麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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この前、お気に入りが200を超えそうです、と喜んでいたら、いつの間にか350が目前でした。
びっくりです。いつもありがとうございます。感想とか評価も本当に嬉しいです。今回で東の海おしまいです。よろしくお願いします。


第十七話「時代のうねり、人の夢」

 

 

「生きてるとは聞いてたけど、こんなに強くなってるなんてびっくり! さすがサボ!」

「ははは、買い被りすぎだ。おれなんてまだまださ」

「すっげえな、サボ! なんであんなに速く動けるんだ!?」

「なんでか分からないうちは習得できないな。もう少し強くなったら教えてやるよ、ルフィ」

「くそ〜! おれだって強くなったぞ!」

「おれからしたらまだまだ可愛い弟だよ」

 

 嵐の中、海軍に追われているという現状であるにもかかわらず、三人は呑気に再会を楽しんでいた。

 麦わらの一味の中で唯一、ルフィとウタの兄弟の話を聞いていたナミが、恐る恐る聞いてみる。

 

「ウタ。もしかして、この人が前に言ってた……?」

「うん、サボ! 私とルフィと一緒に兄弟の盃を交わしたお兄ちゃん!」

 

 改めて紹介されたサボは、使い古されたゴーグル付きの黒いハットを取った。

 

「弟と妹が世話になってる。振り回されることも多いだろうが、支えてやってくれ」

 

 丁寧に頭を下げたサボを見て、ゾロが問いかける。

 

「おい、本当にこいつがルフィとウタの兄貴なのか?」

「確かに、こんな礼儀がいいと疑わしいな」

「ちょっと!? ルフィならまだしも私もその礼儀が悪い側に入ってない!?」

「あっはっはっはっ! ウタ、礼儀がなってねえってよ!」

「「「主にお前のことを言ってんだアホ!」」」

 

 周りからのツッコミが入って、サボは楽しそうに笑う。

 

「ははっ。いい仲間を持ったみたいだな。ルフィ、ウタ」

「おう!」

「うん!」

 

 昔のウタを知っているサボは、こうして楽しそうに笑っているウタがこの場にいるという意味を分かっていた。

 初めて会ったときのウタは、それは酷いものだった。笑うことなんて一度もなかったし、目の奥には生きようという意思すら感じられなかった。

 一人の女の子が背負うには重すぎる十字架を、よく乗り越えてくれたと、サボは思う。

 だからサボは、ルフィとウタの背中を押す。

 

「行くんだろ? ルフィ、ウタ」

「おう! 入るぞ、偉大なる航路(グランドライン)!」

「私たちは、新時代を作るからね!」

 

 当たり前にルフィたちを逃がそうとするサボを見て、ウソップが問いかけた。

 

「お、おい。でも、いいのかよ。お前、海兵なんだろ? おれたちを逃したってなったら、やばいんじゃないか?」

「心配ないよ。そのためにこいつらを逃したんだ」

 

 サボは近くで気を失っているカバジとモージへ視線を送る。

 この二人は、騒ぎに乗じて逃げ延びたのではない。サボがバギーを捕まえる際に、あえて逃がさせたのだ。

 案の定、ルフィたちを追ってくれたおかげでこうしてくる機会ができた。

 

「逃げた海賊を追ってここまできた。彼らは麦わらの一味を追っていたが、すでに海へ出た後だったので、この二人のみを捕えた」

 

 そこまで想定済みで、サボはこの場に来ていた。最低限の仕事はして、最初からルフィたちを捕まえる気などなかった。

 理由は、決まっている。

 

「おれも入るつもりだ。偉大なる航路(グランドライン)に」

「待って。あなた、ここにいるってことはスモーカーって海軍の部下じゃないの? どうやって偉大なる航路(グランドライン)へ?」

「スモーカーさんは正義感が強く、執念もある。お前たちを逃したとなれば、地獄の果てまでだろうと勝手に追ってくるだろうさ」

「まさか、そこまで含めておれたちを逃すって……!?」

「さあな。こうなったのは偶然さ。もう少ししたらまた昇進して、偉大なる航路(グランドライン)の管轄に配属される予定だったからな。少し早まった程度の話だ」

 

 そこまで説明をしたサボは、さて、と黒いハットを被り直す。

 

「そろそろ時間だ。船に乗り込め、お前たち」

「ありがとな、サボ! 行ってくる!」

「行ってきます!」

「ああ、そうだ」

 

 メリー号へと乗ろうとする二人へ、サボは最後にこう言った。

 

「エースも待ってるぞ。偉大なる航路(グランドライン)で!」

「だよな! エースなら絶対にいると思った」

「うんうん! 何せ私たちのお兄ちゃんだからね!」

「さっさとしねえと取られちまうぞ、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)!」

「安心しろって! 海賊王になるのはおれだ!」

「私たちが新時代を作るんだから!」

「それでいい! これから先は、夢を見れなくなったやつから脱落していく海だ! やりたいことを、好きなだけやってこい!」

「にしし! 任せろ!」

 

 ルフィとウタは手を振って、サボに別れを告げる。

 風は追い風。目指すは島の灯台が示す光の方角。

 偉大なる航路(グランドライン)へ向けて、大嵐の中を船は進んでいく。

 ぐわんぐわんと大きく揺れる船の上で、サンジは空っぽの樽を持ってきた。

 

「よっしゃ。じゃあ、偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやるか」

 

 進水式は本来、新しく完成した船を海に浮かべ、初めて進むときに行う祝いの儀式。

 それでも、あえてルフィたちはその進水式を行う。

 なにせ、ここまでの冒険は、スタートラインにすら立ってなかったのだ。

 ここからようやく、本物の冒険が始まる。

 

「夢を見れなくなった人から脱落していく海……」

 

 それなら負けないと、ウタは思った。

 この夢は、死ぬまで諦めるつもりはない。だったら、ただ進むだけでどこまでだっていける。

 だって、ルフィと二人ならば、どんな敵にだって負けないのだから。

 

「再確認するよ! みんなは何のために進むの!?」

 

 最初に、ウタが黒いワンピースドレスをたくしあげて樽の上に踵を置いた。

 

「私は、世界一の歌姫になるために!」

 

 ルフィが続く。

 

「おれは、海賊王っ!」

 

 そして、サンジとゾロが続く。

 

「おれはオールブルーを見つけるために!」

「おれは大剣豪に!」

 

 次いで、ナミとウソップ。

 

「私は世界地図を描くため!」

「おれは、勇敢なる海の戦士になるためだ!」

 

 皆が皆、自分たちの夢を語る。

 これから先は、夢を見れなくなった者から脱落していく地獄、ではない。

 夢を見続けた者に必ずそのゴールを与えてくれる、世界で最も偉大な海だ。

 だからこそ人々は、多くの者が挑み、沈んでいった魔の海に敬意を表してこう呼ぶ。

 

「行くぞ!!! 偉大なる航路(グランドライン)!!」

 

 かくして。

 樽を踏み壊した麦わらの一味は、ようやくそのスタートラインに足をかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ————そして。

 

 時代のうねりの芽が、ローグタウンにまた一つ。

 

「コアラ、船を寄せてくれ。もうすぐ集合地点に着く」

『急に船を降りたと思ったらなんなんですか、ドラゴンさん! この嵐の中で船を付けるこっちの身にもなってくださいよ!』

「ああ、悪い」

『反省してないですよね、それ!』

 

 電電虫から聞こえる若い女性の声が、勝手にもローグタウンにやってきた革命軍リーダー、ドラゴンを叱りつける。

 革命軍のメンバーはその口調に怯えているが、それが許されるのは彼女の実力あってのものだった。

 革命軍幹部、コアラ。人間ながら魚人空手を巧みに使いこなす武闘派が、彼女だ。

 

『本当に。革命軍だって、今は戦闘要員も多くないですよ! あの人だって政府の方でやることがあるからって帰ってこないし! あっちはあっちで捕まってるし! 幹部たちはどうなってるんですか!』

「すまない。世話をかける」

 

 それだけ言って、ドラゴンは電電虫の受話器を戻す。

 なにかコアラが言っていた気もするが、表情一つ変えずにドラゴンは嵐の中を歩く。

 彼を追ってくる海軍はどこにもいない。遠くでは羊の船頭が見える。

 船出は無事に済んだらしい。

 さきほどちらりと見えたが()()()()()()()()()()()も、元気に育ったらしい。

 革命軍に勧誘でもしていれば、かなりの戦力になったのではないだろうか。

 

「おそらくもうすぐ、時代は動く……」

 

 ドラゴンは歩きながら、小さく呟いた。

 嵐にその呟きがかき消されていく中、正面から物音がした。

 そこにいたのは、傷だらけの少年。

 

「……あなたが、革命家ドラゴン、ですか……?」

 

 ドラゴンは思わず足を止めた。

 相手が海軍でも海賊でも、気にせず力で押し切るつもりだった。

 しかし、違う。

 頭から血を流し、割れた眼鏡をかけたピンク髪の少年は、()()()()()()()()()()

 どこにでもいる、ただの青年だ。

 

「何のようだ」

 

 そこまで観察して、ドラゴンは問いかけた。

 問いかける価値があると、判断した。

 

「あなたは、悪者ですか?」

「政府は私の首を欲しがってるらしいな」

 

 どこかの海兵の受け売りだった。

 反政府軍の筆頭。彼を捕まえるために今でも多くの人間が動いている。

 世間一般では、ドラゴンは悪人だ。

 だが。

 

「そんなことは聞いていません」

 

 ピンク髪の少年にとっては、そんなことはどうでもいい。

 

「善か悪かは、僕が決める」

 

 その瞳は真剣だった。

 ここでドラゴンが自分が悪だと言ったのなら、迷いなく握りしめた拳を振りかぶるという確信があった。

 

「私と戦う気か?」

「僕は、悪い奴らを取り締まって世界を平和にするのが夢なんだ」

「夢のために死ぬのも躊躇わないと?」

「そんな人たちに憧れて、僕はここまで来た」

 

 それまでピクリとも動かなかったドラゴンの表情が、わずかに綻ぶ。

 

「……お前はまだ、世界を知らない」

 

 たかが東の海(イーストブルー)程度では、善や悪の判断など、できるはずもない。

 

「それにお前に足りないものは、何か分かるか?」

「…………力が、足りない」

「……フフ。そうだ。弱き者は、権力を振りかざす悪人に立ち向かうことすら叶わない」

 

 ドラゴンはピンク髪の少年へと近づき、()()()()()()()

 たったそれだけで、ピンク髪の少年は気を失い、ドラゴンの方へ倒れる。

 その体を受け止めたドラゴンは、少年を抱えると懐から電電虫を取り出し、コアラを呼び出す。

 

『ちょっと、ドラゴンさん! また勝手に切った上に無視しましたね! 本当にいい加減に——』

「コアラ、医療班を起こしてくれ」

『……やれやれ、今度はなんですか?』

「面白い人材を見つけた。これから連れていく」

『はい!? 正気ですか、ドラゴンさん!』

「正気ではないさ。ただ、夢や野望に命を懸けることができる異常者が、いつだって時代を変えてきた。ロジャーのようにな」

 

 再び、ドラゴンは一方的に通話を切って歩き出す。

 すぐ近くでは大きな嵐で、海がうねり、高い波が上がっている。

 

「喜べ、少年。お前の夢が叶う日が、いつか必ずくるだろう」

 

 かくして。

 何者でもなかった少年が。

 時代のうねりの中心へと向かっていく。




そういえば、二次創作って各話にサブタイトルつける人少ないんですね。僕はつけますけど。
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