ビビの悪魔の実「ネコネコの実 幻獣種:モデル『シャルベーシャ』」の力の一つである、蒼い炎を、手のひらから放つ。
それに対抗するように、チョッパーを襲っていた神官シュラの乗る三丈鳥フザの口から業火が噴き出す。
そんな炎の中からシュラは飛び出してビビを睨みつける。
「
火を吐く大鳥、フザは生まれついて炎を吐き出しているわけではなく、口に仕込んだ
それはつまり、炎を溜め込むということもできるということ。
「なるほど。あなたの乗る鳥に炎は吸われてしまうのね。なら……!」
ビビは宙へと飛び上がり、身体を捻りながらシュラへと突き進む。
「
両手の強靭な爪を炎で覆い、それを連続してシュラへと叩き込む。
シュラは持っていた槍で一つは防御するが、次の爪を受け止めることができない。
「グ……ッ!!!」
シュラはフザの上から吹き飛び、宙に飛び出した。
雲海へと落下していくシュラだが、滑らかな挙動でフザが落ちてきたシュラを背中で受け止める。
一撃は入れた。
しかし、ビビの顔に油断はない。
(あまり手ごたえがなかった。おそらく、あえて当たる瞬間に後ろに飛んだのね。浅くしか爪が当たっていない……!)
さすが神官というべきか。避けることと距離を取り体勢を整えることを同時にやってのける。
だが、機動力ならビビの方が上だ。
もう一度同じように、さらに深く攻撃をすればいいだけだ。
「あァ、腹立たしき愚か者どもめ……! 怒りの求道を思い知れ」
「怒り、ですって……?」
眼下には、血だらけなのにも関わらず、メリー号についた火を消そうと必死に動き回るチョッパーの姿。
痛みと焦りで溢れる涙では、炎は消えてはくれない。
全身で、火へと向かって身体を押し付けて強引に消火をしようとするその姿を見て、ビビは唇を噛む。
「あの船は、私たちの仲間であり宝なのよ! それを傷つけられ、燃やして。守ることの何が悪いっていうのよ!」
「守ることが罪なのではない。この場で素直に人質になっていればいいものを、それを嫌だ嫌だと言ってるから、罰を与えるために我らがここまでやってきているのだろうが!」
「その罰だって、あなたたちが勝手に押し付けてきただけじゃない!」
「わがままな青海人には、何を言っても意味がないということだけ分かった!」
フザの上で再び槍を構えたシュラは、ビビへ向かって真っ直ぐに向かっていく。
対するビビも、シュラへと爪を向ける。
ガキンッ!!
交差した爪と槍が火花を散らす。
両者ともに傷ができることなく、二人はすれ違う。
もう一度、ビビはシュラへと向かう。
「おおおおぉぉぉぉお!!!」
「あああぁぁぁあああ!!!」
ビビとシュラの爪と槍がぶつかり合い、いくつもの火と炎の花弁が飛ぶ。
結果として、シュラとビビの双方の身体に焼けた切り傷が生じた。
「気をつけろ、ビビ! その槍、燃えるんだ!」
「みたいね……!!」
上腕の切り傷を抑えながら、ビビは空中で身体をひねり、体勢を整える。
「でも、こっちだってダメージを与えていないわけじゃない。このまま、押し切————!?」
一気にシュラへと距離を縮めようとしたビビの身体が、空中でぴたりと止まった。
まるで蜘蛛の巣に絡め取られたかのように身体が動かない。
「かかったな……!」
「体が、重い……!?」
身動きの取れないビビへ向かって、シュラは一気に距離を詰める。
「摩訶不思議、紐の試練……!! 我ら神官の険しき試練、ちょっとやそっとで破れると思うな!!」
シュラの燃える槍が、ビビの心臓を狙う。
「守護神だって……!? 笑わせる! この世界にいるのは、貴く遠い
「ビビぃぃいい!!!」
チョッパーの悲鳴が響く。
空中で起こっている激戦に、彼は何をすることもできない。
正体不明の拘束に成す術もないまま、その槍はビビへと——」
「少々待たせた」
ガキンッ! と。
何者かによって、シュラの槍が弾かれる。
その誰かの影を見て、真っ先に叫んだのはチョッパーだった。
「空の騎士〜〜〜!!!!」
チョッパーは首からぶら下げた笛を握りしめた。いざとなったときに吹けば、空の騎士の助けを求めることができるホイッスル。
ビビが来る前、神官シュラが目の前に姿を現したその瞬間に、チョッパーはそれを吹いていた。
「珍しい客が来たな、ガンフォール! まだ神気取りか!?」
「吠えておれ!」
「今日は自称神が多いな……! 神は何人も必要ない!」
と、シュラがガン・フォールへと向かおうとした、その時だった。
「私のことを、忘れてもらっては困るわね……!」
チチチチ、と。
火花が散るような音が響く。
何か嫌な気配を察知したのか、シュラは慌てて振り返る。
「紐の試練……? そんなもので、私は縛れない……!!」
燃えていた。
ビビの全身から溢れ出す蒼い炎が、細い糸になって周囲に伸びていた。
「まさかお前、紐雲を……!?」
神官シュラの司る紐の試練は、紐雲と呼ばれる目に見えない細い雲を張り巡らせ、相手を絡め取るもの。
その紐雲の強度は、束になれば容易に切ることは到底できない鉄を超える力を手に入れる。
が、しかし。
「どうやら、炎にはそこまで強くないようね!」
「チィ……! 小賢しい!」
ビビの機動力が厄介なものであると理解しているシュラは先にビビを攻撃することを選択した。
メラメラと炎が揺らぐ槍が、ビビへと向かう。
「待て! お前の敵はワシじゃ!」
「全員が、エネル様の敵だ! 順番は、我ら神官が決める!」
「——! ピエール!」
「ピエ〜〜!!」
ガン・フォールはピエールに指示を出して即座に旋回し、先ほどの同じようにビビを守りに行くが、
「——くッ!」
「紐の試練……!!!」
たった数瞬の攻防のうちに、さらなる紐雲を辺りに張り巡らせたシュラの罠に、ガン・フォールの身体が引っかかる。
「すでにここまで紐雲を……!!」
「相変わらず、生ぬるい!」
凄まじい勢いで、シュラはビビへと向かう。
そして。
「ぐ、ああああ!!」
その槍は、ビビの身体を貫いた。
しかし。
「……やっと、捕まえた」
「な、に……!?」
シュラは急所を貫いたはずだった。
即死とは言わぬまでも、致命的な傷のはずだ。
それなのに、なぜ。
「どうしてそんな顔で、我が槍を掴んでいられる……!!」
自分の身体を貫いた槍を掴むシュラの手を、ビビは力強く握りしめていた。
その理由をビビは語る。
「空の騎士さんが稼いでくれたわずかな時間。それでほんの少しだけ、紐を焼き切れた。全部は無理だったけど、ほんの少し攻撃を受ける場所はずらせた……!」
「まさかお前、最初から肩を俺に攻撃させるつもりだったのか……!?」
「これくらいの傷なんて、どうってことないわ!」
槍を掴む右手に力を入れたビビは、大きく左手を振りかぶった。
ボゥ! と、左手の爪に炎が宿る。
逃げることができないシュラは、苦し紛れに叫ぶ。
「すべてのものには、犠牲が伴うのだ! 生け贄ならば、生け贄なりに命を差し出せ!」
「そんな犠牲を出さないような強い人間になるために、私は海に出たのよ!」
誰も死ななければいいなんて、甘いことは言わない。
だが、せめて。
自分の守りたいと思った人たちだけは、共に命を賭けてくれる仲間たちだけは、守れるように。
いつか、胸を張ってアラバスタの民を守れるような、強い人間になるために。
「私は、負けない!!」
「——!! フザァ!」
その気迫を、シュラは恐れていた。
この一撃をくらえば負ける。
そう思わせるだけの迫力が、ビビにはあった。
苦し紛れに、シュラはフザへ指示を出し、炎を吐き出させる。
しかし、ビビの表情は変わらない。
「私を燃やしたいなら、地獄の炎でも持ってきなさい……!!」
「ク、クソォォォオオオ!!!」
シュラは槍を捨て、強引に腕を引き抜いた。ビビの爪で押さえていたため、手の甲が引き裂かれて血が吹き出す。
それでも、後ろへ逃げて——
「——
ドンッ! とシュラの背中に衝撃が走った。
わずかに振り返ると、そこには強引に紐雲を抜け出したガン・フォールがいた。
その衝撃は、シュラの身体をビビへ向かって吹き飛ばす。
ビビは全身から蒼い炎を溢れさせ、それを左手の爪へと集約させた。
「あなたがどんなことを言おうが、私は構わない。あなたの信じるものを、否定するつもりもない。でもね……!」
渾身の一撃が。
シュラへ向かい、
「私の仲間に手を出したことだけは、絶対に許さない!!!!」
切り裂く。
「
シュラの身体に、大きな切り傷が生まれ、その傷が蒼く燃え上がる。
「————!!!!」
圧倒的な威力。
たった一撃で意識を奪われたシュラは、フザの上から吹き飛ばされて雲海へと落ちていく。
「クカカカ!!」
フザは必死に雲海へと落ちたシュラを追って雲の中へと飛び込んでいった。
そして。
シン、と。静寂で満ちる。
「やった……のね」
「うむ。素晴らしい攻撃だった。青海人がこの地で神官を倒すとは、にわかに信じがたいが……」
ふわりと、ビビとガン・フォールはメリー号へと降り、呆然と口を開くチョッパーを見つめる。
「チョッパーは、大丈夫?」
「お、おう。おれは平気だけど……! ビビだってすごい怪我だ! すぐに治療しないと!」
「ええ。お願いするわ。治りが早いとはいえ……かなり、消耗してしまったから……」
ビビの身体が揺れる。
その身体を受け止めたのは、ガン・フォールだった。
「……見事なり」
朦朧とする意識の中、無事であったチョッパーと、燃えながらも形を残したメリー号を見て、ビビは小さく笑った。
「なんとか、守れた……!」
ビビ&ガン・フォールVS神官シュラ。
——ビビ&ガン・フォールの勝利!!!
次回は、短い幕間(この作品の空島編にとって死ぬほど大切なところ)の後にようやく日常回です。
ここからのチーム分けでようやく原作と話が変わってきます。