麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第四十一話「遠くからの声」

 

 

 空島。

 ロビン曰く、そこには海そのものが浮いていて、そこからあの巨大なガレオン船は落ちてきたのだと言う。

 そんな言葉に、ルフィたちは胸を躍らせて飛び上がる。

 

「空に島があるのか!?」

「すごいね、ルフィ! 冒険の匂いがぷんぷんするね!」

「よお~し、野郎ども! 上に舵を取れ!」

「上舵いっぱ~い!」

 

 はしゃいでいるルフィとウタとウソップだが、そのほかの一味は冷静だった。

 ゆったりとタバコの煙を吐いたのはサンジ。

 

「とりあえず、上に舵は取れねえよ」

「正直、私も空島については見たこともないし、たいして知っているわけでもないの」

 

 あのロビンでさえ、空島の情報はほとんど持っていないらしい。

 空島そのものが眉唾ものの存在なのだ。ナミは空島自体を信じられていないようだった。

 

「ありえないことよ! 島や海が浮かぶなんて! やっぱり記録指針(ログポース)が壊れたんだわ!」

「いや。それは違うよ、ナミ」

 

 真っ先に否定をしたのは、ウタだった。

 ウタはシャンクス達の船に乗っていたときを思い出す。

 さまざま航海をしている中で、その中で絶対にシャンクスたちが守っていたこと。

 

「ちゃんとした航路を進もうっていうナミの気持ちも分かるけどさ。ここは偉大なる航路(グランドライン)なんだよ。記録指針(ログポース)が球体なのは、こんなときのためなんだよ」

 

 そのように語るウタの言葉に相槌を打ったのはビビだった。

 

「私は信じるわ。だって、私はそのために海に出たんだもの」

「うん。海や空の果てまで、だもんね」

「ナミ。お風呂で話したでしょ? この海にはなんだってある。それなら、空にだって島があると思うの」

「その通りよ。この海で疑うべきはその常識。その指針の先には、必ず島がある」

 

 ゆえに。

 麦わらの一味は情報取集から始めることにした。

 まずは、ウソップの元に降ってきた人骨の調査から。

 

「おお。すごいね、ロビン」

 

 慣れた手つきで割れた頭蓋骨を修復したロビンは、それに残った痕跡を眺める。

 

「船医さん。この穴は、人工的に開けられた穴でしょう?」

「うん。昔は脳腫瘍を抑えるときに頭蓋骨に穴をあけたんだ。でも、ずっと昔の技術だろ……?」

「そう。彼が死んでからすでに二百年は経過しているわ。歳は三十代前半。病に倒れて死んでしまったのね。歯が残っているのはタールが塗り込んであるから。この風習は南の海(サウスブルー)の一部地域特有のものだから、歴史的な流れからあの船は過去の探検隊の船」

 

 語りながら、ロビンは歴史書を開く。

 ぺらぺらとページをめくって見つけたページには、落ちてきた船と同じマークをした船の写真が載っていた。

 

「あった。南の海(サウスブルー)の王国ブリスの船『セントブリス号』二百八年前に出向している。少なくとも、この船は二百年もの間、空をさまよっていたのね……」

「骨だけでそんなことまで割り出せるの……!?」

「遺体は話さないだけで情報は持っているのよ」

 

 ロビンは船が落ちた水面へ視線を移す。

 

「探検隊の船ならいろいろな証拠や記録が残っていたはずだけれど……」

「ええ。でも船はもう沈んで……」

「ぶわっばばぶべえ~!」

「大変! ルフィが溺れてる! 今助けに行くからね!」

「ちょっ……!? ウタ、あんたも能力者じゃ……!」

「…………!!」

「やっぱり溺れてるじゃないの! あんたたち、助けてあげて!」

「分かったわ! 行くわよ、カルー!」

「だからビビも能力者でしょうがァ!」

「痛いっ!」

 

 愛の拳がビビに炸裂した横で、やれやれとサンジとウソップが二人を助けに海へと飛び込む。

 二人の活躍によってどうにか救出され、ゴホゴホと水を吐き出してどうにか起き上がる。

 ウタが海水で重たくなったパーカーを脱いで絞っていると、その横でルフィが少年の笑顔で、

「やったぞ! すげェもんみつけた!」

 

 満面の笑みでルフィが広げたのは、一枚の地図。

 そこに描かれていたのは『スカイピア』と言う名前が書かれたそれはつまり……

 

「空島の……地図!?」

「スカイピア……? 本当に空に島が……!?」

 

 驚くナミの表情を見て、一味はその地図が本物であると思い、ロマンを求める奴らが飛び跳ねる。

 

「やったぞ、ウタ、ウソップーっ!」

「空島、あるね!」

「夢の島だ! 夢の島に行けるんだ!」

 

 はしゃいでいるウタたちへ、ナミはなだめるように声をかける。

 

「騒ぎすぎよ。これはただの可能性に過ぎないの。世の中には嘘の地図なんて山ほど……」

「そんなこと言わないでよナミぃ〜!」

 

 泣きながらウタが抱きつくと、ナミは所在なさげに途切れ途切れの言葉を紡ぐ。

 

「あ、あると思うわよ、きっと! あるんだけど、行き方が分からないのよ……! だって、空にあるんでしょ……!?」

「なんとかしろ、航海士!」

「なんとかならないもんがあるでしょうが!」

「そこをなんとか……!!」

「あー、もう! だったらまずは情報収集よ!」

 

 気合いで詰め寄るルフィをゲンコツで沈めたナミは、左手につけた記録指針(ログポース)を指差す。

 

「指針が上を向いてるのなら、空から降ってきたあの船を調査する以外ないわ! あの船が空に行けるのなら、何かしら方法がきっとあるはずよ!」

「でも、船はもう完全に沈んじまったぞ?」

「それなら……サルベージよっ!」

「おおおお!!!」

 

 ルフィとウソップとウタが両手を上げた。

 だが、サルベージとは沈没船の引き上げ作業。さすがにメリー号の装備では引き上げることは不可能。

 それゆえに。

 

「それじゃあ、よろしくね♡」

 

 ウソップの発明品である樽を改造した潜水服を使って、沈没船の中を調査することになった。

 調査は赴くのは、ルフィ、ウタ、ゾロ、サンジの四人。

 能力者が二人というなんとも無謀な調査隊だが、本人たちが調査に行くと言って聞かないので、先ほどのようにゾロとサンジについてもらうことにした。

 

「幸運を!」

 

 ドプン! と海底へ向かって四人が沈んでいく。

 樽を改造した潜水服は、それぞれに空気を入れる用のホースがあり、それを通じて会話もできるようになっている。

 ホースの長さを調整する係になったチョッパーが、反応を確かめるために声をかけてくれた。

 

「こちらチョッパー。みんな返事して」

「こちらルフィ。怪物がいっぱいです。どうぞ」

「ここは巨大ウミヘビの巣か!?」

「こちらサンジ。うわっ! こっち見た!」

「こちらウタ! すっごい可愛い蛇が泳いでるよ〜!」

「よし、平気ね」

「平気なのか!?」

 

 食べられたら一発でやられてしまうだろう巨大なウミヘビの横をゆっくりと通過しながら、ルフィたちは沈んでいく。

 しばらく降りていると、なにやら前方に同じように潜水服を着ている人が降りてきていた。

 こっちを見て何かを叫んでいるのを見て、反射的にルフィがパンチを放って追い払う。

 よく分からないが、とりあえずごめん、とルフィたちは謝って探索を再開した。

 

(これが……空を旅した船……)

 

 深度が高くなり、空気も長いホース経由のために少しずつ息が苦しくなってきているので、ルフィたちは無言で船の中へと入っていく。

 落下した衝撃で船体が中央から大きく二つに分かれているため、中へは容易に入ることができた。

 その道中で、さまざまなものを見た。

 

(変な模様の壺……? 確かこれ、この船の船頭と同じマークだったっけ……?)

 

 ということは、これは空への手がかりではない普通の遺物だ。

 触れた瞬間に壊れてしまった壺に名残はなく、ウタは先へ進んでいく。

 

(あれ。ルフィ、何か見つけたのかな)

(なんか、乗り物っぽいのあるぞ!)

 

 みたいなジェスチャーでルフィが伝えてきたので見てみれば、木と鉄で出来た小さな船……? のような何かを見つけていた。舵のようなハンドルが中央に付いており、立つとちょうど手元に持ち手がくるような長さではあるが、波がある海の上でこれを持つような体勢は作れないだろう。

 後ろには穴があるが、動力がない。エンジンか何かが付いていたが、沈没の際に取れてしまったのかもしれない。

 

(……ん? これは……なに?)

 

 探索を進める中でウタが見つけたのは、不思議な形をした手のひらサイズの貝だった。

 見たことのない形の貝を興味津々でウタが物色していると、なぜか貝の中心がカチッと沈んだ。

 まるでボタンを押したような手応えがあってから、何やら貝がガタガタと動き始める。

 

(わわっ。なんだろ、これ。泡がぶくぶく出てる……?)

 

 中に空気でも溜まっていたのか、貝の中から出てきたのは少量の泡だけ。

 それ以外は何ら変哲のないもののようだが、ボタンのようになっているのがいささか不思議で、ウタは目が離せなかった。

 と、そんな中でルフィがウタの樽をコンコンと叩く。

 何か伝えたいことがあるのかと振り返ってみれば、そこにあったのは宝箱。

 

(お宝……! やっぱり沈没船には財宝がないとね……!)

 

 ワクワクしながら蓋を開けたウタだったが、残念ながら宝箱はスカ。

 まあ、空振りの宝箱などこの世には山ほどあるのだ。これくらいで気を落としている場合ではない。

 そう思って次なる部屋を探しに行こうとしたところだった。

 

 ドゴォン! と船に横っ腹に巨大なクワのような鋭利な爪が突き刺さった。

 

「なにこれ!?」

 

 ウタが驚嘆の声を上げたその後も、変化は訪れる。

 突如として、船の中に空気が入り込んできたのだ。

 そのまま船の中の水まで押し除けて空気で部屋がいっぱいになり、分けもわからぬままルフィは潜水服を脱いだ。

 

「すげえ、タルとっても大丈夫だ!」

「本当だ。すごいね! 息もできる!」

「この船を引き上げようってのか。何者だ……?」

「ナミさんとビビちゃんとロビンちゃんの身に何かあったんじゃ……! さっきから返事がねえ!」

 

 現状を理解するより先に、部屋の壁が吹き飛ばされた。

 そして入ってきたのは。

 

「どこの誰だァ! おれの縄張を荒らす奴ァ!」

 

 ルフィとウタは、入ってきた男の顔を見て一言。

 

「「あ、さるだ」」

「え? おれはそんなにサル上がりか?」

「うん。サルみたい」

「ああ。サルまがいだな」

「どういう会話だよ」

 

 サクッとツッコミを入れたが、どうやら彼には攻撃してくる様子はどこにもなかった。

 話をしてみれば、このサルベージもこのマシラという男によるもののようだ。

 

「おれはマシラってんだ。海賊団の船長やりながら、サルベージをしてお宝を狙ってる」

「そうなのか! おれはルフィ! 東の海(イーストブルー)からこの海にやってきたんだ!」

「そーか! おめェら東の海(イーストブルー)から!」

「そうなの。それにしてもマシラさん、とってもサルに似てるね!」

「んな褒めるなってば! ウッキッキ!」

 

 なんて、悠長な話をしてる状況ではなくなってしまった。

 突如、船内が真っ暗になり、船が部屋ごと潰れてしまったのだ。

 山ほどあった空気も一瞬にして抜け去り、潜水服を脱いだ四人に海水が襲いかかる。

 咄嗟に四人は近くにあった荷物を袋に詰めるだけ詰めて、ルフィとウタがサンジとゾロにそれぞれ捕まり、脱出を図る。

 しかし、それを見るやいなや、マシラが怒り狂って攻撃してきたのだ。

 サルベージをしているお宝に手を出したからとはいえ、こんな状況でも攻撃してくるとはなんという執念。

 どうにかこうにか、逃げ仰せた四人は荷物を抱えたままゾロとサンジがルフィとウタをメリー号へと投げ込んだ。

 とりあえずはなんとかなったが、問題は怒り狂ったマシラだ。

 

「みんな、船を出そう! マシラのこと、怒らせちゃったみたい!」

「やべぇぞ、あいつは……!」

 

 慌てふためくウタたちへ、無事なのを知ったウソップが笑顔で駆け寄ってくる。

 

「無事でよかった! とりあえずあのカメから逃げよう!」

「カメ? いや、海にいたのはサルだぞ」

「うん。さすがにマシラはカメじゃないかも……?」

 

 妙に話が噛み合っていない気がするが、構わずウソップは亀の話をする。

 

「カメの口が開きっぱなしだ。なにか変なもんでも食ったのか……? いや、だからお前たちは逃げて来れたのか……」

 

 そんな言葉でようやく後ろを振り向いた四人が、何が船を潰したのがを目の当たりにする。

 

「おおお!? 何じゃありゃあ!?」

「でっかいカメだ! かわいー!」

「可愛くねぇだろ、あれは!」

「そうよ。ウタたち、あれに船ごと食べられちゃってたのよ!」

「でも、生きてるからおっけ! それより、これでしょ、ルフィ!」

「おう! これこれ……!」

 

 海水から無事生還したルフィとウタは、どうにかマシラの猛攻を避けながら袋に詰め込んだ金品をどっさりと置いた。

 

「ナミ見て! お宝!」

「え、財宝!? 財宝があったの!?」

「ああ! いっぱいあった!」

 

 ニンマリとルフィが戦利品を見せびらかそうとしたところで、水面からマシラが飛び出してきた。

 

「おめぇら……! このマシラ様のナワバリで、財宝盗んで逃げ切れると思うなよォ!」

「やべぇ! こいつにここで暴れられたら……!」

 

 マシラの怪力は、先ほど沈没船の中で目の当たりにした直後だ。あの拳が振り回されれば、メリー号ごと壊されてしまうかもしれない。

 そんな窮地の中、なぜかウタは空を見上げていた。

 違和感があったのだ。

 なぜか、いつの間にか空が暗くなっていたから。

 

「ねえ、ロビン。なんでもう夜なの?」

「さあ? あなたたちがカメに食べられた直後に、急に暗くなったのよ」

「そう……なんだ」

 

 ウタは騒ぎが起きている中でまだ空を見上げる。

 何か、ひっかかる。

 そして。

 

「————誰っ!?」

 

 何か声が聞こえて、ウタは振り返る。

 しかし、そこには暴れようとするマシラと、それを止めようとする一味のメンバーしかいない。

 聞いたことのない声だった。

 ウタはさらに耳を澄ますために目を閉じる。

 

「……聞こえない?」

 

 空耳だったのだろうか。

 頭の奥に響くような声は、もうしなくなっていた。

 その代わりに。

 

「な、なんだ……!? ありゃあ……!!」

 

 怯えるような声が聞こえて、目を開く。

 そして、目の前にいたのは。

 

「怪物だァ〜〜〜!!!!」

 

 ドリーやブロギーのような巨人ではない。

 首が痛くなるほどに上を見上げないとその全貌が見えないほどの赤い土の大陸(レッドライン)規模の大きさの人の影。

 霧や雲に隠れているため、シルエットしか見えないが、その背中には小さいながらも翼が生えており、人型ではあるが人ではないのは間違いなかった。

 さすがのウタも、普通に怖い。

 

「うぎゃ〜〜〜!! ナミぃ! 早く船出してェ!」

「分かってるわよッ! 全員、手でも漕ぐわよ! 全力であの化け物から反対の方向へ!」

「おおおおお!!」

 

 麦わらの一味は一体となって、必死に船を漕いでいく。

 海を駆けていく中、ウタはまた空を見上げる。

 そこには、その場で佇む化け物が三体。

 しかし、ウタが見ているのはその化け物たちではなく。

 

「…………誰かを、待ってるの……?」

 

 再び聞こえた、不思議な声。

 言葉ではないその声に込められた感情をほんのわずかに感じ取ったウタは、そんなことを呟くが、

 

「ウ、ウタ! 早く漕がないとどうなるか分からないわよ!」

「う、うん!」

 

 ビビに肩を叩かれ、ウタはまた船を漕ぎ始める。

 そのうち、雲の切れ間が見えて、その先にある朝へと、麦わらの一味は進んでいくのだった。

 

 

 




実はこっそり別の小説を書いてました。
ポケモンへの衝動が抑えられなくてつい……
よかったらこちらも読んでください。ここまで読んでくれた方でポケモンが好きなら100%面白いです。
よろしくお願いします。

「病弱で大人しかったネモという親友について話そう」

https://syosetu.org/novel/303686/
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