麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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今日はやけに書くのに時間がかかるなと思ったら、いつもの倍分量がありました。
いつもより遅めですいません。
その分、内容も濃いので楽しんでください。


第二十三話「誇りを守るために」

 

 

 巨人たちが暮らす村、エルバフの戦士、ドリー。

 リトルガーデンに人がやってくるのは珍しいのか、先ほど倒した恐竜を焼いてもてなしてくれた。

 

「おいしー!」

「こりゃうめえな! 巨人のおっさん!」

「ゲギャギャギャ!! お前らの弁当もなかなかいけるぞ! ちと量が少ないがな!」

「当たり前だろ! 不味いなんて言ったらぶっ飛ばすぞ!」

「ギャギャギャ! 面白いチビだ!」

 

 ルフィたちの弁当を器用につまんで味わってるドリーは、バンバンと手を叩いて笑っていた。

 楽しく笑う人で、話しているこっちまで楽しくなる。やたら馴染んでいるので、ビビは戸惑っていたが。

 

「ところで、なんでおっさんはこんなところに住んでんだ?」

「ここで一騒動起こしちまってな。いまはある男との決闘中なのさ」

 

 エルバフの村には掟がある。

 争いごとに決着がつかないときは、エルバフの神の審判を受けるために決闘を行う。

 それは正しいものを生き残らせる。つまり、勝ったものが正しいという至極簡単なものだ。

 それゆえに、ドリーは決闘していると言うのだが。

 

「かれこれ百年、てんで決着がつかん! ゲギャギャギャ!」

「ひ、百年も!?」

 

 驚いた三人の表情を見て、ドリーはまた笑う。

 巨人の寿命は普通の人間の三倍はあると言うが、それでも三〇と余年。ルフィやウタの人生を全て使っても追いつかない。

 ビビはそんなにも争いをする必要などないと言うが、ルフィとウタはそんな問いはしない。

 

 ——ドォォン!

 

 視界の端にある火山が噴火した。

 それを見て、ドリーはゆったりと起き上がる。

 

「さて、行くかね」

「行く?」

「いつしかお決まりになっちまった。真ん中山の噴火は、決闘の合図」

 

 剣を握り歩き出すドリーを、ビビは止めようと声をかける。

 百年も経っても消えない憎しみではないだろうと。そんなにも戦い続ける理由などないだろうと。

 だが、そんな醜い理由ではないと、ルフィとウタは分かっていた。

 

「やめろ、そんなんじゃねえよ」

 

 ビビの口を塞いだルフィ。

 確信じみた何かを感じたウタは、一言問いかける。

 

「……誇り、ですか?」

「その通り」

 

 命を懸けた戦いに赴く男は、こう叫ぶ。

 この戦いの意味など、言葉で表せるものではないのだと言うように。

 

「理由など、とうに忘れた!!!!!」

 

 ドリーが剣を振ると、どこからともなくやってきた斧を持つ巨人がそれを盾で受け止めた。

 同じようにドリーも盾で斧を受ける。

 一目見れば、それが命をかけた戦いであると分かる迫力。

 圧倒されたウタは腰が抜け、その場に座り込む。ルフィも同じようにその場に倒れ、空を見上げる。

 

「まいった。デっケェ……!」

 

 あまりにも気高い誇りが二つ、目の前にあった。

 そこまで見て、ウタは思い出す。

 初めて出会ったときも、ドリーは体に傷があった。最初は、これだけの猛獣に囲まれた島だから、それくらいは当たり前にあるのだろうと思っていた。

 だが、違う。

 島に入ったときに聞こえた音は、先ほど聞いた噴火の音と同じ。

 ついさっきまで、ドリーは決闘をしていたのだ。

 これほどまでに強烈な、本当の殺し合いを。

 

「これが、誇り……!」

 

 ウタは自分の指先が震えていることに気づいた。

 二人は笑っている。命と誇りをかけたこの戦いを心から楽しんでいる。

 

「こんな、笑顔の形があるんだ。私、知らなかった」

 

 歌って楽しい。遊んで楽しい。

 自分の歌で笑ってもらおうと思ってきた今まで、単純にそれだけでいいと思っていた。

 

「すごいね、ルフィ。世界って、こんなに広かったんだ」

「ああ、すげえな」

 

 ルフィもその決闘を静かに見守っていた。

 肉を振る舞ってくれたからドリーを応援するなんて、そんな失礼なことは決してしない。

 例えドリーがここで死んだとしても、それを見届ける覚悟を持たないと、その方が失礼だ。

 

「なんでこんな……!」

 

 ドリーともう一人の巨人の戦いを見ていられないビビに、ウタは言う。

 

「これはね、戦士という旗を胸に掲げた二人の、誇り高き決闘なんだよ。先にどっちかの旗が折れれば、殺し合いすらしなくて済んだんだろうけどさ」

 

 死ぬまで折れぬ(ほこり)が胸にある以上、決着は死ぬまでつかない。

 これは、そういう戦いなのだ。

 

「ウソップ、大興奮してるんじゃないかな。きっと、ウソップが目指してる人は、あんなおっきな背中をした人たちだよ」

 

 話をしているうちに、この決闘は終わりを告げる。

 

「七万三千四六六戦、七万三千四六六引き分け」

 

 相打ちだった。

 盾で殴りつけたパンチがお互いの顔を打ち抜き、同時にその場に崩れ落ちる。

 今回も決着をつけることができなかったドリーは、いつものように笑い出す。

 それにつられて、もう一人の巨人も笑い出した。

 

「ガバババババ!! ドリーよ! 実は客人から酒をもらった!」

「そりゃいい! わけてくれ! ゲギャギャギャ!」

 

 

 

 

 

 

 

 もう一人の巨人の名はブロギーというらしい。そして、そちらの客人とやらはどうやらウソップとナミだったようだ。

 

「ろ、ログが溜まるまで一年!?」

 

 自分たちの話をし始めたルフィたちは、ドリーから告げられた言葉を聞いて動揺していた。

 自分たちならば、この地で一年過ごすことは問題ないだろう。だが、今はそんな場合ではない。

 

「数時間ならまだしも、そんな時間がかかってしまっては追手もこの島にくるだろうし、アラバスタだってどうなるか分からない」

「持っている指針(ログ)は、おれたちの持つエルバフの永久指針(エターナルポース)だけだな」

「それじゃあダメだ。おれたちが行きたいのはアラバスタなんだよ」

「ゲギャギャギャ! なら適当に進んでみるか!? 運が良ければ着くかもな!」

「あっはっはっはっは!!! 着いたりしてなぁ!」

「あはははっ! 一発でアラバスタ着いちゃうかも!」

「ゲギャギャギャ! 本当に面白ェチビたちだ!」

 

 笑いながら、ドリーはブロギーから分けてもらったという酒を口に運ぶ。

 そして、それを飲む直前。

 

「——!?」

 

 ウタの背筋に嫌な予感がして、慌てて声を上げた。

 

「待って、ドリーさん! それ、飲んじゃダメ!」

「ん? なんだぁ? 止めるんじゃねえよ。久しぶりの酒なんだ」

「とにかく飲んじゃダメ! ルフィ、取り上げて!」

「わ、分かった!」

 

 ウタに指示されて、ルフィはドリーが持っていた酒を強引に地面に落とした。

 

「な!? 何しやがる!」

「いいから、これ見て!」

 

 ウタは肉を焼くときに使った薪の中でまだ僅かに火が残ってるものを掴んで、こぼれた酒へと投げる。

 薪が酒に触れた瞬間、その場の地面が抉れるような爆発が起こる。

 散っていく草花を、ルフィたちは目を丸くして見つめる。

 

「……悪意が『聞こえた』。そのお酒に、何か嫌な感情が入ってた」

 

 ウタは耳を澄ます。

 ウイスキーピークを出るときに聞いた千人の追手ではない。

 ずっと少数で、しかしそこらの小悪党よりもよっぽど嫌な気配が聞こえてくる。

 

「……誰? くだらないことをしようとしてるのは」

 

 直後、再び噴火の音が聞こえた。

 この頻度で、彼らは百年も命懸けの決闘を続けてきたのだ。何かの拍子で決着がつく可能性だって充分にある。

 もし、あの酒をドリーが飲んでしまっていたら。

 考えただけでも、寒気がする。

 

「許せない」

 

 ウタはポツリと呟いた。

 それはさながら、宣戦布告だ。

 相手の海賊船に忍び込み、こっそりと海賊旗を燃やすような、卑怯で卑劣で、低俗な行為。

 

「ドリーさん!」

「なんだ。もう決闘が始まる」

「ごめんなさい。この島に、敵を連れてきました。あと少しで、あなたたちの誇り高き決闘に水を差すところだった」

「ゲギャギャギャ! 気にするな! 結果的に何もされてねえ!」

 

 笑い飛ばしてくれるドリーに、ウタは深く頭を下げた。

 

「これから、もしかしたら千人もの敵がこの島に来てしまうかもしれません。そうしたら決闘どころじゃなくなってしまう」

「それも気にしなくていい。やたらとコバエが多い日だって何度かあった」

「……決して、決闘の邪魔はさせません」

 

 言って、ウタはルフィの方を向く。

 

「行こう、ルフィ。絶対に、あいつらをここに近づけないように」

「おう!」

 

 すぐに、ウタとルフィは気配を感じた森の方へと歩いていく。

 あたふたとしているビビは、とりあえずウタたちについていくことを選んだようで、逃げ出そうとするカルーの紐を懸命に引っ張っていた。

 少し走ったところで、ウタが足を止める。

 

「そんな。もう来たの……?」

 

 すぐ近くの海の上に、気配が千人ほど。

 ビビとウタを攫うためだけに、本当にバロックワークスは仕掛けてきた。

 

「ルフィ、そっち任せる!」

「分かった! ウタは!」

「大人数の制圧なら、私の得意分野だから!」

 

 ウタの中にある選択肢は二つ。

 ()()()()()()()()()()()()()をするか、ウタウタの力によって身動きを封じるか。

 走りながら考えるが、千人をウタワールドに取り込むなどやったことがない。

 だが、それくらいで怯んでいてはならない。

 

「世界中の人に聞いてもらうなら、千人くらいで止まってられない……!」

 

 ウタは海岸へと走る。

 そこへ着いたウタは、周囲を見回す。

 メリー号には残念ながら誰もいない。だが、助けを呼ぶ暇もない。

 ゾロやサンジがいれば心強かったが、後悔してる時間もない。

 バロックワークスたちは、既に海岸へとやって来ていた。

 後ろでは、ドリーとブロギーが戦う音が響いている。あの決闘が自分たちのせいで台無しになるのは絶対にいけない。

 

「あなたたちの目的は、ビビと私でしょ!」

 

 ウタが高々と宣言すると、バロックワークスたちは手配書を眺め、武器を構えた。

 標的として、ウタを認識したようだった。

 ウタは大きな深呼吸をして、千人もの敵を眺める。

 

「誇りを汚そうとしてるんだから。命、懸けてよね」

 

 ウタは精一杯の声量で歌声を響かせる。

 海岸に響き渡った歌声は、たちまちにバロックワークスたちを魅了し、ウタワールドへと誘い込む。

 瞬間、ガクッと視界が下がった。

 足に力が入らなくなって膝をついたのだと、後から気づいた。

 

「……きっついなぁ。千人」

 

 既に息は上がっていて、寒気や冷や汗が止まらない。

 まだ数秒しか経ってないのに、気を抜いたら意識が飛びそうだった。

 アーロンパークで体力がついたと思っていたのだが、まだまだ力が足りない。

 

「せめて、島の外へ……!!」

 

 ウタは眠りについたバロックワークスたちの体を操って、船に戻して海へと出そうとしていた。

 時間稼ぎで、これ以上の手段を思いつかなかったのだ。

 

「——♪」

 

 疲労と眠気に耐えながら、ウタは歌い続ける。

 遠くで、ルフィたちの戦っている声が聞こえる。少し手強いような気配もあったが、ルフィたちならば問題ないだろう。

 だから安心して、目の前の敵だけを押さえつけていればいい。

 

「——ダメ。あと少ししか、持たないかも……」

 

 まだ一分しか歌っていない。

 一曲も歌い切らずに終わるライブなんて、あってはいけないのに。

 と、ふと。

 ウタはポケットに何かが入ってるのに気づいた。

 それは、白とピンクをした禍々しい気配を放つキノコ。

 

 ネズキノコ。眠れなくなる代わりに、食べれば死んでしまうという猛毒キノコ。

 一口でも数日で死んでしまうというが、かじる程度なら。数分持たせる程度なら。

 口まで運ぼうとして、ウタはぶんぶんと首を振った。

 

「ダメ。こんなところで、そんな賭けなんて——」

 

 そこまで言って、ふとウタは先ほど自分の言った言葉を思い出す。

 命を懸けろと、相手に言ったのだ。

 それはつまり、自分の命も同じテーブルに乗せるということ。

 

「————」

 

 ウタはそっと、ネズキノコを口へと運んで——

 

 

 

 

 

 

 

 ルフィたちは、森の影に身を潜めていた、髪型から見るに明らかにMr.3だと思われるエージェントたちと相対していた。

 ドリーとブロギーも狙っていたのか、酒の罠が不発に終わって不満そうな顔を浮かべていた。

 

「フハハ! 罠に掛からなかったのは残念だが、勝手に殺し合ってくれてありがたいガネ!」

「……なに?」

「分からんのかね? あいつらの首は一人一億! うっかり足を滑らせて決闘に決着をつけさせて、油断したところをいただけばそれだけで大金持ち! 実に簡単な仕事だガネ!」

「Mr.3。早くしないとまた決闘が終わっちゃうよ」

 

 Mr.3の隣に立つ大きなハットを被った少女が釘を刺した。

 おそらく、島に来たタイミングが決闘の合間で、妨害の工作をできなかったのだろう。

 そして、邪魔をするなら今この瞬間だとでも言わんばかりの顔をしているが、

 

「お前ら……あの決闘をなんだと思ってるんだ!」

「なにって、バカみたいな殺し合い以外のなんだというのガネ! 気の遠くなる時間を戦い続けるなど、アホでしかない——」

「ゴムゴムの(ピストル)!」

「ウゴォア!?」

 

 言い終わる前に、ルフィが繰り出したパンチでMr.3が吹っ飛ぶ。

 問答無用で殴り飛ばしたMr.3へ、ルフィは吐き捨てるように言う。

 

「おっさんたちの決闘は、絶対邪魔させねェ!」

「ミス・ゴールデンウィーク! (トラップ)を!」

「もうやってるよ、Mr.3」

「……なんだ?」

 

 ルフィは違和感を覚えた。

 ふつふつと湧いてくる怒りに任せて、Mr.3などいくらでも殴れるつもりなのに、殴れない。

 否。()()()()()()

 

「カラーズトラップ」

 

 ルフィの足元に描かれた黒い模様。

 ミス・ゴールデンウィークは絵の具を使って、相手に暗示をかけることができる。

 しかし、

 

「殴りたくねえ〜!!!」

「ウゴォア!?!?」

 

 叫びながら、ルフィはMr.3を殴り飛ばした。

 再び吹き飛んだMr.3は体を起こしてミス・ゴールデンウィークを睨みつける。

 

「どうなってるんだガネ!? 普通に殴られたガネ!」

「そんなはずは……! 笑いの黄色……!」

「あっはっはっは! 笑いがとまらねぇええ!!!」

「ウゴォア!?!?!?」

 

 またMr.3は殴り飛ばされた。

 

「もうお前には頼らんガネ! キャンドルチャンピオン!」

 

 Mr.3は痺れを切らし、ロウによって全身を固め、メカメカしい見た目へと変貌した。

 かっけー! と叫びながらも、ルフィは拳を構える。

 

「闘牛の赤……!」

「全部ぶっ飛ばす!」

「効かんガネ!」

「なごみの緑!」

「お茶がうめぇー!!!!!」

「効かーんガネェ!」

「どうして効かないの……!」

「こっちのセリフだガネ!!!」

 

 自分の技が一切通用しないミス・ゴールデンウィークは、その場に崩れ落ちた。

 だが、ルフィも何がなんなのかはよく分かっていないようで、

 

「知らねェけど、ウタの歌を最後まで寝ずに聴くみてえなもんだろ!」

 

 ウタの力は、ウタワールドに引き込むというものだが、その導入は洗脳や催眠に近い。そして、それを幼少期から間近で経験し続けてきたルフィには、暗示程度ならほとんど効かないような耐性がついていたのだ。

 もちろん、そんなことなど誰も知る由もないが。

 

「だったら私だけでやるガネ!」

「ゴムゴムの……バズーカ!」

「ぐっっ……!? 鉄の強度をほこる装甲を壊そうとしてるのかガネ!?」

 

 ルフィの一撃でも砕けないMr.3の装甲を前に、ルフィは自分の拳を見つめる。

 

「もうちょっとできそうなんだよなー。サボがやってた腕を黒くするやつ」

 

 ローグタウンでサボに出会ったとき、サボはルフィたちを導くように力を見せてくれた。

 高速で移動していたのはどうやったのか分からなかったが、サボの手が黒くなったのははっきりと目に焼き付けていた。

 あれがなんの力なのかは分からないが、力を入れるとはまた別の感覚を探っていくその先に、サボが使っていた力があるように感じたのだ。

 

「うっし! ちょっとおれの練習に付き合え! 三のやつ!」

「Mr.3だガネェ!」

 

 ルフィは楽しそうに、Mr.3へと殴りかかっていった。

 

 

 

 

 

 一方、ブロギーと出会っていたウソップとナミはというと。

 

「お前ら、ウイスキーピークの!」

 

 ルフィたちのように追手が辿り着いたことに気づいたわけではないが、目の前に現れたMr.5とミス・バレンタインを見て、すぐに状況を察した。

 

「追手がもう来てたのね……!」

「今更気づいたのか。もう海岸には千人来てるぞ」

「何……!?」

 

 ウソップは目を凝らして海岸の状況を『見る』。

 すると、本当に千人以上の敵意と、それに向き合う一人の影が見えた。

 

「おい、ナミ! ウタが海岸に!」

「あのバカ……! また一人で無茶してんじゃないでしょうね!」

 

 ウタの元へ走り出そうするナミだったが、その前にはMr.5とミス・バレンタインが立ち塞がる。

 

「キャハハハ! 私たちを置いてどこかへ行こうなんていい度胸してるじゃない!」

「通して。友達が待ってるの」

「倒せたら通してやるよ!」

 

 ミス・バレンタインは、ふわりとその場に浮かび上がった。

 既にその力を知っているウソップは、ナミへと叫ぶ。

 

「ナミ! 右に避けろ!」

「——チッ! 長鼻ァ!」

 

 ナミのすぐ横に悪魔の実の力で体重を増やしたミス・バレンタインの蹴りが突き刺さる。

 背中に走る寒気に耐えながら、ナミはウソップの元へ走る。

 

(ねえ、どうすんのよ! あんなやつらに勝てっこないわ!)

(安心しろ、ナミ。おれに考えがある)

 

 ウソップが耳打ちをすると、ナミはニヤリと笑って、

 

「なら、任せたわよ、ウソップ!」

「おう、任せろ!」

 

 直後、ウソップはMr.5へ向かってパチンコを向けた。

 

「必殺、火薬星!」

「——火薬だと?」

 

 パクン! とウソップが放った弾を食べたMr.5は平然とした顔のまま体内で火薬を爆破させる。

 

「質の悪い火薬だな。不味い」

「効かねえのなんか分かってるよ! もう一回、火薬星!」

「だから効かねえって——」

 

 パクン、とまた弾を食べたMr.5は、違和感を覚えて眉間にシワを寄せた。

 それを見て、ウソップがニヤリと笑う。

 

「食ったな。おれの特製、タバスコ星!」

「辛ーーーーー?!?!?」

 

 Mr.5があまりの辛さに悶絶している隙に、ウソップは足元に煙幕を投げた。

 白い煙が、ウソップとMr.5をまとめて覆う。

 

「全く、情けないね……っと!」

 

 ミス・バレンタインは走って距離を取ろうとするナミを追いかけながら体重を軽くしてふわりと浮いたが、

 

「……かかったわね」

 

 ナミが不敵に笑った途端、ミス・バレンタインを強風が襲う。

 

「な、なに!?」

「本日の天気は晴れ時々北風! 急な突風にご注意下さい、ってね!」

 

 風に煽られたミス・バレンタインは、ナミに狙いを絞ることができずに舌打ちをするが、それよってウソップの煙幕も消え始め、ウソップが被っている帽子がちらりと見えた。

 

「そっちは丸見えだよ! 一万キロプレス!」

 

 標的を変えたミス・バレンタインが完璧な一撃を繰り出した、が。

 煙がなくなって足元にいたのは、Mr.5だった。

 

「え……? なんで?」

「残念だったな。苦しんでて可哀想だから帽子でも被せてやったんだが、逆効果だったみたいだ」

「てめェ……!」

 

 ミス・バレンタインは歯ぎしりをしながら、再び空中に飛ぼうとするが、ただその場にジャンプしただけでまた着地する。

 

「あれ、私の傘……」

「ごめんね。私、元盗賊なのよ♡」

 

 ミス・バレンタインの傘を盗んでいたナミは、戦闘の全てを無くしたミス・バレンタインの顔面をステッキで殴りつけた。

 見事に気を失ったミス・バレンタインと、戦闘不能になったMr.5を確認して、ウソップとナミは走り出す。

 

「さっさと行くわよ、ウソップ!」

「おう! ウタがあぶねえ!」

 

 二人は海岸へ向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 逃げようとするカルーを連れてやっと海岸に辿り着いたビビは、目の前にある光景を信じられなかった。

 バロックワークスのエージェントたちが、目をつぶったまま船を漕いで海へと出ているのだ。

 まるで、操り人形のように。

 

「……これは」

 

 視線の先には、一人歌い続けるウタの姿があった。

 その立ち姿があまりにも美しくて、ビビは助けようとしてこの場に来たことすら忘れていた。

 我に帰ったのは、背後からナミたちの声が聞こえてからだった。

 

「——ビビ! ウタは!」

「ウタさんなら、あそこで」

 

 ビビが指をさした方向へ視線を向ける。歌い続けるウタと去っていくバロックワークスを見ただけで、ナミは状況を察した。

 

「——ウタ! もう良いわ! もうすぐ決闘も終わるし、敵も倒した! ウソップがさっきルフィも敵を倒したのを見たそうよ!」

「………………そっか。ならよかった」

 

 歌い終えたウタは、ケロッとした表情で立っていた。

 いつもならすぐに眠りにおいてしまうのに、その様子が一切ない。

 体力が成長したにしても、あまりにも急すぎる。

 

「ウタ。あなた、何をしたの」

「……あはは」

 

 ウタはポケットから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取り出した。

 それを見て、ビビが目を見開く。

 

「な、なんでそれを食べたの!」

「いやー、はは。こうでもしないと、ドリーさんたちの決闘を邪魔しちゃうと思って」

「な、なによ。何を焦ってるの、ビビ」

 

 ビビは唇を振るわせながら、懸命に次の言葉を探す。

 そして。

 

「おーい、ウター! 無事だったかー!」

 

 その言葉をビビが言ったのは、ちょうどルフィが海岸まで来たときだった。

 

「数日以内に解毒薬を飲まなければ、ウタさんはキノコの毒で死にます」

 

 たった一言だけで、笑顔だったルフィの顔が凍りついた。

 

 

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