異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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ゴンちゃん

 

 日もすっかり傾いて、森の中はとても薄暗くなった。ミレーユさんにもだいたいの魔獣を伝えられたと思う。ミレーユさんはやつれてるけど、仕方ない。

 

「想像以上に人外魔境ですわ……」

「ん。貴重な薬草いっぱいだよ?」

「お金より命ですわ」

 

 そりゃそうだ。

 さて。そんなミレーユさんには悪いけど、次が本番だ。むしろ私が伝えたいのは、ここからだ。

 

「植物も危険なものがたくさん……」

「ミレーユさん。次に行くけど、本気で警告する」

「な、なんですの?」

「今から会う魔獣とは絶対に敵対しないで。助けられない」

 

 私がそう言うと、ミレーユさんはごくりと喉を鳴らした。

 私は人間の魔法使いの中でなら最強格だと、精霊様からお墨付きをもらってる。人間全体で見ても、魔法を封じられなければ負けることはない、と。勝てることもない相手もいるらしいけど。

 でも、それは人間の中での話。魔獣たちを含めると、少し変わってくる。

 

「私は精霊の森の守護者だけど、森で一番強いわけじゃない」

「そ、そうなんですの?」

「これから会う二体の魔獣は、私よりも明確に格上。勝てない。絶対に」

 

 ミレーユさんが顔を蒼白にしてしまった。脅しすぎたかもしれないけど、嘘は言ってない。その魔獣が暴れることがあれば、精霊様が自ら鎮圧に動くほどだ。

 もっとも、二体とも理知的で、仲が悪いってこともないから暴れることなんてまずないけど。

 

『多分あれだよなあ』

『あれは画面越しでもマジでやばい』

『まってまってすごく気になる、え、ほんとにやばいやつ?』

『トイレ行った方がいい?』

『ご新規さんは行っとけ。本気で』

『マジかよ』

 

 初めて配信で紹介した時は阿鼻叫喚だったよね。懐かしい。

 そう話してる間に到着。世界樹の西の地下空洞。そこでのんびり惰眠を貪る魔獣の王の一体。

 水の音だけが響く静かなその洞窟で、彼は今日も眠ってる。とても巨大なドラゴンが。

 

「な、なんですのこれ……!?」

 

 ミレーユさんもびっくりしてる。まあ、そうだよね。

 なにせこのドラゴン、目の大きさですら私たちより大きいから。

 うん。つまり、ドラゴンが目を開いた。

 

「おお……。久しいな、守護者殿。何用だ?」

 

 重く響くドラゴンの声。その声だけで威圧感がすごい。

 

「ん。ちょっと挨拶だけ。調子はどう?」

「問題ないとも。守護者殿も元気そうだ」

「ん」

「先代殿は元気か?」

「師匠は、その……。亡くなったって……」

「なんと……」

 

 ドラゴンが目を見開いて、そして静かに閉じた。短い黙祷の後、再び目を開く。

 

「残念だ。至極、残念だ。守護者殿、何かあれば、無理をする前に声をかけておくれ。必ず力になろう」

「ん。ありがとう」

 

 ドラゴンはにっこり笑って頷くと、また目を閉じた。そのまま動かなくなって、寝息だけが聞こえてくる。この子、基本的にずっと寝てるからね。何もしなければ無害だよ。

 

「あの……リタさん……」

「ん。とりあえず出よう」

 

 転移で地上、お家の前に戻る。戻った直後に、ミレーユさんはその場に座り込んでしまった。呼吸もすごく荒い。初めて会ったらこんなものだ。

 コメントは……まあ、ちょっとだけ阿鼻叫喚。叫んでる人も経験者がなだめてる感じだね。

 

「さっきのドラゴンは……なんですの?」

「原初のドラゴン。彼に種族名はない。全てのドラゴンの始まりであり、全てのドラゴンの頂点」

「なるほど……」

 

『テンプレっちゃテンプレだけど、現実にいるとなるとマジでやばすぎる』

『リタちゃんですら絶対に勝てないって言うぐらいだからな……』

『でもかっこよかった』

『それなwww』

 

 視聴者さんの立ち直りはわりと早い。直接見たわけじゃないから、かな?

 

「ちなみに名前がないって言ってたから私がつけてあげた」

「え?」

「ゴンちゃん。あの子の名前。名前をつけられるのは初めてだって喜んでくれた」

「ええ……」

 

 そんなにどん引きした顔をしないでほしいんだけどなあ。

 

『マジで喜んでたの?』

『マジだぞ。しっぽびったんびったんしてたから』

『暴れてると勘違いして精霊様が大慌てで駆けつけたからなw』

『なにそれ見たいw』

 

 あの時の精霊様は本気で慌ててたからね。事情を説明したらすごく呆れられたけど。そんな精霊様を見てゴンちゃんがさらに大笑いして地震が起きて。精霊様が本気で怒ってゴンちゃんが平謝りしていた。ちょっと楽しかったよ。

 

「で、もう一体いるわけだけど」

「も、もういいですわ! 十分ですわ!」

「ん……? でも生態調査なんだよね?」

「そ、そうですけれど!」

 

『もう逃げられないぞ(はぁと)』

『がんばれミレーユさん、見えないだろうけど応援してるから……』

『ところでもう一体はみんな知ってんの?』

『師匠さんの代から見てる人なら、かな』

 

 ん。私が配信するようになってからだと、ゴンちゃんぐらいだったと思う。ゴンちゃんで怖かったっていう人が多かったから避けてたんだよね。

 でも、今日は仕方ないよね。生態調査なんだから。

 

『あれ? これ逃げられないのって俺らなのでは?』

『お、そうだな。画面切って逃げてどうぞ』

『ばかやろう! 俺は見届けるぞお前! ちゃんとトイレに駆け込む用意もしておいた!』

『かっこいいのか悪いのかこれもうわかんねえなw』

 

 かっこ悪いと思うよ。

 ミレーユさんを見る。深呼吸して、気持ちを整えてるみたいだった。少しして、意を決したように私へと頷いた。

 

「準備できましたわ! 覚悟できましたわ! 行きますわよ!」

「ん。じゃあ、呼ぶね」

「え?」

 

『呼ぶ?』

『行くんじゃないの?』

 

 あの子の場合は、呼ぶのだ。

 




壁|w・)今回と次回はリタちゃんファミリーの紹介です。
名前をつけてもらってとっても嬉しい上機嫌なドラゴンちゃん(なおサイズは大きな山)
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