麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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幕間「黒い影」

 

 

 

 首都アルバーナ。

 王宮の西、葬祭殿。

 部外者が立ち入ることのできないこの地に、海賊が足を踏み入れていた。

 

「ゼハハハ!! 随分と素直じゃねえか! 話が分かる奴は嫌いじゃねえぜ、さすが聡明な国王様だ!」

 

 薄汚れたバンダナに、くたびれたシャツとズボンのみという格好で、黒ひげ——マーシャル・D・ティーチは王家の墓を歩く。

 その横には、怪我を負った国王コブラの姿があった。

 

「大切な家臣の命に比べれば、これくらいなんてことない。ただでさえ、今はクロコダイルによって国が壊れかけているのだ。ここを見せれば帰るというなら、言う通りにする」

「ああ! その通りだ! おれも時間がなくてな。さっさとここを出ねえと()()()()が来ちまう。お互い、手早く済まそうぜ」

 

 事が起こったのは、クロコダイルによる『ユートピア作戦』によって反乱軍が蜂起し、国王軍が混乱の中、決戦の準備をしている最中だった。

 アルバーナヘ到着したカルーから渡されたビビの伝書によって、この騒動の黒幕がクロコダイルだと知った国王軍は、レインベースへの突入の動きをしていた。しかし、その準備の最中、国王の偽物によってナノハナが襲われ、反乱軍に火がついたのだ。

 さらに、事件の辻褄を合わせるためにバロックワークスの工作員が国王を拉致しようとしたところで現れたのが、黒ひげだった。

 

「我ながら、素晴らしいタイミングで来たもんだ。おれはただ、仲間集めのついでに歴史の本文(ポーネグリフ)を見れればいいと思ってただけなんだがな!」

「……たった一人でアラバスタの軍を圧倒しておいて、よく言う」

 

 反旗を翻したバロックワークスの工作員ごと、アラバスタの王国軍を()()()()()()()()で蹂躙した黒ひげは、たった一つ、コブラ王への要求を口にしたのだ、

 

——歴史の本文(ポーネグリフ)へ、連れていけ。

 

「……隠し階段! ゼハハハ! 国王に尋ねたのは正解だったみたいだな。これじゃあ自力で見つけられねえ!」

 

 コブラ王が淡々と歩いていく後ろを、黒ひげはゆっくりと着いていく……が。

 

「……どこの海賊だ、てめぇ」

 

 砂煙の中から突如として現れたクロコダイルが、黒ひげの首を右腕で掴んだ。

 これでクロコダイルは黒ひげの命を掴んだ……と、わずかな油断が生まれた。

 

「ゼハハハ! さすが七武海クロコダイル! 容赦がねえな!」

 

 笑いながら、黒ひげもクロコダイルの首を掴む。容赦なく、クロコダイルは自らの能力で黒ひげを枯らそうと力を入れるが、

 

「——これは」

「驚いたか!? 残念ながら、能力差で雑魚を蹴散らしてきた自然系(ロギア)は、おれとの相性は最悪だぜ……!?」

 

 クロコダイルの能力は全身を砂に変える事ができる“スナスナの実”の力だ。エースの“メラメラ”の力と同じように、物理攻撃は基本的に当たらない。

 しかし、今のクロコダイルには、その砂の力が使えなくなっていた。

 

「落ち着けよ、クロコダイル。おれは別に、お前とやり合うためにアラバスタに来たわけじゃねえ」

「…………隠し階段か。まさか、お前も……!」

「ああ、知っておきたくてな。古代兵器『プルトン』ってやつが、どんなものなのかを!」

 

 クロコダイルの後ろにいたミス・オールサンデーが、その言葉に目を丸くする。

 

「……あなた、どうして『プルトン』を知っているの」

「——その顔、ニコ・ロビンか!? ゼハハハ! こんな人材まで仲間にしているとは、クロコダイルって海賊の底は知らねえな!」

「答えろ、みずぼらしい海賊が」

 

 黒ひげは不敵な笑みのまま、クロコダイルから手を離す。

 両者とも、戦うつもりがなくなったのか、殺気はありながらも互いに能力を使うことはせずに階段を降りていく。

 

「歴史研究が趣味でな。古代の兵器や種族は知らねえと気が済まねえのさ」

「普通はその名にすら辿り着かないはずだが」

「ああ、そうだろうな。例えばオハラの生き残りとかじゃなければ、知る機会なんてほとんどねえ」

「——なんでその名を」

「ゼハハハ! 物好きはお前だけじゃねえって話さ!」

 

 笑いながら、黒ひげは先へ進んでいく。

 そして、隠し階段の先に置かれた立方体の石が、現れる。

 通常の手段では傷つけることすらできない硬質な石に刻まれた、現代で読める人間はいないとされる文字には、政府が隠している歴史が記されているとされる。

 それこそが、この歴史の本文(ポーネグリフ)

 歴史を刻んだ石の前に立った黒ひげは、小さく呟く。

 

「……やっぱり、何も聞こえねぇな」

「読めるわけではないのね」

「解読なんか出来るわけがねえ。おれが確かめたかったのは、海賊王のように何かが聞こえるかってことだけだ」

「なんの話だ、クソ海賊」

「ゼハハハ! こっちの話だ。さて、おれは何も分からなかったからな。ここは、歴史的犯罪者の考古学者に聞くべきじゃねえか?」

 

 黒ひげは視線をミス・オールサンデー、もといニコ・ロビンへ向けた。

 わずか八歳にして懸賞金7900万ベリーの賞金首となった海賊、ニコ・ロビン。

 そこまでの危険因子と見做される理由は、彼女の持つ知識にあった。

 ニコ・ロビンは歴史の本文(ポーネグリフ)を眺め、呟く。

 

「カヒラによるアラバスタの征服。……これが天暦239年。260年テイマーのビデイン朝支配……」

「オイオイ、待て待て! おれたちが知りたいのはそんな事じゃねえだろ!」

「……記されていないわ。ここには、歴史しか記されていない。プルトンなんて言葉は、どこにも出てこなかった」

「……そうか、残念だ」

 

 クロコダイルは、ニコ・ロビンの首を掴みに手を伸ばした。

 しかし、それを阻むのは黒ひげ。

 

「ゼハハハ! いいじゃねえか、これくらい! そんなことで殺していいほど、この女の価値は低くねえぜ……?」

「お前もここで死ぬつもりってことだな」

「おっと、そうは言ってねえ。まだ七武海とやり合うつもりはねえ。むしろおれが求めているのお前みたいな地位さ、クロコダイル!」

「七武海の席が空かない限り、お前みたいな小悪党の席なんてねえぞ」

「ゼハハハ! ここで一席空けてくれるってんなら、願ったり叶ったりだがなァ!」

 

 砂と闇が、葬祭殿の地下で絡み合う。

 そして、両者の拳がぶつかりかけた瞬間。

 

社長(ボス)! 麦わらの一味が、王宮付近の砂漠に現れたという情報が入りました!」

 

 ピタリ、と。

 クロコダイルの腕が止まった。

 それに合わせて、黒ひげの手も止まる。

 声が聞こえたのは、ニコ・ロビンの持つ直通電伝虫からだった。

 

「……麦わらぁ?」

 

 黒ひげが首を傾げた直後、電伝虫から更なる情報が付け加えられる。

 

「目撃した者によると、どうやら王女ビビと麦わらのルフィが一緒にいるようで、今のままでは反乱軍が王宮に到着する前に王女が辿り着きます!」

「——なに!? ナンバーズはどうした!?」

「それが、二人は巨大な(ハヤブサ)に乗って空を移動しているらしく……!」

「護衛隊の動物系(ゾオン)か……!! クソ、余計な真似を……!」

 

 クロコダイルはマントを翻すと、踵を返して歩き出す。

 

「おれは帰ってもいいってことか?」

 

 煽るように問いかける黒ひげを、クロコダイルは鋭く睨みつけた。

 

「勝手にしろ。おれの計画に支障をきたさない奴に構ってる時間はない」

「ゼハハハ! 利口な男は楽で助かる。こっちとしても、こんなところで時間のかかるケンカをしてる場合じゃあねぇんだ」

 

 クロコダイルに続くように、黒ひげも外へ出る。

 そして残ったニコ・ロビンへ、クロコダイルはわずかに視線を向け、

 

「お前の始末はもう少しだけ仕事をしてからだ。それまでの命だ。覚悟は決めておけよ」

「ええ。別に、私はいつ死んだって構わないもの」

「……コブラ王を捕える人間を手配しろ。もう用済みだが、もう少しだけ生きてもらう」

「——すぐに」

 

 クロコダイルへついていくニコ・ロビンへ、黒ひげは笑いながら言う。

 

「どうしようとお前の勝手だが、身の振り方は考えた方がいいぜ……! あの文字を読めるってだけで、世界中から狙われてるんだ……!」

「ええ。知っているわ。いつだって、全員が敵だったもの」

「良い肝の座り方だ! おれと一緒に来るか!?」

「遠慮しておくわ」

「ゼハハハ! 気に入ったぜ! いつでもお前の分の席は空けておく!」

 

 地下から出た黒ひげは、ニコ・ロビンの耳元で小さく呟く。

 

「おれの仲間になったときには、隠してたプルトンの情報も答えてもらうぜ……!」

 

 ハッと振り向いたニコ・ロビンを見て、投げかけたハッタリが正解だと理解した黒ひげは、大きく笑う。

 

「ゼハハハハハハ!! それじゃあ、この国がどうなるのか、楽しみにしてるぜ! また会おう、次はおれも七武海になってる予定だ!」

 

 クロコダイルの返事も聞かず、黒ひげはその場から姿を消した。

 既に興味を失っているのか、動じることなくクロコダイルは外へと歩いていく。

 そして、そのまま砂となり、宙に浮かび上がって広く砂を飛ばす。

 砂漠というフィールドは、クロコダイルの独壇場だ。わずかな砂の振動などを頼りに、誰がどこにいるのかという情報すら把握できる。

 

「……そこか」

 

 クロコダイルはニコ・ロビンを見下ろし、吐き捨てるように言う。

 

「この先の仕事次第では、お前を許してやろう。期待してるぞ、ミス・オールサンデー」

 

 それだけ告げて、クロコダイルは砂となってルフィたちを捕らえるために消えていった。

 そして、一人残ったニコ・ロビンは、空を見上げてポツリと呟く。

 

 

「…………私には、敵が多すぎる」

 

 

 ロビンの寂しげな言葉を受け取る仲間は、ここには一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒ひげがクロコダイルの元から離れて、約三〇分ほど。

 アラバスタから出航するための準備を整える黒ひげは、その道中で驚くべきものを見た。

 

「…………あれは、なんだ……!?」

 

 『それ』を呆然と見つめる黒ひげは、しばらくしてから笑いだす。

 

「ゼハハハハハハ!!! あんな化け物、おれでも勝てるか分からねえ! 世界ってのは広いなァ! 面白くなってきたじゃねえか! この世界には、一体どれだけの歴史が埋もれてるってんだ!」

 

 道中で買った酒を勢いよく飲む黒ひげは、仲間が待つ船へと向かう。

 

「海賊の時代は終わらねえ! この時代をいただくのはこのおれだァ!」

 

 黒ひげは笑いながら、終わりゆく国を肴に酒を飲み干した。

 

 




黒ひげの笑い方好きで、気を抜くとずっと書くセリフ笑っててびっくりしました。
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