買った玩具が本物だった話 作:うぉっ、でっか…
……これ、仮面ライダーが原作扱いで良いのか?
夜。住宅街を出歩く人なんて数少なく、遅い時間に帰宅するサラリーマンや、コンビニにでも行くのだろうラフな格好の人と偶にすれ違う程度。
そんな時間帯に、俺はジョギング……と言いながら、ペースを全く考えない全力疾走をしていた。因みに目標距離は最初なので一キロ。タイムが縮まったり、体力に余裕が出来たりしたら伸ばすつもりである。
「はぁっ、はぁっ、げほっ」
息を切らし、咳き込みながら、フラフラと情けない姿を晒しながら走る。
こんな苦行をしているのには、勿論理由がある。先日の、『魔人』の一件があったからだ。
最初こそ半信半疑だったものの、今となってはあの話は全て本当なんじゃないかと思っている。実際俺のキメラドライバー(?)が変身だけでなく、必殺技まで使えたわけだし。アイツだって、結界?とやらを貼ったりしていた。
仮に嘘が混じっているのだとしても、超常的な力が存在して、それを操るヤツがいるってのは事実だろう。なら自分の身を守るためにも、力をつける必要がある。
―――最初こそ後悔とか色々な感情に悩まされたけど、今はすっかり落ち着いてしまった。
一般的な日本人だと思っていたが、俺はどうやら少しネジが外れているらしい。或いは中二病がまだ治っていなかったか。こんな状況にもなって、実際に人の命を奪っておいて、俺はまだゲーム感覚というか、遊びの延長気分というか。
「やぁっ……と!一キロ……!!」
アスファルトの上に倒れ込み、流れる汗をそのままに深く深呼吸を繰り返す。明らかなオーバーワーク。普通の人間なら、これを毎日繰り返すなんてバカでしかない。
が、俺にはキメラドライバーがある。
『ツインキメラ!』
『キング!ダイル!Come on!キメラ!キメラ!キメラ!』
もしもの為に備える、という事で色々と確かめてみたのだが、その結果としてわかった事がある。
まず一つに、変身中の
どうやら少しずつだが、変身状態を維持していると体力が回復するらしい。軽く刃物でつけた傷すらもしばらく経てば治ったし、変身しっぱなしの方が実は体に良いのかもしれない。変身に負荷がかかるタイプのライダーのはずが、随分な親切設計だ。これも、『神器』と呼ばれるアイテムだからこそ、なのだろうか。
俺がこうして、常人ならすぐに体を壊しかねないオーバーワークに励んでいられるのも、この回復があるから。変身して大体十分くらい経てば、この全力疾走で尽きた体力その他諸々は完全……とまではいかずとも、次のトレーニングに移れる程度には回復する。
『スクランブル!』
『キングクラブ!クロコダイル!仮面ライダーキマイラ!キマイラ!』
―――まぁ、第三者からすればコスプレした人が路上で倒れ込んでいるシュールな光景ができちゃうわけだけど。
見られないようにするために人通りが極端に少ない場所を選んでるし平気平気。
そして二つ目にわかった事。それは、現状俺が変身できる仮面ライダーがキマイラしかない事。
これが、俺が今必死に体力づくりに励んでいる最たる理由と言える。早い話、仮面ライダーダイモンや仮面ライダージュウガに変身するための肉体が、まるで出来ていないのだ。
どうやらキマイラの負荷は今の俺でも十分耐えられる……どころか、
「……そりゃ、戦う戦わないに関わらず、ただ仮面ライダーに変身したいって思っちゃうじゃねぇの。ダイモンもジュウガも、俺なんかが成るのはおこがましいようなライダーだけど―――さっ」
体を起こす。大分回復した。これなら、歩いて家まで帰った後も、筋トレに励む事が出来る。
ここ最近は、学校が終わるとすぐに家に帰ってジャージに着替え、こうしてランニングから筋トレを――という風な生活を続けている。何なら、並の部活生よりも運動しているんじゃ無かろうか。
バイスタンプを引き抜き、変身を解除。日が結構沈んでいる。最後の方は走っているとは言えないようなノロノロとした動きだったしな。これくらいの時間になっていても仕方ない。
さ、暗くなったら大変だ。俺の住んでいる場所は格安のアパート。つまり、住宅地の奥の方。駅も気軽に買い物できるようなコンビニその他諸々も無い、何なら街灯が殆ど壊れかかって夜は真っ暗な場所。家賃が安いだけある、都会の田舎である。その癖無駄に入り組んでいるから、自宅付近で迷子なんて事になりかねない。
さっさと行こう、と首にかけたタオルで汗を雑に拭い、歩き出そうとしたその時。
微塵も気配を感じさせること無く、いつの間にか俺の前に何者かが立っていた。
「……」
フルフェイスマスクに、体のラインが良くわかるボディスーツ。手には黒い革製らしき手袋と、怪しさ満点の女だ。なぜ女だとわかったって?そりゃ、あんなデカい物を胸にぶら下げてたらわかるだろうよ。
―――ま、エロスよりも不気味さしか感じねぇんだけどな!
こんな道の真ん中で立ち止まるなんて珍しい……だなんて、さっきまで道で寝転んでいた俺が思うのもアレだが、そんな事を考えながら、横を通り過ぎようとしたその時。
「
「ッ!」
女の声。目の前の不審者が告げた名前は、俺の名前だった。
つい身構えてしまう。なぜならこんな知り合い、俺にはいないからだ。こんなバキバキ不審者な恰好をするような人も、こんなエロい体つきの女も。
特技の裁縫技術を生かしジャージに作った、ドライバーをしまう用のポケットに手を伸ばす。いつでも変身できるように。いつでも、バリアを貼れるように。
俺の仮面ライダー性能実験の中で知った事の三つ目は、『魔人』の男との戦いの際も出現した防御壁。どうやらアレ、俺の身に危険が迫った時か、俺が望んだ時に出現するらしい。使うと軽く体力を消耗するから、出しっぱなしにするわけにもいかない物だった。
「一応聞くけど、知り合い?」
「いいえ。初めまして、だけど」
「………じゃあ、なんで俺の名前を?」
「今はそれは関係ない」
「か、関係ないって」
俺の言葉を遮るように、目の前の女はヘルメットを外した。瞬間露になるのは、初雪のような美しい銀色の髪と、美しい顔立ち。
とんでもない美人だ。この体でこの顔。人間国宝って多分こういうのを言うんだと思う。
つい黙ってしまう俺に、彼女は無表情のまま、頭を下げた。どこか気取ったその姿に、俺は何の違和感も覚えず……寧ろ、彼女こそこういう所作が似合うという風に思ってしまい、その現実離れしているような姿に生唾を飲み込んだ。
「私はリヴィアリー・フラスベル。『
初めて会う『戦乙女』は、あまりに美しい、まさしく『神の使い』と言うべき人だった。
※―――
「粗茶ですが」
「ありがとう」
『戦乙女』、リヴィアリー・フラスベル。初対面でしかなかったが、俺に用があるとのことだったので、一先ず家に招く事に。
こんな美人を家に連れ込む日が来るとはな、と内心少し感動したが、いざ茶を渡して真向かいに座ると、別の緊張が込み上げてくる。
『神器』。俺の持つ物だと、キメラドライバー。
あの『魔人』の話が真実だとすれば、本来『戦乙女』にしか宿らないような特別な力が、コレに眠っているらしい。というか実際、使った。『キングクラブエッジ』―――最強生物、キングクラブの力を解放する必殺技を俺はあの男相手に二度も使ったし、最近の特訓では空打ちを何度も行った。
恐らく、彼女が俺の下に来たのは、このキメラドライバー+その他についての話をするため……或いは、奪ってでも回収するため。
そう考えれば、いつまでも顔を眺めて高揚しているわけにもいくまい。
まずは慎重に会話を行い、最大限情報を引き出す。それが第一目標だ。
「……美味しい。貴方、お茶を入れるのが上手」
「あ、あぁ。凝り性なんで。一度ハマると、とことんこだわるんだ」
ジャージや制服の内側を改造してポケットを付けたのは、俺が一時期裁縫にハマって、色々作ったから。今こうして入れた茶が美味いのは、一時期茶を入れて飲む事にハマっていたから。
なんというか、人生に無駄なんて無い、って事を改めて実感できている気がする。
少ない口数はそのままに、少し柔らかい表情を見せて、リヴィアリーは早速本題に入った。
「あまり緊張しないで。既になんの用件かわかっているみたいだけれど、貴方にとって不都合な話にはならない……と、思うから」
「……『神器』、とやらの話だろ?」
「そう。よく知ってるね」
「『魔人』ってヤツに聞いたからな」
俺が目に見えて緊張しているのが分かったからか、少し優しくなっていた彼女の態度は、俺の言葉によって絶対零度の物へと変貌した。
『魔人』。馬鹿正直に言ってしまったが、そう言えば『戦乙女』の敵なんだっけか。
「『魔人』に、知り合いでも?」
「いねぇよ。俺の教室に、攻撃してきた奴がいたんだ。ソイツなら何か知ってるんじゃないかって聞いたら、色々教えてくれた」
「そう……なら、その『魔人』は」
「俺が殺した」
「―――単なる一般人が?」
「『神器』があれば可能だって、アンタもわかってるんじゃないか?―――別に、俺だって驚きだよ。いくら自分の命に危険が迫ってたからって、あんな簡単にさ」
疑うような視線を向けて来る彼女から目を逸らし、自分の右手を見つめる。何度も叩きつけた拳。止めを刺す時、振り下ろした手。
なんであんな躊躇なく殺せたんだろう、とか、なんで今もそこまで気にせずにいられるんだろう、とか色々思わない事はないが、逆に言えばそれくらいしか気にならない。
人を殺した重さ。ソレについて、全く考えていないのが現状。それは多分、日本人……どころか、人間としておかしいと思う。
俺を見て、言っている事が事実だろうと判断したのか、リヴィアリーの纏う雰囲気が再び柔らかくなる。無表情な上、言葉に込められる感情も少ないというのに、なぜかわかりやすい人だ。なんだか不思議な気分になる。
「……とにかく、私が今日ここに来たのは、『神器』を渡せ、とかそういう話じゃない。どちらかと言えば、頼み事をしに来た」
「一緒に戦ってくれ、とかか?」
「その通り」
あの時と同じように、冗談めかして言った事をそのまま真実だと肯定される。俺はもう、下手な冗談を言わない方が良いかもしれない。
真っ直ぐに俺を見つめてくる。思春期の童貞という、女性に対する免疫が極限まで無い俺は、その視線だけでなんでもいう事を聞いてしまいそうになるが、ここで理性が待ったをかける。
一緒に戦う。それが意味する事が、分からないのか。と。
また『魔人』や『魔族』とやらと、殺し合う必要が出てくる。寧ろその殺し合いの世界に生きる事になるのではないかと。
そりゃ、鍛えているんだし、仮面ライダーキマイラになればある程度は戦えるだろう。だが、進んで命の危険に向かっていくのは違う。俺が鍛えているのは、あくまで自衛のため。万が一襲われた時の、備えに過ぎない。後は趣味の延長だ。
本格的な戦いの渦中に、なんて……そんなの、無理だろう。
だが、どうせ戦う事になるなら、最初から突っ込んでいった方が良いのでは?という考えも捨てられない。
キメラドライバーが俺の手元にある限り……ともすれば、俺の手元から離れようと、この世界に超常的な力があって、ソレを使って他人を害そうとしているヤツが居る事は変わらない。目を背けていれば無事、だなんて、俺は思い込めない。仮に今まで一切そんな争いに巻き込まれた事が無いとしても、知ってしまった以上気が気でない。
だったら、目の届くようにしたらよいのではないか。今は別居中の家族に、大事な親友に、連中の魔の手が伸びないように暗躍するのが力を手にした者としてすべき事ではないのか。
「……いきなり、そんな」
「できればすぐに決めて欲しい。けどそれが大変な事くらい、わかる。だから、考える時間を用意しようと思う」
そう言って、彼女は席を立った。俺が呼び留める間も無く、背を向けて歩いていく。
いやエロい体してんなマジで。少し真剣にシリアスな事考えてたってのに、全部ぶっ飛んじまったぞオイ。
やっぱり仮面ライダー失格じゃないか!こんな欲望の塊。せめてオーズ関連のライダーに……いや、俺この状態でオーズに変身したら不味い事になるな。やっぱキマイラがナンバーワン。
「お、おい」
「三日。三日後に、また来る。次会う時には、決めておいて」
「そうは言っても……!」
「天谷真」
名前を呼ばれる。何とかして引き留めようとする俺に、ソレは無駄だというように、静かな瞳を向けて来る。
「―――貴方には、この世界を救う資質がある」
「は、はぁ?」
「じゃあ、また三日後に。―――次に会う時が、別れの日にならない事を願ってる」
そう言って、今度こそ彼女は家を出て行った。
残された俺は、伸ばされた右手が行き場を無くし、申し訳なさげに戻るだけ。
一瞬見えた、彼女の表情。ずっと無表情だった彼女が、ほんの少し見せたあの顔。
それは、命の危険を承知で戦いの世界へと足を踏み入れる事すら是としてしまうような、素敵な物で。
「………けどやっぱ、怖ぇよ」
されど、口からこぼれたのは、とても情けない一言だった。
※―――
『で、どうだったの、リヴィ』
「結果は三日後。あの様子だと、多分ダメだろうけど」
『待ってあげる事にしたんだ、珍しい。アンタの事だから、すぐに「さようなら」するか脅してでも仲間にするかだと思ってたけど』
「………別に、いつもそんな手荒な事……」
『アンタが勧誘した相手、大抵貴方の事怖がってるわよ。悪印象を持ってないのは、それこそ最初から乗り気で入って来た子だけ』
「………」
今時珍しいガラパゴス携帯。それを右耳に当てながら、リヴィアリーは住宅街を歩く。とてもミスマッチな姿だが、彼女がそれを気にする事はない。そもそも、彼女はあまり人の目を気にするような者でもない。
『それだけ気に入ったってこと?それとも、ただ自分の不人気を気にしただけ?』
「別に、不人気とか、どうでも良い……」
『あー、うん。なんとなく分かったわ』
「待って、違う。勘違い。―――私はあの男に……天谷真に、資質を感じただけ」
『資質ぅ?』
電話の相手も、勿論女性だ。明るく、軽いノリで話す彼女の背後からは、男の悲鳴が聞こえる。通話相手の得意とする仕事、拷問の最中だからだ。
生爪をはがし、傷口に塩と胡椒を塗り込む。それをバーナーで炙り、傷口を徹底的に苛め抜く。その作業の最中、彼女の仕事部屋はまさに地獄そのものと化すのだ。
彼女は慣れた手つきで男を拷問しつつも、電話越しのリヴィアリーの言葉に首を傾げる。それと同時に、珍しい事もあった物だ、と口にせず驚く。リヴィアリーは他人と馴れあわないし、そもそも他人を認めたり、気に入ったりすることが極端にない。数少ない話す相手は現在通話中の女性くらいだ。
天谷真。彼女の知る限りでは、本当にどこにでもいるような、別段珍しくもない高校生のはずだったが。
「……『魔人』との交戦が確認されて以来、数日間監視を行った」
『そうね。貴方、接触前にターゲットの行動を確認するの、ルーティンだものね』
「彼は常に、常人の領域を超えたトレーニングを行っていた。理由なんて、無いはずなのに」
競歩のような速度だったのが、どんどんと緩やかになっていき、最終的には立ち止まる。夕日を背に、茜色の空を見上げて、彼女は数日間の監視と書類で確認した彼の情報を脳内でまとめる。
『『魔人』と交戦して、命の危険を感じたから、じゃないの?戦う力を活かせるように、って』
「だとしても、アレをずっと続けるなんて異常」
『毎日一キロを全力疾走でジョギングして、基礎的な筋トレを何千回も。その上深夜になっても『神器』を利用した技を空打ちし続けて、肉体を極限まで追いつめている……だったかしら?貴方の監視結果』
「……『神器』の力を使うのは、相応の負荷がかかる。変身、と呼ばれるあの力ですら相当のはずなのに、技を何発も、まるで自分の限界を測るような。いや、いっそ超えようとしているような、無茶な特訓」
『そんなの、アンタだってしてたじゃない』
「わけが違う。幼少期から、使命があるからと強くなろうとしてきたワケじゃない。家族を奪われたとか、故郷を奪われたとか、そういう動機があるわけでもない。―――ただストイックに鍛錬を続ける。ソレの恐ろしさを、マリアは知らないだけ」
『……まぁ、私は技術を磨く方ばかりだしねぇ。で、それだけじゃないんでしょ?アンタが気に入るってんだから、もう一個くらいあるんじゃないの?』
電話の相手……マリアの問いかけに、リヴィアリーは瞼を閉じて、先ほどの真とのやり取りを思い返す。一緒に戦ってくれと頼んだ時やそれ以降は、別段他の一般人と大して変わりなく。寧ろつまらない側の人間だった。
―――だが、
普通なら、誰だって慄いてしまうだろう状況でも、彼は全く変化を見せなかった。殺気を向けられているとわかった上で、冷静さを一切失わなかった。
それが彼女が「気に入った」最大の理由であり、戦いの場で役に立つであろうと判断した理由である。
そのことを告げると、マリアは「ふぅん」とだけ言い、近くの男の指に刃を突き立てた。スピーカーを壊すような音が響き、リヴィアリーは不機嫌そうに顔を顰めた。
『ま、アンタが気に入った相手なら私も気になるわ。三日後、良い知らせを楽しみにしてるわね』
「………最悪、脅してでも連れてく」
『アンタ、そんなだから15になっても処女なのよ』
「っ、そ、それくらいが普通じゃ」
『今時の若い子なんて、12過ぎりゃ普通に開通済みらしいわよ~?いい加減、良い男見つけなさいな』
「……マリアだって、恋愛経験豊富ぶってるくせして独り身の癖に」
『は、はぁあああああっ!!?アンタ帰ってきたらただじゃ済まさないから!』
「こっちのセリフ……!!」
因みにですがマリアさんは日本人ですし、リヴィアリーはハーフです。
日本を守る『戦乙女』は、日本と関わりのある人ばかりなので。基本。