麦わらの一味「歌姫のウタ」   作:さとね

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今回は挿絵を描いてみました。上手くはないですけど、よろしくお願いします。


第五十四話「届く」

 

「この島を出ろと、忠告したはずだ」

 

 バズーカを担いだゲリラ——ワイパーは冷たく言い放った。

 

「うるせえ! おれの勝手だろ!」

「そうだよ! 私たちの冒険の邪魔しないでよ!」

「何を言う……! この島は元々、おれたちシャンディアの土地だ……!」

「……そうなのか?」

 

 首を傾げたルフィは、ペコリと頭を下げた。

 

「そうなのか。おじゃまします」

 

 そう言ってスタコラと通り過ぎようとするルフィを、ワイパーは怒鳴りつける。

 

「待て!!!」

「なんだよ!」

 

 素通りしようとしたルフィを止め、ワイパーは視線をウタヘと向ける。

 

「そこの女」

「私のこと?」

「お前が歌っていた唄。なぜ、その唄を知っている」

 

 ウタは素直に答える。

 

「シャンクスから聞いたの! たぶん、昔にここに来たことがあるみたい!」

「青海人がスカイピアの者から聞いたのか。くだらない。聞くだけ無駄だったな」

 

 ワイパーはおもむろにバズーカを構え直す。

 明確な敵意。

 邪魔をするなら命をも奪うという覚悟と意志を持った声。

 

「ち、ちょっと待ってよ! でも、私はこの唄を——」

「御託を聞くつもりはない。この島から出るつもりがないのなら、排除するだけだ」

 

 ドンッ!

 二人へ向けてバズーカが放たれる。

 瞬時にウタの前に出たルフィは、身体を膨らませてバズーカの弾を跳ね返した。

 

「危ねえな! ウタに当たったらどうすんだ!」

「嫌ならこの土地から出ていけッ!」

 

 連続でワイパーはバズーカを放つが、ルフィ同じようにその全てを跳ね返す。

 

「何度やっても無駄だァ!」

「……らしいな。戦術を変えて——!?」

「ずっと、ルフィばっかりに任せてられないよ!」

 

 背後に回ったウタは、拳を握りしめて、その手を黒く光らせる。

 

「小娘の打撃など——」

「私だって、ルフィみたいに……!」

 

 ウタはルフィの姿を思い出しながら、パンチを繰り返す。

 ワイパーが咄嗟に取った行動は、反撃の動作だった。その行動は、簡単に言えばウタを舐めていた。

 身体の小さな女の打撃など、受けたところで大したダメージにはならない。

 それならば、次の一撃で数の不利を整えた方が良い。

 そのつもりだったのだが。

 

「ぐ、はッ……!?!?!?」

 

 腹部に直撃したその打撃は、明確なダメージをワイパーの身体に刻み込んだ。

 

(重い……! なんだ、この打撃は……!)

 

 口から血が吹き出す。

 侮っていた。

 ワイパーは瞬時に意識を切り替える。

 敵は二人。そして、そのどちらもが実力者。

 

(あれを使うのも、やむなしか……!)

 

 ワイパーはバズーカの引き金を引く。

 反射的に身体を風船にしていたルフィだったが、なぜか弾は飛んでこない。

 

「なんだ、撃ってねえのか?」

「——! ルフィ、避けて!」

 

 ワイパーの舌打ちと、ルフィが横っ飛びに回避をするのは、ほぼ同時だった。

 直後。

 ゴォォォオン!!!

 

燃焼砲(バーンバズーカ)風貝(ブレスダイアル)に溜めたガスを導線にして、青白い炎で敵を焼失させる……!」

「ルフィでも炎は危ないよ! たぶん、ガスの臭いか何かで気付けるから、感じたらすぐに避け——」

「人の心配ばかりしていたら足元をすくわれるぞ」

「ぐ、……!」

 

 大業の間に移動をしていたワイパーは、ウタの背後からキックを繰り出す。

 咄嗟に防御をしたが、その威力にウタの身体は吹き飛ぶ。

 

「ウタァ!」

「平気! 直撃じゃない!」

「こいつ、強い……! ゴムゴムの(ピストル)!」

 

 ルフィのパンチを、ワイパーは避けながら蹴り、弾く。

 だが、その弾かれた勢いで身体を捻り、ルフィは右足を振る。

 

「ゴムゴムの、スタンプ!」

「……!!」

 

 それでも、ワイパーは受け止める。

 二度、三度、放たれるゴムゴムのスタンプも、足でいなしてバズーカを構える。

 

燃焼(バーン)……」

「やらせない!」

 

 再び、ウタが横からパンチを繰り出した。

 意識がルフィへと向いていた隙間を狙った一撃。

 今度は顔を捉える。

 

「ダメ押しだ! ゴムゴムの、バズーカ!」

「何度も、やられたままでいられるか!」

 

 意地でワイパーはルフィのバズーカを避け、その両手を左腕で掴む。

 腕を縮めようとしてルフィは、反動で体がワイパーへと近づいてしまう。

 そして。

 

「エネルに使う予定だったが、やむを得ない……!」

 

 包帯で巻かれた右腕を、ルフィの額に当てた。

 その瞬間、ウタの背筋に寒気が走る。

 この攻撃は、あまりにも危険すぎる。

 

「避け——」

「……排除(リジェクト)!!!!!!」

「————ッッ!!!!!????」

 

 鈍い音が響く。

 あまりにも深く、ルフィに突き刺さる痛恨の打撃。

 サトリの衝撃(インパクト)とは比べものにならない威力の攻撃は、打撃が効かないはずのルフィの身体を吹き飛ばし、その意識を刈り取った。

 

「ルフィ!!!!!」

 

 直後、ガスの臭い。

 唇を噛み締めながら、ウタは後ろへとステップを踏む。

 

燃焼砲(バーンバズーカ)!!!」

 

 目の前に青い炎が走る。

 ウタは、その攻撃の主を睨みつけた。

 しかし、目の前に立つワイパーの姿を視界に映し、ウタは怒りに染まっていた顔を歪めた。

 

「なんで、そんなになるまで……!」

「シャンデラの灯をともすため……ッ!」

 

 肩を押さえてよろめくワイパーは、口から溢れる血を拭いもせずに言う。

 その目には、確かな意志があった。

 

「だからって、そんなことしてたらあなたの体が耐えられないよ! たった一撃で、そんな満身創痍になって……!」

「それを、覚悟と言うんじゃねえか」

 

 ワイパーはバズーカを構え直す。

 構わず、ウタはルフィが飛ばされた方向へと走り出していた。

 

「背中を見せるとは。舐められたものだ……!」

「ルフィの声が、ほんの少ししか聞こえない……!」

 

 ガスの臭いと、ワイパーが引き金を引く音を聞き、ウタは紙一重で飛び跳ねて燃焼砲(バーンバズーカ)を避ける。

 そして、ルフィが倒れているはずの場所を探すが、

 

「いない……!? なんで! 声も、すぐ近くに聞こえてるはずなのに……!」

 

 周囲を見回すが、悠長にその場を探す余裕など、ウタにはない。

 再び、ガスの臭い。

 

「なんでこんなこと……! 私たちに戦う理由なんてないのに!」

 

 青い炎を避けながら、ウタは叫ぶ。

 

「ならばこの土地から出ていけ! ここはおれたちシャンディアのものだ!」

「出ていくわけには、いかない!」

 

 ウタは、拳を握りしめた。

 

「黄金郷はあったんだって、伝えなきゃならない人がいるの……! この島を探し続けてる人に、ここにあったんだって、そう伝えなきゃならないの!」

「たかが、それだけのためにか!」

 

 鼻で笑うワイパーの態度に対して、ウタは声を張り上げた。

 

「あなたに、クリケットおじさんの夢を笑う資格なんてない!」

 

 攻防は繰り広げられている。

 バズーカで牽制をし続けるワイパーの隙を縫って近づき、黒く武装した拳を叩き込む。

 それをいなすワイパーだが、その反撃をウタは予知したかのように避け、また距離を取る。

 

「何が、目的なんだ! あったと、口で言えば済む話だろう!」

「違う……! それじゃあ、足りない!」

 

 ウタはワイパーへと向かいながら、叫ぶ。

 

「黄金の鐘を鳴らして、唄を届ける!! それだけは必ず、私とルフィは成し遂げる!!」

「なに、を……!?」

「この唄に込められた想いは、黄金郷の鐘の音に乗せて届けるんだ! そうすれば、きっと届くから!」

 

 だから、とウタは突っ込む。

 

「邪魔しないでよ!」

 

 ウタの攻撃が、ワイパーの顔をとらえる。

 しかし、その拳を掴んだワイパーは、ゼロ距離でバズーカの引き金を引いた。

 ドンっ! と今度は実弾がウタに直撃する。

 脳幹が揺れるような衝撃とともに、頭から血が流れる。自らへの被害も辞さない捨て身の砲撃。さすがのタフさというべきか、ワイパーの眼光は鋭いまま。

 ワイパーは容赦なく、ふらつくウタの胸ぐらを掴んだ。

 

「シャンドラの灯をともすのはおれたちの使命だ。お前らがでしゃばるんじゃねえ!」

「そんなの、関係ない! 私が、私たちがやりたいからやるんだ! 伝えるって決めたから……!」

 

 クリケットの顔を思い出す。

 夢に行き、ロマンを求め、そこに命を埋める覚悟を持った、誇るべき海賊。

 彼はこのままでは、ありもしない黄金郷を探して、海を潜り、死んでいく。

 ここに真実を伝える手段があるのに。

 想いの全てを届ける力が眠っているというのに。

 歌で人々を笑顔にするために海に出た。

 彷徨い続けるこの唄は、必ず鐘の音に乗ってクリケットに届く。

 そして、きっと。

 ここは雲の上だから。

 天国にも少しばかり近いだろうから。

 うそつきだと言われ死んでいった、彼にだって。

 

「くだらない夢を追い続ける青海人に、何を伝えようというのだ!」

 

 だから、ウタは叫ぶ。

 

「モンブラン・クリケットは、嘘つきなんかじゃない!!!!」

 

 その名に。

 ワイパーの表情が変わる。

 

「………………いま、なにを」

「この下の海で、沈んだと思ってる黄金郷を探し続けてる人がいるの。ずっと昔……たしか、四〇〇年前に、黄金郷はあったとウソをついて笑い物にされた探検家の言葉を、信じ続けて……!」

「その、今も探し続けてる者の名が、モンブラン・クリケットか」

 

 ウタは、力強く頷いた。

 その目にウソがないと感じ取ったワイパーは、その場に崩れ落ちる。

 

「ならば……っ! 四〇〇年前の、先祖の名は……!」

 

 涙を流しながら、ワイパーはその名を口にした。

 

「先祖の名は……ノーランドか……!!」

 

 ウタはどうしてワイパーがノーランドのことを知っているのかなど、分からない。

 ただ、クリケットと同じ使命が、戦いがあったのだ。

 長く、苦しく、命すらも危ぶまれる戦いが。

 

「あなたも……そう、なの?」

「お前たちと一緒になど、するな……!」

 

 モンブラン家の宿命を知ったとしても。

 ワイパーが向けるウタヘの敵意は、変わらない。

 

「ノーランドの子孫は、誇らしく思う。それは、偽りのない事実だ」

 

 だが……とワイパーは鋭く睨む。

 

「お前はモンブランではない!! なぜ、余計な真似をする! カルガラの意志を継ぐおれたちがあの鐘を鳴らしてこそ、意味があるんだ!」

「だったら、手伝ってよ……! こんな無駄な戦いなんかしないで、一緒に黄金の鐘を探してよ!」

「ただ空島に来ただけお前が、なぜそこまで意地になる! 何のためだ!」

「歌で人々を、笑顔にするため……!」

 

 あまりに突飛なその言葉に、ワイパーは言葉を失っていた。

 歌で、笑顔に。

 たったそれだけのために、命すらかけるこの戦場に、神の島(アッパーヤード)に足を踏み入れたというのか。

 

「私は、笑顔にしてあげたい。私がこの唄を届けて、クリケットのおじさんに心から笑ってほしい。そのためだったら、命だってかけるよ……! そのために、私は海に出たんだから!」

「…………ならば、本当にやれるというのか」

 

 ワイパーは震える声で問いかける。

 

「島唄を、鐘の音を、本当にモンブランに届けられるというのか! エネルに支配されたこの空島で! 猛者が集うこの神の島(アッパーヤード)を超えて!」

 

 どうなんだ! とワイパーは叫ぶ。

 歌を届ける? 馬鹿馬鹿しい。

 そんな簡単に鐘が鳴らせるのならば、四〇〇年もの間、待たせたりするものか。

 

「空島とシャンディアの戦いを、カルガラとノーランドの誓いを、その全てを終わらせることができると、言えるのか!」

 

 だが、どこかで期待をしている自分がいた。

 この娘は、もしかしたら。

 途絶えることのなかった意志を繋ぐだけの、意志と力があるのではないかと。

 

「届くのか……!!! この意志が、鐘の音が、唄が……!! 本当に届けられると言うのか!! 」

 

 ワイパーはいつの間にか、涙を流していた。

 ウタはただ、一言だけ。

 できる、できない、なんて曖昧な言葉ではなく。

 たった一つ。

 言い切って見せる。

 

 

「届く!!!」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 それ以上、ワイパーが問いかけることはなかった。

 ゆっくりと身体から力を抜き、バズーカの先を下ろす。

 

「唄は、想いを繋げることができるんだよ。どれだけの時間が経っても、どれだけ離れ離れになったとしても」

 

 ウタは大きく息を吐いて、その場に座り込む。

 気が抜けた途端、ワイパーとの戦闘で負った傷の痛みが全身に駆け巡った。

 顔をしかめながら、大きく深呼吸をする。

 

「……これからどうするつもりだ」

 

 ウタの前に同じように座り込んだワイパーは、軽い声で問いかけた。

 

「え、もしかして、仲間になってくれるの!」

「勘違いをするな。目的が同じならば、一時的にでも手を組んだ方が余計な体力を使わずに済むというだけだ」

「それって、仲間なんじゃ……」

「一時休戦、および同盟だ。エネルを排除したら、同盟も終わり。次はお前たちだ」

「……ふーん。じゃあ、そういうことにしてあげる」

 

 ウタはニヤニヤと口角を緩ませながら答えた。

 もう、彼はウタのことを敵として認識していない。味方……とまではいかないだろうが、それでも同じ目的を持つ者として、警戒心は解けていた。

 

「それで、これからの方針を聞こうか」

「うーん。とりあえず、黄金郷を目指すかなぁ。まずは鐘を見つけないとだから」

「それよりも、神官たちをどうするかを考えた方がいい。エネルたちはもう動き出してる。奴らをどうにかしなければ、シャンデラの灯へは辿り着けないだろう」

「えっ? もしかして、何十人もの人がこの島で動いてる音が聞こえるのって、あなたたちじゃなかったの?」

「お前……もしかして何も知らずにおれと戦っていたのか……!?」

「だ、だって、話も聞かずに攻撃してきたのはそっちじゃん!」

「それは……そうだが……」

 

 ワイパーはため息を吐きながら頭を掻く。

 ……と、その手が突然、ぴたりと止まる。

 

「待て。お前、その規模の動きを今、この瞬間にも聞いてるというのか?」

「集中すれば、そこそこ? やろうと思えばある程度までは聞こえるだろうけど、疲れちゃうから基本は戦闘中だけかな」

「……青海人に心網(マントラ)を使いこなす者がいるとはな。それに、アイサと同じレベル……いや、戦闘にまで応用しているのなら神官クラスか」

 

 一人でブツブツと呟くワイパーは、集中して視線を遊ばせたまま、

 

「もう一つ。お前の打撃は、普通の打撃とは何かが違った。だが、(ダイアル)を使っているようには見えない。どういうカラクリだ」

「あれは……そうだなぁ。見よう見まねというか。あなたが心網(マントラ)ってよんでる力に近いんだけど」

 

 ウタはグッと拳を握り、黒く光らせたそれをワイパーにコツンと当てる。

 

「……こう?」

「それで説明をしているつもりなのか……?」

 

 ドン引きしていた。

 だが、その意味はなんとなく理解しているようで、

 

「原理は分からないが、攻撃的な心網(マントラ)を身体の一部にまとい、擬似的な衝撃(インパクト)にしているということか」

「うーーん。たぶん、そう!!」

「無理はしなくていい。お前の説明能力の低さはよく理解した」

「ば、バカにしないでよね! 私これでも、この力の使い方はルフィよりもずっと…………あ!!」

 

 ウタは振り返って、

 

「ルフィ、どこ行ったの!!!」

 

 生きているのは分かっている。聞く力云々とは別の、何か信頼や絆に近い繋がりを第六感が知覚しているのだ。

 だが、どれだけ集中しても、ルフィの正確な位置が分からない。

 

「あああ、心配心配心配!! まったく、ルフィってば、私がいないとダメなんだから!」

 

 プンスカと頬を膨らませるウタは、両手を耳に添えて、遠くまでの音を聞く。

 

「気絶してるから音が小さいのかなぁ。でも、それにしてはなんとなく動いてるような……しかも、変な動き方……! 川にでも流されちゃったのかな……」

「それはない。この近くには川も雲の川(ミルキーウェイ)もない」

「じゃあ、気絶してすぐに起きたけど、何かがあって逸れちゃったから、ルフィはルフィで黄金郷に向かってるのかな」

「手応えとして、命まで奪った感覚はない。いずれにせよ、死んではいないだろうな」

「当たり前じゃん! ルフィは死なないもん! でも、そうだなぁ」

 

 う〜〜ん、と悩むウタは、長考の上で決断をする。

 

「まあ、黄金郷へ行けばまた会えるし、いっか! ルフィなら絶対、黄金郷にきてくれるもんね!」

「その結論に達するのなら、今までの話はなんだったんだ……」

 

 戦闘しているよりも、ウタのペースに付き合う方がワイパーの体力が削れているようだった。

 深いため息を吐きながら、ワイパーは呟く。

 

「とにかく、他の青海人と合流したらどうだ。神官やエネルを討つのなら、数が多いに越したことはない」

「確かに!! 名案だね! ナイス、……えっと」

「ワイパーだ」

「ナイス、ワイパー!」

 

 ぐっと親指を立てて微笑むと、ウタは早速皆の位置を把握するための準備に入る。

 大きな深呼吸。

 意識の深くに潜水し、集中するための呼吸。

 深く、深く。

 そして広く。

 

(チョッパーとロビンは……ある程度近い位置、合流は簡単かな。まずはロビンで……あ、ゾロはなんかすごいスピードで動いてる……? 南に向かって真っ直ぐ……黄金郷へはちゃんと進んでるから、現地かな。じゃああとは……)

 

 と。

 さらに遠くへと範囲を広げようとした瞬間だった。

 

「————ぇ」

 

 その気配は、異質だった。

 望遠鏡を覗いているのにもかかわらず、その先に立つ人物と目が合ったかのような、異様な感覚。

 寒気。次いで、悪寒。

 

「……うそ、でしょ」

「おい、何があった」

 

 青ざめていくウタの顔を見て、ワイパーも戸惑いながらその顔を覗き込む。

 

「どうして……メリー号に、エネルがいるの……!!!」

 

 脱出を目指しているはずのメリー号の方角へ、ウタは声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 人の肉が焼ける臭いを、ネフェルタリ・ビビは初めて嗅いだ。

 

「バカな男たちだ……。別に私は、お前達に危害を加えにきたわけではないというのに……」

 

 焦げた身体から、黒い煙が上がっていた。

 

「サンジくん……ウソップ……!」

 

 あまりに唐突なその攻撃は、その場の全員に何が起こったのかを考える時間すら与えなかった。

 ただ、この船にどこからともなく現れた彼が、ほんの少し近づいただけでサンジとウソップが敗北した。

 その事実だけが、ただ突きつけられる。

 

「みんなを、護らないと……!!」

 

 その身体を蒼い炎と毛皮で覆ったビビは、鋭敏になった鼻の奥に染み込む二人の焼けた臭いを感じて顔を歪ませる。

 勝てる勝てないかはどうでもいい。

 とにかく、この外敵をこの船から追い出せ。

 

蒼焔(ブルーム)……」

 

 バリリッ!!!

 

 蒼い炎が溢れる爪を、エネルへと向けた瞬間。

 ビビの身体に眩い閃光が迸った。

 貫く衝撃と高熱。

 それはさながら、神の怒りを具現化したかのような雷鳴。

 おそらく、ウソップもサンジもこの雷撃にやられたのだ。当然だろう。雷を生身で受けて無事でいる人間など、存在するはずがない。

 しかし。

 

「ぉぉぉおあああああ!!!」

 

 もし、その身体が獣の体毛で覆われていたら。

 もし、咄嗟に全身を分厚い翼が覆い、守っていたら。

 もし、常軌を逸した痛みに耐えうるだけの精神力を持っていたら。

 

 その爪は、神にも届くはずだ。

 

獅爪(レオーネ)ッッ!!!」

 

 直撃は、しなかった。

 神・エネルの心網(マントラ)は、閃光に隠れた鋭い殺気を感じ取っていた。

 しかし、それでも。

 

「……ほう。(わたし)に傷をつけたか」

 

 エネルの頬にできた小さな切り傷から、血が流れ落ちる。

 

「私の仲間を、これ以上傷つけさせはしないわ!」

 

 流れた血を親指で拭ったエネルは、小さく笑う。

 

「ヤハハ……! ならば、後悔させてやろう。予定よりも、ほんの少しだけ止まろうではないか!」

 

 メリー号の甲板で、腕を広げて笑うエネル。

 その表情から、余裕は消えない。

 しかし、驕りも油断もない。

 明確に。

 ビビは、神の敵だと判断されたのだ。

 

「守ってみせるわ。ネフェルタリ家の名にかけて……!」

 

 蒼い炎を灯す守護神が、神へと牙を剥いた。




ウタの誕生日までには、次の話もあげたいなぁ(願望)
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