麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第三十四話からそのまま続きとなっております。
よろしくお願いします。


第三十六話「守護神」

 

 

 時限爆弾起爆まで、残り一時間。

 宮殿広場に立つウタとビビは、クロコダイルと相対していた。

 

「ククク……! 二つ目の悪魔の実はさすがに食えねえが、国宝とまでされる悪魔の実を得れば、強力な武器になる……!」

 

 得意げに笑うクロコダイルは、王宮の上部に腰掛けて優雅に足を組む。

 吸っていた葉巻の煙を大きく吐き出したクロコダイルは、ゆっくりと身体の大半を砂にして下まで降りてくる。

 

「……お前には、その悪魔の実は奪えんよ、クロコダイル」

「なに?」

「その実は、何百年も前から、誰が食べてもどこへ行っても、必ずこの地に帰ってくるという伝説がある。その場で食わん限り、すぐにお前の手から離れるぞ」

「ほざいてろ。そんな迷信を信じる気などさらさらない」

 

 コブラ王の言葉を一蹴したクロコダイル。

 見下すようなその態度に耐えきれず、ここまで共に着いてきてくれたチャカが前へ出た。

 

「ビビ様。私はもう、我慢なりません……!」

 

 国を弄ばれ、王を傷つけられ、誇りを汚された。

 これで怒らずにいられるほど、チャカの忠誠心は浅くはない。

 

「チャカ、よさんか! お前まで死んではならん!」

「クロコダイルッ!」

「ほう。……動物系(ゾオン)か……」

 

 チャカの身体が黒い毛に染まり、長い鼻とピンと伸びた獣耳が生えてくる。

 それはアラバスタを古くから守ってきた守護神だと言われる動物の一つ。

 

「イヌイヌの実、モデル“ジャッカル”!!」

 

 チャカは悪魔の実の力で大幅に強化された身体能力を駆使して、凄まじい勢いでクロコダイルを切りつける。

 が、しかし。

 

「てめぇも……他人の為に死ぬ口か……」

「——チャカ!!!」

 

 一方的だった。

 チャカの攻撃は砂漠に剣を突き立てるが如く手応えがなく、クロコダイルの攻撃は確実にチャカに傷を与えていく。

 

「弱ェってのは、罪なもんだ」

「……そんなわけ、ないじゃん!」

 

 クロコダイルを貫かんとばかりに睨みつけるウタが声を上げた。

 しかし、クロコダイルは余裕のある態度で笑うだけ。

 

「クハハ! そうだろうがよ。その証拠に、お前らの船長はここにいねェだろうが!」

「……そういえば、ルフィさんは」

 

 ビビが呟くと、クロコダイルはニヤリと笑った。

 

「ああ、さっき目障りな鳥を見つけてな。撃ち落としておいたんだが、もしかしてあの鳥に乗っていたのか、麦わらが」

「……ペル、まで……ッ!」

 

 王宮にいるはずだったルフィがこの場にいないのは確かにおかしい。

 だが、それも当然だったのだ。

 ここに辿り着く前に、クロコダイルの攻撃を受けていたのだから。

 

「そんな! じゃあ、ルフィさんは……!」

「大丈夫だよ、ビビ。チョッパーがついてるから」

「そんなこと言ったって……!」

「私はルフィを、仲間を信じてる」

 

 ほんの一欠片も、ウタは疑わなかった。

 真っ直ぐに言い切ったウタへ、クロコダイルは嫌悪感をあらわにした。

 

「……仲間を信じるだの、そんな甘いことを言ってるから弱いんだよ、お前たちは」

 

 葉巻の煙を吐き出すクロコダイルを見て、ビビはとあることに気づく。

 彼の近くに倒れている人の中で、忘れたくもない顔があることに。

 白い毛皮つきのロングコートと、近くに落ちている同じ色のハット。どう見ても、それはクロコダイルの相方であるエージェントの姿だった。

 

「まさかあなた、ミス・オールサンデーを!?」

「あいつはおれの期待に応えられなかった。だから始末した。それだけだ」

「仲間を、始末……?」

 

 ウタは握っている拳が震えてることに気づいた。あまりに不愉快極まりないその言動に、耐えられる自信がない。

 

「ビビ、やろう。私たちで」

「ええ。元から、そのつもりよ」

 

 残された時間は一時間もない。ルフィは死んでいないと確信しているとはいえ、いつ戻ってくるか分からないという現状に賭けるのなら、この手でクロコダイルを倒す方が確実だ。

 

「私たちはあなたを倒して、このくだらない戦いを止めてみせる」

「クハハハ! 死にたいなら、爆弾が起爆するまでの間、遊んでやろうじゃないか!」

「——ビビ!」

「ええ! 行くわよ、ウタ!」

 

 二人は同時に走り出す。

 ここまでともに行動をしてきたウタとビビに、連携のための声など必要なかった。

 

孔雀(クジャッキー)一連(ストリング)スラッシャー!!」

 

 無数の円形刃物がついた紐状の武器を、ビビは迷いなく振り切った。

 クロコダイルの顔を確実に切り裂く一撃。しかし当然、そんな攻撃は自然系(ロギア)のクロコダイルは避けることすらしない。

 

「なんのつもり——」

「ウタちゃ〜んハンマー!!!」

 

 ビビの目的は傷つけることではなく、クロコダイルの顔を砂にすることで一時的に視界を奪うことだった。

 ほんの一瞬の間に空想のハンマーを現実に取り出したウタは、渾身の力を込めて攻撃を放つ。

 

「——!!!」

 

 その攻撃は、クロコダイルの()()()()()()()

 しかし、クロコダイルはほんの少しだけ体勢を崩しただけで、それ以上のダメージはない。

 

「非力だな。このレベルで、よくもまああんな額の懸賞金がついたもんだ。ああ、そうか」

 

 ケタケタと笑いながら、クロコダイルは告げる。

 

()()()()()()()()もんなァ! ウタ人間!!」

「それでもいいよ、別に」

 

 ウタはさらに金色の槍を取り出し、クロコダイルに突き刺す。

 だが、それはクロコダイルの身体に弾かれ、槍は光となって消えていく。

 

「諦めが悪りィんだよ!」

「そりゃあ、諦めてないからね!」

 

 クロコダイルに何度攻撃を弾かれても、ウタ一切引くことなく、攻撃を続ける。

 

「わずらわしい……!」

 

 クロコダイルが右手を伸ばし、ウタを掴みにかかるが、

 

孔雀(クジャッキー)スラッシャー!」

 

 その腕を、ビビの攻撃が砂へと変える。

 不意の攻撃に僅かに対応が遅れたクロコダイルの頭に、ウタのハンマーが直撃した。

 

「…………てめぇ」

 

 ぽたりと血を流すクロコダイルを見て、ウタは得意げに笑う。

 

「ほら、届いた」

「本気で殺してやらねえと、その口は黙らねえみたいだな……!」

 

 そして、クロコダイルがウタヘ攻撃をしようとした、そのとき。

 

「……おれの目はどうかしちまったのか…………?」

「コーザ!」

 

 反乱軍のリーダーであるコーザが、ビビたちの元へとやってきたのだ。

 おそらく、彼とビビが昔に使った抜け道を使ったのだろう。

 あれだけの軍勢を引き連れてきたのだ。一時間待てと言われて、何もせずに素直に待つ方がおかしい。

 とはいえ、この状況は予想していなかったようで、

 

「……国の英雄が、国王を殺そうとしてるなんてな……」

 

 磔にされた国王。血まみれで倒れるチャカ。まさに攻撃をされようとしていたウタとビビ。

 それを見て、まだクロコダイルが英雄だとは思えるはずもない。

 

「この国から雨を奪ったのは、お前か……!?」

「おれさ、コーザ! 雨も、紛争も、これから国民たちが死んでいくのも、全部おれさ! 知らなきゃ、幸せに死ねただろうにな。運の悪いやつだ……!」

「聞かなくていいわよ、コーザ」

 

 愕然とするコーザへ、ビビが声をかける。

 

「私たちがここでクロコダイルを倒して、全部終わらせるから」

「まだ言ってやがんのか。懲りねぇやつらだ」

「全ての元凶であるあなたを倒さない限り、この国の人々が笑える未来は来ない!」

「どうせ、どんな未来もお前は見れねえだろうが!」

 

 クロコダイルは強烈な攻撃をウタとビビの二人に放つ。

 砂の刃と、凶悪な左手のフック。

 それぞれが、ウタとビビを狙うが。

 ウタとビビに、傷はなかった。

 代わりに、二人の男が崩れ落ちていく。

 

「コーザ!」

「チャカさん!」

 

 倒れていくコーザの目には、涙が浮かんでいた。

 

「すまない、ビビ……!」

「…………!」

 

 ドサリ、と寂しげな音が響く。

 目の前に広がっていく血を見つめ、ビビは叫んだ。

 

「あなたは、悪くない! 全部、こいつが……」

「ああ、おれだ!」

 

 今度は逃さぬように。

 ウタとビビは砂で絡め取られ、その体を拘束された。

 苦しみながら、ウタは悔しさに唇を噛む。

 

(トットムジカの疲労が凄くて、ウタウタの力を全く使えない……! 今歌っても、クロコダイルは数秒で目覚めて、私は起きていられなくなる……!)

 

 まだ戦意を失っていない二人を見て、クロコダイルは見下すような視線を送る。

 

「お前らの理想論は見苦しくてかなわねえ。力がねえやつが語る理想に、なんの価値もねえ」

「うるさい! 夢を諦めたお前に、私たちを嗤う資格なんかない!」

「……なに?」

「諦めたんでしょ、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を。だから、あなたは七武海なんかになってここにいるんだ……!」

「てめぇに、おれの何が分かる!」

「分かるわけないから、喧嘩売ってるんだよ!」

「…………もういい。いい加減、死ね」

 

 そして。

 クロコダイルがトドメを刺そうとした、そのとき。

 

角強化(ホーンポイント)!!!」

 

 巨大な二本の角が、クロコダイルの身体を貫いた。

 

「「チョッパー!!!!」」

「ごめん、待たせた! みんな!」

 

 四足歩行の姿をしたチョッパーが、クロコダイルの後ろから突進をしたのだ。

 当然、ダメージなどは微塵もないが、ウタとビビの拘束は完全に解除された。

 加えて、全身を貫く攻撃によって、クロコダイルの懐からとあるものが転がっていく。

 

「——悪魔の実が!」

 

 初めて慌てた様子を見せたクロコダイルよりも先に、その実を掴んだのはビビだった。

 まるで、クロコダイルからビビの元へ逃げたのかと思うほどに、ビビがいた位置へと転がっていく。

 それを手にした瞬間、ビビは咄嗟にその悪魔の実を口は運ぶ。

 

「あなたに、この実を奪われるくらいなら……!」

「おい! ふざけるなッ! それはお前如きが口にしていいもんじゃあねェ!」

 

 すぐさま、クロコダイルは攻撃をするが、

 

「させないッ!」

 

 咄嗟にウタが防御のための壁を作り出すが、容易に破壊される。だが、その後ろに死に物狂いで立ち塞がるのは、コーザとチャカ。

 

「我はアラバスタの守護神! 決して、ビビ様は殺させない!」

「お前が変えてくれるんだろう、ビビ! この壊れちまったアラバスタを!」

 

 二人の期待を背負ったビビは、はっきりと答える。

 

「ええ。必ず」

 

 そして、ビビはその悪魔の実を口にした。

 一口でも飲み込んでしまえば、その力は食したものに宿る。

 クロコダイルは、防ぎきれなかった。

 そして。

 

「…………食べたのか。いずれアラバスタを背負うお前ならば、その実も答えてくれるだろう」

 

 コブラ王の呟きの最中、ビビの身体に変化が訪れる。

 美しい肌から水色の毛が生え始め、鼻先が丸みを帯びて膨らみ、指先には爪が生え、手のひらには肉球が現れる。

 さらに。

 その背中には、純白の翼が生えていた。

 

「アラバスタを作ったとされる神の姿と酷似していたという。その、悪魔の実の名は……」

 

 コブラ王の小さな声が、その場にやけに響いて聞こえた。

 

 

 

 

「ネコネコの実 幻獣種:モデル“シャルベーシャ”」

 

 

 

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