翌朝。
空への旅のために補強されたメリー号には、翼が生えていた。
「ゴーイング・メリー号、フライングモデルだ!」
誇らしげに、ウソップはたくましくなったメリー号を眺める。
過酷な海を超えてきた大切な戦友の姿に、ウタも満足そうに笑う。
「カッコいいよ、メリー号!」
「飛べそ〜〜っ!!」
「だろう!?」
「ありがとう、クリケットさん!」
「さっさと船に乗りな。それに、礼を言うならあいつらさ」
クリケットが指差したのはすでに船に乗って準備を始めているマシラとショウジョウたち。
彼らがベラミーに傷つけられた分の修理も含め、メリー号を強化してくれたのだ。
「ありがと〜! 今日も一段とサル上がりだよ〜!」
「ウォ〜〜!! 良いってことよ!」
「そうだ、ウソップ! あいつを出せ!」
「お、そうだな! お披露目だ!」
「出すのか、あいつを!」
ルフィが声をかけて反応したのは、ウソップとチョッパー。
二人がサウスバード捕獲の際に見つけた最強生物を受け取ったルフィは高く掲げる。
「お前らにヘラクレスやるよ! こいつらが見つけてくれたんだ!」
「ホントにいいのかよ!? めちゃくちゃいい奴だな、お前!」
「ほら、ルフィ! バカやってないでさっさと船に乗るわよ!」
「だってさ、行こう! ルフィ!」
「お〜!」
流れるようにメリー号に一味が乗り込むのを確認すると、クリケットはタバコをふかしながら声を張り上げる。
「猿山連合軍! こいつらの為に全力を尽くせッ!」
「ウオオオオ!!」
雄叫びを上げる海賊たち。
強く温かい声を受けて、ルフィとウタは微笑む。
「小僧! 小娘! おれァここでお別れだ!」
「うん! ありがとう!」
「いいか、一つだけ言っておく!」
クリケットは少年のような笑顔で、
「黄金郷も空島も、ないと証明できた奴は一人もいねえ! バカげた理屈だと、笑われるだろう! それで結構だ!」
クリケットがノーランドの言葉を信じて探し続ける黄金郷も、ルフィたちが目指す空島も、人々が聞けばないと笑われる幻想。
だが、それを求めて海へ旅立つのが、海賊なのだ。
人々がないと勝手に決めつけたものを見つける為に冒険をする。
「それでこそ、ロマンじゃねえか!」
「ロマン!」
「そうだ! 空から降ってくるんじゃねえぞ、お前ら!」
「ししし!」
「任せてよ! 絶対に、行ってみせるんだから!」
「じゃあな、栗のおっさん! きっと黄金郷はあるぜ!」
「無茶すんなよおっさん!」
「余計なお世話だァ!」
最後まで、海賊らしく。
湿っぽい空気など感じさせず、ルフィたちは先へと進む。
それを見て、ビビは目を輝かせていた。
「これが、海賊……っ!」
「そうだよ。どこまで行こう、ビビ!」
目指すは空の果て。
麦わらの一味の次なる航路は、空だ。
「いいか。
「おい! 見ろこの鳥!」
「ほらほら、ルフィ! この子、南を向いてないと落ち着かないんだって。いじわるしちゃだめだよ!」
「コンパスみたいで面白えんだって! ほら!」
常に南を向く鳥、サウスバードの顔を掴んで強引に別の方角を任せて遊んであるルフィへ、サウスバードはバタバタと羽根を振って威嚇をする。
「ジョ〜〜〜〜!」
「だから、ほら、ルフィ! 可哀想だから……ぷぷ……遊んじゃ……」
クスクスと笑い初めてしまったウタを見て、カッチーンとキレたサウスバードは、何やら訴えかけるような鳴き声を出し始めた。
「ねえ、チョッパー。この子、怒ってる?」
「南じゃない方を向いてお前らを困らせてやるだって!」
「うっはっは! やってみろ!」
「ジョジョジョ〜〜〜!!」
くるっとサウスバードは北を向いた。
すぐにソワソワと南を向きたくなってしまうサウスバードを、ウタは応援する。
「頑張れ、鳥さん! 私はあなたを応援するよ!」
「ジョ……ジョ……」
「いけ! 頑張れ……!」
「ジョ、ジョ……!!」
「あとちょっと……と見せかけて、ツンツン!」
隙を見てウタがサウスバードの後頭部を軽くくすぐると、びっくりした拍子に南を向いてしまった。
「あはっはっはっ! 南向いちまった!」
「ご、ごめんね、鳥さん! 可愛かったから、つい出来心で……!」
「ジョ〜〜〜〜!!!!」
荒れ狂うサウスバードと戯れながら、麦わらの一味は命懸けの航路へと向かっていく。
ショウジョウは、あまりの緊張感のなさにハラハラと呼吸が浅くなっていた。
だが観念したのか、同じように不安そうにするマシラと目を合わせて息を吐く。
「まあ、まだ時間はある。焦ってもしょうがねえか」
「そうだそうだ! 楽に行こう!」
「うん! 安心してよ! みんな、やるときはやれるんだから!」
グッと細い腕で出てこない力こぶを見せつけたウタは、近くにいたビビの腕を掴んで、そばに引っ張る。
「それに、危ないときはビビが船を持って飛んでいってくれるから!」
「む、無理だからね!?」
「あははははっ! じょーだんじょーだん!」
そんなこんなで、和気あいあいと時間は経っていき、気がつけば三時間ほどの時間が過ぎていた。
いち早く異変に気づいたのは、ウタだった。
「…………そろそろかな」
ウタが見つめた先は南西の空。
その後ろでは、マシラの船が騒ぎ始めていた。
「おいおい! まだ十時だろ!? 予想よりもよっぽど早えタイミングで夜が来やがった!」
積帝雲。
高く高く積み上がり、陽の光を完全に遮り夜を作り出す超高層雲。
あそこに、空島はあるのだと、全員が信じている。
「ショウジョウ、いけるか!」
「任せろ! ウータンダイバーズ! 海へ!」
猿山連合軍は迅速な動きで周囲の状況を探索し始める。
「12時の方角、大型の海流!」
「9時の方角、巨大生物を探知! 海王類です!」
「10時の方角、海流に逆らう波を確認! 渦潮です!」
「それだ! そっちに方角を向けろ! 爆発の兆候だ!」
船はあえて荒波の中へと進み、大きく船が揺れる。
ブランコで振られるように船体が傾き、一味たちはメリー号にしがみつく。
「航海士さん、
ナミは手元に視線を落とす。
その針は、真っ直ぐに上を向いている。
「ずっと、あの雲を指してる!」
ナミは全てを天候の状況を把握して、小さく頷いた。
「風の向きもバッチリ! 積帝雲は渦潮の中心に向かってる!」
「どうやら、今回は当たりのようだぞ!」
「ああ、爆発の規模も申し分なさそうだ!」
「ルフィ、行けるよ、空島!」
「ああ! 楽しみだなー!」
「油断しないでよ! ねえ、この先はどうするの!?」
渦の勢いによって起こる猛烈な暴風を堪えながら問いかけたナミへ、マシラが声を張って答える。
「流れに乗れ! 逆らわずに中心まで行きゃなる様になる!」
正面を見れば、端が見えないほどに巨大な渦が手招きをしている。
そこが見えぬほどに水が吸い込まれているその渦から、
だが、そこの中へと行けと、マシラは叫ぶ。
「飲み込まれるなんて聞いてないわよォ!」
「……!(飛ぶの、楽しみだな……!)」
「大丈夫だ! ナミさんもウタちゃんもビビちゃんもロビンちゃんも、全員おれが守る!」
「こんな大渦、初めて見たわ」
「さ、さすがに怖えが、行くぞ! おれは空へ行くんだ!」
「行くのね、空の果てへ! 準備はいい!? カルー!」
「クエーー!!!」
「せっかくの旅だ。楽しんでいくか」
「「行こう! 空島〜〜!!!!」」
どんどんと渦に吸い寄せられていくうちに、辺りが夜になっていく。
上に空島があるのだ。
ルフィとウタは、ワクワクが止まらない。
「楽しみだね、ルフィ!」
「ああ! 逃したら一生後悔する!」
「ってことで、突っ込むよ〜!」
「きゃあああ!! 船が大渦にのまれる〜〜…………って、あれ?」
ちゃぷん。
渦があったはずの場所に飛び込んだはずなのに、何もない。
「あれ? 渦、なくなっちゃった?」
「……違う! 始まってるのよ……! 渦は海底からかき消されただけ……!」
「なら、もうすぐ来るんだ。
「危ねえ、ウタ!」
空を見上げていたウタに体当たりをしてその場に倒したのは、ウソップだった。
一瞬、その行動に戸惑ったウタだったが、その理由はすぐに分かった。
ウタの頭があった場所に、銃弾の跡があったのだ。
「ゼハハハハ! 追いついたぞ、麦わらと歌姫っ!!」
大渦が消えたことで凪いだ海に、特徴的な笑い声が響く。
遠くを見れば、そこには丸太でできた船に乗った男たちがこちらを見つめていた。
「おい、ウタ。知り合いか? あいつら」
「うーん。少しだけ?」
彼はモックタウンで出会った大男だ。海賊だとは思っていたが、どうしてこんなところにいるのだろうか。
それよりも、なぜウタを狙っているのだろうか。
「てめぇらの一億の首を貰いに来た! 観念しろやぁ!」
「一億……?」
「おめぇらの首には一億の賞金がかかってんだよ! 海賊狩りのゾロには六千万だ!」
「え! 私たち、そんなに高い懸賞金なの!?」
「おい、ウソップ! どっちが上だ!」
「ちょっと待てよ……お! ウタが二千万上だぞ!」
ウソップの言葉を聞いて、ルフィが飛び跳ねた。
「お、おい! ウソップ! 嘘つくんじゃねえ!」
「ほ、本当だから揺さぶるのはやめろろろろ!」
「ほらほら、ウソップのこといじめないでよね!」
「うるせえ! おれの方が上なんだからな!」
「出た! 負け惜しみィ〜!」
指先をクイクイと曲げて無邪気な笑顔でルフィを煽るウタ。
ムキー! と地団駄を踏むルフィだが、その横でウタは大男の方へと身体を向ける。
「私たちを倒したいみたいだけど、ごめんね。私たち、空に行かなきゃいけないの」
「だから、その前にぶっ殺すんだよ! オーガー!」
大男はおもむろに右手を上げた。
すると、右側に立つモノクルをつけた狙撃手が、銃をこちらへと向けた。
どうやら、ウタを狙ったのは彼らしい。
「あいつ、ジャヤにつく前に鳥を撃ったやつか……!」
あの時と同じ気配を感じ取ったウソップは、すぐさまパチンコを構えた。
「この銃とそんなおもちゃでやりやうつもりか」
「おれだって、この船の狙撃手なんだ……!」
「こちらをはっきりと見ていることは評価するが、その程度なら山ほどいる」
距離は何十メートルも離れている上に、あと少しで
そんな中で、正確無比な銃撃がウソップを狙うが、
「必殺——花火星っ!」
ウソップはパチンコの弾を放つ。
それは一発の弾ではなく、いくつもの小さな鉄球がまとまったものだった。
それは敵が撃った弾をメリー号へ辿り着く前に撃ち落とした。
「さすが、一億の首の元にいる狙撃手だ」
「なんだっていい。おれは勝手に勇敢なる海の戦士になってやるつもりなんだ。旅の邪魔をすんじゃねえ!」
ウソップが高々と宣言した直後、海が揺れ始めた。
やってくるのだ。真上へと立ち昇る海流が。
「ってことで、じゃあね! 私たち、空島に行ってくるから!」
「なに言ってやがる! 逃すわけ……」
ズドォォォンッッッ!!!!
ルフィたちが止まっていたちょうど真下から海が隆起し、弾け飛んだ。
異常な勢いとともに、猛烈な風と海流が空へと向かっていく。
「「行けよ、空島!!」」
「もちろん! ありがとう! マシラ、ショウジョウ!」
大きく手を振ったウタは、すぐに前を向く。
船は空へと進んでいるのだ。
「ナミ、任せるよ! 私たちの命、預けるから!」
「任せてなさいってば!」
ナミは小さく笑って皆に指示を出した。
「帆をはって! いますぐ!」
「ナミ、もしかして……!」
いち早く気がついたのは、ビビだった。
「ええ! この水柱は立ち昇る海流! 上昇気流が地熱と蒸気で生まれているから、風と海が空へと向かっているの!」
「そうだよ、みんな! 風と海が相手だったら、ナミは負けない!」
「当たり前じゃない! 私はこの船の航海士よ! 必ず、あなたたちを空島へ送り届ける!」
「よっしゃ〜! 野郎ども、帆をはれェ〜!」
ルフィの号令で、皆が一斉に動き始める。
「ダメよ、ナミ! 船が水から離れる!」
「ううん、いける!」
ふわりと重力に釣られて、船が水柱から離れた。
だが、ウタは疑わない。
ただ真っ直ぐに、ナミを信じて前を向く。
そして。
「船が空を飛んだァ〜〜!?!?」
「やった……!」
ナミの力で海流を掴み、流れに乗ったメリー号は、マシラとショウジョウによって補強されて付いた翼を使い、空を飛び始めた。
「風と海流は掴んだ! どこまでも昇れるわ!」
「じゃあ、もうすぐ着くね、ナミ!」
「あるとすれば、あの雲の向こう側ね!」
「うん! だね!」
「積帝雲に、突っ込むぞォ〜!!」
空島へ行く準備は整った。
麦わらの一味は巨大な雲の中に突入し、息ができないほどの雲を進み続けて、一気にそこを飛び出した。
そうして目の前に広がったのは、間違いのない真っ白な海。
それが雲であることなど、一目でわかる。
さまざまな出来事が起こった。
とはいえ。
麦わらの一味は、空島へと上陸した。
たぶん、今年最後かなと思います。
みなさん、良いお年を。また来年も麦わらの一味「歌姫のウタ」をよろしくお願いします。