【完結】ロリコンハゲトレーナー(仮)に拾われたら地獄でした   作:シェーク両面粒高

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第6話 掌の上でコロコロですよ

「お断りします」

「へ? なんて?」

 

 ハゲ男はわざとらしく耳元に手を寄せてそう言いました。何ですかこの男は。難聴系主人公でも気取っているのでしょうか? 年齢と頭髪をやり直してから来てくれませんかね……

 

「……お断りします」

「なんでや!? だってキミ、チームに入ってないんやろ?」

「それはそうですけど、それとこれとは話が別です!」

 

 確かに、こんなハゲ男であってもスカウトされて嬉しかったのは事実です。でもさっき言った通りそれとこれとは話が別なのです。幼い頃から私はクラシック路線やティアラ路線を走ることが夢なのです。そのために頑張ってトレセン学園に入学したと言っても過言ではありません。

 いきなり障害レース専門のチームにスカウトされても、おいそれとは決められません。それはダービーや桜花賞を……果てには天皇賞や有馬記念をハナから諦めることと同義です。

 

「障害レースにトレーナーさんが懸ける思いというのは伝わってきました。でも、私は芝のレースを走りたいんです……ごめんなさい」

「う~ん……じゃあ、あのジャンプしてたのは何やったんや? 障害飛越の練習ちゃうんか?」

「あれは……しんちょうを……」

「は? なんて?」

「っごほん! とにかく、スカウトは受けることができません」

「……そうか……でもなあ……あのジャンプ力は」

 

 見るからに未練のありそうなハゲ男を見かねてか、横にいたサクがハゲ男を制するように口を開きました。

 

「トレーナーさん、レオさんにはレオさんの夢があり信念があります。彼女の意思を尊重すべきかと」

「そうやなあ……うん。残念やけどそやな。平地のウマ娘は専門外やし。スカウト受けてくれんならしゃーない。諦めるわ!」

 

 うんうんと悩んでいたハゲ男でしたが、最後は吹っ切れたようにそう言いました。

 

「……すいません」

「なんで謝るねん。キミはキミで頑張ってや!」

「はい、ありがとうございます……それでは、失礼します」

 

 椅子から立ち上がり、今度こそこのトレーナー室から去ることにします。そんな私に近寄って来る幼い影がありました。

 

「おねえさん、かえるの?」

「うん。またね、エナちゃん」

「またね! こんどはいっしょにはしろ!」

「……そうだね」

 

 そうは言いましたが、このスカウトを断った以上もうエナたちとも関わることもなくなるのでしょう。それはそれで寂しくなります。

 エナに続いてもう2人も駆け寄ってきました。

 

「わたくしもはしるわ。おねえさま。またあいましょう」

「ばいばい……おねえさん。え、またみてね……」

「うん。ハニーちゃんもシューちゃんも、またね」

 

 

 後ろ髪を引かれる思いがないと言えば嘘になりますが、私は別れを告げてトレーナー室を出ていきました。

 

 ◇

 

「……」

「トレーナーさん。そう気を落とさずに」

「…………」

「トレーナーさん?」

「この程度では諦めへんで俺は」

「諦めないって……レオさんのことですか?」

「ああ、あの体であのジャンプ力……惜しすぎる。絶対に障害を走るべきや。俺は諦めへんでえ……!」

「……あまり無理強いするものいかがかと」

「俺の諦めが悪いのはサクが一番よく知っとるやろ?」

「……はあ。そうでしたね。怪我をしたうえに心臓の病気を患って荒んでた私にどれだけ当たり散らされても、めげることなく接してくれたのがトレーナーさんでしたものね……」

 

 

 ◇

 

 

 そして翌日の放課後、チーム未所属のウマ娘を対象としている教官主導の合同トレーニングに参加するために私はコースに出ていました。金曜日は土日のレースに遠征するウマ娘のために午前で授業が終わるので、今は昼を過ぎたところです。私は地面に座って柔軟運動をしながら、教官がコースに姿を現すのを待っています。私の他にも同じようなウマ娘たちが大勢います。

 

 先程の昼食の席にて、クロとプロンに昨日あったことを話しました……ロリコンハゲトレーナーとそのウマ娘たちのことを。海外から連れてきたやら障害レースやら改めて考えてみると突拍子もない話ばかりで、『レオは一体何を言ってるの?』って目で2人から見られました。真実しか話していないのに訝し気な目で見られてなんとも言えない気持ちになりました。地動説を主張していた偉人の気持ちが分かった気がします。あと、どうやら2人は午後の授業にいなかった私を結構心配してくれていたようで、申し訳ないと思うと同時に少し嬉しくも思いました。やはり持つべきものは友達です。

 まあでも、ハゲ男のことはこれできれいさっぱり解決したのです。気持ちを切り替えて再びトレーニングを頑張ることにしましょう。

 

「よっと!」

 

 柔軟運動を終えて立ち上がります。一応開始時間になったのですが、まだ教官はコースに来ません。

 実を言うと、こういう状況は特に珍しいものではありません。教官も忙しい身なので遅れることはよくあるのです。生徒には時間厳守と言っておきながら教官自身は遅れてくるという社会の上下関係の現実を経験させてくれて感謝の気持ちを感じる……なんてことはありません。腹が立つだけです。ふぁっきん。

 

(今日も遅れるのか。先にアップがてらちょっと走ってようかな)

 

 そう思ってウマ娘の集団から外れ、ウッドチップコースのラチ沿いに走り始めてすぐのことでした。後ろからウマ娘の走る複数の足音が段々近づいてきています。どうやらどこかのチームのウマ娘たちが併せでもしているようです。そのウマ娘たちの邪魔にならないように外側に膨れるように進路を変更しました。

 ──どうも、それが裏目に出たのです。

 

「──えっ!? ちょっ!?」

 

 背後から驚いた声が聞こえた時にはもう遅かったのです。その声の主が私の背中にぶつかったのです。

 

「いてっ!」「あたっ!」

 

 私とそのウマ娘の声が上がります。背後から追突された形の私は前のめりになってバランスを崩し、勢い余って転んでしまいました。

 

「いたた……」

「ごめんねっ! 大丈夫? ケガはない? ……って」

「……ん? その声は……」

 

 ぶつかった相手は私を心配して声をかけてくれたようですが、その声にどうも聞き覚えがあります。その声色と、口調というか言葉遣いに違和感を感じつつも、起き上がってその相手に目を向けます。すると──

 

「げえ!? ワル子!?」

「ク、クソチビだったのかよ……!」

 

 ──いつもの声色と口調に戻ったワル子が立っていました。彼女もジャージを着ていて息を切らしてこちらを見ています。

 彼女はチームに所属しており、そのトレーニング中だったようです。彼女の背中越しに一緒に走っていたであろうショートカットのウマ娘がいました。

 

 親切心で避けてあげたのにぶつかられたことに私は激怒していました。ワル子のいぢわるに違いありません。

 

「せっかく避けてあげたのに、なんでぶつかってくるの!?」

「は、はああ!? 俺が避けてやったらお前が急に外に膨れてぶつかってきたんだろうが!」

「私が避けてあげたの!」

「俺が避けてやったんだ!」

「まあまあ2人とも……」

 

 宥めようとしているワル子のチームメイトなどお構いなしに、お互い一歩も引かずガチ恋距離と言えるほど至近距離で睨み合います。

 

「私が避けた!」

……近い、近いよぉ///…………お、俺が避けた!」

「むううううううう!」

「ぐううううううう…………///」

 

 主張する言葉はいつしか唸り声に変わり、そのまま睨み合いが続きます。この状況、目を逸らした方が負けだと否が応でも分かります。

 それにもう我慢の限界です。この邪智暴虐なワル子を許すわけにはいかないのです。何をしてでも今日こそは謝らせてみせます! 

 と、心の中で決意した時でした。

 

「────んで~!」

「ん? 今何か……」

 

 これまた聞き覚えのある男の声が聞こえた気がします。その声がした方へ振り向くと──

 

「──喧嘩はあかんで~!」

「え? ハg……いや、トレーナーさん!?」

 

 ──ハゲ男が私とワル子のちょうど間ぐらいをめがけて宙を舞って飛び込んできていたのです。

 

「なんでここに!? ……よっと」

「なんだコイツ!? ……おっと」

「うわああああああああ! 避けんといてや!」

 

 私とワル子はお互いに離れるように動いてその飛び込んでくるハゲ男を避けました。ハゲ男は私とワル子の間を通り過ぎ、ウッドチップの地面にダイブしたのちズサーと滑っていきました。

 うつぶせで倒れていたハゲ男はすぐさま起き上がり、こちらを振り向きました。

 

「いてて……アホ! 急いでって言ったけど、いくら何でも投げすぎや! ヒトはか弱いんやぞ! 俺が受け身下手クソやったら大怪我してるとこやぞ!」

 

 それは私たちに投げかけられた言葉ではありませんでした。内容からしてハゲ男を投げ飛ばしたであろう誰かに対してのものでしょう。私もハゲ男が向いてる方向へ目を向けます。

 するとそこには見知った3人のロリウマ娘がいました。

 

「トレーナーがなげろっていったのよ」

「あはは! げんきそうでよかったよ!」

「ふええ……ごめんなさい……」

 

 ハニー、エナ、シューの3人組です。昨日とは違い、学園のジャージを着ています。こんなサイズもあるのですね……

 投げたのはこの3人のようですが、ハゲ男を含めなぜこんなところにいるのでしょう? 

 こちらに寄ってきたハゲ男に声をかけました。

 

「トレーナーさん、どうしたんですか? なんでここに」

「トレーナー? お前、トレーナーいたのか?」

「……違う。偶然知り合っただけ」

 

 話の間に入ってきたワル子を適当にあしらいました。

 

「3人と学園内散策してて、偶然コースを通りがかったら言い争ってるキミを見つけたんや。教育者として喧嘩や諍いを見過ごすわけにいかんからな。飛び込んできた次第や。で、なんで喧嘩してたんや?」

「それは……走ってたら、このワル子が私にわざとぶつかってきたんですよっ!」

「はああ? 俺は避けようとしたって言ってんだろうが! 俺の進路を妨害してきたのはクソチビじゃねえか!」

「「むむむむむむ!」」

「なるほどな……そこまでや2人とも。喧嘩はやめとき。こういう時はウマ娘らしい良い解決方法があんねん」

「「良い解決法?」」

 

 私たち2人の視線を(ほしいまま)にしているハゲ男が得意げな顔をして人差し指を立てました。

 

「ウマ娘なんやから、こういうときは模擬レースで決着をつけるんや。勝った方が負けた方に謝る……ないしは負けた方に何でもひとつ命令するってのはどうやろ?」

「模擬レースですかあ?」

 

 なんとも突拍子もない話です。ぶつかった責任の所在を探しているのにウマ娘だからといってレースで解決するとは話が強引すぎないでしょうか。そんな実力至上主義な話がまかり通るなら警察も裁判所もいらないと思うのです。あんなのは教室だけにしてほしいです。はっきり言って私は乗り気ではありません。

 ですが、ワル子はどうやら違うようです。

 

「──へえ、悪くねえな……! やろうぜレース」

「なっ……」

 

 私とは逆にワル子はなんと乗り気のようです。

 

「なんだクソチビ? お前、負けるのが怖いのか?」

「ぐ、ぐううう」

 

 ワル子のその反応を見て内心納得がいきました。よくよく考えれば、彼女にとっては有利な話なのです。

 彼女は既にチームに所属しており、オープンクラスまで勝ち上がっています。むかーしむかし、中等部の模擬レースで私は勝っていたとはいえそれはもう過去の話。なんとも忸怩たる思いではありますが、客観的に見れば私より彼女の方が速いのは明白です。

 だから彼女はこんなに乗り気なのでしょう。だってほぼ勝ち確の勝負なのですから。

 

「おっと、そういえばキミって芝? ダート? 距離は? 中央でどこまで勝ち上がってる?」

 

 ハゲ男が思い出したかのようにワル子へそう訊きました。

 

「芝でマイル、オープンまで行ったけど」

「おお、やるやん。それじゃあ、単なる芝のレースにしたらレオには厳しいなあ。やっぱり勝負はフェアでないとアカンし……そうや!」

 

 ハゲ男は何か閃いたようにわざとらしく手を打ちました。

 

「平地じゃなくて、障害レースで勝負するってのはどうや? どっちとも障害初めてやし、距離も長めや。条件としてはフェアちゃうかな?」

「なっ……!」

 

 障害レースですって! やはりこのハゲ男はその方向に持っていきたいのでしょうか。まあ、障害レース専門のトレーナーなら分からなくもないですが……

 

「障害だあ?」

「ああ。でも、障害って言っても結局は平地力も大事やからな。そう考えればキミの有利は揺るがんな」

「ふーん……いいぜ、障害レースで勝負してやる。おいクソチビ、まさか逃げるなんてことはないだろうな」

「ぐぐぐ……わるこぉ……!」

 

 トレーナーの言う通り、結局平地力が大事だというのなら私には不利です。トレーナーにもジャンプ力を褒められたとはいえ、障害を飛ぶのが初めてなので、障害飛越に対する2人の条件はイーブンでしょう。

 しかし、挑発めいたワル子の言葉と態度に私はめちゃめちゃ腹が立っていました。ぶつかられたことも合わせてのダブルパンチです。確かに私は短気ではあります。

 負けると分かってはいても、乙女には戦わなければならない時があるのです! やってやろうじゃありませんか!

 

「いいよ! やってやろうじゃない!」

「お? いいんだなクソチビ? 負けたらどうなるか覚悟しとけよ…………レオちゃんとあんなことやこんなことを///……」

「ん!? 何か言いましたか!?」

「な、なんでもねえよ!」

「決まったな。今日は金曜日やし、キミ、今トレセンでトレーニングしてるってことは土日にレースはないんやろ? じゃあ明日土曜日にレースでどうや?」

 

 私も用事などなかったのでちょうどよいです。

 ハゲ男のそれに2人とも頷きました。

 

「じゃあそれで。朝9時にここのコース入り口に集合な!」

「おう、いいぜ……じゃあなクソチビ。明日、首洗って待ってろよ」

「ワル子こそ首洗ってきてよ! べーっ、だ!」

 

 舌を出してべーっとしてワル子を見送りました。ワル子はチームの仲間と走り去っていきました。

 

「よし、じゃあ行くで」

「へ? どこに?」

 

 ハゲ男はさも当然のように私にそう言ったのですが、私には意味が分かりません。

 

「勝ちたいんやろ? じゃあ今から特訓や」

「特訓?」

「ああ、今から障害レースのトレーニングコースに案内するわ。そこで特訓するでえ」

「……障害、レース……」

「? どうしたんや?」

 

 いつの間にか障害レースを走ることになっていました。ハゲ男の策略とも呼べない強引な策にまんまとハマった形になったことに、そこでやっと気がつきました。

 でも、どうやら後戻りはできないようです。

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