悲劇のヒロイン妄想症候群   作:けゆの民

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 ハーメルンの多機能フォームを使えば勘違いものを書きやすいのではないか、と勘違いしたので初投稿です。
 本小説はとてもゆっくりのんびりと更新していきたい所存です。


転校聖女はわからない
1□転校生は話せない


 

 

 ──彼女が教室に入ってくる。

 

 

 突然の転校生紹介にざわめきを作っていた生徒達も、その姿を一目見た瞬間に一様に静まる。

 

 春の陽光を照り返し輝くその金色は透き通るようで。

 誰もが息を呑み、その美しさに見とれてしまう。

 まるで神が祝福しているかのような神聖さすら帯びている彼女は、教壇の真ん中まで進む。

 

 全生徒の注目が一人の転校生に注がれ、彼女は担任に促され自己紹介をする。

 

 

 

「──よろしくおねがいします。ろくです

 

 

 

 その口から発されたのは謎言語だった。

 彼女を少し見れば異国からの来訪者だということは容易にわかる。

 故にクラスの面々はこう考えた。

 

 きっと日本語に不慣れだから母国語で挨拶しているのだ、と。

 慣れない異国で、見知った人もいない土地。そんな場所で新たな知己を作るために思いを振り絞って母国語で挨拶をしてくれたのだ、と。

 熟れたリンゴのように赤く染まった頬も、その思いを表したものに違いないと。

 

 

 

 一方、その注目されている転校生といえば。

 

 

 

(意味わかんないって! そんな急に話せるわけないじゃんさぁ! こんな人に見られて! こちら陰キャだよ陰キャ! 今の今まで永年ひきこもりで通して来たんだからぁ!)

 

 

 

 そんな神聖さのカケラもないことをほざいてた。

 

 

 

(華の高校生といえば恋愛! 爛れた性活! そんな愛憎恋愛劇場を見るためにわざわざひきこもりを脱却したのに! なんで私がこんなに見られてるの!?)

 

 

 お前が転校生だからだよ。

 外面からはとても想像出来ないほど下世話な内心を溢しながら、顔を更に赤くする。

 クラスの一部の察しのいい(わるい)人は可哀想なことにもその赤面を、私達(にぎやかし)の反応が一切ないからだと考えた。

 どこからともなく、教壇に向けて声がかかる。

 

「Nice to meet you !」

 

 

(何何何何何何何何何何何なんで?? この学校、もしかしてアメリカン専用イングリッシュスクールだった??)

 

 目の前にいる人類が日本人であるということにすら気づけない彼女は、冷静を取り戻すために深呼吸をする。

 

(そうっ、私は爛恋愛(ただれんあい)を見るために自宅警備員を脱却したのよ……! こんなことで焦っててどうするの!)

 

 お前の脳内が一番爛れてるよ。お前が一番だ。

 どこからともなく湧いてきた勇気を振り絞り、彼女はもう一度発声する。

 

 

「わたしのなまえは、ロク・モロフルです!」

 

 

 頼むから解読可能な言語で話してくれ。

 盛大とかいう次元ではない噛み方をしたものの、実情として彼女はいまだ日本語しか話していない。

 数秒前に発された謎言語も噛まなければ『わたしのなまえは、ロク・モロフルです!』と発音されていたはずなのだ。

 ……問題は、その原型が残らないレベルで呂律が消し飛んでいることではあるが。

 

「あー、この子はロク・モロフルという。見ての通り海外出身だから色々あるかもしれないが……まあ、頑張ってくれ」

 

 混迷としてきた状況をなんとなく察した担任から補足が入る。

 これがつい昨日に入学手続きに際して呼び出した時、2時間かかってようやく聞き出せた情報の全てである。

 

 大学で言語学が専門であったという副校長すら聞いたこともない言語を操るロクの扱いにとてつもなく困った担任──富田だが、二時間の葛藤の末諦めを覚えたのだ。

 こういうのは同年代のほうが解決しやすいだろう、と生徒に全力で課題をぶん投げて今ここにいる。

 

 ストレスからか昨日、普段より多めに飲んだ深夜酒が二日酔いとなり、頭痛へと姿を変じているのも現在の諦めを加速させている要因の一つである。

 

「この子の席はそこ、そこの空いてるとこってことにするから。じゃあ1時間目のホームルームは話すこともないし、ロクと親交を深めあってくれ」

 

 じゃ、と言って担任は職員室へと帰っていく。

 

 そんな中、ロクはキレていた。

 名も知らぬ担任が盛大に噛んだのをフォローしてくれたのは助かった。なので全て担任の翻訳に頼ってこれからの学校生活を送ろうと考えていたところに突然の裏切りであった。

 空いている席まで歩いて行け、と言われた時点でキレ散らかしていた上に突然の職務放棄である。もうそれはキレた。外面や言葉として出ていないだけで本気でキレていた。

 

(あの職務放棄担任、訴えたら勝てるんじゃないか? 賠償金として軽く700万くらい請求させられるんじゃないか? そうだ、しよう。そしたら今後の生活費も潤沢になるし、なにより私の鬱憤が晴れる)

 

 仮にも昨日、二時間を費やして手を尽くして対応してくれた人への対応である。

 

 憤怒を抱えたまま、ロクは席へと向かう。

 

(まあ? 私は心が広いのでね。こんなことで一々キレたりしないわけよ。体力がもったいないし!)

 

 どの口がほざいているのだろうか。

 

 ロク本人としては内心煮えくりかえっているが、つとめて冷静な様相を装って歩いていく。

 指定された席まで歩くという無理難題──と本人は本気で思っている──をこなすため、ゆっくりと歩く。

 

 その様子を見たクラスのお歴々は考える。

 まるで聖女のような優雅さである、と。

 誰にも、何にも侵しがたい神聖さを放ちながら歩いている、と。

 

 都合のいい(わるい)ことに、雲の切れ目から一筋の光が窓越しに射し込み、ロクの歩む道を照らしていく。

 後光が零れているようにしか見えなくなったロクだが、本人は全員の視線に耐えることで必死であり、後光だとか天気だとかいったしょうもないことに意識を裂いている余裕は全くなかった。

 

 

 やっとのことで席に座り、ロクは落ち着く。

 無事に着席した。無事に着席した以上もう目立つわけなく、話しかけてくる人もいないだろうと。

 

なわけないだろお前は転校生だ。

 

「えっと……ロクさん? って読んでもいいかな?」

 

 不幸にもこのポンコツに話しかけてしまっま人類の名は佐藤成明(さとうなりあき)

 日本名字ランキングで堂々の1位を記録する凡百さを兼ね備えた──この場において、ある意味最も不幸な人類である。

 

(隣の席ってだけで話しかける? 普通)

 

 普通に転校生が隣の席に来たら何かしらのリアクションくらいはする。

 心の中でいくらキレてようと、外面に全くそれが反映されないのだから質が悪い。

 成明からは、目の前の聖女が微笑みを浮かべたようにしか見えないのだ。

 

(なんかこの人、クラスのムードメーカー的存在ではありながらも結局彼女とか作れずに人生終えそうだなぁ)

 

 それどころかこの上なく失礼なことを初対面の相手に考えているのであった。

 

まず、あなたのなまえがしりたいんだけど

 

 ロク本人としてはつとめてキツめに言ったつもりだが、そもそも日本語としてリスニング不可能な言語なのでキツめも何もあったものではない。

 

「うわーっ、成明っては手がはやーい! いくらロクちゃんが可愛いからってソッコーで手を出すとかないわー」

 

 そう冷やかしながらも会話(?)の輪に入ってきたのは冬瀬莉愛(ふゆせりあ)

 成明の幼馴染みであり、最近は夢小説を読むのにはまってるタイプの人類である。

 

(は? お前は誰だよ名乗れよ……)

 

 今回ばかりはロクに分があるように思えるが、現実は非情である。

 夢小説愛読民はパーソナルスペースという概念を微塵も知らないかの如く話しかけてくる。

 怒涛の勢いで話しかけられ、脳がショートを起こしたロクは莉愛の話をしばらく聞き流すことにした。

 悲しいかな。いくら気遣われたところでコミュニケーション初心者にマシンガントークは不可能なのだ。

 

「っと、ごめん! そういえば日本語、わからない……んだよね?」

 

(は?? わかるが???)

 

 ならわかってるアピールをちゃんとしろ。日本語を話せ。

 本心から申し訳なさそうに謝っている莉愛に対して、絶対コイツをいつか煽り返してやると決心するロク。

 もうこんなやつに謝らなくていいから……

 

 莉愛は自分の机の中から余っていた紙を取り出し、アルファベットで「Ria Huyuse」と書き、自分自身を指差す。

 どうやら自分の名前をロクに紹介したかったのだろう。

 知っている人が一番多いであろうアルファベットで書いたのもロクを思っての気遣いである。

 

(なんでコイツはアルファベットで名前を書いてるの?? そういうお年頃なのかな?)

 

 問題はその気遣いを無下にするどころか反撃煽りの材料にしようとしてる畜生がいるところだった。

 

(日本語でもわかるってさっきから言ってるのに)

 

 聞こえてないんだよ。さっきから一回も聞き取れる日本語を発音出来てないんだよ。

 

「りあでしょ? いわれなくてもわかってるから

 

 そして不幸にもギリギリ名前だけ聞き取れる程度の日本語を話せてしまった。

 ああいや、日本語を話せる分にはよかったのか。

 

「っ! 今莉愛って呼んでくれた!」

 

 莉愛の大声により、散りかけていたクラスの視線がもう一度ロクに集まる。

 なんでこのクラスは人の名前を呼んだだけで視線が集まるんだ? と内心の羞恥が限界を迎えつつあるロクは思う。

 確かに転校生というの存在が目立つのはわかる。だが隣に座っている人が何故かアルファベット名前を書くという奇行を咎めただけでしょ? と。

 ついでに言うならば、注目は浴びるべき存在は高校生の分際で自己紹介の名前でアルファベットを使う意識高い系のほうなのでは? とも考えていた。

 

 だからそれはお前を気遣ってのものだって。

 

 

 

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