麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第二十二話「小さな庭」

 

 

 古代兵器“ヴィーナス”。

 ミス・オールサンデーが口にしたその言葉を聞いて、ウタとルフィは顔を見合わせる。

 

「ねえ、ルフィ。知ってる? 古代兵器って」

「なんだそれ、美味いのか?」

 

 案の定、二人は知らないようだった。

 それも想定内だったのか、ミス・オールサンデーは微笑んだまま、

 

「知らないならいいのよ。なにしろ、私も名前以外の情報はほとんど知らないわ。ただ、一つだけ知っているとしたら」

 

 ロビンはウタを指差した。

 

「ウタウタの実が関係している、ということだけ」

「私の悪魔の実が……?」

「そう。あなた、その実をどこで食べたの?」

「知らない。物心ついたときには、この能力が備わってた。そもそも、言われるまでは自分が能力者だってことすら知らなかった」

()()()()。そうなのね」

 

 ウタがシャンクスに拾われたのは、二歳の頃。当時のことはほとんど覚えていないが、悪魔の実を食べたなんていう出来事はほんの一欠片も記憶にない。

 そんなことはあり得ないのだと、ミス・オールサンデーは言う。

 

「悪魔の実は、食べれば魔法のような力を手に入れる代わりに海に嫌われる、この海ではトップクラスの財宝よ。それをいつの間にか食べていました、なんて聞いたことがないわ」

 

 ルフィがゴムゴムの実をうっかり食べてしまったときですら、シャンクスたちの動揺は果てしなく、あの時のシャンクスの焦った顔は今でも記憶に残っている。

 そんな衝撃が一つもないウタが異質だと言うのだ。

 

「考えられる理由は一つ。政府が悪魔の実を隠したかったから」

「……隠す?」

「悪魔の実は同じ時代には決して存在しない。しかし、実のまま保管してしまえば、その存在を知った海賊に狙われてしまう」

 

 悪魔の実を管理するにあたり、実のまま保管するのは非常に危険なのだ。

 故に、その際にはある手段が用いられる。

 

「政府の支配下に住む、なにも知らない人間にこっそりと食べさせて、なんでもない場所で平和な人生を暮らすだけで、何十年も悪魔の実を隠すことができる」

 

 例え、食べた人間が発覚して捕えられたとしても、戦闘能力のない人間は使い物にならないし、殺してしまえばまた悪魔の実を探すというスタートから始まる。

 そうなれば、また海軍が悪魔の実を先に探し出して同じことをすれば、半永久的に悪魔の実を支配下に置くことができる。

 

「…………私が、ウタウタの実の保管庫……?」

 

 言われてみれば、やたらと納得がいく。

 シャンクスはウタの故郷についてなにも教えてはくれなかったし、ウタウタの実についても詳しく話そうとしなかった。

 そもそも、だ。

 ウタウタの実は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その能力を考えれば、なにも知らない人間に食べさせておけば、ただのカナヅチだとしか本人は思わないのだ。

 つまり。ウタが()()()()()()()()()()()()()だったのなら。

 腑に落ちてしまう。

 ミス・オールサンデーの言葉が、やたらと体に染み込んでくる。

 

「じゃあ、私は……」

 

 ウタウタの実の能力を持って、なにもせずにゆっくりと死んでいくためだけに生まれたとでも言うのか。

 いや、もしかしたら。

 歌うことが好きなことも、歌がが人よりも上手く歌えていることも、()()()()()()()()()()()()()なのだとしたら。

 それなら、自分は何のために生まれて——

 

「ウタ!」

 

 思考を遮ったのは、ルフィの声だった。

 ルフィはミス・オールサンデーのことを鋭く睨みつけて、

 

「お前なんかがウタの人生を決めつけんなよ! ウタはウタだ! それ以外の何者でもねえ!」

「……ルフィ」

 

 なにを迷っていたのだろう。

 自由を求めて、新時代を目指してこの海に出たというのに。

 見知らぬ人間の言葉を間に受けて、大切なものを見失っていた。

 だって。

 こうしてルフィに抱く感情は、本物ではないか。

 なら、海に出た選択だって、今ここに立っているのだって、全ては自分自身で決めたことではないか。

 

「ありがとう、ちょっと迷子になってた」

「なんだっていい。とにかく、おれはお前、嫌いだ!」

 

 ミス・オールサンデーは、穏やかな表情を崩さない。

 

「……そう。とにかく、これであなたに古代兵器の情報が隠されているという可能性は高くなった。あとは、追手にあなたを捕まえさせてから詳しく聞くとするわ」

「おっと。敵船に乗り込んで簡単に帰ろうだなんて、虫がいい話じゃねえか?」

 

 剣を抜いたゾロが切先をミス・オールサンデーに向ける。

 そして、彼女のすぐ隣ではウソップがパチンコを引いていた。

 いつでも倒せると、全員は神経を張り詰めていたのだが、

 

「私は戦うつもりはないわ。社長(ボス)からはその仕事を請け負っていないの」

「へえ、じゃあこの状況で逃げるってのか?」

「ええ。逃げるのは得意なのよ」

 

 なにもせずにその場に座っているはずなのに、ウソップの体がふわりと浮かび、ゾロの方へと投げ出された。

 咄嗟にゾロがウソップを受け止めたタイミングで、ミス・オールサンデーはメリー号から降りた。

 そこには大きな亀が浮かんでおり、それに乗って彼女は去っていく。

 

「あなたたちの次の航路はリトルガーデン。普通はそこに着いた時点で全滅が基本だけれど、さらにこの後ろには千人の追手がいる。歌姫と王女は殺さないように、と言ってあるから、大人しく差し出した方が全滅せずに済むかもしれないわよ」

「知るか! お前が勝手に決めんな!」

「べーっだ! 私たちが進む道が正解なんだもんねー!」

「ふふ。面白い子たち。運が良ければ、また会いましょう」

 

 ウタは舌を出してミス・オールサンデーを見送る。

 ルフィのおかげで取り乱さずに済んだが、それでも彼女の言葉を一切気にしていないわけではない。

 

(ウタウタの実……。シャンクスが教えてくれなかったことには、何が隠されてるの……?)

 

 心の奥で何かが蠢く感覚を意識的に無視しながら、水平線を見つめる。

 ビビもミス・オールサンデーには少なからず因縁があるため、なんとなく緊張した重たい空気で船内が満ちる。

 すると、サンジがたくさんのグラスを持って現れた。

 

「おい! 野郎ども! おれのスペシャルドリンク飲むか!?」

「おー!!!」

 

 ルフィたちにドリンクを配ると、男たちはワイワイと楽しそうにドリンクを味わって話し始めた。

 その姿を見て、ビビが強めな口調で、

 

「いいの!? こんなんで!」

「いいんじゃない? シケが来たらこいつらも働くわよ。はい」

 

 ナミがサンジから受け取ったドリンクをビビを渡す。

 戸惑いながらもそれを受け取ったビビに、ナミは可愛らしくウインクをして、

 

「悩む気も失せるでしょ、こんな船じゃ」

「……ええ」

 

 ビビの次は、ウタの元へナミは歩く。

 遠くを見つめるウタの視線の先に、ナミはグイッとドリンクを出す。

 

「はい、ウタ」

「ありがと、ナミ」

 

 ちゅーとウタはドリンクを飲み始めるが、心は依然としてどこかへ言ってしまっているようだった。

 それを見かねたナミが、ウタの背中をドン!と叩いた。

 

「えい」

「うひゃあ!? なにすんの、ナミ!」

 

 ナミはウタの額をピンと叩いて、

 

「あんたが笑ってないでどうすんのよ。あなたの笑顔のおかげで、私は救われたのよ」

「…………うん」

 

 偽物かもしれない人生の中でも、自分の人生を肯定してくれる仲間がいる。

 一人ではないというのは、こんなにも嬉しいことなのか。

 口元を緩ませたウタは、いつも通りの笑顔で大きく頷いた。

 

「ありがと、ナミ!」

「お互い様でしょ?」

 

 もうすぐ、麦わらの一味はリトルガーデンに到着する。

 前方には全滅必至の魔の島。

 後方には千人のバロックワークス。

 逃げ場もない現状であるにも関わらず、ウタたちは島に着くまで笑顔で航海を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれかァ! 偉大なる航路(グランドライン)、二つ目の島!」

 

 視界に映ったのは、岩肌の露出した山々に密林が生い茂る自然の島。

 怪物の一つなどいない方がおかしいほどに悠然と佇むその島に、ルフィたちは船をつける。

 

「リトルガーデン。ミス・オールサンデーが言っていたことも気になるわ。気をつけて行きましょう」

「そろそろ食料も調達しねえとな。ウイスキーピークは待ってる時間もなかったし」

 

 慎重になるサンジとビビは、周囲を見渡しながら、

 

「にしても、これのどこがリトルなんだ? 秘境の地じゃねえか……」

「わー! 見てみて! あそこにでっかい蛇がいる!」

「なんであんた、そんな楽しそうなのよ! こっちは怖いって言って——」

 

——ドォン!!!!!

 

 心臓まで揺らすかのような爆音が島中に轟いた。

 あまりにも強烈な音に、ナミは震えることすら忘れていた。

 

「こ、これがジャングルから聞こえる音なの!?」

「……噴火かな? 火山か何かがあるみたい」

「じゃあなおさら危険じゃない! こうなったら、船の中でログが溜まるのを待つしか……」

「でも、ここにいたらバロックワークスが来ちゃうよ?」

「そうだったわ……私たち今、千人に追われてるんだったわね……」

 

 船を進めている限り、見える範囲にバロックワークスの追手は見えていない。

 しかし、やつらがいつ来てもおかしくはないのだ。丸見えの場所でじっとしている方が危険に決まっている。

 がっくりと肩を落としたナミの肩に、ウタは手をおく。

 

「というわけで、この島で隠れる場所か、向かいうてる場所を探そう!」

「お、ということは……!」

 

 ウタとルフィは目を見合わせて、

 

「「冒険だァー!」」

「私は絶対に隠れる場所を探すわよ!」

「それでいいよ! サンジ、お弁当!」

「おれも海賊弁当!」

「仕方ねえな。すぐに作ってやるから待ってろ」

 

 サンジが厨房に入った直後、ビビもルフィたちの横に並んだ。

 

「私も、ついていっていい? じっとしていられなくて」

「もちろん! 行こう!」

「ありがとう。じゃあ、行くわよ、カルー」

「…………!!!!?!?!?」

「あはははっ! それはないよって言ってるよ!」

「……え。あなた、カルーの心が分かるの?」

「なんとなくだけどね! はっきり聞こえるのは本当に稀だけど、どんなことを考えてるかとは大体分かるよ!」

 

 凄まじい能力をサラッと言ったウタをみて、ビビは呆然としていた。

 そんなビビへ、ナミが気にしたら負けよ、と笑う。

 

「というわけで……!」

「行くぞォー!!!」

 

 ルフィとウタが並んで走り出す後ろで、カルーに乗ったビビがついていく。

 千人が追ってくるのなら、先に地形の把握をしている方が必ず有利になる。

 それに、見るべきはここに住む生物たちだ。

 

「みろ! イカガイだ!」

「これって、アンモナイトじゃ……?」

「すごいすごい! ビビ、見て! すごいおっきな首長海王類! ……あれ、でもなんで陸に……」

「き、恐竜!?」

「「恐竜!?!?」」

 

 何十メートルもある長い首に、分厚い薄緑の皮膚で覆われた巨躯。

 ロマンの塊のような存在を前に、ルフィとウタは目を輝かせていた。

 さらに他に面白いものはないかと周囲を見ていると、ルフィが何かを見つけた。

 

「みろ、ウタ! 変な色のキノコ!」

「本当だ! 白とピンク色だ! しかもなんか耳みたいなのも付いてる!」

 

 偶然に見つけたキノコを面白がってウタが触っていると、そのキノコを見たビビが慌ててウタの手を払った。

 

「さ、触っちゃダメ!」

「わあ! どうしたの、ビビ!」

「それ、猛毒キノコだわ。図鑑に載ってるのを見たことがある」

 

 王女の教養のおかげか、ウタは転がった白とピンクのキノコの毒に触れずに済んだようだった。

 ほっと息をついたウタは、ビビに詳細を聞く。

 

「これ、なんてキノコなの?」

「そのキノコの名前は『ネズキノコ』。食べた人は、眠れなくなると言われているわ」

「え! じゃあ私が食べたら無敵じゃない?」

「やめておいた方がいいわ。そのキノコは……」

 

 ゴクリと唾を飲んだビビは、重々しい言葉をウタに伝える。

 

「一口食べただけでも数日で命を落とす猛毒キノコ。一つ丸々食べてしまえば、数時間も持たないと言われているわ」

 

 恐るべき力を持つネズキノコの毒を知ったウタは、慌ててそれから距離を取る。

 体に何も異常がないことにホッと息を吐くのも束の間、頭上からルフィの声が聞こえた。

 

「すげー!! いい眺めだぞー!」

 

 いつの間にか首長の恐竜の頭に乗っていたルフィが、大きく手を振っていた。

 それに呑気に手を振りかえしているウタだが、ビビは注意をする。

 

「危ない! 大人しくしてても恐竜よ!」

「大丈夫だよ、こいつさっきから草ばっかり食ってるし……ん?」

「食べられてるじゃないのよー!!!」

「ルフィが食べられちゃったー!?」

 

 ウタとビビが慌てふためいていると、何十メートルもある恐竜の首を、何者かが()()()()()()()()()

 両断された恐竜の首から、飲み込まれる途中だったルフィがひょっこりと顔を出す。

 

「お!?」

 

 そんなルフィを片手で、しかも手のひらに簡単に収まるように受け止めたのは、恐竜よりも大きな巨人だった。

 

「ゲギャギャギャギャ!! 活きのいい人間だな! 久しぶりの客人だ!」

「き、巨人だー!!!」

 

 髪の毛の輪っかをピコピコと動かして、ウタは目を輝かせていた。

 

 

 

 

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