麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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初めて活動報告書きました。
感想欄に書くほどでもないかなみたいなコメントなどあればそっちに雑にコメントいただいても大丈夫です。
一緒にワンピースを楽しみましょう。


第三十話「激動のAM7:00」

 

 

 時は少しだけ遡り、ユバで一夜を過ごした翌朝。

 顔中ケガだらけのウタとビビを見た一味たちは、二人の姿を見て驚嘆していた。

 

「ど、どうしたの二人とも!」

 

 そんな問いかけに、二人は笑って答える。

 

「「ケンカしたの!」」

 

 その言葉を聞いて、一味たちは顔を見合わせてやれやれと首をする。

 チョッパーがガーゼで傷口を消毒してくれている間に、ウタはルフィへ声をかける。

 

「ルフィ! ビビもクロコダイル、ぶっ飛ばしたいって!」

「……にししっ! そーか! おれもだ!」

「皆さん、お願いします! 私と一緒に、あいつと戦ってください!」

 

 麦わらの一味は、口を揃えて即答した。

 

「当たり前!」

 

 心の準備は整った。

 休息も充分に取った。

 物資の蓄えも申し分なし。

 満を持して、麦わらの一味はクロコダイルの拠点である夢の町、レインベースへと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 レインベースが夢の町と呼ばれる理由は、中央に位置する公営ギャンブルのためだ。

 枯れてしまったユバやエルマルとは違い、川の水も海に侵食されず、豊富な資源が並ぶ地は、港町ナノハナと同様の活気があった。

 

「いい? ここはバロックワークスの拠点。顔が割れてる私たちはクロコダイルと遭遇するまでは決して騒ぎを起こさないこと!」

「はーい!」

「そして、海軍にも見つからないこと! 分かった?」

「はーーい!」

 

 元気よく返事をした麦わらの一味は、クロコダイルがオーナーを務めるカジノ『レインティナーズ』へと向かう。

 ビビを先頭にしてカジノへ入った麦わらの一味は、スロットや歓声で溢れる店内の音量に圧倒された。

 

「すごい。これが、カジノ!」

「やってみてえー!」

「ダメよ。あんたはどうせ稼ぎにならないんだから」

 

 走り出そうとしたルフィとウタの首根っこを掴んだナミの横で、ビビがカジノの店員にこっそりと顔を見せて話をしていた。

 相手がビビだと分かった瞬間に、店員たちはすぐさま奥の扉へと誘導する。

 

「も、申し訳ありませんが、オーナーはただいま外出中ですので、こちらのVIPルームにてお待ちください!」

「……外出中?」

 

 ビビは訝しげに眉をひそめながらも、案内されるままにVIPルームへと入っていく。

 クロコダイルは基本的に、表には出ずに部下に指示を出すことで基本的な物事を解決するタイプだ。

 何年もかけて築き上げたアラバスタの英雄の称号を、そう簡単に手放すはずがない。

 というよりも、それすらも計画に織り込んでいるはずなのだ。

 ということは、つまり。

 

「予想外の何かが起こってるって? 正解だ」

 

 答えたのは、VIPルームの中でテーブルに腰掛けていたゴーグルのついた黒いハットを被った海軍の青年だった。

 その姿を見ただけで、ルフィとウタは声を上げる。

 

「「サボっ!!!」」

「また会ったな、ルフィ、ウタ。順調に進んでいるようで何よりだ」

 

 サボの足元には、倒されているバロックワークスの手下たちがいた。

 そして、その中には見覚えのある髪型の男も転がっていた。名前は忘れたが、髪の毛が3の形で結ばれているので、ナンバーズか誰かだろう。

 最も容易くバロックワークスたちを片付け、一人でこの場所にいるサボを、一味は不思議そうに見つめる。

 

「ねえ、ウタ。この人、海軍でしょ? 大丈夫なの……?」

 

 問いかけるビビへ、ウタは笑顔で答える。

 

「大丈夫! この人も私たちのお兄ちゃんだから!」

「……白ひげの幹部と海軍がお兄ちゃん……? 不思議な家系だわ」

「あはは! ちょっと夢が違うだけだよ!」

 

 それだけ言って笑い飛ばしたウタは、一番気になっている事を質問する。

 

「それで、なんでサボがここに?」

「スモーカーさんが、王女ビビを誘拐した麦わらの一味を追っているから、かな?」

「誘拐ー!? おいビビ、無事か!?」

「アタシたちが誘拐してるってことでしょ! 海賊と一緒にいるんだから!」

「なんだ、無事なのか。じゃあいいや」

「はははっ! 変わらないな、ルフィは」

 

 爽やかに笑ったサボは、倒したバロックワークスたちを見下ろす。

 

「お前たちが王女様を悪気があって誘拐したとは思えなくてな。調べてみたら、バロックワークスと、その社長(ボス)へと辿り着いた」

「じゃあ、あなたもクロコダイルを……?」

「まだ確証はなかったが、本当にクロコダイルが黒幕なのか……これは面倒だな……」

 

 サボは帽子を深く被り直す。

 

「七武海であるクロコダイルは、海賊だが政府側の人間だ。決定的な証拠がないと、海軍は動けない」

「そんな! あんなにたくさんの人を苦しめているのに……!」

「ああ、おれもそれは分かってるが、()()上に向かって無茶をするわけにはいかない。というわけで、お前たちの仕事だ、ルフィ!」

「……お? クロコダイルをぶっ飛ばせばいいのか?」

「正解だ。さすがだな」

 

 麦わらの一味の全員が絶対にそこまで考えてない……という顔をしているが、気にせずにサボは続ける。

 

「クロコダイルは首都アルバーナへ向かった。お前たちには、すぐにそこへ行ってクロコダイルを倒してほしい。時間がないんだ」

「そうかしら? 聞いた話によると、まだ反乱軍が動くまで時間があるって聞いたけど」

「いや、()()()()んだ。この幹部に喋らせたんだが、クロコダイルが計画した『ユートピア作戦』は、もう既に決行されている」

 

 サボは語り始める。

 クロコダイルが何年にもかけて計画をした『ユートピア作戦』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはあまりにも衝撃的な事実だった。

 変装の力を持つ能力者が国王のフリをしてダンスパウダーの一件の責任を王国に押し付け、反乱軍を扇動する。

 加えて、クロコダイルが手配した武器を積んだガレオン船を港に突撃させ、人々を混乱に陥れる中で、ナンバーズたちに暴れさせる。

 さらに、国王コブラが同じタイミングで誘拐され、行方をくらませることで王国軍の指揮を滞らせ、反乱軍を迎え打つしかない状況へと追い込む。

 ほんの一時間で、反乱軍と王国軍の衝突まで、あと七時間程度の余裕しかない事態になってしまった。

 

「…………そんな!」

 

 その場に崩れ落ちるヒビを見つめながら、サボは呟く。

 

「アラバスタを守りたいという気持ちを逆手に取った、最低の作戦だ。……反吐が出る」

 

 強く拳を握りしめながら、サボは唇を噛み締めていた。

 背中に書かれた正義の文字が嘘ではないのだと、それだけでわかる。

 

「ルフィ、ウタ。もうすぐここにスモーカーさんたちが来る。早くアルバーナヘ向かってくれ」

「サボはどうするんだ?」

「言ったろ。おれは表立って悪事を働いていない七武海を無闇に攻撃することができない。すまねえな。まだ上まで辿り着けてねえんだ」

「いいよ、別に! どうせ私たちがぶっ飛ばすつもりだったから!」

「いつの間にかたくましくなったな。だがまあ、兄貴から一つだけ注意がある」

 

 サボは二人の頭を撫でて、優しく笑った。

 

「あんまり背負いすぎるなよ。せっかく良い仲間が出来たんだ。焦りすぎず、お前たちのペース一緒に歩いていけ」

「……? どういうこと?」

「そのうち分かるさ」

 

 そんな話をしていると、サボとのやりとりを見ていたサンジとゾロが声を上げる。

 

「おい、危ねえ!」

「なんかやべえワニが出てきてんぞ!」

 

 サボの後ろに、巨大なワニが歩いてきたのだ。強靭な爪と牙を持つそのワニは、容赦なくサボへと襲いかかるが、

 

「ああ、そうだ。このナンバーズのやつを助けるときに、このワニが出てきちまったんだった」

 

 サボはルフィたちへ視線を向けたまま、()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、そのままたった一撃、反撃のパンチをアゴへと打ち込む。

 ただそれだけで、ワニは倒れ、動かなくなった。

 

「悪いな。驚かせた」

「……ねえ、ウタ。あんたのお兄さん、後ろ目に目がついてるわよ?」

「あはは! さすがサボだね!」

「すっげえー! どうやったんだ、いまの!」

「お前たちもいずれできるようになるさ。とにかく今は、アルバーナヘ」

 

 言われるまま、二人は踵を返す。

 クロコダイルを倒すにしろ、反乱軍を止めるにしろ、向かうべきは首都アルバーナだ。

 この場に留まっていても、何も意味がない。

 

「いまから急いでアルバーナヘ向かえば、反乱軍が王宮に辿り着く前に止めることができるはず……!」

「そして、そこにはクロコダイル! やることは決まったね!」

 

 麦わらの一味は、すぐにカジノの入り口へと向かっていく。

 最後に振り返ったウタは、笑顔で手を振る。

 

「サボ、またねー!」

「おう! きっとまたすぐに会えるさ!」

 

 カジノの外へ出ても、アルバーナやナノハナから遠いレインベースでは日常が流れている。

 そんな中でも緊張感を孕んだ空気をまとう麦わらの一味は、アルバーナヘ向かう手段を考えていた。

 

「どうすれば……! 徒歩では到底、アルバーナヘは間に合わない……!」

「そういえば、来る途中で馬小屋があったわ! それに乗ったら行けるんじゃないかしら!」

「さすがナミさん! まだ海軍には見つかってないし、今ならまだ間に合う!」

 

 すぐに馬を借りようと走り出す麦わらの一味。その道中、凛々しい鳴き声が空から聞こえた。

 上を見上げたビビは、その姿を見て笑顔を見せる。

 

「——ペル!」

「ご無事でしたか、ビビ様!」

 

 現れたのは、アラバスタ最強の戦士と言われる、護衛隊副官、ペルだった。

 ひし形の模様が入った牧師のような白いローブの内側から(ハヤブサ)の翼を生やした彼は、王国でも有名な悪魔の実の能力者だ。

 飛行能力を持つ優秀な副官へ、ビビはすぐに目的を告げる。

 

「ペル! 私を乗せて、アルバーナヘ連れて行って!」

「——かしこまりました。すぐに乗って下さい」

「よし、おれも行く!」

 

 ペルの背中に乗ったビビに、ルフィも続く。

 どうやら、重量的にはなんとか平気らしい。クロコダイルの元へ行くのだ。ルフィがついていなければならないのは当然だろう。

 

「ちなみに、私も乗れたりする?」

「……試しに乗ってみてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 恐る恐るペルの背中に乗ってみるウタだったが、頬から汗を流すペルは申し訳なさそうに言う。

 

「……すいません。二人が限界のようです」

「そ、そんな……!」

 

 ショックを受けるウタを、ゾロが笑う。

 

「ははっ! 重いってよ、ウタ!」

「ゾロぉ!? 言って良いことと悪いことがあるよね!?」

「おいクソマリモ! てめえ、ウタちゃんに向かってなんてひでぇこといいやがる!」

「そーだ、そーだ! ノンデリカシー緑!」

「クソマリモ!」

「女の敵ーっ!」

「なんでナミまでついでに参加してんだ! 切られてえのか!」

 

 ギャーギャーと皆が騒いでいるうちに、ビビとルフィを乗せたペルが空へと飛び始める。

 トリトリの実の力による力強い風が吹く。

 

「それじゃあ、私たちは先に行くわ!」

「みんな、先に行ってる!」

「すぐに追いつくからねー!」

 

 ピョンピョンと跳ねて手を振っているウタは、すぐに自分たちの移動手段を見つけようと周囲を見回す。

 どうやら先ほどの話の後に、サンジがすぐに動いてくれていたらしく、馬を引き連れてやってきてくれた。

 だが、やってきた馬は四匹。

 ウタ、ナミ、ゾロ、サンジ、ウソップ、チョッパー(ナミの膝の上に乗るので実質カウントなし)の四人分だとするならば、一頭ほど足りない。

 

「さて、どうする?」

「うーん、おれが動物たちと話して手伝ってくれそうなやつを探すか?」

「それだと時間がかかりすぎちゃう……!」

「よーし、ならばこのキャプテンウソップが——」

「あ、そうだ! もしかしたら……っ!」

 

 ウソップをガン無視したウタは、コホンと咳払いをして大きく息を吸う。

 そして、ユバへと向かうときに歌っていた歌を高々と奏でる。

 

「————♪」

 

 その歌声が遠くまで響いてから、ほんの数秒。見覚えのある影たちが、ウタたちの前に現れた。

 

「ゴァーー!!」

 

 白く美しい羽毛とは裏腹に、下品でいやらしい目つきをした鳥。

 つい昨日、ウタたちの荷物運びを手伝ってくれた上に、ウタと仲良しになったワルサギたちだった。

 

「わーっ! 来てくれたんだね、みんな!」

「まさか、鳥集めの特技まで持ってるなんてね……」

「友達を呼んだだけだよ〜♪ ね、みんな!」

「ゴアー!」

 

 楽しそうに翼を上げるワルサギたちの背中に、ウタはそっと身体を預ける。

 そして頭をポンポンと叩くと、東の空を指差した。

 

「みんな、お願い! 私をアルバーナまで連れて行って!」

「ゴアーーー!!」

 

 快諾の意を示すように、ワルサギたちは翼を羽ばたかせた。

 馬の頭数を合わせるために、チョッパーもその背中に飛び乗る。

 

「おれも乗るぞー! よろしくな、お前ら!」

「ゴアー!」

「よぉ〜し! それなら、キャプテンウソップ様も空の旅をお供して——」

「ゴアアアッッ!!」

「いだだだだだだだ!?!?」

 

 全方向からクチバシで攻撃を受けた上に水を奪われて目の前で飲まれているウソップを見て、ウタは「めっ!」とワルサギの頭をコツンと叩く。

 

「ゴア……」

「反省してるならヨシ!」

「お、おれの水……」

「まあまあ、まだあるんだし、許してあげてよ」

 

 ウタはワルサギの上で体勢を整えながら、細長い首に手を回した。

 いつでも飛べるよ、と伝えるようなウタの動きを感じ取って、ワルサギたちは空へと飛び上がった。

 

「それじゃあ、私とチョッパーも先に行くね! みんな、アルバーナで!」

「おう!」

 

 ワルサギはどんどんと浮上していき、拳を掲げた一味たちの姿が、小さくなっていく。

 おそらく、ペルーの方が速さは数段上であろうが、それでも空を飛んでアルバーナヘ向かえるというのは非常にありがたい。

 

「待っててね、ルフィ……!」

 

 空を駆けながら、ウタは遠く東に位置するアルバーナを目指す。

 

 ——反乱軍、王宮到着まで、残り五時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——反乱軍、王宮到達まで、残り三〇分。

 

 

「見えた、アルバーナ!」

「うん! ワルサギたちもあれがアルバーナだって言ってるぞ!」

 

 ワルサギに乗ってしばらく空を飛んだ頃、ウタの視界に豪奢な王宮が映った。

 どうやら、あれが首都アルバーナであり、ビビたちが目指していた王宮のようだ。見た限り、反乱軍よりも早く到着ができたらしい。

 とすれば、ルフィたちがいるのは王宮のはず。

 

「サボは国王が捕まってるせいでユートピア作戦が実行されたって言ってたもんね。ビビも分かってるはずだし、向かうのはあそこで——」

 

 悪寒が走った。

 聞き逃してならない声を、ウタは確実に聞き取った。

 

「………………ルフィ?」

 

 視線を王宮からわずかに逸らし、砂漠を見渡す。

 そんなわけがないと、ウタは探すことすらしたくなかった。

 しかし、それでも見つけてしまう。

 

 

 ——クロコダイルに敗北した麦わらのルフィが、砂漠に倒れていた。

 

 

「…………ぇ?」

 

 ウタは躊躇わずにワルサギから飛び降りた。

 その暴挙に慌てたワルサギたちが、次々とウタの下敷きになって衝撃をできる限り消し、無傷でウタを砂漠へとおろす。

 

「おい、ウタ! あぶねえぞ!」

「………………うそだ」

 

 チョッパーの言葉を無視して、ウタはルフィの元へ走る。

 ルフィの胸に、クロコダイル義手として左腕に付けれた金色のフックが突き刺さっていた。

 その近くでは、血だらけで泣き崩れるビビの姿。

 ゆっくりと、ウタはクロコダイルへ近づく。

 

「……なに、してるの」

「ああ……? なんだ、お前は」

 

 オールバックに、顔面を横断するように走る傷跡と、高級感の溢れる毛皮のロングコートが印象的だった。

 その立ち振る舞いで、自己紹介などなくともウタは彼が誰かに気づく。

 

「あなたが、クロコダイル……?」

「だったらなんだ? お前もこのアホみたいな麦わら帽子の仲間か?」

「………………」

 

 バチン、バチンと。

 ウタの顔の周りに黒い火花が散る。

 あまりに威圧的なその表情を前にしても、クロコダイルは微動だにしない。

 

社長(ボス)。彼女が『歌姫のウタ』よ」

「——ほう? ()()歌姫か?」

「ええ。懸賞金は、5000万ベリー。ルーキーとしては異例なこの数字の意味は、あなたはよく分かっているでしょう?」

「…………お前と同類か」

「そう。彼女には、()()()()()がある」

「面白い。そこの王女とともに、丁重にもてなそうじゃないか」

 

 クロコダイルはフックを突き刺したルフィを投げ捨て、倒れているビビに手を伸ばす。

 首を掴んで持ち上げたクロコダイルは、ニヤニヤと笑いながらビビを見つめる。

 

「どんな気分だ? お前のせいでこいつらが傷つくのは」

「……うるさい、黙れ……ッ!」

「はッ! 威勢のいい王女様だ」

 

 ビビも投げ捨てたクロコダイルは、視線をニコ・ロビンへ向けて回収を促す。

 ロビンは自身の悪魔の実の能力でビビの身柄を回収すると、その場に立ち尽くすウタへ視線を移す。

 

「…………イル」

 

 怒号が、轟く。

 

「クロコダイルァァァァアアッッ!!!!」

「……無謀だな」

 

 走り出すウタへ、クロコダイルは躊躇いなく攻撃を繰り出す。

 

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)!」

 

 クロコダイルが腕を振ると、砂塵が刃を形作り、縦に伸びた砂の刀が地面のごとウタを刻もうと突き進む。

 

「……ぁ」

 

 反応が、遅れた。

 怒りで耳への集中が途切れたウタは、攻撃を見てから回避しようと動くが、間に合わない。

 そして——

 

「…………だい、じょうぶか……ウタ……」

 

 意識を失っていたルフィが、それでもウタの盾となって彼女を守り切った。

 巨大な切り傷ができたルフィの背中と、ぽっかりと空いた肩の傷穴から、とめどなく血が溢れる。

 

「……ルフィ?」

 

 事態を受け止めきれないウタの横に、遅れてチョッパーが現れる。

 

「——! すごい傷だ! おまえぇぇえ!!」

「やめろ……! お前らじゃあ、こいつには勝てねえ……!」

 

 身体の形を変え、クロコダイルへ向かおうとしたチョッパーを止めたのは、ルフィだった。

 ぼたぼたと血を垂れ流しながら、それでもルフィは立ち上がり、クロコダイルを睨みつける。

 溢れる闘志を前に、クロコダイルは手のひらに汗が滲んでいることに気づいた。

 

「そのどうしようもないプライドだけは、認めてやろう」

 

 トドメを刺さねばならないと、クロコダイルの本能が予感をした。

 だからこそ、渾身の力をクロコダイルは右腕に込める。

 

「死ね、麦わら」

 

 そして、巨大な砂嵐がルフィたちへ追いかける。

 それでも、ルフィは引かない。拳を構えて、ウタたちを守ろうと真っ直ぐに立つ。

 

「…………だめ」

 

 ウタは直感した。

 あと一撃で、ルフィは死ぬ。

 

 ルフィを、失ってしまう。

 

「やだ。それだけは、やだ」

 

 この絶体絶命の状況は、ウタの奥深くで眠っていたトラウマを引きずり出すのには十分過ぎた。

 

「あ、ああ、ああああああ!!!!」

 

 頭の奥に鈍痛が走る。

 最悪の記憶たちが脳裏を駆け巡る。

 

 炎に埋まる国。

 泣き叫ぶ悲鳴。

 跳ねる水の音。

 沈む船の轟音。

 

「が、ぁぁあ、ああああッッ!!!」

 

 ウタは、口にする。

 奥深くに眠っていた、災いの名を。

 

 

「————謳え」

 

 

 そして。

 

 

T o t M u s i c a(死の音楽を奏でる者よ)

 

 

 魔王が、顕現する。

 

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