麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第二十六話「五人目」

 ウタウタの実の『代弁者』としての力を使い、空想の世界から斧を引っ張り出してきたウタは、その斧を振りかざす。

 

「うりゃああああ!!」

「なんだ!? どこからそんな金ピカな斧を持ってきやがった!」

「夢の世界からだよ……っ!」

 

 ウタは大きく斧をワポルへと振り下ろす……が。

 

——バキ……っ!!!

 

「…………んあ?」

 

 思わず目をつぶっていたワポルは、自分に傷がないことに首を傾げる。

 その正面では、ウタがペロッと舌を出して、

 

「……折れちゃった!」

「折れんのかいっ!!」

 

 ビシ! っとワポルがツッコミを入れた隙に、ウタは走り出す。

 

「とりあえずサンジを回収して逃げるっ!」

「あ! いつの間に!?」

 

 ワポルの目の前まで来ていたウタは、倒れているサンジを抱えて、Dr.くれはの元へ運んでいく。

 

「ドクトリーヌさん! この人も仲間なの! 助けてあげて!」

「……仕方ないね。高くつくよ」

「えっとぉ……宝払いで!」

「ヒッヒッヒ! 楽しみにしておくかね」

 

 Dr.くれははサンジを抱えると、城の中へと入っていくが、その途中で足を止めてこちらを振り返る。

 

「……勝てるんだろうね、ワポルに」

「よゆーっ! ちょっとだけ待っててね!」

「ヒッヒッヒ! そうかいそうかい。なら、のんびり待つとするよ」

 

 これでサンジは無事だ。

 それで、好きに戦える。

 

「よし、好きに暴れるぞー! って、ルフィは?」

「こっちだ、ウタ!」

 

 ルフィは城の上にいた。

 ワポルによって折られた桜模様の海賊旗を、ルフィは直していた。

 

「まーはっはっは! わざわざ海賊旗を直して的になってやがる!」

「命も懸けてねえで海賊をやってるお前たちに、この旗を折る権利なんかねえよ」

「……は?」

 

 眉間にシワを寄せたワポルは、気色の悪い笑い声を上げる。

 

「まーはっはっはっは! そんなアホみてえな飾りを折ることに権利もクソもあるか! ご希望なら、いくらでも折ってやる!」

 

 言って、ワポルは再び大砲を海賊旗を持つルフィへと向ける。

 だが、ルフィもウタも、その動きに対して眉ひとつ動かさない。

 その横で、チョッパーが心配そうに声を上げた。

 

「お、おい! あいつ、危ねえぞ! 旗だって……!」

「大丈夫。折れないよ、あの旗は」

 

 ドガンっ! とルフィに砲弾が直撃する。

 ゲラゲラと笑うワポルだったが、砂煙が晴れれば、そこには海賊旗を持ったまま立ち続けるルフィがいた。

 そうなることを知っていたかのように、ウタはチョッパーへと笑いかける。

 

「ほらね、折れない」

 

 チョッパーが言葉を失っていると、城の上のルフィが叫ぶ。

 

「この旗は信念の象徴なんだ! 遊びで立ってるわけじゃねえ!」

「——ルフィ、行ける?」

「おう!」

 

 ルフィは海賊旗を城に強引に刺して、ゴムの力を使ってワポルたちへ突撃する。

 真っ直ぐに向かうのだ、当然、避けようと動くが、

 

「ルフィ! 少し狙いを右へ!」

「分かった!」

 

 ウタの指示を受けて、ルフィは強引に身体を捻り、避けようとするワポルの腹に突っ込んで行った。

 

「うごぉ!?」

「聞こえてるよ、あなたの動きは全部!」

 

 重たい一撃をくらったワポルは、怒りに任せて強硬手段に出る。

 

「……くそ、こうなれば! 王技、バクバク工場(ファクトリー)!」

「ぎ、ぎゃあああああ!!」

 

 ワポルは突然、味方の二人を大口でかぶりついた。

 

「な、なに!? 味方を食べちゃったの!?」

 

 そのまま味方二人を飲み込んだワポルは、なにやらもぐもぐと咀嚼してから、自分の腹にある扉を開ける。

 

「見よ、これが奇跡の合体!」

「チェスマリーモ!」

 

 出てきたのは、弓使いとモジャモジャボクシンググローブの男たちが肩車をしたような合体というにはお粗末な姿。

 だが。

 

「かっけーっ!!」

 

 それでもルフィは目を輝かせていた。

 少しだけウタもワクワクしていたが、こんな場合ではないと首を振る。

 だが、そんなウタヘ向かって、チェスマリーモ(合体した二人の)攻撃が襲いかかる。

 

「危ないっ!」

 

 咄嗟にウタを庇ったのは、チョッパーだった。

 攻撃を受け止めたチョッパーの身体は、巨大な球体のモフモフになっていた。

 

毛皮強化(ガードポイント)っ!」

「ふ……ふかふかのモフモフだぁ!」

 

 今日一番の笑顔を見せたウタは、守ってくれたチョッパーに抱きつく。

 

「すごいすごい! なにその身体!」

「う、うるせえ! お前なんかに褒められても嬉しくなんかねぇぞ、コノヤロ〜!」

「か、可愛い〜!」

 

 チョッパーにメロメロのウタは、今が戦いの最中であることを思い出して、ハッと背筋を伸ばす。

 

「そうだ! あなた、戦えるんだよね?」

「ああ! おれ一人で十分だ!」

「何言ってんの、一緒に戦おうよ! 仲間じゃん、私たち!」

「お前……!」

 

 嘘でも冗談でもない。

 こんなにも笑顔で、命を懸けた戦いに臨むと言っているのだ。

 ウタのことをジッと見つめたチョッパーは、身体の大きさをいつものマスコットサイズへの変えて、

 

「もう、迷わないぞ……!」

 

 チョッパーは高々に声を上げた。

 

「おれの名前は『トニートニー・チョッパー』! 世界で一番偉大な医者が名付けてくれた名前だ!」

「いい名前だね、チョッパー! さあ、行こう! 化け物タッグであいつらをぶっ倒すよ!」

「ああ! あいつらなんて、二分で充分だ!」

「ってわけで、その変なおじさん、任せたよルフィ!」

「おう! 任せとけ!」

 

 ルフィはワポルへ、ウタとチョッパーはチェスマリーモへ、視線を向ける。

 最初に動いたのは、ウタだった。

 

「試したいこと、たくさんあるんだよね!」

 

 素早い動きで、ウタはチェスマリーモの正面へ出る。

 合体したことで四本の腕を備えたチェスマリーモは、握りしめた斧をぶんぶんと振り回す。

 しかし、それは全て空を切る。

 

「うん。()()()()()()()()()()

 

 音以上の何かを、ウタは聞いていた。

 それは気配や殺気とも呼べるもので、その音に耳を傾けることで、ウタは攻撃を回避していた。

 

「こざかしいっ! ならば……!」

 

 チェスマリーモは巨大なハンマーを取り出して、ウタへと振り下ろすが、

 

「〜〜♪」

 

 鼻歌を唄いながら、ウタはその場でくるりと回る。

 すると、彼女の周囲に桜吹雪が舞い始めた。

 

「綺麗な桜で、私のこと見えないでしょ!」

「またまたこざかしいっ!!!」

 

 力任せに桜吹雪へ向かってハンマーを振り下ろすが、そこにはもうウタはいない。

 

「残念っ! こっちでしたぁ〜!」

 

 べっと舌を出すウタは、遠くで蹄を合わせてチェスマリーモを睨みつけるチョッパーへ声をかける。

 

「どう、チョッパー?」

頭脳強化(ブレーンポイント)で弱点を見つけた! あとは一撃、決めればいいだけだ!」

「よし! なら……!」

 

 ウタは、チェスマリーモの耳にそっと口を近づけて、小さく美しい歌声で彼らの鼓膜を揺らした。

 ふっ、とチェスマリーモの意識がウタワールドへと飛び、体から力が抜ける。

 

「そして、即解除!」

 

 パチン! と指を鳴らすと、チェスマリーモの意識が再び戻り、自分が気を失っていたことに気づく。

 直後。

 

腕力強化(アームポイント)!」

「……なんだ、いま、なにが起こって」

「刻帝……『(ロゼオ)』ッ!!!」

「グオガッ!?!?」

 

 完璧な一撃が、チェスマリーモのアゴに炸裂し、最も容易く意識を刈り取った。

 チョッパーは倒れたチェスマリーモを見下ろしながら、ぱんぱんと帽子をはたく。

 

「……一分も残っちまったよ」

「すごいすごーい! しかもまだこのフォルムできるのー!? またモフモフやって!」

「し、仕方ねえなぁ! このやろう! 毛皮強化(ガードポイント)!」

「わぁー! ふわふわ〜っ!」

 

 はしゃぎながらチョッパーをクッションにして楽しむウタ。

 作戦は成功だった。

 この戦い方ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 激戦続きや、歌を聞こえないようにされる工作など、いくらでも考えられるクロコダイルとの戦いでは、ウタワールドに引き込む以外の戦闘方法が欲しかったのだ。

 この力なら、これからもルフィの隣にいることができる。

 

「ウタちゃん、完・全・復・活っ!!」

 

 ウタは元気よくピースをして胸を張った。

 そんな中、倒れたチェスマリーモを見て、ワポルは舌打ちをしていた。

 

「……チッ! 使えんカバどもめ!」

「ゴムゴムのォ……銃弾(ブレッド)ォ!」

「ドォア!?」

 

 ぶん殴られたワポルは、地面を転がっていく。

 血を吐きながら立ち上がり、ワポルはルフィを睨みつける。

 

「おれは王様だぞ! 偉いんだぞ! それに、ドラム王国は世界政府の加盟国……! その王に手を出すのは、世界的大犯罪だぞ!」

「そんなの、関係ねえよ! だっておれは、『海賊』だからな……!」

「な、なななな何を……!?」

 

 地位や権力に一切動じないルフィに震えるワポルへ、今度はウタが歩いていく。

 

「私たちは、あなたみたいな王様がいるような世界が嫌で、海賊になったんだ!」

「ああ! なんてたって、()()()()()()()()()()が、海賊王だからな!」

 

 ルフィはワポルの顔を片腕で掴み、もう片方の腕を長く長く伸ばし始めた。

 それに合わせて、ウタもウタワールドからハンマーを引っ張り出し、大きく振りかぶる。

 

「だから、私たちの夢の果てのために……!」

「や、やめろ……! 何をする……!」

 

 ニコリと笑った二人は、同時にワポルの顔面に向かって攻撃を叩き込む。

 

「「ぶっ飛んで、反省しやがれッ!!」」

 

 砕け散るウタのハンマーが金色の粉となってワポルが吹き飛んでいくのを彩り、さながら流れ星のように、ワポルは空の彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、みんなが来たよ、ルフィ!」

「んー? お、みんな!」

 

 ロープウェイでこの山を登ってきたのはビビ、ウソップ、ゾロと、ドラム王国の兵士たちだった。

 どうやら戦うつもりでここまで来たらしいが、既にどこかへ消えてしまったワポルに、皆はどうしたものかと呆然としていた。

 

「みんなー!」

 

 手を振って一味のメンバーに駆け寄ったウタは、ぺこりと頭を下げた。

 

「ごめーわくをおかけしました!」

「いいのよ! 無事でよかった」

「おれは最初から、ウタを信じていたぞ!」

「なんでもいいけど、切るやつはいねえのか?」

 

 いつもと変わらぬ様子の皆を見て、ウタは楽しそうに笑う。

 スキップしながら、今度はチョッパーの元へと行く。

 

「ねえね、チョッパー! 仲間になってよ!」

「お、おれが……!?」

「うん! 面白くて強くて、さらにはお医者さんなんだもん! 私たちには不可欠だよ!」

「そ……そうじゃねえよ!」

 

 チョッパーが気にしているのは、そんなところではなかった。

 ルフィたちは人間で、チョッパーはトナカイ。

 そんなことが一番大切だった。

 

「おれはトナカイなんだぞ! ツノも蹄もあるし……! …………青っ鼻だし!」

「…………」

「海賊には、そりゃあ……なりたいけど! おれは、人間じゃねえんだ! 化け物だから、お前らの仲間には……!」

 

 途切れ途切れの言葉で語るチョッパーを前に、ルフィとウタは首を傾げた。

 そしてウタは、ルフィのほっぺたをつまんでぐいっと引っ張る。

 

「私たちも、化け物! だからもう、仲間だね!」

「…………え」

「人間とかトナカイとか。()()()()()、どうでもいいよ! 私たちは自由なんだ! 同じ地面に立って、同じものを見てるのに、上も下もあるわけないじゃん!」

 

 チョッパーはようやく理解した。

 だから彼らは、ワポルが王であることなど気にしていなかったのだ。

 それゆえに。チョッパーはその言葉の意味を正しく理解する。

 彼らは、本当に。

 

「なんだっていいよ! 私たちと一緒に、冒険しようーー!!」

 

 人間だとかトナカイだとかではなく。

 ただ『トニートニー・チョッパー』とともに冒険をしようと、言ってくれているのだ。

 

「…………お、おおお!!」

 

 気づけば溢れていた涙をそのままに、チョッパーはその言葉を受け取った。

 

 こうして。

 麦わらの一味に、また一人、大切な仲間が加わった。

 




アラバスタの地図を手書きして「ここにこいつがいるなら……」とうんうん唸る日々を過ごしています。
もうちょっとしたらいい感じにまとまりそうです。
頑張ります。
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