麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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幕間「宴前夜」

 

 

 

 一つの国が救われた。

 そんな事実と笑顔を眺めながら。

 海軍たちは、ただ黙々と事後処理を行なっていた。

 部隊は二つ。

 首都アルバーナで暴れ出した暴徒を装ったバロックワークスの工作員を制圧するたしぎたちの部隊と、砂漠にて反乱軍の動きを警戒していたスモーカー、サボの部隊。

 

「おい、サボ。てめぇ、ずっと一人で何をやってやがった」

「クロコダイルたちを倒すのなら、動くための証拠が必要でしたので、さきにカジノへ行きました」

「そういう意味じゃねえ。海軍は『組織』だ。上の指示を受けて動く。それが徹底されなければ綻びが出る」

「……では、綻びが出ることのなかったおれたちは、この戦いで何をしましたか?」

「…………生意気なガキだ」

 

 事実。今回のアラバスタの内紛において、功績という功績を挙げたのはサボだけであった。

 バロックワークスたちを倒したのは、麦わらの一味。

 海軍がやらなければならぬ仕事を、敵である海賊にされてしまったのだ。

 なんという生き恥か。

 

『——カーさん! スモーカーさん!』

「どうした、たしぎ」

 

 スモーカーの持つ電伝虫より通信が入る。

 

『麦わらの一味を発見しました! どうやら、王宮の方へと向かっているようです! これから彼らを追い、捕まえます!』

「……いや、いい。アルバーナ内の暴徒を制圧、拘束ののち、戻ってこい」

『どうしてですか! あいつらは目と鼻の先で……』

「お前じゃあ、あいつらには勝てない」

『…………!!!』

 

 傷を負っているとはいえ、バロックワークスを十人にも満たない海賊が壊滅させたのだ。

 まだ偉大なる航路(グランドライン)に入ったばかりのたしぎでは、勝てるはずもない。

 

「たしぎ、覚えておけ。この海では、駆け上がれなければ死ぬだけだ。その覚悟を持っているあいつらに、お前は勝てない」

『……私は、何もできませんでした』

「恥だと思うのなら、強くなれ……!!!」

『なりますよ……っっ!!!!』

 

 クロコダイルが敵だという証拠が整った段階で、麦わらの一味はすでに最終戦へと突入していたのだ。

 介入しようとしたたしぎも、たかだか工作員との戦闘で手を焼き、それだけしかできなかった。

 だが、そんな重い空気に沈む海軍の中で、

 

「……はい。クロコダイルとバロックワークスとの関係も紐付き、王下七武海クロコダイルは秘密犯罪会社バロックワークスの社長であることが明らかになりました」

「…………おい、サボ」

 

 サボはいつの間にか、どこかへの通信を始めていた。

 スモーカーが電伝虫を見てみれば、それは『海軍本部』への通信用だった。

 

「加えて、バロックワークス社の所有船から大量の『ダンスパウダー』が発見。その他、余罪も多いと判断し、世界政府直下『海軍本部』の名の下に、クロコダイルの『敵船拿捕許可状』および、政府における全ての権限と称号を、剥奪します」

 

 反乱軍の側で意識を失い、倒れているクロコダイルへ海楼石の手錠を装着させながら、サボはそんな報告をしていた。

 

「何を勝手に事を進めてやがる、サボ!!」

「そうだ。本部からご連絡だそうです、スモーカー大佐」

 

 サボが押し付けた電伝虫からは、淡々とした無機質な海軍本部からの連絡が語られ始める。

 

『今回のクロコダイル討伐に関しまして、スモーカー大佐とサボ中佐に政府上層部より”勲章”が贈与されることになりました』

「……討伐? ちょっと待て。クロコダイルを倒したのは、おれたちじゃねえ……!」

『……スモーカー大佐。今回の騒動におきましては()()()()()()()()()()()()()()()』 

「おい! バロックワークスと戦っていたのは麦わらの一味、海賊だ!」

「無駄ですよ、スモーカーさん。政府が、海賊に国を救われたなんて事実を公にすると思いますか?」

『さらに今回の功績を踏まえ、あなたとサボ中佐は一階級の昇格が決定しました。つきましては、お二人に勲章の授与式に出向いていただき……』

 

 スモーカーは電伝虫の受話器を持つ手を震わせながら、行き場のない怒りを発散できずにいた。

 自分が背中に背負った正義が、あまりにも陳腐なものに感じてしまったのだ。

 誰かを救った海賊は悪人のまま、何も救えなかった自分たちには名誉が与えられるなど、我慢できるはずがない。

 

「おい、政府上層部のジジイ共に伝えてくれるかね……!」

 

 スモーカーは、こめかみに青スジを浮かばせて、

 

「クソ食ら——」

「その勲章、謹んでお受け致します」

「……なんだと、サボ」

 

 サボは躊躇いなく答えたのだ。

 その目に迷いは一切ない。

 

「……スモーカーさん。おれは、こんなところで止まるわけにはいかないんです」

 

 わずか二〇歳という若さで中佐から大佐へ。あまりに早すぎる昇進であるにも関わらず、サボの顔に喜びはなかった。

 

「夢の果てへ辿り着くためには、手段など選んでいられない」

「お前……!!」

「おれは可能な限りの功績は上げました。上手くいけば二階級上がると思っていたのですが、やはりそう上手くはいきませんね」

 

 サボは単調な口ぶりで話し続ける。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()言動なのだ。

 サボの単独行動は目に余るものがあるが、その先で必ず結果を出してきているから、スモーカーは何も言わなかった。

 しかし。

 

「お前……結果を出してるのは()()()()()()じゃねえだろうな……!」

「あはは。そんなわけ、ないじゃないですか。ぼくは結果を出すために働いてますよ」

 

 ニッコリと笑ったサボは、思い出したように声を出す。

 

「ああ、そうだ。もうすぐ、ヒナ大佐が来るそうですが、クロコダイルの捕縛及び連行に専念していただきましょう」

「おれに指図する気か?」

「独断で何かをするのは『組織』ではないのでしょう?」

「……ロクな死に方しねえぞ、お前」

 

 どこまでサボが予測しているのかは分からないが、このままスモーカーがヒナの部隊を使って島を囲い、ルフィたちの船が見つけられてしまえば、アラバスタからの脱出はかなり困難になる。

 クロコダイルとの激戦を終えたのだ。

 寝れば大抵の傷が治るルフィとはいえ、砂漠で見たときの傷では、長ければ一週間は動けないはずだ。

 それまでスモーカーたちが留まるとも思えないが、可能な限りの手をサボは打っていた。

 

「おれは止まるわけにはいかないんです」

「どこを目指してやがる」

「ただ夢のためですよ」

 

 サボは笑って答える。

 

「いつか()()()()()()()()()そのときに、おれはできる限り高い地位にいなければならないんです」

 

 それだけ答えたサボは、スモーカーの横を通って軍艦へと戻っていく。

 ゆったりと歩いてるはずのサボの後ろ姿は、スモーカーにはどうにも速く歩いてるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サボたちがそんな真面目な会話をしている一方で、麦わらの一味はというと。

 

 

「肉〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

 

 まだ傷も塞がり切っていないルフィが、アラバスタの食料を食い尽くす勢いで走り回っていた。

 

「ほら、ルフィ! こっちにお肉あるよー!」

「肉〜〜!!!」

「さすがウタね。ルフィを肉で釣って遊んでるわ」

「感心してる場合じゃないですよ、ナミさん! ルフィさんってば大怪我してるんだから!」

 

 遊んでいるウタとルフィを眺めてウンウンと頷くナミの肩を掴んで心配そうに二人を指差すビビ。

 一応、麦わらの一味をもてなすための会食は明日に行われる予定なのだが、どうやらルフィはそれすらも待てないようだった。

 それを眺めながら、ゾロは酒をぐいぐいと飲んでいた。

 

「まったく、落ち着きがなさすぎんだろ、あいつ」

「そういうお前も酒はどこだって騒いでたじゃねえか、アホマリモ」

「ああ!? もう数本肋骨折ってやろうか!?」

「やってやろうじゃねえか、クソ剣士!」

「はいは〜い! スマイルスマイル〜!」

 

 ゾロとサンジのほっぺたをつまんで引っ張りあげたウタは、二人の間にちょこんと座って、

 

「二人も頑張ってくれたんだよね! ありがとう!」

「気にすんな。鉄の切り方を学べて逆にありがてえくらいだ」

「おれも、前にウタちゃんが言ってた『匂い』の意味がなんとなく分かった。ありがとな」

「えへへ〜! 二人が強いからだよ!」

 

 ふにゃあ〜と溶けるような笑顔になったウタは、両の手のひらをゾロとサンジに向ける。

 それは二人に、ハイタッチを求める手だった。

 

「ってことで、これからもお願いね、二人とも!」

「「任せとけ!!」」

 

 パチンと二人は同時に、ウタとハイタッチをした。

 そして、立ち上がったウタはなにやら騒いでいるウソップとチョッパーの元へ行く。

 

「勇敢なる海の戦士はどこだー!」

「あ、ウタ! 見てくれ! キャプテン・ウソップの伝説の技を見せてくれるだって!」

「はーはっはっは! 見るがいい、おれの最強の魔法をな!」

 

 ウソップはグッと手のひらを握って、ウタとチョッパーの前に拳を差し出す。

 そしてそれを開くと、ポンっ! と花束が目の前から飛び出してきたのだ。

 

「「すっっげーー!!」」

 

 ウタとチョッパーは手を合わせてその場で飛び跳ねる。

 

「ねえねえ、見た、チョッパー! ウソップったら、魔法を使ったよ!」

「お、おれも見たぞ! すごすぎるぞ、ウソップ! ドクターの発明品にも引けを取らねえ!」

「ぶわ〜〜はっはっは! この程度の魔法など、朝飯前だよ、諸君!」

「よ〜〜し! それなら、私もやっちゃうぞ、新技!!」

 

 ウタはむむむ〜と目をつぶって身体に数秒力を入れてから、ふっと力を抜いて歌い出す。

 

「————♪」

 

 ウソップとチョッパーは目を疑った。

 

「ウ、ウタが二人〜〜!?」

 

 ()()()()()()()()()()

 あまりに異常なその光景に、二人の目はどーんと飛び出てしまっていた。

 新技が成功したからか、ウタはニッコリと笑う。

 

「やったやった! 分身、成功!」

「す、すっげえ〜!! こっちのウタも、動けるのか!?」

「ううん! ハリボテ! 触ったら消えちゃうの、ほら!」

 

 ウタがツン、と突っつくと、分身は金色の光となって消えていってしまった。

 戦闘ではぶっつけ本番で使えなかったからと、なぜかウタはここで披露して見せたのだ。

 

「触られたらすぐバレちゃうけど、触らなかったら三十分くらいは持つと思うんだよねー!」

「畑のカカシとかに使えそうだな!」

「私をカカシにしようとしないでよ!」

 

 ぷくーっと頬を膨らませて文句を言うウタだったが、すぐに笑って両手を上げた。

 

「でもまあ、とりあえず! お疲れ様、二人とも!」

「「おう!!」」

 

 ウソップとチョッパーともハイタッチ。

 そうして皆で笑い合って勝利の喜びと久しい休息を味わいながら、夜はふけていく。

 

 

 

 月が綺麗だった。

 明日の会食のためにぐっすりと寝ている一味たちを見つめて、ビビは微笑む。

 

「良いのですか、ビビ様。あなたも疲れているでしょうに」

 

 声をかけたのはイガラムだった。

 美しい青髪を揺らしながら、ビビは外を眺める。

 窓から見える景色には、いまだに雨が降っていた。

 

「もっとこの雨を、見ていたいの」

「……左様でございますか」

 

 それ以上、イガラムは何も聞かなかった。

 部屋には不思議なくらい、雨の音が響いてくる。

 

「国の人々は、なんて言うかしら」

「国宝を食べたこと、ですか?」

「ええ。ペルは気にするなと言ってくれたけれど……」

 

 ビビは自分の手を見つめる。

 ほんの少し意識をするだけで、人の身が獣へと変わっていく。

 海の秘宝であり、アラバスタの国宝。

 さらにそれは、悪魔の実の中でも最も希少とされる動物系(ゾオン)幻獣種。

 咄嗟の行動だが、取り返しがつく話ではないのだ。

 謝ったところで、何も変わらないのに、ビビは許しを求めていた。

 

「あなたは、自分がどれだけ愛されているのか分かっておられないようですね」

「……だって、私は国を置いて……」

「命を懸けて、国のために一人で戦ってきたあなたを誰が責められましょうか」

 

 ハッキリと、イガラムは言い切った。

 

「たとえあなたがこの国の財宝を持ってどこかへ行ってしまったとしても、きっと皆は笑って許してくれますとも」

「…………そう」

 

 ビビは麦わらの一味たちを見つめる。

 苦楽をともにした仲間たちの寝顔を見て、ビビは静かに口を開いた。

 

「ねえ、イガラム」

 

 ビビは、どこか遠くを見つめて、呟いた。

 

「お願いがあるの」

 

 雨はもうすぐ、止もうとしていた。

 

 

 

 

 

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