意気揚々と海へと出た二人は、早速喧嘩をしていた。
「あっちに進むんだってば!」
「やだ! 俺はあっちがいい!」
かつてシャンクスとともに海を旅していたウタには、少なからず航海の知識があった。
だが、同船する航海術なんて言葉すら知らないルフィは、行き先を指示されるなど耐えらない。
「分からずや! このまま行ったら大渦に飲まれちゃうの! 悪魔の実を食べてる私たちは、海に落ちたら終わりなんだってば!」
「そんなことしらねえ! まっすぐだ!」
「あーもう!」
普通に話しても埒があかないと観念したらウタは、ニヤっと笑って先を指差す。
「そうだ! あっちの島にお宝があるんだった!」
「え! ホントか!?」
「本当だよ! それに、こわ〜い海賊だっているから、ルフィが行ったら負けちゃうよ〜?」
「俺は負けねえ! 早くお宝を取りに行くぞ、ウタ!」
ルフィはウタに唆された通りに強引に船を漕いでいく。
その背中をニヤニヤと見つめながら方向の微調整をするウタは、少し遠くで渦巻く海を見てホッとため息を吐くのだった。
そして、とある島。
「なあなあ、食いもんないか?」
無事に海岸まで辿り着いたルフィたちは、すぐ近くにあった建物の周りを掃除していた眼鏡の少年に話しかけていた。
「ちょ、ちょっと誰ですか、あなたたち!」
「私たち、怪しいものじゃないよ! 海賊だから!」
「悪者じゃないですか!?」
「おい、コビー! うるさいぞ! 掃除はどうした!」
建物から出てきたのは、いかにも悪党ですと自己紹介をしているような風貌の男たち。
大柄の男三人に囲まれたルフィとウタは、それを気にしている様子は一切なかった。
「おい、ウタ。誰だこいつら」
「知らな〜い。海賊みたいだけど、強そうでもないし」
「ちょ、ちょっとあなたたち! 喧嘩を売らない方がいいですよ! この人たちは、かの悪名高いアルビダという海賊の……」
「どこの誰が悪名高いって……? コビー」
コビーの背筋がピン! と伸びる。
錆びたブリキ玩具のように振り返ると、そこには風船のような
「うるさいと思ってきてみれば。……そうかい。お前、どっかからか仲間を呼びやがったな? もしかしたら、ロロノア・ゾロかもしれないと思ったが、さすがにそんな金も度胸もなかったみたいだねえ」
「え、えへへ……。な、なんのことでしょう!」
「しらばっくれるんじゃないよ!」
「うわぁ!!」
アルビダは金棒を振り下ろして地面ごとコビーのいた場所を地面ごと叩き割った。
腰の抜けたコビーは、その場でわなわなと震えるだけ。
「ちょっと、危ないでしょ!」
「なんだ……? 貧弱そうな女がいるじゃないか」
ウタの容姿を見て、ニタリと笑ったアルビダは金棒をコビーへ向ける。
「一回だけチャンスをやろう、コビー。そこの小娘と私、美しい女はどっちだい?」
ぎこちない笑顔で、コビーは口を開く。
「へへ……それは、もちろん
「何言ってんだ? ウタの方がお前より綺麗だろ」
「!!!!!!(愕然とするアルビダ一同+今の言葉への衝撃と録音する術を持たないことへの後悔が相まって困惑しながらもルフィを一心に見つめるウタ)」
「というか、誰だ。このいかついおばさん」
アルビダのこめかみから血管のはち切れるような音が響く。
青ざめた表情の子分たちは、あんぐりと口を広げてルフィたちを見つめる。
「こいつ、なんてことを……!!」
ブチギレたアルビダはすぐさま金棒を振り上げた。
「て、訂正してください! この方はこの海で一番——」
「その必要はないよ、ルフィ」
透き通るような声が聞こえて、
「私の世界においで」
心をわしづかみにするような歌声が響いた。
あまりの美しさに、アルビダの体がぴくりと止まる。
だが、
「ちょっと歌が上手いだけで、海賊が倒せるわけがねえだろ!」
「倒せるんだよね、それが」
アルビダの金棒は、黄金の槍によって阻まれた。
「私は、最強」
一撃だった。
ふわりとアルビダの目の前に浮かんだ音符が破裂し、子分もろとも吹き飛んでいく。
「つ、つよい……!」
コビーはウタの力を目の当たりにし、ごくりと唾を飲んだ。
「君さ、コビーだっけ?」
「は、はい!」
「なんであいつらの言うことを聞いてるの?」
「そ、それは……」
コビーは悩みながらも、自分の弱さを口にする。
「勝てないのに、戦ってもしょうがないじゃないですか。あんなに怖い海賊を目にしたら、足がすくんで逃げることもできなくて」
「ふーん。つまんない人生」
ウタはコビーの頭をコツンと殴った。
「夢はないの?」
「それは……あります。けど、僕なんか叶えられるわけ……」
「言わなきゃ、叶わないよ」
「…………海軍に入りたいんです」
コビーは語り出した。
「あなたたちとは敵ですけど、海軍に入ってえらくなって、悪い奴らを取り締まることが夢なんです! 子どもの頃からの!」
「でも、海軍っていやーな人もいるよ?」
「そんなことありません! だって、海軍は困ってる人を救い、海賊から人々を守る正義の味方なんですから!」
「そっか。なら何も言わないよ。ってことで、ほら!」
ウタは倒れるアルビダたちの前にコビーの突き出した。
「さあ、自由になろう! 言いたいことを言って、やりたいことをやって、なりたいものになろう! それを阻む壁なんて、壊しちゃえ!」
傷つきながらも金棒を杖にして立ち上がったアルビダは、鋭い目つきでコビーを睨みつける。
「なんだい、コビー。あたしと、やろうってのかい……?」
「い、いや……それは……」
「コビー!」
ウタは叫ぶ。
「なるんでしょ、海軍!」
「…………はいっ!」
足はガクガクに震え、真ん中分け髪型の隙間から見える額には大粒の汗が滲み、目には今にも溢れそうな涙が浮かんでいる。
それでも、コビーは叫んだ。
「ぼ、僕は海軍になりたいんだ! お前みたいないかついクソばばあなんて、懲らしめてやる!」
「このガキャーーーっ!!!」
痛みも忘れて金棒を振ろうとしたアルビダを見て、ウタは笑う。
「よく言ったね、コビー」
ふらりと体が揺れる。
ウタが“ウタウタの実”の力で作り上げた仮想世界に終わりが近づいているのだ。
「私、寝るから。あとはよろしくね、ルフィ」
直後、コビーは自分がいつの間にか眠ってしまっていたことに気が付いた。慌てて体を起こすと、同じように眠っていたアルビダのすぐ目の前に、拳を振りかぶるルフィがいた。
「ゴムゴムの、
今度も、一撃だった。
次はルフィの“ゴムゴムの実”の力によって放たれたパンチがアルビダの顔面にクリーンヒットし、今度こそアルビダの意識が落ちる。
「ア、アルビダ様が負けてる!?!?」
気が付いたら敗北している船長を見て、子分たちは目を丸くしていた。
慌てふためく子分たちに、疲労によって眠りについたウタを抱き抱えるルフィが指をさす。
「こいつにはもう自由だ! 関わるな!」
「は、はい……」
「よく寝たー!」
自分たちが乗っていた小船にコビーを乗せて次の島へと向かっている途中、ようやくウタが目を覚ました。
「おはようございます、ウタさん」
「あれ? もう海の上?」
「はい。僕が海軍になりたいという話をしたら、この先の海軍基地まで乗せてくれると言ってくれたので」
「なるほどー! ちょうど私も行きたいと思ってたんだよね」
ウタはルフィと目を合わせる。
「ロロノア・ゾロってやつ、強そうじゃない?」
「おれもさっき、コビーからそいつの話を聞いたんだ。おれも仲間にしようと思ってよ!」
「いい人だったらいいね!」
「ええー!! ムチャですよ! ムリムリムリ! 魔獣のような奴なんですよ!」
「そんなの分かんないだろ」
「そうだね。それに、
「ぐ、
コビーは船の上で飛び跳ねた。
「ま、まさかあなたたち、
「ああ」
「あそこは海賊の墓場とも呼ばれる場所ですよ」
戸惑うコビーを見て、ルフィとウタは同時に笑った。
「おれはさ、海賊王になるんだ!」
「か、か……海賊王ですか!? そりゃあ、
「ちなみに、私は世界一の歌姫! 私の歌を世界中の人に聞いてもらって、笑顔が絶えない世界にしたいんだ!」
笑顔ではあるが、冗談を言っているようには見えなかった。
それに、二人とも海の秘宝と呼ばれる悪魔の実を食べた能力者。
いつか彼らが
「でも、あなたたちがいくら強いとはいえ、危険すぎます。命がいくらあっても足りませんよ」
「おれは死んでもいいんだ」
「え?」
「おれがなるって決めたんだから、その為に戦って死ぬなら別にいい」
「私も、この世界を変えるためなら死んだっていい」
本気だった。
あまりにも固く強く高貴な覚悟を前に、コビーの目に涙が浮かぶ。
「僕にも、やれるでしょうか」
「しらね」
「どうだろうね」
「いえ! やりますよ! 僕は悪い奴らを懲らしめる正義の味方になってみせます!」
「おう、そっか!」
「そうなれば急ぎましょう! すぐさま海軍基地に行って、海軍に入れてもらいます!」
「頑張ってねー!」
パタパタとパーカーの余った袖を振るウタの声援を受けながら、コビーは船をこぎ進めていった。
誕生日おめでとう、ウタ!
君が変えた世界は、二人で作ろうとした新時代は、ここにある!
歌でみんなを幸せにして、次の時代を作るんだ!