麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第三話「銃は脅しの道具じゃないよ」

 ウタが浅い眠りから目を覚ましたときには、戦況はこちら側へ傾いていた。

 ルフィの蹴りで海軍は一掃され、ゾロの剣技で反撃は全ていなされる。

 

「お! 起きたか、ウタ!」

「……ん、あれ!? ルフィに背負われてる!?」

「だって寝てたじゃねえか、お前」

「だ、大丈夫だってば! 放っておいても!」

 

 ルフィからすぐに離れたウタは、胸元や腕に残るルフィの体温を意識して顔を赤くする。

 

「私だって戦えるんだから、もう昔とは違うもん!」

「分かってるって。何をそんな怒ってんだ?」

「アホ、鈍感!」

「変なこと言うなァ、ウタは」

 

 痴話喧嘩を始める二人を見て、モーガンは怒りに震える。

 

「さっさと撃ち殺せ、お前ら!」

 

 慌てて銃を構える海軍たち。

 しかしその中に、涙を浮かべながら震える少年が一人。

 それに気づいたモーガンが、コビーを睨みつけた。

 

「おい、新入り。何を泣いてる」

「す、すすすすいませんっ! で、でも! あの人たちは恩人で……!」

「恩人だからなんだ。このモーガンに反逆を起こしたんだぞ」

「で、ですが……!」

「もういい。大佐命令だ。お前、銃で自分の頭を撃ち抜け」

「……え」

 

 モーガンの目は本気そのものだった。

 冗談ではないと肌で感じ取ったコビーは、反射的に銃口をこめかみに当てた。

 

「コビー! バカなことはやめて!」

「ウ、ウタさん……!」

「分かったでしょ! 海軍にも嫌なやつはいっぱいいる! あなたが目指すべき道を考えて!」

 

 ウタは精一杯の声でコビーへ言う。

 

「あなたの夢は、悪いやつらを取り締まることでしょ! 誰かから押し付けられた正義じゃない。あなたが本当に銃を向ける相手を考えて!」

「……!!」

「それでも海軍になるなら、銃を向けるのは私たちのはずだよ、コビー! 誰かの言うことを押し付けるような世界なんて、いらない!」

 

 皆が笑える世界に、恐怖による支配なんていらない。

 コビーには気高く尊い夢があるのだ。それを誰かが身勝手に奪っていい権利などあるはずがない。

 ウタの言葉を受け取ったコビーは、二人の言葉を何度も思い出す。

 震えながら、大粒の涙を流しながら。

 考えに考え、そして。

 コビーは、モーガンに銃を向けた。

 

「本物の悪党はお前だろ! 僕が懲らしめてやるぞ、モーガンっっ!!!」

「この愚か者がァ! まずはお前から処刑だ!」

「させねえよ」

 

 モーガンが振り下ろした斧を、ゾロが刀で受け止めた。

 

「なに……!?」

「いい覚悟だったぜ……って、もう気絶してやがる」

「にしし! 面白いやつだなあ、コビー!」

 

 笑いながら、ルフィはパンチを放ち、モーガンの顔面を殴りつけた。

 ぐわんと大きく体が揺れたモーガンへ、ゾロが追撃の剣を——

 

「待てェ!!」

 

 ゾロは反射的に剣を止め、ルフィと同時に後ろを振り返る。

 肩を撃ち抜かれた失血と、能力による消耗が重なり、上手く身動きが取れなかったウタが、ヘルメッポに捕まっていた。

 

「こいつの命が惜しけりゃ、動くんじゃねえ!」

 

 頭に銃を向けられるウタだったが、それで動じる素振りは一切ない。

 それどころか、穏やかに笑っているほどで。

 

「ねえ、ヘルメッポ。銃を抜いたからには、命を懸けてね」

「な、何を言ってやがる……!」

(それ)は脅しの道具じゃないって言ったの」

「ゴムゴムの……(ピストル)!!!」

 

 全力のルフィのパンチがヘルメッポの顔面をとらえ、吹き飛ばす。

 そして、そのパンチで隙だらけになった背中をモーガンが狙いにかかるが、

 

「ナイス、ゾロ」

「お安いご用だ、船長!」

 

 そのさらに背中をゾロが斬り、モーガンは崩れて落ちた。

 倒されて自分の父親を見て、ヘルメッポは泣きながら叫ぶ。

 

「ひ、卑怯だぞ、お前ら! 後ろから切りつけるなんて!」

「卑怯? 甘いこと言わないでよ」

 

 優しい父親の背中を思い出す。

 暖かな仲間たちとの思い出が駆け巡る。

 彼らを悪人だとは思わない。

 しかし、命を懸けるという意味と、それと向き合う冷徹さも、確かに脳裏に焼き付いているのだ。

 あの背中を追うと、あの日に決めたのだ。

 だから、ウタは笑って答える。

 

「あなたの目の前にいるのは、海賊だよ」

「ひぃいいいい!!!!」

 

 逃げるように、ヘルメッポは逃げ去っていく。

 ルフィたちの完全勝利。

 それを目の当たりにした海軍たちは、持っていた銃を投げ捨てた。

 

「やったぁぁあ!!! 解放されたー!」

「モーガンの支配が終わった!」

「バンザーイ!!」

 

 ルフィたちは目を丸くしてその光景を見る。

 

「なんだ、やられて喜んでやんの」

「やっぱり、みんな笑顔が一番だね♪」

 

 ほっと一息をついた瞬間、ゾロがその場に崩れ落ちる。

 

「ぞ、ゾロ!?」

「……ごめん、ルフィ。私もちょっと疲れたかも」

 

 そして、ウタも再び気を失った。

 

 

 

「はァ、食った……! さすがに九日も食わないと極限だった!」

「私もやっと元気でたー! 美味しいご飯って心の底からみなぎってくるよね!」

 

 目を覚ましたウタとゾロは、おにぎりの女の子の家で食事を振る舞ってもらっていた。

 

「ありがとうございます、ご馳走様でした!」

「いいのよ、町を救ってもらったんだから」

 

 隣に座る女の子が、輝いた目でウタを見つめる。

 

「やっぱり、お姉ちゃんたちすごかったんだね!」

「えっへん! 私もルフィも、まだまだこんなものじゃないからね!」

 

 胸を張って得意げに笑うウタの横で、パンをかじるゾロが問いかける。

 

「それで、次はどこに行くつもりだ?」

「もちろん、偉大なる航路(グランドライン)へ向かうよ」

「なるほどな。まあ、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を狙うってなら、当然そうなるか」

「よし! それなら早速出航を——」

 

 ルフィが立ち上がった瞬間、玄関のドアが開いた。

 入ってきたのは、メガネをかけた小柄な少年。

 

「コビーだ! 元気みたいでよかった!」

「はい! 本当に、二度も救われてしまって……!」

 

 小さく笑ったコビーだったが、いつものヘラヘラとした笑い方をやめ、真っ直ぐにルフィたちを見つめる。

 

「ありがとうございます。そして、すいません。僕は、海軍にはなりません」

「おう、そっか! 頑張れよ!」

「うん! 頑張ってね〜!」

 

 あっけらかんとした返事に、コビーはあんぐりと口を開けていた。

 

「好きなことをやろうよ! コビーは何がやりたいの?」

「僕は、悪いやつらを取り締まりたいんです。でも、海軍にも海賊にも、悪いやつはいます」

 

 アルビダの元で苦しみ、モーガンに追い詰められたコビーにとって、夢に至る手段は海軍ではないのだと、そう言った。

 

「どうしたらいいのかは、まだ分からないですけど。でも、見つけてみせます! 僕の夢を叶える方法を!」

「おう!」

「もしかしたら、僕はルフィさんたちの敵になるかもしれません。でも、友達……ですよね!」

「ああ! 別れても友達だ!」

「もちろん! ずっと友達!」

「……!!! ありがとうございます! 僕は僕の信念に生きます!」

 

 深く深く頭を下げたコビーの足元に、ポタポタと水滴が落ちる。

 そんな中、さらに見知らぬ男が玄関から入ってきた。

 

「君たちが海賊だと言うのは、本当かね?」

「うん。本当だよ」

 

 ウタが即答する。

 たとえ不利になるとしても、それだけは嘘をつく気はない。

 

「恩義があるのは分かっている。だが、海軍としては君たちを放置するわけにもいかない。即刻、この町から去ってもらおう」

「そうだね、じゃあ行こっか、ルフィ」

「おう。おばちゃん、ご馳走様」

 

 足早に去っていく三人たち。

 それを見送る海軍の男の視線が、コビーに映る。

 

「君は、新入りだったね。もしかして、彼らの仲間なのか?」

「いえ……僕は」

 

 ほんの少しだけ、コビーはルフィの背中を見て、

 

「僕は、彼らの仲間ではありません。それに、モーガン大佐に銃を向けた僕は、海軍にいる資格もありません」

 

 コビーも海軍の男の横を通り過ぎ、そしてルフィたちとは別の道へと歩いていく。

 一歩、二歩。

 三人とコビーが離れていく中で。

 

「…………っ!! ルフィざんっ!!」

 

 振り返ったコビーは、ボロボロと涙を流していた。

 

「ありがとうございました!! このご恩は一生、忘れません!! またいつか僕たちの夢の道筋が交わる日までっっ!!!」

「しししし! またなー!」

「じゃあねー、コビー!! 元気でー!」

 

 笑顔で手を振るルフィとウタを、ゾロが穏やかな顔で見つめる。

 そして、コビーに続くように海軍の男が声を上げた。

 

「全員敬礼っ!!! 名も知らぬ海賊たちと、勇気ある若者に大いなる感謝をっっ!!!」

 

 海軍たちの心のこもった敬礼と、町の人々の声援が、ルフィたちの乗る船の帆を膨らませ、先へと導いていく。

 

「くーーっ! いくか、偉大なる航路(グランドライン)へ!!」

 

 大きく腕を広げるルフィに続いて、ウタも背筋を伸ばす。

 

「やっと一人、仲間が見つかったからね!」

「あとは、コックとかほしいな!」

「んなもん後でいいだろ!」

「なんでよ! 私は音楽家だよ!」

「もっと後でいいじゃねえか! まずは航海士だろうが!」

「なにをぉ〜!!」

 

 ドタバタと船の中で暴れ始めるウタと、それをどうにかしようと慌てるゾロを、ルフィは大笑いしながら見守っていた。

 

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