
「あと、一応確認しておきたいんですけど……トレーナーさんはろ……ロリコンなんですか?」
「はあ!? なんやねんそれ! んなわけあるかい!」
声のトーンを上げて突っ込んでくるハゲ男は、まるでテレビで見る漫才師のようでした。
「いや、学園で噂になってるんですよ……たぶん、ハニーちゃんたちと一緒にいたからだと思うんですけど」
「ただの付き添いや!」
「本当ですか……? 海外から連れて来たって言われてましたけど、こんな小さい子を連れてくる必要があったんですか?」
「う……それは……確かに、実を言えばもっと上の年齢の娘でも良かったんやけど……」
ハゲ男が言い淀みます。この反応は怪しいです。
「……トレーナーさんは、小さい子が好きですか?」
「いや、まあ、うん。小さい子は好きやけ──って! 何言わせんねん! 普通の意味でやぞ! 小さい子を好ましく思うなんて普通やろ!?」
ハゲ男は自分にノリツッコミしたうえで逆ギレしてます。怪しい、怪しいです。警戒は解かないようにします。私はロリではないですが、とりあえず一応、です。
彼は疲れたように大きくため息をついてから話を戻しました。
「それで、スカウト受けてくれるか?」
「……そもそもなんですけど」
「ん?」
「トレーナーさんは……あなたたちは一体何者なんですか? 聞けば海外から連れてきたウマ娘とか、URAからの命令で動いてるとか、謎なことばかりなんです。スカウトされる身として、そこぐらいは聞かせて欲しいです」
「俺たちが何者か、か」
ハゲ男は一拍置いて話を続けます。
「中央のレースって大きく分けて3つのレースがあるやろ? それって何や?」
「え? 大きく分けて……短距離、中距離、長距離ですか?」
「いや、距離やなくて……まずは芝のレースがあるやろ。それがまず1つ。あとの2つは?」
そう言われて主旨を理解しました。芝が出るなら……
「ダート、ですよね」
「正解や。でもウチのチームは平地に興味はないねん。残されたもう1つのレース……それは?」
芝でもダートでもない。そう言われたら残されたのは1つしかない。
「障害レース……ですか?」
「正解や。大怪我と命の危険と隣り合わせの、文字通り命を懸けた障害レース。トレセン学園では壁に跳ね返され続けたウマ娘たちが流れ着く、最後の戦いの場所。何を隠そう、俺は障害専門のトレーナーや」
ハゲ男の言葉には重みがありました。彼が懸ける思いみたいなものが伝わってきます。
「じゃあ、ここにいるウマ娘たちは……」
「そうや。サクもデジーもスティープルチェイス……日本で言う障害レースのウマ娘。サクには日本の障害レースの現状を見てもらって指導に当たってもらってる。デジーは障害レースのプロモーション活動のために来てもらった。そこの3人は将来有望な障害レースのウマ娘……ポニースクールの短期留学に横やり入れたんや。みんな障害レースが盛んなヨーロッパのウマ娘たちで、全員俺が連れてきた。これは俺の目的でもあり、URAからの命令でもある……『障害レースを盛り上げる』その第一歩としてな」
ふわっとしたものではありますが、わざわざヨーロッパから障害レースのウマ娘を連れてきた理由がやっと明かされました。
「俺はな、日本の障害レースをもっともっと盛り上げたいんや。ウチのチームに入らへんか、レオ。キミに障害レースを走って欲しい。その跳躍力は絶対に障害向きや。俺と一緒に障害レースを盛り上げていかへんか?」
初めて私の名前を呼び、彼は私をスカウトしました。
……名乗ってないのに、それもなんで私の愛称を知っているの、なんてことは頭の片隅に追いやることにしましょう。