麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第三十四話「宝物」

 

 

 首都アルバーナヘと入るための正面玄関、南門へとウタとビビは超カルガモに乗って駆けていく。

 反乱軍の一員だと思われ、砲台部隊がウタたちへ狙いをつける。

 しかし、そんな状況であえてビビはカルーの背中に立ち、大きく手を広げた。

 

「チャカ! 私よ! 撃たないで!!」

「ダメ、ビビ! 避けてっ!」

「————っ! カルー!」

 

 チャカとはおそらく、王族の側近なのだろう。砲台部隊へ何かを叫んで攻撃を止めるように叫んでいる大男の声が聞こえた。

 だが、おそらくはバロックワークスの工作員だろう人間がビビへ向かって砲弾を打ち込んだのだ。

 

「……危なかった。ありがとう、ウタ」

「大丈夫! ほとんど動きは止まってるみたいだから、正面から行こう!」

 

 カルーがどうにか身体を捻って砲弾を避けてくれたので、舞い上がった砂に紛れてウタたちはアルバーナヘの道を駆け上がった。

 そして、駆け上がったビビは、部隊をまとめ上げるチャカへと声を張り上げる。

 

「チャカ! 今すぐ攻撃をやめて!」

「——ビビ様!? 生きておられたのですか!」

「再会を喜んでいる時間はないわ。あと一時間で全てを片付けないと、戦争が始まる!」

 

 チャカは既にビビがカルーに託した伝書の内容を知っているため、クロコダイルが黒幕であること分かっている。

 しかし、『ユートピア作戦』自体を知る前だったため、反乱軍の動きさえもクロコダイルによるものだという確信が持てていなかったのだ。

 さらに国王コブラが誘拐されたことで、護衛隊であるチャカは反乱軍からの侵攻を食い止めるという決断しかできなかったのだ。

 

「誰も悪くないの。悪いのは、クロコダイルだけ……!」

 

 チャカは部隊に待機の命令をかけた上で、ウタたちとともに走り出すが、アルバーナの中で、おかしな動きがあった。

 

「チ、チャカ様! 反乱軍がいつの間にかアルバーナヘ侵入しており、不意打ちで多くの兵士がやられました!」

「な、なんだと!? どこから入った!」

「アルバーナに潜伏してたバロックワークスを動かしたんだわ! 守りを固めることを最優先に! 大切なのは国民達の命よ!」

「承知しました! お二人は王宮へ! 私は全体への指示を出します!」

「任せたわ、チャカ!」

 

 即座に命令を下したビビは、迷わずに王宮へと走る。

 その横顔はどこまでも悔しそうに唇を噛み締めていた。一つ一つの選択が、あまりにも辛いのだ。王宮へ向かうということは、今この瞬間に襲われている人々の元へ向かわないと言うことだから。

 

「すぐに倒そう、ビビ! 一時間もいらないよ!」

「ええ、そうね」

「絶対に勝てるよ! だって、王宮には手当をしてもらったルフィが……」

 

 ウタがそんな言葉を言っているちょうどその時だった。

 ペルに運ばれたルフィは、チョッパーが必死に手当をしてくれているはずだ。あれだけの重傷だったのだから、ほんの数分で傷が治るわけがない。

 そのはずなのに。

 

「わりぃ、ウタ。遅くなった!」

 

 ルフィが、馬に乗ってウタの元へ現れたのだ。

 それなのに。

 

「……え? ウタ?」

 

 ウタはルフィのことを無視して、王宮への道を走る。

 そんな行動を予想していなかったビビは、慌てて止まってウタへ声をかける。

 

「ウタ! ルフィが来てくれたのよ! なんで行っちゃうの!」

 

 ビビの言葉を受けてようやく止まったウタは、ほんの少しだけ振り返って冷たい声を放つ。

 

「…………ねえ、あなた」

「どうした、ウタ!」

()()は、どうしたの?」

 

 目の前にいるルフィは、麦わら帽子を被っていなかったのだ。

 ただ、たったそれだけで何をこんなにも怒っているのだろうと、ビビは首を傾ける。

 

「ああ、帽子か! さっきどこかで落としちまってよ! まあすぐに見つかるだろ!」

「………………あのさ」

 

 深く深く、重たいため息を吐き出したウタは、ルフィを睨みつけた。

 

「それ以上、その顔で話さないで。虫唾が走る」

「何言ってんだよ、おれたち仲間だろ!」

「私たちの宝物を、それ以上汚すのは許さない」

「……あ〜〜ら。変装は完璧なはずだったんだけどねぇ〜い?」

 

 ルフィが左手を頬に当てると、その顔が見知らぬオカマの顔になった。

 ビビは呆然のその様子を見つめているが、ウタには動揺している様子はない。

 

「私の耳が、ルフィの声を聞き間違えるわけないじゃん」

「んもう! 熱〜い絆を見せつけられたら、文句のつけようがないじゃなぁ〜い?」

 

 オカマはウマから降りて、こちらへ歩いてくる。どうやら、力づくで捕えるつもりらしい。

 

「……こんなところで油を売るわけにはいかないのに!」

「でも、やるしかないわよ、ウタ!」

「分かってる! 準備はできてる!?」

「もちろん!」

 

 ビビは懐から無数の小さな円形の刃物がついた紐を取り出し、小指に装着する。

 わずか十四歳でバロックワークスに入り、十六歳になった今、No.9の相方として実力を認められたビビが使う、近中距離の敵を切り刻む道具、孔雀スラッシャーだ。

 だが、相手は間違いなくバロックワークスの一員であり、悪魔の実の能力者。つまり、幹部であるオフィサーエージェントの一人に違いない。

 実力は間違いなく、自分よりも上。

 

「こんなところで止まるくらいなら、どうせクロコダイルを倒すことだってできない!」

「その通り! よく言ったよ、ビビ」

「あ〜ら。言うじゃないの。そこまで言われたらあちし、本気出しちゃおうかしら?」

 

 オカマは変装を解き、白鳥の衣装をまとってウタたちに襲いかかってきた。

 想像以上に速い。ウタは咄嗟に防御の体制をとるが、

 

「待てよ。レディーを蹴ろうだなんて下品な真似するんじゃねえ」

 

 オカマの蹴りを、サンジが受け止めた。

 間に合ったのだ。レインベースで別れた仲間たちも、間違いなくここに来ている。

 

「サンジ〜! ナイスタイミング!」

「間に合ってよかったぜ。状況は?」

「反乱軍は一時間だけ止めた! その間に、クロコダイルを倒す!」

「そうか! なら話は簡単だな」

 

 サンジはニコッと笑って、懐からタバコを取り出し、そっと加えて火をつける。

 

「そのオカマ、おれが引き受けた」

 

 サンジはそれだけ言って、キュッとネクタイを締め直した。

 それを見て、ウタとビビはすぐにカルーたちに走れと指示を出す。

 

「ジャマすんじゃないわよ〜〜う!」

「ウタちゃん、ビビちゃん!」

 

 追いかけようとするオカマを蹴りで止めたサンジは、笑いながら問いかける。

 

「デザートは、何がいい?」

「プチフール!」

「了解。こいつを片付けて、飯の準備をしておくよ」

「ありがとう〜! 楽しみにしてる!」

 

 手を振って、ウタは王宮へと向かっていく。

 そして、サンジはオカマへと向かい合った。

 

「あーん、もう! 他の仲間に尻拭いをさせるのが申し訳ないわよ〜う!」

「残念ながら、他の仲間もあの二人には辿り着けねえぜ」

「ジョ〜ダンじゃないわよ〜う! あいつらの実力を知らないから、そんな減らず口が叩けるのねい!」

「そんなことはねえさ。強いぜ? おれたちの仲間は」

 

 サンジはふぅ、とタバコの煙を吐く。

 それはふわりふわりと風に乗って、北へと流れていく。

 

 

 

 

 

 そして、煙が溶けた風は、メディ議事堂前まで吹いて、

 

「…………随分と、面白い身体をしてやがるな。お前たち」

「いかにも。おれはスパスパの実を食べた全身刃物人間だ」

「わたしはトゲトゲの実の棘人間。あなたに私たちが倒せるかしら?」

 

 時は同じく、場所は王宮のすぐ隣に位置するメディ議事堂前にて。

 バロックワークスのトップオフィサーエージェント、No.1とミス・ダブルフィンガーがゾロの前に立っていた。

 

「倒すも何も。負けるつもりで戦場にくるバカがいるのか?」

「ごもっともだ。話が早くて助かる」

 

 Mr.1とミス・ダブルフィンガーは悪魔の実の力によって腕を刃物とトゲに変える。

 当然ゾロは負けるとは思っていないが、トップクラスの二人を相手に楽に勝てるとも思っていない。

 加えて、

 

「女を斬る趣味はねえんだがな……!」

「あら? 優しいのね。安心して。斬られて死ぬのはあなただけだから」

「そういうわけだ。手早く終わらせてもらう!」

 

 凄まじい速度でMr.1が距離を詰め、刃物と化した右手を広げ、ゾロへと襲いかかる。

 

掌握斬(スパークロー)!」

「——ぐッ!」

 

 Mr.1の実力は本物だ。

 反射的に、ゾロは両手の剣でその攻撃を受け切った。さらに、その後ろから無数のトゲが襲いかかる。

 

「スティガーフレイル!」

「しまっ——」

 

 ミス・ダブルフィンガーがゾロへと、鈍器に変形した腕を振り下ろす。

 そして、それがゾロに直撃する瞬間。

 

 ——ドゴァァンッ!!!

 

 ミス・ダブルフィンガーの頭が、爆発した。

 

「…………か、は……っ!?」

 

 どうやら、大砲か何かの流れ弾が運悪く直撃してしまったらしい。

 意識外からの一撃に、ミス・ダブルフィンガーはふらりと身体をよろめかせた。

 その一瞬の隙を逃さず、ゾロは渾身の峰打ちをミス・ダブルフィンガーに叩き込み、瞬く間に意識を刈り取った。

 そのまま、ゾロはMr.1から距離を取る。

 

「……運がいいな」

「まあな。なんだか分からねえが、これで一対一だ」

「構わねえさ。元々、それで勝つつもりだった」

「そうかよ。まあ、おれだって一対ニで勝つつもりだったからな!」

 

 プライドとプライドが、己の刃に乗ってぶつかり合う。

 バロックワークス最強の剣士と、東の海(イーストブルー)最強の剣士が、衝突した。

 

 

 

 

 

 

 そして。

 ゾロのいるメディ議事堂前から南東に五〇〇メートル。

 南東ゲート入り口の砂漠にて。

 瓦礫を利用して作った即席パチンコの隣に立つウソップは、嬉しそうに拳を上げていた。

 

「よっしゃあ! 見たか、バロックワークス! これでゾロの勝利は間違いねえ!」

「何言ってんのよ、アホ! 急になんかやり始めたと思ったら、敵を無視して王宮に撃ち込むなんて!」

「悔いはない! おれは味方のピンチを救ったのだ!」

「知らないわよ! 私たちが殺されるかもしれないのよ!?」

 

 ウソップとナミの前に立つのは、金属バットを持った大柄の男と、モグラの見た目をしたサングラスをかけたおばさん。

 戦闘力のみならばMr.3よりも上と言われる、Mr.4とミス・メリークリスマスが二人の前に立っていた。

 

「フォーーー…………」

「バッ!! このバッ!! 格好の的だったのにどうしてそのタイミングで休憩してんだ! さっさとやるよ!」

 

 ミス・メリークリスマスは、モグラのような大きな爪を使って地中への潜っていく。

 

「ねえ、ちょっと! 来たわよ、ウソップ!」

「安心しろ、ナミ! ちゃんと天候棒(クリマ・タクト)は持ってるよな!」

「ええ! 武器の改造を頼んだけど、これ本当に使えるんでしょうね!?」

「キャプテン・ウソップの大発明品だ! お前ならおれの想定の何倍もの力を引き出してくれるはずだ!」

 

 言いながら、ウソップは足元へ目掛けてパチンコを放った。

 

「さあ、あんたを殺すモグラ塚四番街さ——」

「必殺、タバスコ卵星ッ!」

 

 突如として地面から現れたミス・メリークリスマスの位置が分かっているかのように、ウソップ大量のタバスコも生卵の混じった弾を放った。

 

「うぎゃあああ〜〜〜!?!?」

「ぐわ〜〜はっはっは! どうだ、おれの攻撃は!」

 

 ウソップは堂々と胸を張って高々と笑う。

 目と鼻に直撃したタバスコと卵に苦しむミス・メリークリスマスから距離を取ったウソップとナミは、並んでそれぞれの武器を構える。

 

「行くぞ、ナミ! 偉大なる航路(グランドライン)を進むんだったら、化け物じみたあいつらの強さに少しでも近づかなきゃならねえ!」

「ちょっと! 私、航海士なんだけど!」

「んなこと言ったら、ウタは音楽家だぞ!」

 

 誰よりも前に立って、命を懸けている仲間がいる。

 ナミはグッと唇を噛んで、諦めたように息を吐いた。

 

「あー、もう! 分かったよ! やってやろうっての! 覚悟しなさいよ、バロックワークス!」

 

 覚悟を決めて、ナミは天候棒(クリマ・タクト)を構えた。

 相手はバットを持った大男と、モグラのおばちゃんと……

 

「……イッキシ!」

 

 爆弾を口から吐き出す、鼻水を垂らしたダックスフンドだった。

 

「うぎゃ〜〜!? 逃げろ、ナミぃ〜!」

「さっきの威勢はどこ行ったのよ、アホォ!」

 

 ドガァン! と爆発した衝撃で吹き飛ばながら、二人は泣き叫びながらも、Mr.4たちとの戦いを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 首都アルバーナ、宮殿の広場にて。

 

「パパ!!」

「国王様!」

 

 バロックワークスの工作員たちによって宮殿の入り口を塞ぎ、入ってくるものをニコ・ロビンの能力で追い返す。

 外部からの侵入をことごとく防ぎ、宮殿のテラスにクロコダイルは腰掛けていた。

 その下には、壁に磔にされた国王コブラの姿。

 

「……すまん、ビビ。お前が命を賭して作ってくれた救国の機会を、活かせなかった……!」

 

 血だらけのコブラが声を絞り出す中、クロコダイルの視線はネフェルタリの二人には向いてなかった。

 

「…………あの化け物は、消えたのか」

「うん。私は、独りじゃないから」

「くだらないな。盲信的な信頼は身を滅ぼすぞ」

「命を懸けてもいいって人のためなら、構わないよ」

「……病気だな。救えない」

 

 クロコダイルはその身を砂にしてビビたちの前に降りてくる。

 その顔は、どこまでもウタたちを見下していた。

 

「予定では、最後に歴史の本文(ポーネグリフ)を確認して、この国の終わりを眺めようと思っていたのだが、トラブルで順番が変わってしまってな」

「なにを……!」

「この国に伝わるのは、()()()()()だけじゃないだろう?」

「——まさかっ!」

 

 ビビはコブラ王へ視線を送る。

 コブラ王は苦しそうに歯を食いしばりながらも、はっきりと言う。

 

「最も大切なのは、国民だ。民を人質に取られている以上、しなければならない決断もある」

「でも、反乱軍はいま、門の前で止まって……」

「この国のどこかに、直径五キロを吹き飛ばす爆弾を設置した。あと一時間で、そこの広場に撃ち込むようになっている」

「…………なんてことを……」

 

 一時間経って、クロコダイルを倒せなければ、反乱軍はアルバーナヘ流れ込んでくる。

 そして、反乱軍がアルバーナヘ集まったところで、王国軍ごと爆弾で殺されてしまう。

 

「おれの裁量で、爆弾を打ち込む時間なんざいくらでも変えられる。それを分かってるから、賢明は王は素直に場所を教えてくれたのさ」

 

 クロコダイルは、懐からあるものを取り出した。

 それは、自然界には生まれないだろう色と形をした、禁断の果実。

 

「アラバスタの国宝。海の秘宝、悪魔の実だ。いったいどれほどの力が、この実には眠っているんだろうな」

 

 ビビすらその名を知ることのない、アラバスタに伝わる悪魔の実を手にしたクロコダイルは、高みからウタたちを見下ろして笑っていた。

 

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