異世界魔女の配信生活 作:龍翠
『いつものモザイクでわからんけど、幼女なのは分かった』
『子供は怖い物なしだからなw』
『女の子からしたら魔法少女が目の前にいる感じかな!』
んー……。私もちいちゃんと一緒にアニメをいくつか見たから魔法少女はなんとなく分かるけど、私はそれとは全然違うと思うんだけどね。マスコットなんていないし、あんなキラキラした服じゃないし。
でも女の子はそんなのは関係ないみたいで、にぱっと笑った。
「まほうしょうじょ!」
「ん……。魔法少女じゃない」
「まほうつかえない?」
「使えるよ」
「まほうしょうじょ!」
「ええ……」
『なかなかにレアなリタちゃんの困惑顔』
『魔法が使える女の子、つまり魔法少女』
『なるほど間違ってないな!』
前提の方がそもそもとして間違ってると思うよ私は。
どう反応したらいい分からなくて困っていたら、この子の両親らしき人たちが走ってきた。女の子の側まで来ると、慌てた様子で抱き上げる。男性の方が勢いよく頭を下げてきた。
「申し訳ありません! テレビであなたのことを知っていて、魔法少女だと信じているようでして……! まさか会う機会があるなんて思わず……!」
「ん……。大丈夫」
別に何かされたわけでもないし、ね。
女の子の方を見ると、楽しそうに手を伸ばしてきた。
「まほー! まほー! みせて!」
「こ、こら!」
女性が注意してるけど、それぐらいは別にいいと思ってる。こういう時に見せる魔法は決まってるけど。
魔法を使って、作り出すのはたくさんのシャボン玉。見栄えもいいしこれが一番だよね。
女の子はシャボン玉を見ると、わあ、と歓声を上げた。
「しゃぼん! しゃぼん!」
「きれい……」
「これはすごい……」
『いいなあいいなあ、俺も見たいなあ』
『近くの港まで来た。船からシャボン玉が流れていってる』
いつの間に船は動き出していたみたい。シャボン玉は船の進行方向とは逆向きに流れていく。その場に作り出すだけの魔法だから、一緒についてくることはない。
でもそれはそれで女の子にとってはなんだか幻想的に見えたみたいで、すごく喜んでくれた。見ていて楽しいから、もう少し作ってあげよう。
「しゃーぼん! しゃぼーん!」
「かわいい」
『おまかわ』
『おまかわ』
こうして魔法で喜んでくれているのを見るのは、悪くない気持ちだよ。
船からの景色を楽しみながら、シャボン玉を作る魔法を使っていく。特に負担にならないから出しっぱなしだ。いつの間にか子供の人数も増えて、三人ほどがシャボン玉にはしゃいでる。
あの女の子のご両親以外にも、別の子供の親らしい人にも挨拶された。写真も撮られたりしたけど、それぐらいは好きにしていいと思ってる。
椅子に座って、のんびり波に揺られて進んでいく。んー……。これはこれで、悪くない、かも。
「なんだろう。こののんびりした時間、ちょっといい」
『わかる』
『車だとかだとあっという間に景色が流れていくからな』
『船も遅いわけじゃないけど、見える景色がだいたい遠いから遅く見える』
『気分転換に最適だよ』
私も最近は速く飛んでただけだったから、いい気分転換だ。
景色を楽しんでいたら、頭上を大きな何かが通り過ぎていった。その影はすっぽり船を覆うほど。何かと言えば、大きな橋、なんだけど。
「大きな橋だね。車もたくさん通ってるんだっけ」
『そうだぞ』
『高速道路の一部だから』
『高速道路は分かる?』
「んー……。なんとなく。車専用の、急ぐ人のための道路、だよね」
景色とかはあまり楽しむことはできないみたいだけど、速く動けるようにしている道、みたいな感じだっけ。速く動いてもいい道の方が正しいのかな。
その橋の下を通って、船はまだまだ進んでいく。でも広い場所には出ずに、陸沿いに進んでいくらしい。どうせなら湖の真ん中までと思ってしまうけど、さすがにそれはわがままだね。
「リタちゃん」
声をかけられて顔を上げると、最初の女の子のご両親だった。二人とも、最初の時と違ってずいぶんと緊張が和らいでる。薄くだけど笑顔だ。
「今日は本当にありがとう。あの子のわがままにも付き合ってくれて……」
「ん。私も楽しかった」
振り返ると、みんなまだシャボン玉で遊んでる。でも、あの子たちは船に乗った意味はあったのかな。シャボン玉ならどこでもできると思うけど。
「ところで、さっき軽く配信を見させてもらったんだ」
「ん?」
「ウナギの美味しい店なら知ってるよ。しかも、つかみ取りもできる」
「つかみ取り……」
お魚をつかみ取りって、どうやるのかな。テレビで見たのは料理後だけだったから、どんな魚かは実は知らなかったりする。少しぐらい調べてきたらよかったかも。
『ウナギのつかみ取りは是非オススメしたい!』
『にゅるにゅるしてるよ!』
『すごく掴みにくいよあれ』
んー……。少し、興味がある。つかみ取りというのができるなら、そのお店でいいかもしれない。
「ん。ありがとう。行ってみる。場所を教えてもらってもいい?」
「ああ、もちろんだ。場所だけど……」
男性がスマホで見せてくれた地図をしっかりと覚えておく。美味しいウナギが食べられたらいいな。
壁|w・)モデルの橋はすぐに分かりそう。
勝手に遊覧船を通らせてますが、実際に通るかは知りません……。
次回はウナギ。