異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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夜景

「ん。名前は、コウタ。漢字も分からないし名字も不明。亡くなった時期は、心桜島の計画が発表されてから、開発が始まるまでの間。これぐらい」

「なるほど。分かった、それで調べさせよう」

「よろしく」

 

 どこまで調べられるのか、私には分からないけど。でも私よりはきっと調べられるはず。

 さて。私にとっては、むしろここからが本題、かな。

 

「それで、橋本さんは私に何を望むの?」

 

 ただでやってくれるとはさすがに思ってない。日本は人口がすごく多いって聞いてるし、そこから探すとなるとすごく大変な作業っていうのは理解できる。

 だから、その対価を考えると、何か無茶ぶりがあっても……。

 

「そうだね。特には無いかな」

「え」

 

 あ、あれ? ないの? もっとこう、魔法を教えろ、とか、便利な道具をよこせ、とか言われると思ってたんだけど。

 私の困惑が伝わったのか、橋本さんは笑いながら首を振った。

 

「私もファンタジーは大好きだけどね。かといって魔法を教えてもらうとなると、あまりにリスクが大きい。その知識を巡って戦争が起きる、なんてこともあり得るかもしれない」

「お、おお……」

 

『大げさやな』

『いや、わりとそうでもないだろ』

『あれ? じゃあ、その、ちいちゃんまずいのでは……?』

『あの子は楽しい魔法しか教わってないからギリセーフ、と信じたい』

 

 ちいちゃんに教えちゃったのは、考え無しすぎたかな。あの子については私の方で何か考えよう。

 それにしても。

 

「本当にいいの? 何もしなくて」

「ああ。もちろんだよ。強いて言うなら、今後も配信を続けてほしいぐらいだね。あとは、時折こうして話し合いの場を設けてもらえたらと思っているよ」

「ん。まあ、それぐらいなら」

 

 今日みたいにご飯をもらえるなら、私としても問題ない。あまり頻繁にやりたくはないけどね。

 その後は本当に特に要望も言われることもなく、少しだけ今までの日本の感想を聞かれただけで解散になった。指定の場所まで送ろうかと言われたけど、それは断っておいた。面倒だし。

 

 

 

「というわけで、真美。もらった」

「う、うん……」

 

 帰り際にすごくいいものをもらっちゃった。お寿司のお土産もそうだけど、それ以上に。

 なんと、スマホだ! スマートフォンだ! すごい!

 なんだか妙に優しげな笑顔の真美とお目々をきらきらさせてるちいちゃんへスマホを掲げて、私は言った。

 

「ててーん」

「何言ってるのリタちゃん?」

 

『ててーんwww』

『何の効果音だよw』

『ちいちゃんはちいちゃんでお箸を掲げて真似してるしw』

『あああリタちゃんもちいちゃんもかわいいよおおお!』

『まずいぞ錯乱兵だ! 衛生兵! 衛生兵!』

『衛生兵はお前だろうが!』

 

 なんかコメントでコントが始まってるけど、気にしないでおこう。

 スマホだよ。すごいよね。これ一つで遠くの人とお話しできるんだって。科学って魔法よりすごいのでは?

 

「科学ってすごい」

「うん。リタちゃん。魔法でもできるんじゃないの? こう、念話とか、ないの?」

「あるけど、相手のことを知らないと使えないよ。数字だけで顔の知らない相手とお話しできるなんて無理。しかもこれ、でまえ……? ご飯も注文できるって聞いた。すごい。えらい」

「リタちゃんがすごく興奮してるのは分かったよ」

 

『大興奮やな』

『見ててちょっと微笑ましい』

『おもちゃを与えられた子供みたいw』

 

 子供扱いはちょっと恥ずかしい。いやでも、だって、こう……。すごいから!

 

「当面の問題は、異世界側で使えないことだね」

「当たり前だけどね?」

「だからちょっと、通話できるような魔法を作ってみる」

「何言ってるの?」

 

『ついにスマホが銀河すらこえるのか』

『技術革新やな!』

『技術革新じゃない上に通話できるようになっても出前は頼めないぞ』

 

 通話だけでも十分だから。真美とかちいちゃんとかと帰ってからでもお話しできるって、夢があると思う。うん。やっぱりがんばって研究しよう。

 

「さて。明日の予定だけど」

 

『うわあ急に落ち着くな!』

『懐かしいネタやなあ……』

『次は東京とは違う場所かな?』

『大阪どう? たこ焼きとか手軽で美味しいぞ』

 

 まだ何も言ってないのに誘惑するのやめてほしいんだけど。

 正直なところ、ちょっと迷ってたんだよね。このまま日本のいろんなところに行くのも悪くないなと思ってたけど、でも異世界の街を見てみたいっていう人もいるし……。

 それに、ミレーユさんにも迷惑かけたし、謝りに行かないと。

 

「明日はちょっとミレーユさんに会ってくるよ」

「あ。じゃああっちの街に行くってことだね」

「ん」

 

『そういえば転移で街に送ったままだっけw』

『本来はリタちゃんのための依頼だったのになw』

『ミレーユさん、ギルマスさんになんて説明してんのかね』

 

 やめて。ちょっと、こう、お腹痛くなるから。

 いやほんと、かなり申し訳ないことをしたと思ってる。よくよく考えるとあれはひどかったかなって。ちゃんと謝らないと。

 

「怒られるかな……? すごく怒られるかな?」

「ど、どうだろう……?」

 

『びびりリタちゃん』

『いくらなんでもびびりすぎやろw』

『いうて向こうもある程度事情は知っとるんやし平気やろ』

 

 それだったらいいなあ……。理不尽に怒られたなら私も怒れるけど、依頼を投げ出しちゃったのは私だし。ギルマスさんも呆れてるかも。

 

「あー……」

「そんなに嫌なら、えっと……。別の街に行くようにしたら……?」

「だめ。それは嫌なことから逃げてるだけ。ちゃんとごめんなさいする」

「ふふ。そっか」

「ん」

 

『リタちゃん、ええ子や』

『偉いなあ……』

『なお実年齢不詳』

『やめたれ』

 

 いや、うん。だからこそだよ。うん。

 とりあえず、そろそろ帰って……。

 

「あ、リタちゃん」

「ん?」

「せっかく夜だし、夜景でもどう?」

「あ」

 

 そうだそうだった! 日本の夜はきらきらしてて綺麗なんだよね。是非とも見てみたい。

 真美に案内されて、私が最初来た時に入ってきたベランダへ。ベランダに出て、外の景色を眺める。

 

「おー……」

 

 民家の明かりがたくさんある。なるほど、これはまあなかなか……。

 

「東京とかならもっとすごいんだけどね」

「ん……。よし行こう」

「え」

 

 真美の手を取って、転移。転移先は東京のビル。なんとかツリーのてっぺんだ。わりと分かりやすいから転移にちょうどよかった。

 

「わ、わわ……!?」

 

 急に転移したためか、真美がびっくりしてる。周囲を軽く見回して、足下を確認して、ひっと短い悲鳴をあげてしがみついてきた。

 

「りりりりたちゃんここどこどこここ!?」

 

『たかいたかいたかいたかい』

『高所恐怖症のワイ、無事死亡』

『よかったな、天国が近いぞ。成仏しろ』

『助けてやれよw』

 

 ん。急に転移はだめだったみたい。せめて行き場所は教えた方がよかったかな。

 真美に魔法をかけて、と……。

 

「これで大丈夫。落ちたとしても、浮く」

「ほ、本当に?」

「ん」

 

 しっかり頷いてあげると、納得したのか私から離れた。それでも高いところが苦手なのか、私の手は繋いだままだ。別に私はいいけどね。

 

「わあ……。すごい。絶景」

「ん。本当にすごい」

 

 空の星は見えないけど、代わりに地上に星がたくさんある。それも数え切れないほどたくさんの。これら全てを人間が灯してると思うと、科学って魔法よりもずっとすごいと思う。

 魔法は、術者しか使えない。魔道具なんてものもあったりするけど、それでも魔法よりも劣ってしまうし、数が限られる。

 でも、科学は違う。最低限の使い方さえ分かれば、こうしてたくさんの人が使うことができる。すごいことだよ、これ。

 個人の魔法、全体の科学、みたいな感じかな。

 

「リタちゃん、連れてきてくれてありがとう。ここは普通はまず入れない場所だから、すごく感動しちゃった」

「怖がってたのに?」

「それは言わないで。怖いで言えば今も怖いから」

 

 そうだろうね。絶対に手を離そうとしないし。私は別にいいんだけど。

 

『てえてえ?』

『てえてえ』

『なんでもかんでも、そういうのに結びつけるのは良くないと思う』

『この二人、ふっつーに友達だろ』

『残念』

 

 何が残念なのやら。

 

 

 

 夜景に満足して真美の家に戻ると、一人置いていかれたちいちゃんが頬を膨らませて拗ねていた。

 いや、うん。ごめん。本当にごめん。今度はちいちゃんも一緒に行こうね……。

 




壁|w・)ここまでが第三話、です。
お寿司のおみやげは真美とちいちゃんが美味しくいただいて、精霊様もちゃんと食べました。

途中で切ると中途半端になるので今回は少し長くなりました。
ペース調整のため、次話から何度か短くなります。ご了承ください……。
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