買った玩具が本物だった話 作:うぉっ、でっか…
まぁ、流れも説明も大して変わらないのでお気になさらず。
混ぜるな危険。主に洗剤に書かれている言葉だが、ごくたまに違う物にも書かれている。
混ぜる事による化学反応で、危険な物質を生み出してしまったり、爆発してしまったり……人体に害を成す危険性がある物には、必ずそう書くものだ。
俺はその表示は人間にも適用されるだろうと、ここ最近そう思っていた。
一人はリヴィ。リヴィアリー・フラスベル。
銀髪のミディアムボブに碧眼、そして抜群のスタイルを誇る美女。纏う雰囲気は妖艶で、しかしどこかあどけなさを持つ。
今は俺と同居中であり、やたら異常な距離感と勘違いを引き起こしかねない発言の数々で俺の心臓と理性をある意味鍛えてくれた。
もう一人は、石動可憐。
桃色の髪に琥珀色の瞳。体全体のバランスに優れているが、太ももはややむっちりしている。美人という言葉の似あうリヴィと違い、可愛い美少女という言葉が適切な少女だ。
入学してまだ一週間ちょっとしか経っていないにも関わらず、既にこの学校の男達の大半を手中に収めていると言っても過言ではない彼女は、やけに俺に固執している。一緒に帰ろうと誘ってきたり、昼食を共にしようとしてきたり。揶揄った時の反応が一番面白いとのことらしいが、正直複雑だ。リアクション芸人扱いされて喜べる程俺は女に飢えていない。
―――さて、俺はこの二人と
ここ最近はリヴィと一緒に帰る日と、可憐と一緒に帰る日。可憐と一緒に昼食をとる日と、リヴィと一緒に昼食をとる日。そんな日が不定期に繰り替えされ、しかし二人が会う事は無い……そんな日々が続いていた。
そう。この瞬間までは。
「貴方、誰?」
「………私、石動可憐って言います。初めまして、フラスベル先輩」
出会ってしまった。意図的に互いの存在を知らせないように、知られないように立ち回っていた今までの俺が馬鹿みたいに、呆気なく出会ってしまったのだ。この二人が。
教室で、俺の席のすぐ近くで二人が見つめ合う。
互いにその瞳に剣呑な光を宿し、探る様に、挑発する様に、そして隙を見つければ即座に仕留めると言うかのように、口を開く。
「石動……噂を聞いた事がある。三日で一年生男子の殆どを骨抜きにしたと」
「はい。面白そうだったのでやってみました。結局、真先輩みたいに面白い人はいませんでしたけど」
面白い、っすか。
別に楽しんでもらう為の反応なんてしてないんだけどな俺。ただ思春期童貞男子なだけだぞ。
「なんで私を知っているの?」
「先輩も有名人だから、ですよ。どうもこの学校では、三年の華麗山先輩、二年のフラスベル先輩、そして一年の私が女子の中でも一際有名見たいです。………ま、当然といえば当然ですかねぇ」
可憐はともかくリヴィと魅御音先輩は戦乙女だし、美人でなんぼみたいな所はあるな。
因みに女性教員ではマリアさんがぶっち切りだ。戦乙女の美貌に並の人間が叶うはずもない、という事だろう。
ただ可憐も凄いな。こうしてリヴィと居ても全然劣らない。一般人とは思えないな。そんな子に気に入られるって、確かに側から見れば羨ましいことこの上ないだろう。
実際はそんな事無いが。
「さぁーって、と。フラスベル先輩は、真先輩とはクラス違うんですよね?なのにどうしてここにいるんですか?」
「真と一緒に帰る為、だけど」
「えー?それは無いですよぉ。だって先輩は
「……因みに三人で帰るという選択肢は?」
「ダメ」
「何言ってるんですか先輩。そんな優柔不断、ダメに決まってます」
「デスヨネー」
現在放課後。クラスメイト達は大半が教室に残っており、それどころか「あのフラスベルと石動が修羅場らしいぞ」と噂が広まったようで、周囲が外野で埋め尽くされている。
連中は俺が三人で帰る案を出した途端大ブーイングを始め、拒否された事に「ざまぁ」だの「当然だボケ」だの言ってくれやがった。俺がアウェイを感じているのは主に連中のせいである。まだ可憐とリヴィが一対一ならなんとなかった……なんとか、なったか?
「真、悩む必要はない。いつも通り、今まで通り、私と帰れば良い」
「先輩、私と
表情の特に変わらぬまま話すリヴィと、うるうるとした目を向け、あざといポーズと共に訴えてくる可憐。これで二人の向けてくる感情が本当に恋愛的な意味での好意だったら、どれほど幸せだっただろうか。ふと、そう思う。勿論現実逃避だが、過去に恋愛関係で酷い目に遭っておきながらそんな事を考えるのか、と我ながら驚いた。
思いの外、この状況に追い詰められているらしい。
なんか奇跡的な救済は訪れないだろうか。そう願った瞬間。
「真はいるか?」
野次馬の中から、艶やかな黒髪を伸ばした女性が姿を見せる。魅御音先輩。彼女もまた戦乙女であり、そのスタイルは並のグラドルが裸足で逃げ出すレベルだ。ややキツめの印象を与える目鼻立ちさが、美人である事に変わりはない。転入してきてすぐに話題になり、可憐が言っていたように、三年女子の有名人となっている。
「あぁ、やはりここにいたか」
「……えっと、魅御音先輩、なんの用ですか?」
「少し話があってな。リヴィアリーに……えっと」
「――――――石動。石動可憐です」
かなりの間を置いて、可憐が名乗る。俺の気のせいかもしれないが、どうも彼女の目が「信じられない」と言っているかのようで、少し気になった。
まぁ、リヴィも魅御音先輩も特に何も感じていないようだし、気のせいに過ぎないのだろうが。
「石動か。まぁ、なんだ。一度彼を借りても良いか?」
「今はダメ。真も私も忙しい」
「そもそも、真先輩になんの用ですか?」
「……なんの用、か」
困ったな、と呟く。
どうやらこの場では言いにくい話……恐らくは戦乙女関係。マリアさんからの連絡は無いし、魔人、魔族の出現では無いだろうが……今日の特訓に参加できない、とかだろうか。それくらいならメールで連絡してくれれば良いのに。
というか急ぎでも無い限り話はメール、或いは校舎の外でして欲しい。理由はもう言うまでもないだろう。
ただでさえ鋭かった野次馬達の視線が、もはや槍だ。そりゃ三学年の美女全員に名前呼びされているとなれば、嫉妬の視線も止む無しだろう。
俺だって野次馬側なら「なんでアイツばっかり」と睨んでいるだろう。
仕方ない。このまま魅御音先輩について行ってそのままフェードアウトしてやりたかったが、可憐もリヴィもそれを許してはくれない模様。
ならせめて三学年美女全員が俺の周囲に揃っている状況だけでもなんとかしようと「話はメールで良いですよ」という旨を伝えようとして、突然スマホが震えた。
リヴィも魅御音先輩も同時に震えたらしく、俺にアイコンタクトをとってきた。
……
「悪い、可憐。ちょっと用事ができた」
「何か、あったんですか?」
「あー……最近ちょっと習い事的なものを始めてな。そのインストラクター的な人に呼び出し喰らっちまった。あの人呼んだらすぐ行かないと怒る人なんで、さっさと行ってくるわ。ま、放課後デート?的なのは明日埋め合わせすっから。んじゃ!」
「あ、先ぱ―――」
可憐の言葉も、リヴィや魅御音先輩も置いて、俺は先に教室を出る。野次馬達に阻まれそうになったのを(恐らくそんな終わり方は許さないぞと言いたいのだろう)フィジカルで乗り越え、廊下を駆け抜け、メールを確認する。
やはりマリアさんだ。いつも通り、地図と用件が手短に書かれている。
「?なんかいつもと違うな、これ」
完全にいつも通りかと思えば、文章の末尾に一言付け足されていた。
【対象は確実に抹殺すべし】……少し不穏なその言葉に、俺は嫌な予感を感じざるを得なかった。
※―――
走り去っていった彼の背に伸ばしていた手を、力無く下げる。
野次馬達が不満げな声をあげながら解散していくのをぼんやりと眺めながら、すでにこの場にいない三人を思い出す。
「……真先輩、ゲテモノにばっかり好かれるんですね」
誰にも聞き取れないような微かな声。俯き気味の彼女が発した言葉は、自分と真を取り合っていた二人に向けてのものでもあった。
(まさか『神速』だけじゃ無くって、華麗山家の女にまで、だなんて。さすがは先輩というべきなのか、それともなぜ先輩がというべきなのか)
戦乙女。彼女はそれを知っている。
同業者としてではなく。
「あ、あのさ、石動ちゃん。もし良かったら天谷の代わりに俺が」
「ごめんなさい、私先輩以外と遊ぶつもりないんで」
勇気を出して声をかけてきた見知らぬ男をそっけなくあしらい、彼女は教室を去る。
今までどんな相手にも小悪魔的態度をとっていた彼女の豹変具合に、拒否された男は卒倒し、勇者を見守っていた野次馬達は慌てて駆け寄る。
きっと、普段の彼女ならその誘いもやんわり断れただろう。相手の劣情を煽りながら、不快な思いをさせずに拒否できただろう。
しかし一緒に帰るつもりだった真は先に帰ってしまい、しかも彼には彼女が殺すべき相手である戦乙女が二人想いを寄せている(魅御音の方は恋慕という様子ではないのだが、彼女には真を狙っているように見えた)というこの状況は、彼女に凄まじいストレスを与えていた。
その上、『神速』と共に始末するように命令されているキマイラを発見できず、それをディゴリーやセドリックから色々と言われているのもストレスだった。
そりゃ不機嫌にもなる。
(あー。ダメだ、私。今すっごくイライラしてる。先輩はただ習い事に行っただけのはずなのに、まるで『神速』達に取られたみたいに感じてる。多分、同じタイミングで出てったからだ。私も、立ち止まってないで途中まで一緒に行くとかすれば良かったのに)
カツカツと足音を鳴らしながら、ほぼ小走りで廊下を歩く。
溜まりに溜まったフラストレーションの行き場を探すように乱暴に歩き、ふと何かを思いついたように立ち止まる。
(キマイラが見つかるまで、って思ってたけど。先に『神速』殺しても同じじゃない?そりゃ、先輩は突然あの人が居なくなったら訝しんだりするだろうけど……正直、邪魔だし。最近偶々手に入れたアレも、試したいし)
この一週間で、彼女はさらに真を気に入っていた。勿論恋愛感情なんかではない。リヴィと違い、彼女は
だが、面白い人だとは思っている。揶揄った時の反応は勿論、素の会話も。仮に相手が告白して来たなら、まぁ先輩なら付き合ってあげても良いかな程度には思っている。
そんな彼女にとって、リヴィアリーは戦乙女という時点で敵であり、自分と真との時間を奪う点でも敵だった。
「どうせ先輩と『神速』は、今は一緒にいないだろうし……一旦やってみますかー」
軽く。相手の命を奪うという選択を、あっけらかんと口にして。
外に出た彼女は、全員の視線が彼女以外の物に向かった瞬間を確実に狙い、跳躍した。
※―――
地図の示す場所に着いたときに、感じた違和感が二つ。
一つは、結界が貼られている時特有の揺らぎが無い事。
もう一つは、巨大な斧を手に立ち尽くす女性がいる事。
今まではマリアさんに指示された場所には魔人ないし魔族がいた……つまり、結界が貼られていたのだが、それが無く。代わりに明らかに戦乙女とわかる人が、俯いたまま立っている。
少々不気味に感じながらも、恐らく俺達よりも先に戦闘を開始し、敵を取り逃がしたとかだろうと考え、俺はゆっくりと彼女に近づいた。
「あの、すみません。戦乙女の人、ですよね?」
「…………」
返事は無い。背後のリヴィと魅御音先輩にアイコンタクトを取ってから、もう一度声をかけようともう一歩近づく。
すると、彼女の肩が揺れ、その瞬間凄まじいプレッシャーが俺を襲った。
それに反応し、即座にその場を離脱する。後退した俺の目に映ったのは、俺がいた場所が彼女の斧によって砕かれた瞬間だった。
「なっ」
「戦乙女、ねぇ。戦乙女。確かにそうかもしれないわ。私は戦乙女。―――
ブツブツと、独り言のように彼女が呟く。戦乙女特有のスーツを、なんと己の手で破き去り、大事な部分のみがギリギリ隠れているような危なっかしい恰好へと変わった。
それはまるで、己が戦乙女ではないと視覚的に示すように。
「魅御音ェ、覚えてる?私よ、私。組織で何度か、顔を合わせた事があると思うけど」
「っ、ま、まさか、
俯くのを止め、その顔が良く見えるようになる。美人ではあるが、影のある表情をしており、美しさよりも不気味さが先行した。
隣に立つ魅御音先輩が名前を呼ぶ。どうやら、彼女の知り合いだったようだ。
……「だった」って、なんで過去形なんだ?
いまいちピンと来ていない俺と対照的に、二人は既に彼女がどうなっているのか理解したようだ。
知り合いらしき魅御音先輩は勿論、リヴィの方も無表情ながら悲痛に思っている事が伝わる。
「そうよ、えぇ、そう。愛羅よ愛羅。覚えててくれて嬉しいィ」
「…………言わずとも、わかるよ。あの日、任務に出て帰ってこなかった日以来、心配していたが……
魅御音先輩の言葉に、再び愛羅とやらが俯く。そしてブツブツと何かを呟きながら、肩を震わせる。段々とその震えは大きくなり、いつしかヘドバンでもしているかのような揺れに変わり、また突然止まる。
怖い。まるでジャパニーズホラーだ。ジワジワとした恐怖が、言いようの無い不安感が、俺の心に生まれる。
しかしリヴィ達はそうでもないようで、彼女のその姿を見ても、まるで何か憐れんでいるような目をするのみだ。
「魅御音ェ」
「……あぁ」
「私―――汚されちゃった」
汚された。その言葉を聞いた瞬間、いつぞやマリアさんから聞かされた話を思い出す。
戦乙女の中には、魔人や魔族に従う者がいる。
そうした者の大多数は『反転』させられた戦乙女だというのだ。
『反転』とは、聖なる心を持つ戦乙女が、己の欲望のままに振舞う悪しき存在である魔人、魔族によって染め上げられる事。直接的に言うなら、戦乙女の子宮が魔人や魔族の精液によって満たされた瞬間にソレは成立する。
魔力は生命のエネルギー。そして性行為は、生命エネルギーをやり取りする最大の方法。
房中術などがいい例だろう。男性の気を精液として子宮で受け止め、女性が胎内で己の気と交わらせる。
実際はかなり極めた者以外は相手に与えられるまま気を受け止めてしまい、相手に染められてしまう……つまり、そうして『反転』が成立してしまうらしいが。
魔力というのは、徹頭徹尾自分の物だ。分け与えるとか、そう言った事は原則不可能。リヴィの神器なんかはイレギュラーだが、それにしたって相性はある。
魔力は臓器のような物だ、とマリアさんは語っていた。
『一気呵成』のように、相性のいい使い手でなければ噛み合わない点も。
魔人や魔族の魔力を、性行為という形で
「変、なの。嫌なのに、嫌で嫌で嫌なのに、もう逆らえないの。抗えないの。―――壊れちゃったの」
「……魅御音」
「あぁ。わかっている。―――コレで、二度目だ」
能面のように無表情で。しかしどこか沈痛さを感じさせる表情で、魅御音先輩は呟く。
リヴィも憐れむような目を止め、感情を押し殺した顔になる。
同じ戦乙女として、同じ女として。敗北し、汚された彼女は、救えない……たった一つ、殺す以外で何もしてやれないとわかっているから。する事は一つで、してやれることも一つで。その選択を、せめてしくじらない様にと、己を殺す。
わかっていた事ではあるけれど、しかし本当に、この戦いは過酷だ。
関係ないにも関わらず、自然と歯噛みしてしまう。光の無い瞳をこちらに向け、涙を流し続ける彼女を、これ以上見ていられない。
ドライバーを取り出し、腰に巻き付ける。
魔人は何度も殺した。魔族だって同じだ。人型をしていても、そうでなかったとしても、そいつらを殺す事に忌避感を感じる事は何故か無かった。
―――けれど、今度は戦乙女だ。自分では
ソレを、どうしようも無いからと言って殺すのは、流石に躊躇してしまいそうになる。
『ツインキメラ!』
「………あ。その、神器」
「俺はアンタを知らないし、はっきり言って部外者も部外者だ。けど、傷ついたアンタをどうにかしてあげたい気持ちもあるし、これしかアンタにしてやれることが無いのも事実だ。だから」
『キング!ダイル!Come on!キメラ!キメラ!キメラ!』
「変身」
『スクランブル!』
ゆっくりと目を閉じる。
やる前から気分が最悪だ。こんな気分になったのは、初めて魔人を殺したあの時……いや、アレすら比べ物にならない。
リヴィも魅御音先輩も、俺が変身するのを止めなかった。それどころか、武器を構えて俺の隣に立つ。
本当にこれしかないのだ。俺がマリアさんから聞かされた情報がやや古く、実は最近は殺さずとも反転した戦乙女を救う方法が……なんて、都合の良いコトは無かったのだ。
『キングクラブ!クロコダイル!仮面ライダーキマイラ!キマイラ!』
「……キマイラ、あぁ、キマイラ。殺さなきゃ、殺して、奪って、魔人様に」
わなわなと震えながら、斧を構える。それはきっと彼女の意志じゃないのだろう事が、彼女の言葉から伝わってくる。
魔人様。身も心も穢されきった彼女には、喪失感と絶望感以外に、それしか残されていないのだろう。
「……俺、アンタの事全然知らねぇけど。だけど、アンタの悲しみとか、辛さとか……そういうのは、なんとなくだけどわかるよ。―――その上で、ごめん。俺にできるのは、これしかねぇんだ」
バイスタンプを横に倒す。
せめて、リヴィや魅御音先輩に直接手を下させないようにと、俺が前に出る。リヴィ達はそれを止める事無く、じっと視線を向けてきていた。
待機音が響く中、一歩ずつ近づく度に震えが大きくなっていった彼女は、ついに自分から駆け寄って来た。大きく斧を振りかぶり、そして叩き潰さんと振り下ろす。
ソレを限界まで引き寄せた上で回避し、バイスタンプを再び三度、倒した。
「せめて、安らかに」
『ツインキメラエッジ!!』
生じた隙を逃さず、蹴りを叩き込む。無防備な彼女のボディは簡単に攻撃を喰らい、そして崩れ落ちた。
ビリビリと、紫電が走る。爆発の予兆だ。
「……魅御音。お願い、あの人を―――セドリックを、殺して」
死を直感で理解したのか、愛羅は魅御音先輩に視線を向けて、そう呟いた。
その言葉に彼女が頷いた事を見届けると、愛羅の体は爆散し、後には何も残らなかった。
セドリック。どうやら、彼女を『反転』させた魔人らしい。
先輩はその名前を小さく呟くと、拳を力一杯に握りしめ、どこか遠くを睨んだ。
「リヴィアリー。真」
「ん」
「なんだ?」
「いつか、セドリックという魔人、或いは魔族に会った時。その時は私に譲ってくれ。ヤツは―――私が、直接殺す」
サーベルを地面に突き刺しながら宣言した彼女に、俺もリヴィも、拒否する事なんて無く。
無言で頷き、託された彼女に任せる旨を言外に伝える。
「ありがとう」
「……ただ、セドリックなんて魔人、聞いた事無い。戦乙女一人『反転』させるくらいには力を持っているんだろうけど……」
「誰かの部下、とかじゃないのか?それこそこの間のヴィヴィアンとか言うヤツも、ディゴリー?だか何だかの部下だったみたいだし」
「……魔人は基本群れないが、圧倒的な強者と対立しかけた場合はその限りではない……セドリックのみを探すよりも、ディゴリーのような他の魔人を支配下に置いているような者を探す方が効率的かもな。それに、セドリックが魔人ではなく魔族の可能性も捨てられはしない。知性ある魔族も、実際存在するしな」
過去に知性ある魔族に殺されかけた彼女だからこそ、その可能性もあると疑えるのだろう。
考え込む魅御音先輩に、カッコいい先輩だなとなんとなく思った。
―――その瞬間。周囲が、突然暗くなる。
「結界!?」
全員が一斉に構え、周囲を警戒する。
反転した戦乙女、愛羅だけが呼び出しの原因かと思っていたが、どうやらそうでは無かった―――或いは、結界無しでの戦闘で、俺達の気配を感じ取った新手がやって来たか。
変身状態を維持してラッキーだった、と仮面の中で微かにニヤけつつ、いつどこから敵が来るのかと視線を巡らせる。
「あーあー。可哀そう、可哀そう。『反転』させられるくらい滅茶苦茶にされて、最後は仲間に殺されてー……って感じですかね?さっきの人。途中から見てたんで、いきなりの御涙頂戴でびっくりでした」
「っ、誰だ!!」
声だけが聞こえて来る。エフェクトのかかった用な、しかし先程死んだ彼女を馬鹿にしている事だけはよくわかる声が。
そして、遅れて姿が見える。
黒く、そして一部分だけが血のように赤い、その姿が。
「じゃーん。私、『神器使い』の魔人でーっす♪」
きゃぴ、と擬音が付きそうなあざといポーズを取ったのは、絶対にそんなポーズをしないであろう存在。
仮面ライダーリバイスに登場するキャラクター、クリムゾンベイルだった。
一人称視点のが書きやすいけど心情の説明をするときにどこまで主観を入れるかとかで悩むのが鬼門。
特に今回みたいな場合は凄く書きにくく、自分もまだまだだなぁと思いましたね。
後、クリムゾンベイルの変身者ちゃんは真が変身する瞬間を見ていません。大体、キマイラが愛羅に近づいているあたりで到着しました。
【簡単なキャラクター紹介】
最後まで「心だけは」と強く気を持ち続けた為、実は反転は不完全。完全な反転をしていた場合は魅御音を思い出す事も、真の攻撃を大人しく喰らう事も無かった。また、服を自ら破いたのは精液がこびりついていると幻視した為であり、それも不完全な反転を遂げたが故。
最後まで苦しむ事になった彼女にとって、尊厳を守り抜くという選択肢は正しかったのか、それとも完全な反転を受け入れる……つまり快楽に流されるという選択が正解だったのか。それは、彼女のみが知る事である。