ウタウタの実の『代弁者』としての力を使い、空想の世界から斧を引っ張り出してきたウタは、その斧を振りかざす。
「うりゃああああ!!」
「なんだ!? どこからそんな金ピカな斧を持ってきやがった!」
「夢の世界からだよ……っ!」
ウタは大きく斧をワポルへと振り下ろす……が。
——バキ……っ!!!
「…………んあ?」
思わず目をつぶっていたワポルは、自分に傷がないことに首を傾げる。
その正面では、ウタがペロッと舌を出して、
「……折れちゃった!」
「折れんのかいっ!!」
ビシ! っとワポルがツッコミを入れた隙に、ウタは走り出す。
「とりあえずサンジを回収して逃げるっ!」
「あ! いつの間に!?」
ワポルの目の前まで来ていたウタは、倒れているサンジを抱えて、Dr.くれはの元へ運んでいく。
「ドクトリーヌさん! この人も仲間なの! 助けてあげて!」
「……仕方ないね。高くつくよ」
「えっとぉ……宝払いで!」
「ヒッヒッヒ! 楽しみにしておくかね」
Dr.くれははサンジを抱えると、城の中へと入っていくが、その途中で足を止めてこちらを振り返る。
「……勝てるんだろうね、ワポルに」
「よゆーっ! ちょっとだけ待っててね!」
「ヒッヒッヒ! そうかいそうかい。なら、のんびり待つとするよ」
これでサンジは無事だ。
それで、好きに戦える。
「よし、好きに暴れるぞー! って、ルフィは?」
「こっちだ、ウタ!」
ルフィは城の上にいた。
ワポルによって折られた桜模様の海賊旗を、ルフィは直していた。
「まーはっはっは! わざわざ海賊旗を直して的になってやがる!」
「命も懸けてねえで海賊をやってるお前たちに、この旗を折る権利なんかねえよ」
「……は?」
眉間にシワを寄せたワポルは、気色の悪い笑い声を上げる。
「まーはっはっはっは! そんなアホみてえな飾りを折ることに権利もクソもあるか! ご希望なら、いくらでも折ってやる!」
言って、ワポルは再び大砲を海賊旗を持つルフィへと向ける。
だが、ルフィもウタも、その動きに対して眉ひとつ動かさない。
その横で、チョッパーが心配そうに声を上げた。
「お、おい! あいつ、危ねえぞ! 旗だって……!」
「大丈夫。折れないよ、あの旗は」
ドガンっ! とルフィに砲弾が直撃する。
ゲラゲラと笑うワポルだったが、砂煙が晴れれば、そこには海賊旗を持ったまま立ち続けるルフィがいた。
そうなることを知っていたかのように、ウタはチョッパーへと笑いかける。
「ほらね、折れない」
チョッパーが言葉を失っていると、城の上のルフィが叫ぶ。
「この旗は信念の象徴なんだ! 遊びで立ってるわけじゃねえ!」
「——ルフィ、行ける?」
「おう!」
ルフィは海賊旗を城に強引に刺して、ゴムの力を使ってワポルたちへ突撃する。
真っ直ぐに向かうのだ、当然、避けようと動くが、
「ルフィ! 少し狙いを右へ!」
「分かった!」
ウタの指示を受けて、ルフィは強引に身体を捻り、避けようとするワポルの腹に突っ込んで行った。
「うごぉ!?」
「聞こえてるよ、あなたの動きは全部!」
重たい一撃をくらったワポルは、怒りに任せて強硬手段に出る。
「……くそ、こうなれば! 王技、バクバク
「ぎ、ぎゃあああああ!!」
ワポルは突然、味方の二人を大口でかぶりついた。
「な、なに!? 味方を食べちゃったの!?」
そのまま味方二人を飲み込んだワポルは、なにやらもぐもぐと咀嚼してから、自分の腹にある扉を開ける。
「見よ、これが奇跡の合体!」
「チェスマリーモ!」
出てきたのは、弓使いとモジャモジャボクシンググローブの男たちが肩車をしたような合体というにはお粗末な姿。
だが。
「かっけーっ!!」
それでもルフィは目を輝かせていた。
少しだけウタもワクワクしていたが、こんな場合ではないと首を振る。
だが、そんなウタヘ向かって、チェスマリーモ(合体した二人の)攻撃が襲いかかる。
「危ないっ!」
咄嗟にウタを庇ったのは、チョッパーだった。
攻撃を受け止めたチョッパーの身体は、巨大な球体のモフモフになっていた。
「
「ふ……ふかふかのモフモフだぁ!」
今日一番の笑顔を見せたウタは、守ってくれたチョッパーに抱きつく。
「すごいすごい! なにその身体!」
「う、うるせえ! お前なんかに褒められても嬉しくなんかねぇぞ、コノヤロ〜!」
「か、可愛い〜!」
チョッパーにメロメロのウタは、今が戦いの最中であることを思い出して、ハッと背筋を伸ばす。
「そうだ! あなた、戦えるんだよね?」
「ああ! おれ一人で十分だ!」
「何言ってんの、一緒に戦おうよ! 仲間じゃん、私たち!」
「お前……!」
嘘でも冗談でもない。
こんなにも笑顔で、命を懸けた戦いに臨むと言っているのだ。
ウタのことをジッと見つめたチョッパーは、身体の大きさをいつものマスコットサイズへの変えて、
「もう、迷わないぞ……!」
チョッパーは高々に声を上げた。
「おれの名前は『トニートニー・チョッパー』! 世界で一番偉大な医者が名付けてくれた名前だ!」
「いい名前だね、チョッパー! さあ、行こう! 化け物タッグであいつらをぶっ倒すよ!」
「ああ! あいつらなんて、二分で充分だ!」
「ってわけで、その変なおじさん、任せたよルフィ!」
「おう! 任せとけ!」
ルフィはワポルへ、ウタとチョッパーはチェスマリーモへ、視線を向ける。
最初に動いたのは、ウタだった。
「試したいこと、たくさんあるんだよね!」
素早い動きで、ウタはチェスマリーモの正面へ出る。
合体したことで四本の腕を備えたチェスマリーモは、握りしめた斧をぶんぶんと振り回す。
しかし、それは全て空を切る。
「うん。
音以上の何かを、ウタは聞いていた。
それは気配や殺気とも呼べるもので、その音に耳を傾けることで、ウタは攻撃を回避していた。
「こざかしいっ! ならば……!」
チェスマリーモは巨大なハンマーを取り出して、ウタへと振り下ろすが、
「〜〜♪」
鼻歌を唄いながら、ウタはその場でくるりと回る。
すると、彼女の周囲に桜吹雪が舞い始めた。
「綺麗な桜で、私のこと見えないでしょ!」
「またまたこざかしいっ!!!」
力任せに桜吹雪へ向かってハンマーを振り下ろすが、そこにはもうウタはいない。
「残念っ! こっちでしたぁ〜!」
べっと舌を出すウタは、遠くで蹄を合わせてチェスマリーモを睨みつけるチョッパーへ声をかける。
「どう、チョッパー?」
「
「よし! なら……!」
ウタは、チェスマリーモの耳にそっと口を近づけて、小さく美しい歌声で彼らの鼓膜を揺らした。
ふっ、とチェスマリーモの意識がウタワールドへと飛び、体から力が抜ける。
「そして、即解除!」
パチン! と指を鳴らすと、チェスマリーモの意識が再び戻り、自分が気を失っていたことに気づく。
直後。
「
「……なんだ、いま、なにが起こって」
「刻帝……『
「グオガッ!?!?」
完璧な一撃が、チェスマリーモのアゴに炸裂し、最も容易く意識を刈り取った。
チョッパーは倒れたチェスマリーモを見下ろしながら、ぱんぱんと帽子をはたく。
「……一分も残っちまったよ」
「すごいすごーい! しかもまだこのフォルムできるのー!? またモフモフやって!」
「し、仕方ねえなぁ! このやろう!
「わぁー! ふわふわ〜っ!」
はしゃぎながらチョッパーをクッションにして楽しむウタ。
作戦は成功だった。
この戦い方ならば
激戦続きや、歌を聞こえないようにされる工作など、いくらでも考えられるクロコダイルとの戦いでは、ウタワールドに引き込む以外の戦闘方法が欲しかったのだ。
この力なら、これからもルフィの隣にいることができる。
「ウタちゃん、完・全・復・活っ!!」
ウタは元気よくピースをして胸を張った。
そんな中、倒れたチェスマリーモを見て、ワポルは舌打ちをしていた。
「……チッ! 使えんカバどもめ!」
「ゴムゴムのォ……
「ドォア!?」
ぶん殴られたワポルは、地面を転がっていく。
血を吐きながら立ち上がり、ワポルはルフィを睨みつける。
「おれは王様だぞ! 偉いんだぞ! それに、ドラム王国は世界政府の加盟国……! その王に手を出すのは、世界的大犯罪だぞ!」
「そんなの、関係ねえよ! だっておれは、『海賊』だからな……!」
「な、なななな何を……!?」
地位や権力に一切動じないルフィに震えるワポルへ、今度はウタが歩いていく。
「私たちは、あなたみたいな王様がいるような世界が嫌で、海賊になったんだ!」
「ああ! なんてたって、
ルフィはワポルの顔を片腕で掴み、もう片方の腕を長く長く伸ばし始めた。
それに合わせて、ウタもウタワールドからハンマーを引っ張り出し、大きく振りかぶる。
「だから、私たちの夢の果てのために……!」
「や、やめろ……! 何をする……!」
ニコリと笑った二人は、同時にワポルの顔面に向かって攻撃を叩き込む。
「「ぶっ飛んで、反省しやがれッ!!」」
砕け散るウタのハンマーが金色の粉となってワポルが吹き飛んでいくのを彩り、さながら流れ星のように、ワポルは空の彼方へと消えていった。
「あ、みんなが来たよ、ルフィ!」
「んー? お、みんな!」
ロープウェイでこの山を登ってきたのはビビ、ウソップ、ゾロと、ドラム王国の兵士たちだった。
どうやら戦うつもりでここまで来たらしいが、既にどこかへ消えてしまったワポルに、皆はどうしたものかと呆然としていた。
「みんなー!」
手を振って一味のメンバーに駆け寄ったウタは、ぺこりと頭を下げた。
「ごめーわくをおかけしました!」
「いいのよ! 無事でよかった」
「おれは最初から、ウタを信じていたぞ!」
「なんでもいいけど、切るやつはいねえのか?」
いつもと変わらぬ様子の皆を見て、ウタは楽しそうに笑う。
スキップしながら、今度はチョッパーの元へと行く。
「ねえね、チョッパー! 仲間になってよ!」
「お、おれが……!?」
「うん! 面白くて強くて、さらにはお医者さんなんだもん! 私たちには不可欠だよ!」
「そ……そうじゃねえよ!」
チョッパーが気にしているのは、そんなところではなかった。
ルフィたちは人間で、チョッパーはトナカイ。
そんなことが一番大切だった。
「おれはトナカイなんだぞ! ツノも蹄もあるし……! …………青っ鼻だし!」
「…………」
「海賊には、そりゃあ……なりたいけど! おれは、人間じゃねえんだ! 化け物だから、お前らの仲間には……!」
途切れ途切れの言葉で語るチョッパーを前に、ルフィとウタは首を傾げた。
そしてウタは、ルフィのほっぺたをつまんでぐいっと引っ張る。
「私たちも、化け物! だからもう、仲間だね!」
「…………え」
「人間とかトナカイとか。
チョッパーはようやく理解した。
だから彼らは、ワポルが王であることなど気にしていなかったのだ。
それゆえに。チョッパーはその言葉の意味を正しく理解する。
彼らは、本当に。
「なんだっていいよ! 私たちと一緒に、冒険しようーー!!」
人間だとかトナカイだとかではなく。
ただ『トニートニー・チョッパー』とともに冒険をしようと、言ってくれているのだ。
「…………お、おおお!!」
気づけば溢れていた涙をそのままに、チョッパーはその言葉を受け取った。
こうして。
麦わらの一味に、また一人、大切な仲間が加わった。
アラバスタの地図を手書きして「ここにこいつがいるなら……」とうんうん唸る日々を過ごしています。
もうちょっとしたらいい感じにまとまりそうです。
頑張ります。