今回はここです。ここはさすがに書きたかった。
本当は、信じ切れていなかった。
なにせ、あのときバラティエにいたのはあの首領クリークだ。
ルフィたちがどれだけ強かったとしても、あいては東の海の覇者だ。悪魔の実を食べた能力者だといえども、勝てるわけがない。
だが、ウタは心の底から信じていた。
首領クリークを侮っていたわけではない。おそらく、ウタの感覚は正しく相手の力量を理解したうえで、ルフィが勝つと疑わなかった。
だから。
そんなウタを、ナミは信じた。
「うそでしょ……?」
バラティエからココヤシ村までの航路に、その船はあった。
傷だらけなのに、それを治療する気もなくヨサクとジョニーを急かして船を進む麦わら帽子。
「あ!! メリー号だ!」
腕を伸ばしてナミの元に駆け寄ってきた。
ヨサクとジョニーから話を聞いていたのだろう。ナミがウタを攫ったなんて言葉を一切信じていなかったのか、ルフィは最初にこう問いかけた。
「あれ? ウタはどこだ?」
「…………ごめんなさい」
ナミはその場に崩れ落ちた。
涙こそ必死に耐えているが、何かの拍子に簡単にこぼれてしまいそうだった。
「ウタは……!」
ナミは語った。
ウタが今、自分のためにどれだけ苦しんでいるのか。
アーロンとの関わり。
村を買う約束。
奪われた一億ベリー。
そして、皆を殺さぬために歌い続けるウタのこと。
全てを話し終わるまで、ルフィは黙って聞いていた。
「ごめん、ルフィ」
それ以外の言葉が見つからなかった。
泣き崩れるナミに対して、ルフィは冷たく言い放つ。
「言いたいことは、それだけか」
「え……?」
「お前はウタに、そんなことを言えと言われたのか!」
ウタがルフィを心の底から信じていたように。
ルフィもウタのことを心の底から信じている。
だから、分かるのだ。
ウタはきっと、ナミにごめんなんて言ってほしくて命を懸けているわけではないと。
「……ルフィ」
ナミは抑えきれなくなった大粒の涙を流して、声を絞り出す。
ずっと言えなかった言葉を。
誰にも頼らずに一人で生きていくと決めた、あの日からずっと。
「助けて……っ!」
約束をしたのだ。
言わなければならない言葉があるのだ。
「ウタにありがとうって、言いたいの」
ルフィはその言葉を聞くと、静かに笑った。
「当たり前だ」
いうと、ルフィは被っていた麦わら帽子をナミの頭に乗せる。
これから激しい戦いになるから、渡してくれたのだろう。
しかし、ナミの記憶には彼らと出会ったときの光景がよみがえる。
――おれたちの宝物に、触るな。
――私たちの宝物に、触らないで。
ああ、彼らは本当の意味で。
自分のことを仲間だと言ってくれているのだ。
「行くぞ、お前ら」
「おう!」
「ナミ! お前の航海術が頼りだ! ウタのところに、一秒でも早く着くぞ!」
「うん……っ!」
だったら、自分も応えなければならない。
ナミの涙は止まっていた。
今はただ、大切な友達を少しでも早く助けたいという気持ちだけ。
「待ってて、ウタ……!」
この日、ナミは初めて。
誰かのために、航海をした。
(本編の)次の更新は10/16です