麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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第五十三話「再集合、再出発」

 

 

「えええええ〜〜〜〜!?!?!? 空島が、黄金郷〜〜〜!?!?!?」

 

 神の島(アッパーヤード)の生贄の祭壇にて、改めて再集合を成した麦わらの一味は、さっそく作戦会議を始めたのだが。

 先行してこの地を探索していたナミたちから告げられた事実に、ルフィとウタは飛び上がった。

 信じられないが、ジャヤの一部は突き上げる海流(ノックアップストリーム)で島ごと空へと飛び、この空島に辿り着いた。

 それを示すかのように、島の端にはハリボテで半分しかなかったモンブラン・クリケットの家のもう半分がひっそりと佇んでいたのだ。

 

「すごいや! 本当に、黄金郷はあったんだね!」

「ああ、黄金があるんだ! ワクワクしてきた! こんな冒険したかったんだ!」

「そうこなくっちゃ!」

 

 うずうずとしているルフィとウタを見て、ナミも笑う。

 

「まァ、海賊がお宝目当てで黙ってるわけにはいかねェよな」

 

 その横で、シュラとの戦闘の傷もすっかり回復したビビも頬を緩ませる。

 

「黄金を目指す冒険……! これが、海賊……!!」

「クエー!」

 

 それを阻む敵も文句なしの強敵。

 ゾロも満足げに笑っている。

 つまり、やることは決まった。

 

「よ〜〜〜し、やるか!! 黄金探し!!!」

 

 

 

 

 …………というわけで。

 

「ヒマだな〜〜」

「はいはい。サンジに言われた通りに飲み水を作るんだからね〜」

 

 ナベの上にボウルを置いた蒸留水を作る簡易的な器具の目の前で寝っ転がっているのは、ゴロゴロと転がって水ができるのを待っているルフィと、ルフィを下敷きにして寝転がっているウタ。

 ヒマそうなルフィの頭の上にアゴを置いたウタは、充分な飲み水ができる様子をぼーっと眺めている。

 

「てか、なんでウタはおれの上に乗ってんだ?」

「ここが一番落ち着くんだも〜ん」

「……? よくわかんねえやつだなァ」

「分かんなくていーの。ほら、前見てよ」

 

 不思議そうに首を傾げながらも、ルフィはウタが上に乗っていること自体を否定するつもりはない。

 それを眺めながら、ビビとナミはひそひそと話す。

 

「ねえ、ナミ。今までバタバタしていてちゃんと見てなかったけど、あの二人っていつもあんな感じなの……?」

「最初はムズムズするけど、そのうち慣れるわよ。あの二人、距離感バグってるから」

「そ、そんなものなの……?」

「この程度でビックリしてたら、持たないわよ。前のお風呂で言えなかったけど、あの子、ルフィが寝てるときに——

 

 ——バリバリッ!!!

 

「何かあった、ナミ?」

 

 凄まじい威圧感に言葉を止めたナミは、ルフィの上でこちらをニコニコと見つめてくるウタと目を合わせた。

 

「な、なんでもないわよ、あはは〜」

 

 ナミは苦笑いをしながら、元々やっていた作業を再開する。

 

「あの子が地獄耳なの忘れてたわ……! あんたも引っ叩かれる前にどっか逃げなさい」

「う、うん! 分かった!」

 

 てこてこてこ、とやることを探すビビは、シチューを作ってるサンジを見つけ、そちらへ向かう。

 

「サンジさん! 何か手伝うことはある?」

「ありがと、ビビちゃん。でも、今のところは何もないからのんびりしててくれ」

「でも、何かさせてほしいの」

「って言われてもなァ……でも、それなら」

 

 まっすぐなビビの視線に負けたサンジは、頭をかきながら食事の材料を採ってきた剣士を呼びつける。

 

「おい、ゾロ! こっちこい!」

「ああ? なんだ」

「ちょっとこの石、剣に乗せろ」

「なんだそれ。そんなもんにおれの刀を……」

「ビビちゃんのためだ。いいから出せ」

「ご、ごめんなさい。迷惑かけちゃって。私、大人しく見てるから……」

「だー! 分かった分かった! ほら、これでどうすりゃいい!」

 

 すぐに剣を抜いて交差させた上に、サンジは頭の大きさ程度の石を乗せた。

 

「ビビちゃん。この石に火を吹いてもらってもいいかな? アツアツに熱してほしいんだ」

「……!! それならできるわ!」

 

 ビビは身体を青い獣へと変貌させ、ネコのようになった口から蒼い火を吐いた。

 石が熱されていく間に、サンジはシチューの材料を漁る。

 

「シチューはいいんだぜ。食材の栄養分を無駄なく摂取できる。ほら、採ってきたやつ見せろ」

「クルミにアロエ、バナナにニンニク」

 

 まずはチョッパーが腕いっぱいに持った材料を見せる。

 その次は、ルフィの上に乗っていたウタが飛び跳ねて、

 

「私、さっきキノコ採ってきたよ!」

「おいウタ。お前、今度は毒キノコじゃねえよな?」

「ち、違うもん!!! うっかり毒キノコなんて食べるわけないじゃん!」

 

 煽ってくるルフィの頭を引っ叩いたウタの手にあるキノコを取ったナミは、それをチョッパーの鼻元へ寄せた。

 

「どう?」

「これは食べれるぞ! 大丈夫だ!」

「ほら、大丈夫じゃん! ルフィのバカバカ!」

「あ!? お前の方がバカだろ! 今のところ、50パーセントで毒キノコだ!」

「だからあれはわざとじゃないってば!!!」

「いってぇ!?!?!?」

 

 ウタにぶん殴られて脳天がすこぶる痛むのか、ルフィは涙目で頭を押さえていた。

 それを尻目に、ゾロは刀の上の石が落ちないように支えながら、

 

「おい、チョッパー。おれが採ってきた材料も出してくれ」

「おう。ねずみとカエルだな!」

「ちょっと待てぇ! 今おかしな具材あったわよ!」

「ほらほら、ナミ。冒険に行くんだから、ちゃんとニンニクとかも食べて元気つけないとだよ?」

「そうじゃないっての!! あんたもなんか言ってやってよ、ビビ! 王族出身がこんな闇シチュー食べられないわよね!?」

「これが、海賊シチュー……!!」

「助けて、ロビンお姉様……!」

「フフ……。みんな、面白いわね」

「あひゅん……」

 

 涙を流しながら、ナミはロビンに抱きつきながら崩れ落ちていく。

 その隣で、ビビの炎によって充分に熱された石をゾロは具材が山ほど入った鍋の中へ入れる。

 

「え!? 石まで食うのか!?」

「食うかよ。石焼シチューだ。この熱でシチューを煮るのさ」

「ビビの炎だから、余計に美味しく煮込めそうだね!」

「喜んでいいのか分からない複雑な言い方しないでよ……!」

 

 ビビは困りながらも、少しだけ照れて細長い尻尾の先を指先でいじる。

 その様子がウタの何かを刺激したのか、突然にチョッパーとビビのことを抱きしめて押し倒した。

 

「はぁ〜〜! もふもふ天国……!」

「な、なんだ、ウタ!」

「ちょっと、くすぐったいってば……!」

 

 チョッパーとビビのもふもふな毛皮に挟まれて深呼吸しているウタの首根っこを捕まえたのは、ナミだった。

 

「それじゃあ、明日の作戦会議するわよ!」

「シチュー食いながらでいいか?」

「どっちにしろ食うでしょ、ルフィは! 勝手にしなさい」

「よっしゃ!」

 

 サンジが準備してくれたシチューを食べながら、一味はナミの説明を聞く。

 四百年前、神の島(アッパーヤード)はジャヤの一部だった。

 それが突き上げる海流(ノックアップストリーム)によって浮上。島雲に乗り、空島の一部と化した。

 ジャヤに生息しているサウスバードが、巨躯へと進化してこの地に生息しているのも、海雲や空雲の成分によって元々の生態系が変化したからであると。

 

「そして、ジャヤの地図とスカイピアの地図の縮尺を合わせて繋いだものが、これよ」

 

 そこにあった四百年前のジャヤは、ドクロの形をしていた。

 それを皆が確認したところで、ナミとロビンは目を合わせる。

 

「髑髏の右目に黄金を見た……!」

 

 ナミは、ドクロの形をした地図の右目の位置を指差す。

 

「つまり、私たちが目指すのはここ。この場所で、莫大な黄金が私たちを待ってる!」

「お宝〜〜〜!!!」

「目的地も決定!! 冒険だ〜!!」

 

 サンジの特製シチューを食べて満足したルフィたちは、明日の出立へ胸を躍らせる。

 と、日が沈み始めたのを見て、ロビンが口を開いた。

 

「夜も更けたわ。用のない火は消さなくちゃ。敵に位置を知らせてしまうだけよ」

「おい、ウタ。ロビンがあんなこと言ってるぞ……」

「仕方ないよ、ルフィ。ロビンは今まで闇に生きてきたんだから……」

 

 肩を組んだルフィとウタはやれやれと首を振ってから、グッと拳を握りしめる。

 

「キャンプファイアーするだろうがよォ普通!!」

「キャンプの夜はキャンプファイアーを囲んでみんなで歌って踊るのが人間ってやつだよ、ロビン!!」

 

 力で押そうとするルフィとウタを、ナミがため息を吐きながら説得する。

 

「あのね。神官だってゲリラだっている森の中で、夜になったら猛獣に襲われる危険だってあるの。ここはロビンの言う通りに——」

「オイ、ルフィ!」

 

 ナミの言葉を遮ったゾロは、サンジと二人で並んで、

 

「組み木はこんなもんか?」

「あんたらもやる気満々か!!」

「ゾロ。ここに乗せればいいの?」

「ああ、そんなもんだ、ビビ」

 

 積み上がった組み木の上部で、ビビは翼を使ってフワフワと飛んで丸太を抱きしめていた。

 

「大丈夫さ、ナミさん。むしろ猛獣は火が恐ェんだから」

 

 なんて言うサンジの後ろでギラリと光る目を見つけて、ナミは騒ぎ出す。

 が、しかし。

 

「さァ、みんな! 黄金前夜祭だよ!!」

「いただくぞ、お宝〜〜〜!!」

 

 やってきた猛獣すらも巻き込んで、麦わらの一味は炎を囲んで歌って踊っていた。

 

「ウオウオ〜!!」

「おウォウォ〜〜!!!」

 

 ルフィは狼のような猛獣と一緒に遠吠えを上げ、

 

「ラララ〜〜♪」

「ニャニャニャ〜♪」

 

 ビビとウタは肩を組んで歌う。

 それを見て、酒を飲みながら大笑いをして手拍子をするナミに、その手拍子を後押しするように楽器を鳴らすウソップとサンジ。

 火を囲みながらチョッパーとカルーは踊り、少し離れた位置でロビンとゾロがそれを眺める。

 そして、神官シュラとの戦いに参戦し、ビビとチョッパーを守ってくれた先代神、ガン・フォールも、微笑ましくその様子を見守っていた。

 

「ふふ……エネルの住む地でこんなバカ騒ぎをする者は他におらんぞ……」

「あら。傷はもう大丈夫なの?」

 

 シュラとの戦いの傷は、動物系(ゾオン)であるチョッパーとビビはすぐに癒えたが、ガン・フォールはそうではない。

 ようやく傷が癒えてきた彼は、サンジのシチューを軽く食べながら、

 

「さっきのお前たちの話を聞いていた。この島の元の名はジャヤというそうだが。我々にとっては紛れもない聖域なのだ」

 

 ガン・フォールは足元の土をすくい、指先からこぼれていく砂を眺める。

 

「緑も土も、空には元々存在しえぬもの。これらは空に生きる者たちの永遠の憧れそのもの。これを我々は……大地(ヴァース)と呼ぶ」

 

 きっと、コニスが泥人形のことを憧れと呼んでいたことも、人形を作っていた土という素材そのものが空の者の憧れそのものだったのだろう。

 ないものを求める。誰しもが抱くその当たり前の感情を、空の者はこの大地に抱いたのだ。

 だから、聖域。

 そして。

 

「して、あの子の歌は……」

「確か……風のゆくえって名前をつけていた曲ね。風が気持ちいいときに、船頭に船長さんと座って口ずさんでいたわ」

「そう、か。だが、偶然と言うには……」

 

 あごひげをねじりながら考え込むガン・フォールに、ロビンが問いかける。

 

「あなたも、あの曲を知っているの?」

「間違いがなければ、あのメロディーは『島唄』という名で空島に伝わっておるのだ。聖地アッパーヤードが生まれた日から、黄金の鐘の音とともに響いたとされる唄であると」

「なら、このメロディはかつてジャヤで歌われた曲……?」

「もう何百年も前のことだ。詳細な真実は分からぬ。この空島で生まれたのか、それともこの大地で生まれたのか」

 

 と、ガン・フォールが呟いた瞬間、一連の会話を聞きつけたウタがこちらへと飛んできた。

 

「ガン・フォールさんも、この歌を知ってるの!?」

 

 ぐいぐいと近づくウタへ、ガン・フォールは笑いかける。

 

「うむ。だが、青海人が知ってるとしたら……。ちなみに、この歌はどこで知ったのだ?」

「シャンクスから教わったの! 海賊王の船にいたときに、聞いたんだって!」

「海賊王……? それは知らぬが、もしや、あの者のことか……?」

「え!? シャンクスを知ってるの!?」

「いや、名までは知らぬ。だが、我が神であったとき……もう二十年も前になるか。その頃にここにやってきた青海人に、この歌の存在を伝えた記憶がある」

「まさか。海賊王もこの空島に来ていたっていうこと……?」

「すごい! じゃあ、私たちは海賊王が冒険した場所を進んでるんだ!」

 

 ワクワクウズウズと身体を震わせるウタは、溜まった感情を吐き出すように大きく手を広げた。

 

「きっと、この歌は大地(ここ)で生まれたんだよ!」

 

 ウタはぐいっとガン・フォールに顔を近づけて、

 

「私、分かるの! この歌はきっと、誰かに届け〜! って思って作った曲なの!」

「誰に向けてなんだ?」

「細かいことは分からないけど、ここって突き上げる海流(ノックアップストリーム)で空に来たんでしょ? なら、ここに住んでた人って、海の人と会えなくなっちゃったと思うんだ」

「つまり、うそつきノーランドが見つけた黄金郷……その住人たちが作った?」

「うーん、どうだろう。なんだかもっといろんな人の気持ちがこもってる気もするけど、間違ってはないはず!」

 

 四〇〇年も前の歌にこもった気持ちを完璧に汲み取ることは、誰にもできない。

 それでも、ウタは笑っていた。

 

「でも、歌はどこまでも届くから。クリケットさんに、聴かせてあげたいなぁ」

「この歌をか?」

「うん! だって、黄金郷で生まれた曲なんだよ! きっと、喜んでくれるよ!」

「ふふふ、そうね。彼なら、笑ってくれるんじゃないかしら」

「私もそう思う! だから私は、何があってもこの歌を届けるよ! だって私は、歌で世界中の人を笑顔にするのが夢だから!」

 

 えっへんと、ウタは胸を張る。

 巡り巡って空島まで来ているが、ウタの目的は歌で人々を笑顔にすること。

 誰かに届けという願いのこもった歌が、この空に留まり続けてるというのなら。

 

「歌に込められた想いは、どれだけ離れた人にだって届くから!」

 

 そんなことを言いながら、ウタは満足そうに笑って、

 

「それで…………ぐぅ……」

「ね、寝たァ〜〜!?」

 

 考えてもみれば、今日は空島に来た最初の日。突き上げる海流(ノックアップストリーム)に乗ってきたこともあり、怒涛の一日だったのだ。

 ぷつんと糸が切れたように寝てしまったウタが寝てしまったのと同時、キャンプファイアーの近くでルフィも寝てしまったようだ。

 やれやれ、と一味の皆が首を振り、宴の終わりがやってくる。

 境目もなく、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。

 ふと、ウタは目を覚ました。

 何かが聞こえた気がしたのだ。

 ゆっくりと身体を起こし、周囲を見渡す。

 寝ぼけた目を擦りながら、音の方向へとウタは進んでいく。

 

 音が聞こえてくる。

 

 —— コーン……

 

 —— コーン……

 

 —— コーン……

 

 一定のリズムで響くのは、打楽器のような音。

 

「なんの、音……?」

 

 ようやくはっきりと目を開いたウタは、少し先の木の影に誰かが立っているのを見つけた。

 

「あれ。ウソップ……?」

「おおあ!?!? な、なななんだ、ウタか! びっくりさせやがって……」

 

 後ろにいたのがウタだと知って、ウソップは大きく息を吐く。

 乱れた呼吸を整えると、ウソップは振り返り、指を差す。

 そこは、メリー号が止まっている生け贄の祭壇の上。

 

 ぼやけるような霧の中に、薄らと人影が見えた。

 

「誰かが、メリー号のところに……?」

「ああ。でも、あれは敵のようには見えねえ……」

 

 —— コーン……

 

 —— コーン……

 

 それは、槌を打つ音だった。

 ボロボロのメリー号の船体を、誰かが直してるようにも見える。

 その誰かの姿ははっきりとは見えない。レインコートでも着ているのか、シルエットも曖昧で、子ども程度の背丈であることしか分からない。

 

「なあ、あれってもしかしてよ……」

 

 身体を震わせながら、ウソップはウタに呟く。

 

「お化け……なんじゃ……」

 

 ウソップがそう言った直後。

 人影の頭がこちらへ向いたような気がした。

 そして。

 

 ——大丈夫。

 

 声が。

 

 ——もう少しみんなを。

 

 優しい、声が。

 頭の中に、響いてくる。

 

 ——運んであげる。

 

 人影が、ニコッと笑いかけてきた。

 

「ぎぃやぁああああああああ!!!!」

 

 摩訶不思議な現象に頭の処理が追いつかなかったのか、ウソップは叫び声を上げて気を失ってしまった。

 その身体を支えたウタは、真っ直ぐにメリー号を見つめる。

 

「君は……」

 

 ウタは、その人影に恐怖を抱いてはいなかった。

 声から感情すらも聞き取るウタの耳は、その言葉に込められた気持ちも感じ取っていた。

 だから、ウタはこう言う。

 

「メリー……なの?」

 

 ウタの問いかけに対して、人影は返事をすることなく、ニコッと笑いかけるだけ。

 ただ、一言。

 

 ——みんなと、ずっと一緒に、冒険をしたいから。

 

 それだけ呟いて。

 人影は霧の中へと消えていった。

 生け贄の祭壇に残されたのは、ツギハギのように応急処置が施されたメリー号だけ。

 そこにはもう、誰もいなくて。

 

「……なにやってんだ、ウタ。こんな夜更けに」

 

 後ろから声をかけてきたのは、ゾロだった。

 おそらく、皆が寝ている間の見回りなどをしてくれているのだろう。

 気を失っているウソップを抱えたウタを見て、わずかに殺気が溢れる。

 敵はいないと教えるように、ウタは笑った。

 

「ウソップがおしっこしてたから、驚かそうと思って、わっ! ってやったら気絶しちゃった!」

「なにやってんだ……ったく」

 

 刀に伸びていた腕から力を抜いて、ゾロは頭をかく。

 

「ウソップはおれがそこらへんに寝かせておく。ウタもさっさと寝とけ。明日は黄金を探すんだろ?」

「はーい! ゾロもいつもありがとね!」

「寝れねえだけだ。ほら、早く行け」

 

 ウソップを抱えたゾロは、しっしっ、と手を振ってウタを見送る。

 カツン、カツン、と大樹の根をウタは歩く。

 静寂に満ちた空島の夜が、さらに更けていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 神官シュラによってボロボロになったはずのメリー号の船体が、誰かによって修理されていた。

 一味の中でメリー号を修理できるのウソップだけ。

 しかし、当の本人は。

 

「見ろ!! 言った通りだろ! 誰かがここにいたんだ! あれは夢じゃなかったんだ!」

 

 不恰好なツギハギで修理されたメリー号を指差して、ウソップは訴える。

 お世辞にも上手とは言えない修繕に、一味の面々は苦笑いしながらも、人知れず直してくれた誰かへの感謝を口にしていた。

 自分たちへの得しかない以上、一味はこの現象をあまり気にしていない。

 だが、ウソップはアゴに手を当ててメリー号を見つめる。

 

「フライングモデルじゃねえな、ウソップ」

 

 ポツリと呟いたルフィの言葉に、ウソップは頷く。

 この空島に来たとき、メリー号は突き上げる海流(ノックアップストリーム)を進むために猿山連合軍によって様々な改造をされていた。

 だが、修理されたメリー号は、初めて出会ったときと同じ姿で修理されていたのだ。

 この空島で、元のメリー号を知っている人などいないはず。

 

「なあ、メリー」

 

 黄金を目指す冒険の準備で騒がしい一味の中で、ウソップはポツリと呟く。

 

「誰だったんだ、ありゃあ……」

「きっと、そのうち分かるよ」

 

 答えたのはウタだった。

 妙に落ち着いた様子で、メリー号のツギハギを撫でる。

 

「私たちにできることは、メリー号を大切にしてあげることだけでしょ?」

「ああ、そうだな。直ったとはいえ、メリーはボロボロだしな……」

「うん。きっとまた、あの子は来てくれるよ」

 

 芯の通るようなウタの言葉に、ウソップは小さく頷く。

 と、その横でナミが地図を開いて今後の動きについて話をしていた。

 

「それじゃあ、打ち合わせの通り『脱出組』と『探索組』はそれぞれの準備を始めて!」

 

 麦わらの一味は、ナミの提案で再び二手に別れることになった。

 一つはルフィ率いる黄金を見つけるための探索組。

 もう一つは、生け贄の祭壇から抜け、黄金郷から戻ってくるルフィたちを回収して空島の脱出に備える脱出組。

 合流先は、東の海岸。

 全ての準備を終えた一味の先頭で、ルフィとウタが両手を上げる。

 

「「行くぞー! 黄金郷!!!」」

 

 そうして、空島での再出発を果たしたのだが……。

 

「おいゾロ! 西はこっちだぞ!」

「人の話を聞かねえやつだな、ルフィ。ドクロの右目って言ってんだから、右だろうが!」

「お前の方向音痴には呆れるなァ」

「はいはーい。私たちが向かってるのは南だからこっちだよ〜」

 

 出発早々にどこかへ行こうとするアホ二人の耳を掴んで引っ張るウタは、素直に南へ進もうとしていたロビンとチョッパーを追いかける。

 

「フフフ。あの二人を南に向かせるだけでも大変なのね」

「おれはちゃんと南は分かるぞ!」

「心強いよぉ。ありがとね、ロビン、チョッパー」

 

 ルフィとゾロをぶん投げたウタは、南を指差してニコッと笑う。

 

「南、あっち。真っ直ぐ、進む」

 

 やたらと影があるウタの笑顔に苦笑いしつつも、ルフィは素直に進み始める。

 

「なんだ南か。それを早く言えよ〜」

 

 探索組は、改めて南へと進み出した。

 ウタは振り返って、メンバーを再確認する。

 

 探索組はウタ、ルフィ、ゾロ、ロビン、チョッパー。

 サンジ、ナミ、ウソップ、ビビ、カルーは脱出組としてメリー号に乗船している(ガン・フォールも同船)。

 当初は、ビビも冒険をしたいと探索組への参加を望んでいたが、船の守りを固めるためにも、どうにか説得してメリー号に残ってもらった。

 だからこそ、必ず黄金を持って帰らなければならない。

 

「だからって、すんなり黄金がありましたっていうのも、それはそれでつまらないよね〜」

「当たり前だ! 冒険なんだから、もっとワクワクすることがねえと!」

 

 ルフィは偶然に拾ったちょうど良い感じの棒を振りながら頷いた。

 

「ルフィそれ、いい雰囲気の棒だな!」

「なはは! やらねえぞ! 自分で見つけろ」

「いいなぁ〜! 棒、棒……!」

「あ、私、発見〜!」

「ああ! いいなァ〜!!!」

 

 棒を振りながらニコニコと歩くルフィとウタ。その横をソワソワと足元を見ながら歩くチョッパー。

 そんな光景を見て、ロビンは微笑む。

 

「おかしな人たちね。そんなにも探索が楽しいのかしら……。それに、アクシデントすら待ってるみたい」

 

 そんな呟きを、ロビンが口にした瞬間だった。

 

 ——ジュララララ……!

 

 その巨躯に、一味は言葉を失っていた。

 頂点が見えないほどに育った空島の大樹の幹が、動き出したのかと思った。

 だが、違う。

 その表面は分厚く青い皮に覆われており、その皮も植物には存在しないトラのような縞模様があった。

 想像を絶する大きさ。

 それはかつて、凪の帯(カームベルト)に迷い込んで出会った海王類を彷彿とさせるような……

 

「逃げろ〜〜!!! 大蛇(ウワバミ)だ〜〜〜!!!」

 

 声を張り上げたのはルフィだった。

 やっと冒険らしいハプニングが起こったからか、満面の笑みで走り出す。

 その行動で、硬直していた一味が一斉に動き始める。

 

「さすがにデカすぎるってば!?」

「ぶった斬ってやる……!」

「なんて大きさ……! これも空島の環境のせいなのかしら」

「ギャ〜〜〜!!!」

 

 大蛇(ウワバミ)が最初に狙ったのは、ルフィだった。

 

「ジュララララ!!」

「うはっ! 危ねえ!」

 

 大樹のような身体が、ロケットのように突進してくる。

 ルフィとゾロは、避けた大蛇(ウワバミ)の様子を伺う。

 ガブリと、ルフィの背後にあった樹へ噛みついていた。

 すると、

 

「あれ、もしかして……!」

「毒……!?」

「こりゃ、逃げた方が良さそうだな……!」

「コエー!」

 

 瞬く間に大樹は折れ、噛みついた部分はドロドロに溶けて重たい蒸気が上がっていた。

 あの毒でやられてしまえば、間違いなく即死。

 

「みんな、とりあえず逃げて! あとで合流しよう!」

「よっしゃ! おーい、毒大蛇(ウワバミ)〜! ついてこ〜い!」

「ジュララララ!!!」

 

 木の枝に捕まって縦横無尽に移動をするルフィを、ウタは追いかける。

 気を逸らした隙に、一味も一斉に離散し、どうにかこうにか大蛇(ウワバミ)からは逃げ切ったのだが。

 

「よし、ウタ! あったかそうな方へ行こう!」

「はいはーい。そっちは南じゃないからこっちね〜!」

 

 ルフィの肩を掴んで身体をグルンと回したウタは、二人でのんびりと黄金郷へと進むことにした。

 

「みんなと合流は、きっと目的地でできるだろうから、大丈夫だね!」

「ゾロは迷子になりそーだけどな!」

「それはほんっっっっとうに不安。なんかの偶然でサウスバードとかに引っかかって南に勝手に運ばれたりしない限りは絶対に無理だと思う」

「にししし! まァ、なんとかなるだろ!」

「……まあ、そっか! 気にしててもしょーがないね!」

 

 気を取り直して。

 ウタは鼻唄を歌いながらのんびりと進む。

 曲は「風のゆくえ」。

 海で待つ猿山連合軍に届けるために、少しでもメロディを綺麗に歌えるようにしておきたい。

 と、気持ちよくウタが歌っている最中だった。

 

「——ルフィ。後ろ、お願い」

「ふん!!!」

 

 ドゴァァン! とルフィのパンチが突如として後ろから襲いかかってきた誰かを吹き飛ばした。

 背中に翼があるので、おそらくは空の者であろうが……

 

「なんだろう、この人」

「わかんね。ヤギじゃねえのか?」

 

 完全に気を失っている空の者を眺めているルフィの、その後ろ。

 何者かがこちらを睨みつけていることに、ウタは気づいた。

 

「おい、お前ら……」

 

 刺青の入った身体を民族的な衣装で飾り付け、肩にバズーカを担いだ男。

 間違いない。

 ゲリラだ。

 

「何か用?」

 

 ウタの問いかけに、そのゲリラは——ワイパーはたった一言だけ言った。

 

「なぜお前たちが、その唄を知っている」

 

 どこからともなく、冷たい風が三人の間を吹き抜けた。

 

 




コロナになって仕事で山ほどトラブってで人生で一番辛い7月でした。乗り越えたので、のんびり書いていきます。
次回はなんと、自分で描いた挿絵を入れる予定です。
あんまり上手くないんですけど、どうしても描きたくて。
この先ものんびりよろしくお願いします。
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