チョッパーが仲間になり、ルフィたちは出航の準備をしていた。
本来ならば完治までもう数日はかかるため、ナミとウタはベッドに縛られかけたが、ウタが偶然にもワポルを吹き飛ばしたときに拾っていた武器庫の鍵を交渉材料として、お代をまけてもらった上に、勝手に出ていきな、という旨の言葉をいただいた。
「やっぱり、ドクトリーヌさんっていい人だね」
ウタは呟きながら、出立の準備を整える。
お気に入りのパーカーを羽織り、髪の毛を整え、鏡の前に立って指先を口角に当ててぐっと引き上げ、笑顔の練習をする。
「うん! 今日も上々!」
ワポルとの戦いが終わった後も少し休んだウタは、ネズキノコを食べる前の健康な状態まで戻っていた。
これで、満を持してアラバスタへも迎える。
「ねえ、ウタさん! 大変なの!」
「ど、どうしたの、ビビ!」
慌てて部屋へと入ってきたビビに連れられて、ウタは廊下を走り出す。
どうやら、事件は城の外で起こったらしい。
「その……私たちと一緒に山を登ってきた人が、突然倒れてしまって……!
「え、それなら、ドクトリーヌさんに見てもらえば……!」
「そうなんですけど、なんでもその人、ウタさんとルフィさんのお兄さんらしくって……!」
「え!?!?」
ウタは走る速度を一段階上げ、城の外へ飛び出した。
そこには、上半身裸のまま、雪の上でうつ伏せに倒れるオレンジのハットを被った青年がいた。
その姿を見て、ウタはそれが誰かを一目で理解した。
「エース!?」
全力でエースのそばに駆け寄ったウタは、その身体を抱え上げる。
体温はまだある。死んだわけではないようだが、意識がない。なにせ、この雪の中でたおれているのだ。
寒さで身体に異常が出てしまってもおかしなところは何もない。
「ねえ、起きてよエース! こんなところで……!」
「………………ん?」
薄らと目を開いたエースは、言う。
「…………寝てた」
「紛らしいってばっっ!!!」
「いっってェ!?」
スコーン! と頭をぶん殴ったウタは、心配して損した、と抱えてたエースを雪に投げ捨てた。
「余計な心配させないでよね、バカエース!」
「だっはっは! 悪い悪い…………って、ウタじゃねえか! 久しぶりだなぁ!」
「遅いよっ! ……はあ、エースは変わらないなぁ。せっかく会えて嬉しいのに、台無しじゃん」
うんざりとウタが首を振っていると、騒ぎを聞きつけたルフィたちが城の外までやってきた。
ルフィもエースを見つけたようで、目を輝かせて飛んでくる。
「エース〜〜〜!?!?」
凄まじい勢いで抱きついたルフィを優しく受け止め、エースはルフィの頭をポンポンと叩く。
「ルフィも久しぶりだな。元気そうでよかった」
二人との再会の挨拶が済んだところで、エースは本題に入る。
「まあ、あれだ。お前たちの手配書を見たから、ヤボ用ついでに会っておこうと思ってよ」
エースはニヤリと笑って、
「ルフィ、ウタ。お前たち、ウチの白ひげ海賊団に来ねェか? もちろん、仲間も一緒に」
「「いやだ」」
ルフィとウタは、声を合わせて即答した。
案の定だったのか、エースは楽しそうに笑った。
「プハハハ! だろうな。言ってみただけだ」
「そういえば、見覚えのない刺青があるけど……」
「ああ。おれの誇りだ」
エースが海に出るまで、あの背中には何も彫られてはいなかった。
背中にあるのは、シャンクスに並ぶ大海賊、白ひげの海賊旗のドクロ。エースはこの海賊旗を誇りにしていると言う。
「白ひげは最高の海賊だ。おれはあの男を海賊王にしてやりてえ。ルフィ、お前じゃなくてな」
「いいさ! だったら戦えばいいだけだし!」
「そうだね。私たちは私たちの
「……そうか。いい目、するようになったな」
優しく微笑むと、エースは懐から何かを取り出してルフィとウタに放り投げた。
受け取ったそれは、なんの変哲もない紙きれだった。
「なにこれ?」
「紙切れじゃんか」
「そうだ。その紙切れが、おれとお前たちを引き合わせる」
それだけ伝えると、エースは肩にかけたカバンを背負いなおす。
「できの悪い弟たちを持つと、兄貴は心配なんだ。おめェらもコイツにゃ手ェ焼くだろうがよ、よろしく頼む」
エースはそれだけ告げて、踵を返す。
「え、もう行っちゃうの!」
「ああ。元々、ここに来たのはおれが追っている重罪人を見つけるためなんだ」
「こんなところにまで?」
「そうだ。この国を滅ぼした黒ひげってやつだ。おれの部下だった奴は、仲間殺しをして船を逃げた。その始末を、隊長であるおれはやらなきゃならねえ」
ゆっくりと歩き出すエースは、装備も何もないまま、山の淵へ立つ。
「じゃあな、ルフィ、ウタ。次に会うときは――」
言いかけたところで、後ろから叫び声が聞こえた。
「みんな、そりに乗って! 山を下りるぞぉ!」
「待ちなァ!」
「うぁあああ!?」
城から逃げてきたチョッパーと、こちらのことを気に掛けることなく無作為にナイフを投げるDr.くれは。
わけも分からず皆がそりに乗り込み、エースも戸惑いながらも一緒にそりに乗る。
「お、おい! おれはお前たちと一緒に行くつもりは……」
「いいじゃん! せっかくだし、海に出るまでは一緒に行こうよ!」
「……ったく、仕方ねえな」
ウタに言いくるめられて、エースもそりに詰め込まれる。
チョッパーがそりを引き、山の頂上から麓へと繋がれたロープをかけていく。
かなりの速度で駆けていくそりには、凍えた風が打ち付ける。
「さむー!」
「ん? 寒いか。ほれ、火だぞ」
「わあー! あったかーい!」
エースの拳に灯った火を暖炉にしてウタが温まってから、ウタは驚いて飛び上がった。
「手が燃えてるよ!?」
「はっはっは! そりゃあ、おれも悪魔の実を食ったからな!」
「そうだったんだ!」
楽しそうに話しているウタの脇腹を、ナミが肘でつつく。
「ちょっと、ウタ。チョッパー、きっと海賊になるって言ってくれはに追い出されたのよ。もう少し、気にしてあげても……」
「え? 私、そんな風には聞こえなかったけど……」
死の淵を越えたウタの耳は、今まで以上の情報が聞こえてくる。
だからこそ、Dr.くれはがこんなことをする理由も、よくわかっていた。
「湿っぽいのは苦手なんだよ、ドクトリーヌさんって」
しっしっし、とウタは笑う。
そんなウタの言葉を聞いたチョッパーは、それでも苦しそうに顔を歪ませる。
「でも、ドクトリーヌは、ドクターの夢を幻想だって……!」
「そのドクターって人のこと、私はよく知らないけどさ」
ウタは振り返り、城の頂点に刺さった海賊旗を見つめる。
「あの人はお医者さんだよ? 人の意志や夢を、殺すようなことはしないよ」
「…………!」
チョッパーは思い出す。
亡くなった大恩人、ヒルルクがかつてチョッパーに言っていたこと。
それと同じことを、ウタは語るのだ。
「たとえ体が滅んだとしても、その人の夢や意志が消えない限り、人は死なない」
「……でも」
信じ切れないチョッパーが表情を曇らせたまま、そりは麓までたどり着いた。腐ってもルフィ達は海賊。
目的が達した以上は、アラバスタへ急がねばならない現状、長居する理由はどこにもない。そのまま、皆はそりを降りてメリー号へと向かうが。
――ドンドンドンドンドン!!!
後ろで大砲の音が聞こえた。
まだワポルが何かをやらかしたのか、はたまた、家来が残っていたのか。
嫌なイメージが一気に流れて、全員が一斉に振り返る。
「…………これ、は」
それを見た瞬間、チョッパーが声を上げる。
涙を流して、どこか遠くで見ている誰かへ届くように、高々と。
「ウオオオオオオオ!!!!」
桜だった。
凍えるような寒さの中、雪が降り続けているドラム王国に、美しい桜が咲いていた。
円柱型の巨大な山、ドラムロッキーを幹にして、大砲によって打ち上げられた赤いチリが、雪に付着して綺麗なピンク色になり、まるで桜のようにドラム王国の中心にそびえ立っているのだ。
「……綺麗」
ウタは呟く。
そこには夢があり、意志があり、確かな命があった。
あの桜こそが、チョッパーが誇りにする海賊旗を掲げた人の夢なのだろう。
自分の歌では、きっとチョッパーの深くに刻まれた傷は癒えないのかもしれないと思っていた。
いつか一緒に歌っていれば、辛い過去も忘れて笑顔になってくれるだろうと。それが、音楽家である自分にできることだろうと。
しかし、それ以外の方法もあった。
「お医者さんって凄いや。こんな傷も、治せるんだ」
しみじみと桜の美しさを味わうウタに、そっとエースが語りかける。
「夢はまだ、変わってねえのか」
「うん。私もルフィも、新時代のために海に出たよ」
「そうか。初めて聞いたときは驚いたが、お前たちならきっとできる。ただ……」
エースは振り返り、帽子を深く被った。
「お前らの夢とおれの夢がぶつかったときは、敵同士だ。恨みっこなしだぜ」
「もちろん! 負けないよ!」
「だっはっは! 楽しみにしてるぜ」
エースはそれだけ言って去っていく。
あまりにも大きな兄の背中。
エースもサボも、まだまだずっと先の場所にいるのだ。
負けていられない。
「行こう、ルフィ。アラバスタへ!」
「おう!」
世界で最も偉大な医者の墓標とそれを弔う奇跡の桜に別れを告げて。
麦わらの一味は、アラバスタへ向かう。
やっとアラバスタのプロットできたぞー!
行くぞ、アラバスタ!
めっちゃ面白いから楽しみにしててねー!