【完結】ロリコンハゲトレーナー(仮)に拾われたら地獄でした   作:シェーク両面粒高

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第7話 いざ潜入

「障害用のトレーニングコースって……障害がある角バ場のところじゃないんですか?」

 

 コースから離れていくハゲ男の後についていく道すがら、私は彼にそう訊きました。今私が言ったように、トレーニングコースの真ん中にある角バ場には障害レース用と思われるバーが多数置いてあったり、飛び越えるための生垣も置いてあったりしています。

 

「あれはホンマの障害に慣れるための遊びで置いてあるもんや。あそこでウマ娘が何人も集まって練習してんの見たことあるか?」

「……ないですけど」

「ほんで俺らが今向かってるのは障害専用のトレーニングコースや。平地のウマ娘は存在すら知らんやろうな。まあ、立地が立地なんもあるけど」

 

 そう言ってハゲ男はどんどん歩いていきます。トレーニングコースからも校舎からも離れて、気づけば学園と外を分かつ森の方までやってきていました。本当にこっちの方にあるのでしょうか。

 不安と共にどこか心もとなくなってきたので、一緒に後をついてきているロリウマ娘たちにそのことを訊いてみることにしました。

 

「……みんなは知ってるの?」

「ええ。なんどもあそこでれんしゅうしてるわよ。おねえさまこそ、しらなかったの?」

「うん。恥ずかしながら……」

「とっっっても、たのしいよ。にほんのしょうがいもすっごくたのしい! ね、シュー?」

「うんっ。エナといっしょにとぶの、たのしい」

「あたしも、シューととぶのたのしいな!」

 

 いつものようにいちゃいちゃし始めたエナとシューを微笑ましく思うのと、どうやら障害用のトレーニングコースはあるらしいと安心していました。

 そうしていると、いつのまにかハニーが意味ありげな目線をこちらに送ってきていることに気がつきました。

 

「ねえ、おねえさま」

「なに? ハニーちゃん」

「おねえさまは、あのかたとしょうぶするのよね?」

「あの方……ワル子のことね。うん、そうだよ」

「しょうぶするからにはぜったいにまけてはいけないわ。しょうぶはかつことがすべてなのよ」

「ハニーちゃん……」

「そのためにはさいだいげんどりょくするのよ。そしてせいせいどうどうと、まっしょうめんからあいてをたおすの!」

 

 ハニーから予想以上の強い言葉が出てきてきました。彼女は勝利に対する意識がとても強いようです。この年齢でこんなことが言えるなんて……こんな強いことを言えるウマ娘になりたいものです。

 

「よし、着いたで」

「……えっ?」

 

 ハゲ男はそう言って立ち止まりました。どうやらここが障害用の──

 

「……どこが、ですか?」

 

 ──トレーニングコースだと思ったそこには森しかありません。いつ間にか地面は石畳からターフのように草の生えた地面になっていました。一体このハゲ男には何が見えているのでしょうか。もしかしたらさっき頭を打ったのかもしれません。速やかに保健室に連れて行った方が……

 

「そこに入り口があるやろ」

「え……あれが入り口ですか!?」

 

 ハゲ男が指さした先には森がぱっくりと口をあけており、奥までの道が続いていました。その道は鬱蒼とした木々から零れる木漏れ日によって照らされていますが、その奥の方は真っ暗で分かりません。まるでゲームとかに出てくる、入ったら出られない迷いの森のようです。道の横幅が広いので余計に不気味に見えます。

 それに入り口から見えるだけでも木の根が道にせり出していたり、蔦が道を横切っていたりと、お世辞にも整った道とはいえないのです。

 

「これを進んでいったら障害用トレーニングコースに着くんや。木の根っこやら倒木があったりするからちゃんと飛越してな。躓いて転ばんように。なあに、障害ウマ娘にとっちゃ朝飯前のアップみたいなもんや。さっきしっかり準備運動しとったみたいやし大丈夫やろ。じゃ、気をつけておいでや~」

「ちょっ……トレーナーさんはどこ行くんですか!?」

「俺? ヒトの俺がそんな道通れるわけないやん。俺はこっちや」

 

 ハゲ男がその入り口を通り過ぎて10mほど行ったところには自転車が何台も置いてありました。その先には森に向かって人が3人ほど並んで通れる道が続いていますが、私の目の前の道と違うのは地面は石畳で舗装され、周りの木々も切られていました。暖かい日差しが道を照らしています。脇道には外灯も設置されているようです。

 

「私はこっちじゃ駄目なんですか?」

「そこの3人はいっつもその道通ってるで。ほら、みんな今日も走る気満々やろ? 監督がてら一緒に走っておいで。無理そうやったらゆっくりでええから。じゃあな! 先行ってるで!」

「ええ……」

 

 そう言ったハゲ男は自転車に乗ってその舗装された道に入っていきました。それを見送って振り返ると、ロリウマ娘たちは足を延ばしたり足踏みしていたりと走る準備をしていました。

 

「よし、いくわよ。じゅんびはいいわね」

「おっけー!」

「うん、だいじょうぶ……」

「じゃあきょうそうよ! And……They're Off!」

 

 ハニーがそう言うや否や3人はその森へ突っ込んでいきました。

 

「えっ! ちょっと……!」

 

 このままじゃ置いてけぼりを食らいます! 遅れないように私も森の中に突っ込みました。入り口にあった木の根を飛び越えて森の中を進んでいきます。

 3人が入ってからすぐに森に入ったことが幸いして、前方に3人を確認できる位置を取ることができました。

 

(ちょっと、これは……!)

 

 地面自体は荒れておらず平坦で走りやすいぐらいなのですが、それを補って余りある障害物の数々が待ち受けていました。木の根や倒木、高さ自体は高くないので跨いで超えられるものがほとんどですが、走りながら飛び越えるというとまた別の話です。走らないと前の3人に置いて行かれてしまうのです。

 その3人は障害を飛び越えながら快調に走っています。3人とも今のところは上手に飛び越えています。私は前の3人の面倒を見る余裕はなく、正直ついていくだけで精一杯です。

 

「あっ!」

 

 そのとき前方から驚いたような声が聞こえました。目を向けると、シューが足先を倒木に引っ掛けたようで空中で前のめりにバランスを崩しています。

 

「シューちゃん──」

「っ!」

 

 声をかけようとしたときには、シューはバランスを立て直して着地して再加速しました。そしてあっという間に前にいたエナとハニーに並びかけます。何というバランス能力と加速性能でしょうか。

 

「シュー、けがない!?」

「だいじょうぶ……! もっとジャンプはやくしないと!」

 

 エナにそう声かけられて力強く返事をするシュー。普段の気弱なシューからは想像できない姿です。完全に戦うウマ娘になっています。

 

「よっ……ほっ」

 

 私は今のところ躓くことなく走れています。油断は禁物ですが、目の前の障害物だけでなく前方にある次に来る障害に目を向けるぐらいには余裕が出てきました。障害を飛び越えるときに速度を落としてしまいますが、さすがに平地のスピードなら幼い彼女より私の方に大きく分があるようです。

 ついでに前の3人にも目を移します。3人とも並ぶように走っているのですが、それぞれ特徴があることに気がつきました。

 

 まずはハニー、障害のない平地を走るスピードは彼女がずば抜けています。しかしそのジャンプ自体は他の2人に比べると高いものではなく、高さのある倒木などがあると少しスピードを落としているようです。

 エナは3人の中で一番安定した走りとジャンプをしています。障害物に引っかかるような場面がなく、ジャンプした後もスピードを落とすことなく速度を維持しています。全く隙のない走りと言ったところでしょうか。

 シューはハニーよりジャンプが高くスピードが落ちていません。そして加速性能で言うならエナより上でハニーと同等なようですが、どうも地面が水分を含んで柔らかいところだとジャンプが危なっかしく、走りのスピードも落ちています。

 全体的に見ると、平地が長く続くとハニーとシューが抜け出しますが、障害が連続するとエナが抜け出します。

 

(ひとりひとり、全然違うんだな……)

 

 3人を見るとそう思わずにはいられませんでした。こうして見るだけでもどこか楽しくなってきている自分に気がつきました。

 そんなことを思いながら走っていると、前方に光が見えました。トンネルの出口のように、走っているとその光が段々大きくなってきています。

 

「ゴールよ! ぜったいにまけないわ!」

「あたしもほんきでいくよっ!」

「……ぼくが……っ!」

「「「やああああっ!」」」

 

 3人はそう言ってスパートをかけて走っていきます。こちらからは背中しか見えませんが、まるで本番のレースのような覇気を感じます。

 そしてあっという間に光にたどり着き──

 

「はあ、はあ……わたくしがいっちゃくね!」

「え~、あたしだよ! あたしのほうがさきにあしがでてた!」

「……ぼくが、かった」

「う~ん。またひきわけかな。きょうもけっちゃくはおあずけだね。シュー、ハニー」

 

 ──森を抜けた3人は地面に倒れこみ、息を切らしながら仰向けで言い合っています。3人は横一線で抜け出したように見えたので、後ろにいた私はその勝負の行方については何も言えません。

 私は息を整えると、顔を上げて開けた景色を改めて目を移しました。障害ウマ娘たちがトレーニングに励んでいます。

 

「ここが──」

 

 普段私たちが使っているコースと同等の広さを誇る障害用のトレーニングコースが目の前に広がっていました。しかし、平地用のコースと違い、生垣や竹柵を使った障害がコース上に置かれており、周りは森に囲まれています。トレセン学園から離れていない……それどころかここはトレセン学園の敷地内なのに、別の世界に来たような感覚を覚えました。

 そしてなにより、ここのウマ娘は平地コースのウマ娘と()()のが気になっています。

 

「お疲れさん。無事着いたようやな。ジャージ汚れてないし、転ばんと来れたみたいやん。良かった良かった」

「トレーナーさん……」

 

 ハゲ男があっけらかんとした様子で現れました。

 

「ん? どうしたんや? なんか気になることでも……もしかして怪我したんか!?」

「いや、怪我はないです。ちょっと気になったことが……」

「気になったこと?」

「トレーニングをしているウマ娘たちなんですが……」

 

 私が見ている方へハゲ男も顔を向けました。そこにはある男性トレーナーと1人のウマ娘がトレーニングをしていました。私たちから距離が近いためその会話が聞こえてくるのです。

 

「はあっ、はあっ……っ、くぅううう!」

「何やってんだ! 飛越低いぞ! 危ねえぞしっかりしろ!!!」

「っ!! は、いっ……! あ、あああああああああ!」

 

 生垣の障害をふらふらになりながらも飛び越えている1人のウマ娘を、トレーナーが声を張り上げて指導しています。それは何もこの2人に限った話ではなく、他に何組も同じようなウマ娘とトレーナーがいました。

 平地のコースでもこのような光景は見ることができますが、それとは何かが違います。なんというか、ウマ娘が必死過ぎるかのような──

 

「あんなんここでは日常茶飯事やで」

「そ、そうなんですか?」

「昨日言うたやろ? 日本……中央における障害レースってのは『壁に跳ね返され続けたウマ娘たちが流れ着く、最後の戦いの場所』なんや。今障害を走ってる多くがデビューしても未勝利で勝ち上がれなかったウマ娘。言葉通り最後の戦いの場所……ここで負ければ、もう後はない。中央にいられなくなる」

「そんな……」

「嫌な話やけど現実や。というか、高等部なら学園から去っているウマ娘何人も知っとるやろ?」

「それは、そうですけど……」

 

 ハゲ男の言う通り、トレーナーと契約してデビューするも勝てなくて学園を去った知り合いは何人もいます。そういう知り合いを見るたびに現実の厳しさみたいなものを痛感したのを覚えています。

 

「これが良いか悪いかは分からん。日本の特色といえばそれまでやけど、個人的にはもっと楽しく走ったらいいのにとは思うで。それこそ、ウマ娘自らが障害を目指していって……障害が芝やダートと同格になればもっと変わってくると思うんや。もちろん楽しくやってるチームもあるし、厳しいチームがあるのも別にええ。そこは勘違いせんようにな」

 

 ハゲ男はそう言って、トレーニングを続けているウマ娘たちをじっと見ています。その視線にどんな意味や感情があるのか、私には分かりません。ただ、ヨーロッパでトレーナーをやってきた彼に何か思うところがあるのかだけは分かります。

 

「あら、トレーナーさん。レオさんがなぜここに……?」

 

 私たちが話しているところにシスターの帽子をかぶったウマ娘……サクがやってきました。相変わらず美人さんです。彼女は最初からここにいたようです。サクは障害レースの指導をしてもらっているとハゲ男が話していたので、今がそうなんでしょう。

 

「おうサク。ありがとう。この娘の前に、オジュウは?」

「オジュウさんはトレーニングルームです。どうもまだ筋力がアンバランスなので。それでレオさんは……まさか、無理やりですか!?」

「ちゃうちゃう! 説明するわ──」

 

 そうしてここに至るまでの経緯をハゲ男がサクに説明し始めました。サクは途中訝しむようにハゲ男を見てツッコミを入れていましたが。最後はどうやら納得したようでした。

 

「……トレーナーさんに言いたいことはありますが、そういうことでしたら承知いたしました。お力になりましょう」

「ありがとうございます!」

「よし、そうと決まれば早速──」

 

 ──と、そこでガサッと何かが引っかかる音がしたのと同時に、ドンッと鈍い音が聴こえてきました。その音がした方を見ると、生垣障害の横にロングヘアをした鹿毛のウマ娘が1人倒れていました。

 

「トレーナーさんっ!」

「ああ!」

 

 サクとハゲ男はすぐさまそのウマ娘の元まで駆け寄っていきました。それに続いて他のウマ娘やトレーナーも駆け寄ってきます。私も一足遅れてその場まで行きました。

 

「どこ打ったんや!?」

「……っ、肩、を……」

「頭は、脚は!?」

「いえ、肩だけ、です……ぐっ……っ」

「起こすで……トレーナーは?」

「明日のチームメイトのレースで遠征してて、いなくて……っ」

「分かった。痛むのはどこや──」

 

 ハゲ男はそのウマ娘の負傷箇所である肩を触ったり動かしたりして調べていました。そのなかで激痛が走ったのか「っ!!! ああっ!!」と大きく声を上げる場面がありました。

 

「たぶん鎖骨と肩鎖関節あたりや。頭から落ちんかっただけ偉い。ようやったな」

「は、い……っ!」

「今から保健室行って治療してもらえ。最悪病院やな……おい! 誰か担架持ってきて運んでくれんか!?」

「トレーナーさん、私が」

「サクには任せん。その脚のこと忘れんなよ」

「……はい」

 

 有無を言わさないハゲ男に押されてサクは引きました。

 それを見てか、どこかのトレーナーが声を上げました。

 

「俺のチームのウマ娘に任せてくれ。お前ら、頼めるか?」

「もち!」「障害レースの仲間だもん。任せて」

 

 その男性トレーナーの担当ウマ娘2人がすぐさま担架を持ってきて、それに負傷したウマ娘を乗せました。そしてあっという間にハゲ男が自転車で通ってきた道に消えていきました。

 それを見送ったトレーナーとウマ娘たちは彼女を心配する言葉を交わした後、別れていきました。

 

「……ん? レオ、どうしたん?」

「あっ、いや……ちょっと衝撃的だったもので」

 

 平地ではまずありえない怪我です。それにウマ娘はヒトより頑丈なので、ちょっとやそっとのことじゃケガしないのですが……

 

「スピードの乗った状態で障害に足を引っかけたら、その勢いのまま叩きつけられるからな。いくらウマ娘でも負傷するわ。脅すわけやないけど、障害は大きいケガは多いんや……レース人生、そんでその命までも──」

「──トレーナーさん」

 

 ハゲ男の言葉を遮るようにサクが口を開きましたが、その言葉は続きました。

 

「──ま、理由はどうであれ真面目にやってくれってことや。一回きりの模擬レースとはいえ、な」

「……はい」

 

 ハゲ男が言うことは、今の光景を目の当たりにした自分にとって理解するのに十分でした。

 

「よしっ、気を取り直して行くで! まずは飛越の練習からしよか! こっちはモノホンの障害で練習するんや、あのワル子ちゃんには負ける訳にはいかんでええ!」

 

 かくして、1日限りの特訓が始まります。

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