麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第四話「魔性の女に動じない女」

 

 

「ルフィ! どうするのこれー!?」

「おれもわからーん! 助けてくれー!」

 

 ウタとルフィは、空を飛んでいた。

 少し詳しく説明しよう。

 海軍基地の島を出たルフィたち三人。

 しかし、その航海の途中で空腹になってしまい、偶然空を飛んでいた大きな鳥を食べようとウタとルフィは鳥に飛びついた。

 

 しかし、遠近法のせいで実は鳥がはちゃめちゃに大きいことにしがみついてから気づいたらルフィとウタは、どうにか落ちないように耐えることしかできず、今の悲惨な状況に至る。

 

 下には海が広がっているため、落ちてしまえば悪魔の実の能力者の二人はお陀仏。

 必死にゾロも追いかけてきてくれているが、みるみるうちにその影が遠くなっていく。

 

「ルフィ、見て! あっちに島があるよ!」

「お! 助かったー! 落ちても何とかなりそうだ!」

「私はゴムじゃないから危ないよ!」

「心配すんなって! おれが守るから!」

「……ならまあ、いいけど」

 

 どことなく機嫌のよくなったウタが小さく鼻歌を歌い始まる。

すると。

 

「――! ウタ!」

「な、なになに!?!?」

 

 突然、ルフィが抱きついてきた。

 心の準備ができていなかったウタは、目をぐるぐると回して、バタバタと手足を動かす。

 

「ちょっとルフィ!? 流石に空はびっくりする――」

「あぶねえから黙ってろ、ウタ!」

 ドォォン!

 どこからともなく飛んできた大砲が、ルフィたちに直撃した。

 そのまま地面へと真っ逆さまに落ちていくルフィとウタ。

 ルフィは、さらに強くウタを抱きしめて自分が下側になるように体をひねる。

 衝撃とともに、二人は町へと落下していく。

 

「大丈夫か、ウタ!」

「う、うん。ありがとうね、ルフィ」

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 どうやら海賊たちのいざこざのど真ん中に落ちてしまったようだった。

 周囲にいるのは、古びた紙を握りしめる同年代の少女と、それを睨みつける悪党たち。

 

「お、親分! 助けに来てくれたのね!」

 

 状況も分からないうちに、少女がルフィたちを親分と呼んだと思ったら、そそくさと逃げてしまった。

 いつの間にか、海賊たちが二人を囲んでいる。

 

「親分が残ってくれるとはな……」

「なんなの、あなたたち」

「分かってねえなら教えてやる! あの女が盗んだ海図は、恐れ多くも海賊“道化のバギー様“の持ち物だ!」

 

 海賊はルフィの顔を殴りつけた。

 そのせいで、ルフィの被っていた麦わら帽子が地面に落ちる。

 直後、迷いもなくルフィの拳が、その海賊の顔面を撃ち抜いた。

 そして、ルフィとウタは鋭い目で残りの海賊たちを睨みつけ、さらにウタの目元からは黒い稲妻が飛ぶ。

 

「おれたちの宝物に、触るな」

「私たちの宝物に、触らないで」

 

 バリバリ、と弾ける音と衝撃が飛び、触れることなく海賊たちが倒れていく。

 まだまだ使いこなせるレベルには至っていないが、これくらいのゴロツキを数人程度なら今のウタでも気絶させられる。

 ただ、消耗が激しいために一日に使えても数回だが。

 ……そんなことよりも。

 

「今、バギーって言ってた……?」

 

 父親、シャンクスの旧友であり、海賊王の船で見習いをしていた二人。

 シャンクスの船に乗っていた頃、何度かバギーと話したことはあるし、かなり良くしてもらった記憶もある。

 できれば、一言だけでも挨拶できればいいと思ったのだが。

 

「まあ、この町にいるんなら、そのうち会えるよね!」

 

 ウタが高速で開き直っていると、近くの家の屋根で高みの見物をしていた先ほどの少女が拍手をしていた。

 

「強いのね、あんたたち! あんな簡単に海賊を倒しちゃうなんて!」

「そういえば、あなたは誰?」

「私は海賊専門の泥棒! ナミって言うの。手、組まない?」

 

 ナミはルフィたちにそんな交渉を持ちかけてきた。

 

 

 

 

 とにもかくにも、ゾロと合流しなければならない。

 そのためにも、せめて港の方へと向かいたいのだが。

 

「私と組めば儲かるわよ」

「別にいいってば。私たち、お金が欲しくて海賊になったわけじゃないの」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 ナミと名乗る見知らぬ少女が、去ろうとする二人の横に慌てて並ぶ。

 

「そういえば、その帽子なんなの? 傷つけられたとき、二人して怒ってたけど」

「これはおれたちの宝物だ」

「へえ! もしかしてそれが宝の地図だとか!?」

「そうじゃないってば!」

「だよねー! ってか、二人の宝物なのにこっちが被ってるのはなんで?」

 

 偉大な海賊から、二人が譲り受けた麦わら帽子。

 当然、子どもの頃はどっちが被るかで勝負をしたこともあった。

 だが、とある出来事があって、ルフィがかぶっていくことになるのだ。

 語れば長いその話を、ウタは端的にこうまとめる。

 

「私には、あの麦わら帽子は似合わないから、かな?」

「なにそれ?」

 

 たとえ、麦わら帽子が二人の宝物であったとしても。

 あの帽子は、()()()()()()()が被るにふさわしいのだ。

 ただ、そんなことを見知らぬ泥棒に言う必要もない。

 

「なんでもいいでしょ。私たちは忙しいの。もういい?」

 

 あえて突き放すような言動をして、ウタは歩く速度を早めるが、

 

「……! あー、そういうこと!」

 

 ニヤリと笑ったナミは、ウタの腕を引っ張って耳元で囁く。

 

「もしかして、私があいつに手を出しそうとか思ってるんでしょ? 大丈夫よ。私、ああいう男、タイプじゃないから」

「それなら気にしてないよ。私はずっとルフィの隣にいるから」

「あはは! 本気になりすぎだって! そんなにあの男が好きなの?」

「……? 大切な人の側にいたいって、当たり前の感情でしょ?」

 

 さも当然かのように、ウタは言った。

 

「…………、」

 

 沈黙。

 数秒して、ナミは甘ったるい声を出すのをやめた。

 

「私、あんたのこと嫌いだわ」

「せっかくなら、私はナミにも笑ってほしいんだけどなぁ」

 

 ウタが悲しげにそういうと、ナミは皮肉るように満点の作り笑いを浮かべた。

 

「そうだ! みんなを笑顔にしたいなら、一緒にバギーのところに来てもらってもいいかしら?」

「え? バギーおじちゃんのところに?」

「そうそう。バギーがこの町にやってきたせいで、町の人たちはみんな避難してるの。私、あいつに追われてるからどうにかしてほしい……って、バギーおじちゃん!?」

 

 ナミはその場で飛び跳ねた。

 うっかり言ってしまった、という顔をウタがするものだから、余計にナミは警戒心を強めた。

 

「まさかあんた、バギーの仲間……?」

「違う違う! 私の親が友達なの! だから昔、船に乗ってたときに何度か交流があって」

「ってことは、結局海賊なんじゃない。はー、やだやだ」

 

 ナミは気怠げに歩きながら、ウタを睨みつける。

 

「私が世界で一番嫌いなものはね、海賊なの。ちなみに好きなものはお金とみかん」

「そっか! 私は海賊のこと好きだよ!」

「ほんっとうにあなたとは話がかみ合わないわね!」

 

 ぷんすかと怒り出すナミを不思議そうに眺めながら、ウタは先へと歩く。

 

「それよりも、バギーおじちゃんのところにいくんでしょ?」

 

 シャンクスの旧友とはいえ、町の人たちを困らせているのはよくない。

 海賊同士が命を懸けるのと、関係のない人たちの命を無意味に危険にさらすのは全くの別問題なのだ。

 だが、『道化』といわれるだけあって、バギーはかなりの曲者だ。

 なんのきっかけで町が戦場になるかもわからない。

 

「……あれ、ナミ。それって、海図だったよね?」

「そうよ。あんたみたいな海賊にあげる気は一切ないけど」

 

 ナミの手に握られた古びた海図を見て、ウタはにやりと笑った。

 

「ねえ、ナミ。こういうのはどう?」

 

 ウタはナミの耳元で何やらささやく。

 すると、ナミもウタと同様にわる~い笑みを浮かべて。

 

「へえ~。さすが海賊。やることが違うわね」

「やってくれる?」

「海賊と手を組むなんてまっぴらごめんだけど、それならやってあげてもいいかもね」

「やった! ありがとう、ナミ!」

 

 というわけで。

 ナミが一時的な協力者になり、バギーの元へ行くことになった。

 

「そういえば、あの麦わら帽子のやつはどこ行ったの?」

「確かに! ルフィ! どこにいるの!」

 

 気が付かぬうちに、ルフィの姿がいなくなっていた。

 万が一、ルフィが先走ってすでにバギーに喧嘩を売ってしまっていれば、ナミと企んでいることがすべて水泡と化してしまう。

 だが。

 

「ワンワン! ワン!」

「なんだってんだ! おれにもわかる言葉をしゃべってみろってんだ!」

「ワン! ワン! ワン!」

「ちくしょう! やんのか、お前!」

 

 どうやら、杞憂だったらしい。

 ルフィは、白い犬と口喧嘩をしていた。

 

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