麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第十四話「オレンジ色の笑顔」

 アーロンと話を合わせてナミが集めた宝を奪った海軍たちをボコボコし、彼らをまとめる海軍支部大佐、ネズミを脅すところから、後始末は始まった。

 

「お前ら……おれに手を出してみろ……! ただじゃ置かないからな……!」

 

 コテンパンにされてもなお、口だけは回るネズミの前で、ナミは腰を下ろす。

 

「あなた、私の大切な家族や村人の人たちに手を出したわよね?」

「へ……?」

「ついでに、私が命がけで集めたお宝、持って行ったわよね?」

「な、なにを……」

「ただで済むと、思わないでよね」

 

 バキャ! と鈍い音が響き渡る。

 ナミのステッキで吹き飛ばされたネズミは、どうにかプールから顔を出して空気を吸い込む。

 

「アーロンたちが持っていたお金はこの村のものなの。関与しないでよ!」

「わ、わがりまじだ……」

 

 泣きながら許しを請うネズミに対して、今度はウタがぐっと顔を突き出した。

 応急処置が終わり、包帯でぐるぐる巻きになった指をネズミに向けて、疲弊しながらもはっきりとした口調でウタは言う。

 

「私の友達を泣かせたら、絶対に許さないからね!」

「く、くぅ……!」

 

 ネズミは唇を嚙みしめ、そそくさと泳ぎながら海軍の軍艦へと戻っていく。

 その途中で、精いっぱいの負け惜しみを投げつけてきた。

 

「覚えてろ、この腐れ海賊ども! 麦わらの男と、赤と白の髪の女! ルフィとウタと言ったな! 忘れるな! てめぇら凄いことになるぞ!」

「え! あの人、私たちが新時代を作るってなんで知ってるの!?」

「おれが海賊王になることまで知ってんのか。実はすごいやつなのかもな」

「そうじゃねえだろバカ二人」

「お、おい! マジで凄いことになったらどうするんだよ!」

 

 アーロンたちを回収して逃げ去っていった海軍たちを見送ると、村人たちは一斉に村へと走り出す。

 支配が消え、自由になったのだと。

 この喜びを、一秒でも早く伝えるために。

 そして、その知らせは光の速さで島全体に広がって。

 

「みんなー! 今日も私のライブ、楽しんでいってねー!」

 

 島を上げた盛大な宴が、何日も続いていた。

 ウタは村人が作ってくれた特製ステージから、踊り、歌い、騒ぐ人たちを眺める。

 自分の歌を熱心に聞いて楽しむ人もいれば、BGMとして酒を飲んで騒ぐ人もいる。そして、その全ての人が、これ以上のないほどの笑顔で今を楽しんでいる。

 

「ルフィも楽しんでるー!?」

「おうー! やっぱりウタの歌を聴くのは楽しいなぁ!」

「えへへん! もっと歌っちゃうから、もっともっと騒いでいこー!」

 

 やはり、どんな笑顔よりも、ルフィが自分の歌を聴いて笑ってくれるのが一番うれしい。

 ()()()()()()から塞ぎこんで笑わなくなった自分を救ってくれた時も、同じようにルフィは笑ってくれたのだ。

 だから、今の自分も笑っていられる。

 歌っている間も、視線をルフィへ向けると、いつだってその視線に気づいて食べていた肉を掲げて手を振ってくれる。

 いつかルフィと目指した夢が叶って、その夢の果てに辿り着けたのなら。

 世界中の人々が、こうやって笑ってくれるのだろうか。

 そんな想像をするのが楽しくて、散々歌ってから、夜が更けていることに気づいた。

 

「たくさん聴いてくれてありがとー! 今日も最高のライブだったよー!」

 

 ウタは特製ステージから降りて周囲を見渡す。

 このライブの間、姿を見ない人がいたのだ。

 

「ねえ、サンジ」

「ん? なんだい、ウタちゃん」

「ナミのこと、見なかった?」

「今日はあんまり見てないな……待てよ。確か、はずれの方に歩いていくのを見たような……」

「ナイス! ありがとね、サンジ!」

 

 ウタは村の外れに走っていく。

 船の中での話で、聞いた覚えがある。

 サンジの言った通りであるなら、きっといる場所はあそこだ。

 

「やっぱり、ここにいた」

「あら。ウタじゃない。どうしたの?」

「宴に来ないで何してるのかなーって」

「ちょっと、報告にね」

 

 ナミの視線の先にあるのは、二本の丸太を十字にして作られた素朴な墓。

 ベルメール。ナミとその姉ノジコを拾った、育ての親。

 その人が眠る場所だった。

 

「この人が、ベルメールさん?」

「うん。ようやく自由になれたよって」

「そっか。大好きなんだね、ベルメールさんのこと」

「当たり前じゃん。私の大切な親だもん」

 

 ナミが墓の前で腰掛けるのに合わせて、ウタも隣に座る。

 ベルメールたちと血がつながっていないことは、すでに知っていた。

 だからこそ、ウタは素直に言った。

 

「私さ、シャンクスとは血がつながってないんだよね」

「どうして今更、私に言うの?」

「分かるから」

「親と血がつながってないって気持ちが?」

「家族って繋がりに、血なんて関係ないってこと」

 

 ウタのその言葉にクスッとナミが笑う。

 なに笑ってんのさ、とウタが肘で突っついて、今度は二人で笑う。

 

「なんだ、楽しそうじゃないか、二人とも」

 

 やってきたのは、軍帽に風車を刺した傷だらけの男。

 宴のときにゲンゾウ、という名前を聞いた。

 この村の長であり、ベルメールとともにナミの父親代わりをしてくれていたらしい。

 その手には、酒の瓶が握られていた。

 

「一緒に飲むか、四人で」

「そうね。お酒が飲めるようになってから、ベルメールさんと飲んだことなかったし」

 

 三人はグラスに注がれた酒を持ち、墓の前に置かれたグラスと乾杯する。

 普段、ウタは酒を飲まない。

 宴は好きだが、自分は歌いたいし、アルコールは喉にもよくないからだ。

 

「懐かしいな、お酒」

「そういえば、飲んでるの見たことないわね。最後はいつ飲んだの?」

「うーん。あれは確か、十年前だったかなぁ。ルフィたちと兄弟の盃って、お酒を飲んだの」

「き、兄弟!? あんたたち、そういう仲だったの?」

「歳的にはお兄ちゃん二人とその下に私で、ルフィが末っ子だったんだけど、私が弟って呼ぶの、すごい嫌がるんだよね。私も弟っていう感じじゃないし」

「形だけのお遊びってわけね」

「でも! お兄ちゃん二人は今もお兄ちゃんって感じだよ!」

「はいはい。わかったわよ」

 

 うんざりと首を振って、ナミは言う。

 そんな二人の会話を見て、ゲンゾウは楽しそうに微笑んでいた。

 

「ベルメールがお前たちを連れてきたときはどうなるかと思ったが、こんなにたくましくなって、こんなにいい友人を持つとはな。本当に、立派に育ってくれた」

 

 ゲンゾウはベルメールの墓に向けてグラスを掲げる。

 

「我々はこれから、精一杯生きようと思う。お前を含め、多くの犠牲があった。だからこそ、精一杯。バカみたいに笑ってやろうと思うのだ」

「いい夢ですね」

「歳も重ねて酒も入れば、こんな夢も見るものだ」

「ふふっ。ゲンさんらしい」

「うるさいわ」

 

 くすくすと笑うナミは、ふと上を見上げた。

 

「私さ、あの日からちゃんと笑えたことは一度もなかったの」

 

 アーロンがやってきたあの日から、ナミは笑顔を作り続けてきた。誰かに取り繕い、ウソの笑顔を並べ、騙し、金を稼いできた。

 だが、ルフィやウタたちと笑った時間は、決してウソではなかった。

 

「本当に、楽しかった」

 

 約束をしたから、ではない。

 ただ言いたくて、ナミはその言葉を口にする。

 噓偽りのない、オレンジ色の笑顔で。

 

「ありがとう、ウタ」

「えっへへん! どういたしまして!」

 

 どや顔で胸を張るウタ。

 ふんす、と鼻息を出している横で、ゲンゾウがナミを見て何かに気づいたようだった。

 

「ナミ、お前またイレズミを入れたのか?」

「うん。みかんと風車。私の大切な家族のマークだよ」

「……そうか。それは、いいマークだ」

 

 ゲンゾウは照れくさそうに帽子を深くかぶる。

 そのせいで余計に風車が強調されてしまっているが。

 

「ねえ、ウタ」

「ん? どうしたの?」

「私、まだあなたたちと一緒に旅がしたい」

「え? 世界地図を描くんでしょ? 行かないの?」

「あはははっ! そうね、聞いた私がバカだった」

 

 笑いながら、ナミはグラスの酒を一気に飲み干して、ゲンゾウに言う。

 

「止める? 私のこと」

「ダメだと言ったら、言うことを聞くのか?」

「絶対きかないっ!」

 

 はあ、と深く長いため息をついたゲンゾウは、諦めた声でウタへ言う。

 

「あの麦わらの小僧に言っておけ。もしお前らがナミの笑顔を奪うようなことがあれば、私が殺しにいくと」

「そんなこと、ルフィはないと思うけどな」

「分かったな!」

「は、はい!」

 

 ずばびしっ! とウタの背筋が伸びる。

 それを見たナミが笑い、ウタがやり返し、その繰り返しが続き、それを見てゲンゾウが笑う。

 そんなことをしているうちに時間は過ぎていき。

 出発の朝が来た。

 

 

 

 

 

「あっしらはまた本業の賞金稼ぎに戻りやす」

「ここでお別れっすけど、またどこかで会える日を楽しみにしてるっす」

 

 バラティエからアーロンパークまでをともにしたヨサクとジョニーに別れを告げたルフィ達は、メリー号でウタとナミを待っていた。

 ナミがともに行くという話はウタにしかしていないため、いつまで待つべきかと四人は村を眺めていた。

 

「しかしこねえな、あいつら」

「どうした! ナミさんとウタちゃんのいねえ航海なんてありえねぇぞ!」

「おい、サンジ! 生ハムメロン、どこにもなかったぞ!」

 

 サンジとウソップだけがやたらとそわそわしていると、遠くでなにやら騒ぎ声が聞こえてくる。

 皆が目を細めて何かと見つめていると、いち早くウソップがそれに気づいた。

 

「おい! ウタとナミが村人に追いかけられてるぞ!」

「はあ? なにやったんだあの二人」

 

 無邪気な笑顔で笑いながら村人から逃げるウタとナミは、ルフィたちに叫んだ。

 

「ルフィ~~! 船を出して~~!」

「何のつもりだ!?」

「船を出せってよ。とりあえず出すか」

 

 船がゆっくりと動き始め、港から離れていく。

 ナミとウタが近づいてくるにつれて、村人たちの声も聞こえてきた。

 

「こらー! クソガキどもォ! おれたちの財布を返せェー!」

 

 アーロンたちから取り返したお金や、ナミが集めた宝は置いていくくせに、村人たちの財布は盗んできたらしい。

 どうせウタが皆を眠らせて、その隙にナミが片っ端から財布を集めたのだろう。

 波止場までやってきたウタとナミは、手を握って一緒に飛ぶ。

 

「ルフィー! 任せた!」

「任せとけ!」

 

 ルフィは腕を伸ばし、ウタとナミの腕を掴んで船へと引っ張ってくる。

 ナミはきれいに船へと着地し、ウタはルフィがキャッチする。

 

「ありがと、ルフィ!」

「おう!」

「なんで私は受け止めないわけ?」

「えへへ~! いいでしょ!」

「別に羨ましいわけじゃないっての。まったく」

 

 やれやれ、と呟いたナミは懐からドサドサと盗んだ財布たちを出す。

 そして、ひらりと舞った札を掴むと、いたずらに笑って、

 

「みんな、元気でね♡」

「この泥棒ネコがァーーーッ!!」

 

 きっとこれは、ナミなりの船出なのだ。

 海賊として村を出るのだから、礼などを言わせないために、ナミらしい船出を選んだのだ。

 

「これからよろしく、みんな!」

 

 一味に挨拶を済ませたナミは、振り返って村の人たちに大きく手を振る。

 きっと村の皆が昔によく見た、子どものような明るい笑顔で。

 

「じゃあね、みんな! 行って来る!」

 

 いつでも帰って来いよ、と声がする。

 元気でやれよ、と背中を押される。

 ナミは肩に新しく掘ったみかんと風車のイレズミをなでる。

 

「行ってきます。ベルメールさん」

 

 昔、ベルメールがナミに言っていた。

 幼いころ、泣いてばかりのナミをあやすためにゲンゾウが帽子に風車を刺したら、驚くほど笑ったという。

 からからから、と。

 役目を終えた風車は、ベルメールの墓の隣で回っている。

 ナミの笑顔はこれからきっと絶えることはない。

 

「~~♪」

 

 空は快晴。

 風は軟風。

 心地よい気候に包まれながら、ウタは鼻歌を歌う。

 

 まるで親子の笑顔を表すかのように。

 風車は、船が水平線に消えるまでいつまでも回っていた。

 




今回は原作の解釈を深堀する形で締めました。
改変も楽しいですけど、こうやって一つ一つの言葉を味わいなおすのもいいものですね。
次はローグタウン。ようやく大きく原作とは違う流れを作れるのでわくわくしてます。
長い旅ですが、お付き合いください。よろしくお願いします。
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