異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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仕返しをそそのかす悪い魔女

 

 サインって、なんだろう。ノートに名前を書けばいいのかな。よく分からない。

 渡されたノートをじっと見ていたら、勇者さんがノートを開いてここに、とお願いされた。お願いされても、サインそのものが困る。

 

「名前を書けばいいの?」

「あ、そっか……。なんとなく、芸能人みたいな感覚だった……」

 

『わかる』

『頻繁にテレビで見るからなあw』

『残念ながらただの旅行者なんよ』

『ただの……? 旅行者……?』

『疑問を持つなw』

 

 旅行者、と言えばそうだね。たまに首相さんと取引したりはするけど、それは頼まれてついででやってるだけだし。

 芸能人って、いつかの温泉の時に一緒にいた高崎さんみたいな人だよね。女優だって聞いてるけど……。ともかく、有名な人は芸能人みたいなものかもしれない。

 

「高崎さんみたいな人だよね?」

「さらっと僕でも知ってるトップ女優の名前が出てくると正直反応に困る……」

 

『わかる、わかるぞ!』

『リタちゃんの交友関係、日本の首相とかトップ女優とか普通に出てくるからなあ』

『なお例外なく真美ちゃんより扱いは下です』

 

 それは当然だ。この世界に限るなら、私は真美が一番だから。

 勇者さんはサインを諦めてくれたけど、ツーショットを撮ってほしいと言われた。それぐらいならいつものことだから、別に構わない。私の世界の事情に巻き込んでしまったというのもあるし。

 勇者さんのスマホを使って、写真を撮る。勇者さんと並んで、スマホを魔法で浮かせて、ぱしゃりと。写真を確認してもらって、終わり。喜んでくれたのなら良かった。

 

「ありがとう、リタちゃん……! 友達に自慢できる!」

「ん」

「それで、リタちゃんはどうしてここに?」

「え?」

「え?」

 

『マジかこの子、察し悪すぎないかw』

『お前を迎えに来たんだよお!』

『実はこの世界を満喫してた感じ?』

 

 勇者さんはそのコメントを見て、あ、と目を見開いた。そしてすぐに私に頭を下げてくる。お願いします、と。

 よかった。これで帰りたくないと言われたら困るところだった。

 

「じゃあ、荷物をまとめてほしい。王様とかには何も言わないで行く」

「分かった。でも、いいの? その、リタちゃんが何か言われるんじゃ……」

「平気。大丈夫」

 

 私が来てすぐにいなくなった、になるから確かに何か言われるかもしれないけど……。逆に言うと、その程度だ。この国に来ることはもうないだろうし。

 美味しいものがあったら別だったんだけどね。晩ご飯、微妙だったから、正直あまり興味がない。

 勇者さんが荷物をまとめるのを待つ……というほどもかからなかった。ここに来た時も鞄一つだけだったらしくて、中身もほとんど出してなかったみたい。ただ着替えるのを待っただけ、だね。ちなみに、さすがに私から見えない場所で着替えていた。

 

「お待たせ! じゃあ、お願いします!」

「ん。忘れ物とかは、ない? やり残したこととか……」

「特にない、かな……」

「仕返しして帰りたいとかも付き合うよ。その権利があると思うから」

「ええ……」

 

『勇者くんは拉致られた側だからな』

『俺ならとりあえず王様をぶん殴るかな』

『君が! 泣いても! 殴るのをやめない!』

『泣いたらやめてあげて……?』

 

 勇者さんが別にいいのなら、私も無理強いをするつもりはない。ただ、やるなら今のうち、というだけだから。

 

「あの……」

「勇者さん、何かあった?」

「あー……。僕、名前はコウキです」

「ん」

「お言葉に甘えて……一人、いいですか?」

「ん」

 

 一人だけでいいんだ。言い出した人とか、魔法陣に魔力を流した人とか、いろいろと候補がいるから。複数人に仕返ししてもいいと思う。

 

「王様を殴りたいです。僕を見て、鼻で笑ったから」

「そう」

 

『え、あの王様そんなやつなん?』

『人を拉致しておいてその態度は普通にムナクソ』

『ばくっとしよう!』

 

 さすがにしないよ。コウキさんが納得できるようにしないといけないから。

 

「若い王様、だよね。すぐに……」

「え。結構年いってたと思うけど……」

「ん……?」

 

 王様なら、かなり若い方だと思ったけど……。

 ああ、違う。多分、先王のことだ。あの王様が王様になったのはつい最近のことだったんだね。

 

「その人なら、しょくちゅうどく……? で大変なことになってる」

「あ、そうなんだ……。じゃあ、もう……」

「だから仕返しするなら効果的」

「リタちゃん!?」

 

『真っ黒ですねえ』

『勇者くんより魔女の方がやる気まんまんじゃない?』

『まあ、魔女だし、ね?』

 

 ちょっと悪い魔女を演じてみるのもいいかもしれない。でも正当な権利だと思うから。日本みたいに法律で裁くとかできないだろうし。

 というわけで、コウキさんを連れて転移で移動。移動先は、知ってる人の気配がある部屋へ。つまり、王様の部屋。先王がどこにいるか分からないから。

 

「ついた」

「え」

「な、なんだあ!?」

 

 転移先の部屋は、ちょっと豪華な部屋だった。天蓋付きのベッドに細かい彫刻がされた家具とかある。でも、調度品は少ない。ちょっと高い家具があるだけだ。

 




壁|w・)先王が召喚した勇者の扱いに頭を抱えていたら、危うく全責任が降りかかりそうになった王様がいるらしいです。
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