麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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評価が赤くなってました。
とても凄いことです。ありがとうございます。
お気に入りももうすぐ200です。
とても凄いです。本当にありがとうございます。
サンジ、ナミ編です。ウソップ編より面白いはずです。
楽しんでください。


第十一話「コックと猫」

 

 

「ルフィ! あそこの岩の上で誰かが倒れてるよ!」

「んー? そうか!」

「た、す、け、る、の!!!」

「ら、ラジャー!」

 

 シロップ村を出発し偉大なる航路(グランドライン)を目指すルフィたち。

 新たな海賊船、ゴーイングメリー号を手に入れ、狙撃手ウソップが仲間に加わった一行は、遂に麦わら帽子の海賊旗を掲げるに至っていた。

 絵が上手いウソップのおかげで、立派な海賊旗が帆となり広がっていた。

 そんな中、ウタの耳に助けを求める声が聞こえたのだ。

 

「た、助けてくれ! 相棒が死んじまいそうなんだ!」

 

 ルフィが手を伸ばして引っ張ってきたのは、涙ながらに助けを乞うサングラスの男と、口から血を流して死にかけた額当てをつけた坊主の男。

 ナミはその容態を見るやいなや、すぐに皆に指示を出す。

 

「ウタ、ウソップ! キッチンにライムがあったでしょ! 絞って持ってきて!」

「はい!」

 

 すぐさまキッチンへ向かい、コップいっぱいの搾りたてライムを額当ての男の口に流し込んでいく。

 その様子を眺めていたゾロが、ピクリと反応した。

 

「おい、ヨサクとジョニーじゃねえか!」

「ゾ、ゾロの兄貴!? どうして海賊船に!」

「そんなことよりも、ヨサクはどうした!」

 

 ゾロの知り合いらしい、ジョニーと呼ばれたサングラス男は、涙ながらに答える。

 

「それが、突然病気になっちまって……! おれ、医者の知識なんてからっきしだから、どうしたらいいのか分からなくて……!」

「壊血病よ」

 

 ナミはきっぱりと言った。

 一昔前までは航海につきものの絶望的な病気だったものの、今は植物性の栄養さえあれば治ることが分かっているらしい。

 

「手遅れでなければ、数日もすれば治るわ」

「本当ですか、姉貴!」

「栄養全開治ったやったー!!」

「そんなに早く治るかっ!」

「ありがとうございます! あなたは命の恩人です! ナミの姉貴!」

「ナミ、すごい! お医者さんじゃん!」

「あんたらの知識がないだけでしょうが! いつか死ぬわよ!」

 

 ナミに叱られたルフィたちは、話をしながらとある役職の必要性に気づく。

 限られた食材をやりくりしながら、長旅の栄養配分を考えられる“海のコック”が、ルフィたちには欠けているのだと。

「よし決まりだ! “海のコック”を探そう!」

「美味しいものをたくさん食べるの、楽しいもんね!」

 次の仲間に求める要素が決まったところで、ジョニーがピンと手を挙げた。

「アニキ! 海のコックを探すなら、うってつけの場所があるんだ」

 現在、ルフィたちがいる場所から数日進んだ位置にあるそれは、ルフィたちが求めるまさにそれだった。

 

「海上レストラン!?」

 

 少々北へ進路を向けて、ルフィたちは進み始めた。

 

 

 

 

「か……紙一重……」

 

 海上レストラン『バラティエ』を目と鼻の先にして、ヨサクとジョニーが海軍本部大尉のフルボディにぼこぼこにされていた。

 ルフィたちはまだ海に出たばかりで無名の海賊。

 フルボディが認知しているのがヨサクとジョニーだけだった上に、どうやらフルボディは休暇中らしい。

 無用な戦闘は起きることなく、船はバラティエへと向かっていくが、

 

「ジョニー、これなに?」

 

 殴られて腫れあがった顔のジョニーがもごもごと口を動かして説明する。

 

「そいつは、賞金首のリストですよ。おれたちはゾロの兄貴と同じように、賞金稼ぎですからね」

 

 ナミが散らばった賞金首のリストを眺めていると、途中でその視線が止まる。

 手に取った紙は、()()

 

「ねえ、このリストって最近のやつ?」

「いや、賞金を貰いに海軍に行くときに、そこらへんにあるリストをとりあえず取ってきてるので、昔のも混じってますよ」

「そういえば、必死に追ってた海賊が五年前にもう捕まってた、なんてこともあったなあ」

「ってことで、下手すりゃ一〇年前のも混じってるので、そこまで食い入るように見るもんじゃないですよ、姉貴」

「そうね。そう……よね」

 ナミは呟きながらも、握りしめた懸賞金リストから手を離さない。

 嫌な汗をかいているナミだが、その様子には誰も気づかない。

 

「ルフィ、大変! 大砲で狙われてる!」

「任せろ! ゴムゴムのぉ~風船っ!」

 

 ドゴーン! と。

 ルフィの跳ね返した大砲の弾は、見事、バラティエに直撃した。

 

 

 

 

「大変、ルフィ! このおじさん、足が吹っ飛んでるよ!?」

「なんてこった! 本当にごめん、おっさん!」

「足は元からだ、クソガキども!」

 ブロンズの髪と長く伸ばしたひげ、そして杖で作られた義足のおじさんこと、バラティエのオーナー、ゼフの部屋で、ルフィとウタは頭を下げていた。

「金がねえんじゃ、働くしかねえよな」

「そうだな、ちゃんと償うよ」

「うん! 私もお手伝いします!」

「なら、一年間の雑用ただ働き! それで許してやる」

「一年!?」

 驚きが隠せないルフィだが、すぐに気を取り直して指を一本立てた。

 

「一週間に負けてくれ!」

「お願いします! 私たち、早く先に進みたいの!」

「ダメだ。甘ったれたこと言ってんじゃねえ」

「嫌だ! おれが一週間で償うって決めたんだ!」

「意味わからんこと言うんなクソガキが!」

 

 ゼフは隻脚であるにも関わらず、鋭いキックをルフィにお見舞いした。

 そこらの老人には出すことのできない威力に負けて、ルフィが跳ね返した弾の衝撃で割れていた床が抜け、ルフィとウタは食事用のホールへと落ちる。

「いてて」

「大丈夫か、ウタ」

 

 下敷きになってくれていたルフィが、心配そうにウタの顔を覗き込む。

 ささっとルフィから離れたウタは、ぱんぱんと服をはたいて立ち上がる。

 

「大丈夫だよ! 怪我一つなし! ありがとう!」

「そっか! よかった!」

 

 ルフィとウタが周りの様子を伺うと、なにやら騒ぎが起こっているようだった。

 なんと、先ほどの海軍大尉、フルボディが血だらけで倒れているではないか。

 どうやら、正面に立つ黒いスーツに身を包んだ、なぜかタバコを吸っているバラティエの店員がやったようだった。

 

「おい、サンジ。また店で暴れてやがるのか」

「うるせェなくそジジイ……」

 

 サンジと呼ばれた青年は、不貞腐れた態度で丁寧に分けられた長い前髪の隙間からオーナーゼフを睨みつける。

 そしてその隣には、坊主頭にねじり鉢巻をつけた体の大きなコワモテコック。

 

「いいか、お客様は神様だ!」

「てめェのくそ不味い料理を食ってくれる限りな……」

「サンジ、パティ! 喧嘩なら厨房でしぐされ!」

 

 威圧感しかないコックさんたちの間に張り詰めた空気が流れ始めた直後、慌てた海兵がバラティエに入り、さらに空気が変わる。

 

「海賊クリークの手下を逃してしまいました!」

「ばかな……! やつは餓死寸前だったんだぞ!」

 

 慌てる海軍の横から、青い顔をしたガイコツのように痩せ細った男がバラティエに入ってくる。

 どっさりと椅子に腰掛けると、すぐさま飯を要求した。

 店のコックたちはその雰囲気に飲まれて身動きすらできずにいたが、

 

「代金はお持ちで?」

「鉛でいいか?」

 

 恐れ知らずにも質問したコワモテコックに、痩せ細った海賊は銃で答えた。

 直後、ガン! と海賊の座っていたを破壊するほどの力でコワモテコックが殴りつけ、衰弱していた海賊はそのまま汚れた雑巾のように店のテラスへと投げ捨てられた。

 その光景をショーのように見ていた客は愉快そうに拍手をして再び食事を始める。

 皆が日常へ戻っていく中、サンジだけがテラスへと歩いていく。

 そして、苦しむ海賊の目の前に、出来立てのピラフを一皿置いた。

 

「食え」

「……!」

 

 ピラフへとむさぼりつく海賊は「面目ねえ……!」と涙を流す。

 その光景を眺めていたルフィとウタは、目を合わせてにっこり笑う。

 

「ルフィも思った?」

「おう! あいつ、うちのコックになってもらおう!」

 

 というわけで、勧誘。

 

「ねえねえ、サンジ……って言ったっけ?」

「おや!?!?」

 

 終始クールだったサンジだったが、ウタの姿を見た瞬間に目の色を変えて(ピンク色)ウタの手を取る。

 

「ああ! 今日はなんて良い日なのでしょう! こんな素敵が出会いが待っていたなんて!」

「こんにちは! 私、ウタっていうの、よろしくね!」

「ウタさん! なんて美しい響き! ぼくはこの恋のためなら海賊にでも悪魔にでもなりましょう!」

「じゃあさ、わたしたちと一緒に海賊やろうよ!」

「そうしたいのは、山々なのですが! しかしぼくたちの間には大きな障壁があるのです……!」

 

 サンジはちらりとゼフの方へ視線を送る。

 どうやら、ゼフの許可なしに店は辞められないのだと、遠回しに断っているようだった。

 

「しかし、ウタさん。ここでの出会いはまさに運命! どうですか、海賊なんて辞めてぼくとともに愛への道へ……」

 

 ウタはサンジが取った手を離して、食い気味に言った。

 

「ごめんね、海賊をやめるつもりはないんだ。それにね」

 

 ウタは迷いのない笑みで、はっきりと答えた。

 

「私が死ぬまで添い遂げるって心に決めてる人は、もういるから」

「……おっと、これは失礼致しました」

 

 強く固い意志を持つ女性を口説くなんて無粋なことを、サンジはしなかった。

 代わりに、と優しく手を差し出して、

 

「では、せめて席までお連れいたします」

「うん、ありがとう! 行こう、ルフィ!」

「お? 飯食えるのか!? やったー!」

 

 楽しそうにウタの隣にルフィが座った途端、ゼフの蹴りがルフィへと飛んできた。

 

「てめェは雑用だろうが、麦わらのガキ!!!」

「うぎゃああー!!」

 

 

 

 

 

 そして、ルフィがバラティエで雑用を続ける日々が始まった。

 なんでも、バラティエでは女の従業員はダメだそうで、ウタはメリー号で待つか、たまに客としてルフィの様子を見にいく程度。

 ゼフは女を蹴らない主義らしいのだが、雑用として働いてるルフィがミスをするたびに蹴飛ばしているところを見ると、女を蹴りたくないから働かせない、ということなのだろう。

 

「あ、ウタ! 今日も来たのか!」

「うん! 今日も雑用、頑張ってる?」

「おう! 見て通りだ!」

「うんうん、じゃあ頑張ってるご褒美に、はい! あーん!」

「やったぁ! 飯だ——」

「何十枚も皿を割っておいて何をいちゃついてんだ雑用!」

「うぎゃあああ!!!」

 

 そんな感じでルフィが蹴飛ばされるのを笑って眺めているうちに、二日経った。

 そして、この日。

 突然の事件が、()()()()()()()()()

 

「おい、なんだあの船は……!」

「ボロボロじゃねえか、あんな大きなガレオン船が……!」

 

 ルフィが一人バラティエで雑用をこなし、ウタがゾロやウソップ、ナミたちとのんびり船でくつろいでいるところだった。

 突如としてやってきた巨大船。ヨサクとジョニーは「首領(ドン)・クリークの船だ……!」と震えていた。

 聞けば、東の海(イーストブルー)を制し、偉大なる航路(グランドライン)へ向かった海賊らしい。

 こうしてボロボロの船で帰ってきたということは、夢破れたということだろうが。

 

「行くぞ、ウソップ」

「そそそそ、そうだな! ルフィだけじゃあ、心配で仕方ねえ!」

 

 颯爽と船を降りていくゾロとウソップ。

 それに続くように、ウタも船を降りようとするが、

 

「待ってちょうだい、ウタ」

「ん? どうしたのナミ?」

 

 振り返れば、ナミはいつもとは違う冷たい表情をしていた。

 なにやら雰囲気が違う。

 先ほどの声からも、単純ではない複雑に混じった感情が『聞こえ』た。

 

「……ごめん」

 

 ナミはフルボディにやられた傷が治りきっていないヨサクとジョニーを海から投げ捨てた。

 

「ちょっと、ナミ!? 何してるの!」

「……この前、ヨサクが持っていた手配書を見たときに、見ちゃったのよ」

 

 ナミは素早くウタの背後に回ると、縄でウタの体を縛り上げた。

 流れるような手際で、ウタは一瞬で身動きが取れなくなる。

 

「ナミ! どうして……!」

「びっくりしたわよ。まさか、あんたがこんな大物だったなんて」

 

 ナミが懐から取り出したのは、一枚の手配書。

 古びてボロボロになった手配書に写っているのは、赤と白の髪をした幼い頃のウタだった。

 そして、その下には……

 

「懸賞金、3000万。“歌姫のウタ”」

「…………」

 

 ウタは何も答えない。

 その沈黙が、写真に写る少女が自分であるという証明だった。

 

「どうして少女だったあなたにこんな破格の懸賞金がかけられているのかはどうでもいいわ。とにかく、私にはお金が必要なの」

「……ナミ」

「命乞いをしたって無駄よ。この船はもう、バラティエを離れて私の故郷への向かってる」

 

 聞いてもないのに、ナミは淡々と語る。

 

「私は元々、アーロン海賊団っていう魚人海賊団の航海士なの。だから私は、あなたの仲間でもなんでもない。都合がいいから、あなたたちと一緒にいただけ」

「そっか」

 

 ウタの表情は変わらない。

 ナミがどんな事を言ったとしても、友達であることは変わらないと伝えるように。

 

「……ねえ、ナミ」

「なに」

「思ってもないこと言わないでよ。本音で話そう。私たち、友達でしょ」

「——違う!」

 

 ナミはウタにまたがり、胸元を強く掴んだ。

 

「私はあなたの敵なの! あなたを殺して海軍に突き出して、金を稼ごうって思ってるのよ!」

「じゃあなんで、泣いてるの」

「——ぇ」

 

 ウタの頬に置いた雫を見てから、ナミは自分が泣いていることに気づいた。

 慌てて目元を拭ったナミに、ウタは言う。

 

「いいよ。連れて行って。そのアーロンっていう魚人のところまで。だからさ」

 

 縄で縛られたまま、ウタはにっこりと笑った。

 

「教えてよ、ナミのこと。私はあなたのこと、もっと知りたい」

「……バカね、あんた」

 

 馬鹿馬鹿しくなって、ナミはその場に腰を下ろした。

 そして少しずつ、ナミはウタに自分の過去を話し始める。

 航海に必要な一日半。二人は言い争うこともなく話をして過ごすことになった。

 

 そうして。

 ルフィたちの知らぬ間に、メリー号はナミとウタだけを乗せて、アーロンが支配しているココヤシ村へと向かっていく。

 

 この日、起きた事件は二つ。

 一つは、首領(ドン)・クリーク、バラティエ襲撃事件。

 そしてもう一つは。

 

 アーロン海賊団幹部、ナミによる“歌姫のウタ”誘拐事件だ。

 

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