異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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朝ご飯はチョコバーです

「話のついでに、リタさんに言っておきますわ」

「ん?」

「この先、貴族と関わることもきっと出てくるでしょう。あなたが必要だと判断したら、わたくしの名前を使ってくれて構いませんわ。灼炎の魔女の名はそれなりの力を持っています。伯爵程度の貴族なら黙らせられますわ」

 

 それとこれを、とミレーユさんが渡してきたのは、小さなナイフ。柄に紋章が描かれてる。馬にまたがった騎士、がモチーフかな。かっこいい。

 

「バルザス公爵家の紋章ですわ。魔法がかけられていて、わたくしが持っていたものだとそれだけで証明できます。もし疑われたら、それも使ってくださって構いませんわ」

「ん……。ありがとう」

 

 これは、すごく助かる。私はこの世界の人間社会は未だによく分かってない。だから、いざという時に使えるものは、できるだけ持っておきたい。

 もちろん、ミレーユさんに迷惑がかかるのは分かるから、できるだけ使うつもりはないけれど。

 

「それじゃあ、私も」

 

 ナイフみたいに渡せるものなんて、私にはない。だから、私ができるのは、約束だけ。

 

「もし何か手に負えないこととか、困ったことがあったら、精霊の森に来てほしい。入り口で私を呼べば、精霊様がこっそり案内してくれるから」

「それは……。いいんですの?」

「ん。私にできることは限られてるけど」

 

 魔法によるごり押しとかぐらいしかできないと思う。ただそれでも、私の力が必要なら、遠慮無く頼ってほしい。

 ミレーユさんのことは気に入ってるから、助けてあげてもいいと思ってる。

 

「ありがとうございます、リタさん」

 

 そう言って、ミレーユさんは柔らかく微笑んだ。

 

『ええ話やなあ』

『わりとシリアスしてたから黙ってたぜ』

『おれもおれも』

 

 そのまま黙っておいてほしかったと、ちょっとだけ思ったよ……。

 

 

 

 翌朝。日の出とともに起床した私は、早速配信を始めるために外に出た。いつものように魔法を起動させる。

 

「おはよう。朝ご飯になりそうなお菓子をください」

 

『今日はちゃんと挨拶してる』

『挨拶できてえらい』

『でも要求がわりと無茶ぶりw』

 

 難しいかなとは思うんだけどね。でも何かあるなら欲しいかなって。

 

「まあ、みんなに任せるよ。私が選ぶと、お菓子なら何でもいいってなるから」

 

 そう言いながらお菓子の回収を始めると、やっぱり大量に送られてきた。今回は予想できていたから早めに止める。くれようとしてるのに回収できなかった人は、ごめんなさい。

 内容を見てみると、栄養がたくさん入ってるみたいなことを書かれているスティック菓子とかチョコバーとか、そういったものがメインだった。

 あと、読めない文字のお菓子もある。明らかに日本語じゃない。しかも日本語がない。別の言語の国からなんだろうけど、ごめんね、読めないと怖くて食べられないよ。これは封印かな。

 

「たくさんのお菓子、ありがとう。ミレーユさんと食べるね」

 

『ええんやで』

『むしろもっと貢ぎたい』

『常時開放して、どうぞ』

『それやるとすごいことになりそうw』

 

 同感だね。一週間もすれば精霊の森がお菓子で埋まるんじゃないかな。そう思ってしまうぐらいには、最近はちょっと多すぎる。

 ゴンちゃんとかフェニちゃんも食べてくれるし、もう少しもらってもいいかも、とは思うけど。

 

『ところでミレーユさんはまだ寝てるの?』

 

「ん。リビングで寝袋に入ってる。師匠の部屋のベッドを使ってもいいって言ってるんだけどね。思い出を汚したくないって断られちゃう」

 

『やっぱミレーユさんはいい人やな……』

『そのミレーユさんを裏切ったあたり、例のテンプレ王子の無能さがよく分かる』

『でもリタちゃん、それなら一緒にベッドで寝てもよかったのでは?』

 

 それはさすがにね。少し恥ずかしいから。部屋を見られたくないっていうのもあるけど。

 配信を続けながら黒い板を消して、室内に戻る。するとちょうどミレーユさんが起き出したところだった。

 寝袋から這い出して、大きなあくび。ゆっくりと伸びをして、振り返って私と目が合った。

 

「…………」

 

 顔を真っ赤にするミレーユさんはちょっとかわいいかもしれない。

 

『かわいい』

『無防備いいぞこれ!』

『変態がいる……』

『オマエモナー』

 

 みんな似たようなものだと思うよ。

 

「おはよう、ミレーユさん。これ、朝ご飯にどうぞ」

「あ……。ありがとう、ございます……。なんですのこれ?」

 

 私がお皿に載せて渡したのは、チョコバーだ。栄養がたっぷりなチョコバーらしい。なんかそんなことが袋に書いてあった。

 さすがに袋からは出してる。ミレーユさんなら秘密にしてくれそうだけど、念のため。

 

「チョコバー。美味しいよ」

「ああ……。チョコなんですのね、これ」

 

 珍しいものを見るみたいに、チョコバーを上や横から観察してる。この世界にもチョコはあったはずだけど、もしかして高級品だったりするのかな。

 確認しておけば良かったと思うけど、今更だ。

 ミレーユさんはチョコバーを手に取ると、意を決したように口に入れた。

 

「もぐ……。これは、チョコとは思えない食感ですわね。ざくざくしていますわ」

「ん。美味しいでしょ?」

「すごく美味しいですわ」

 

 気に入ってくれたみたいで、チョコバーはあっという間に完食してしまった。

 朝ご飯の後は、このあとの予定について。ただ決めるようなことはあまりない。あとはもう、報告に戻るだけだ。

 

「改めて思いますけれど、リタさんと仕事をすると、ある意味で時間の感覚が狂いそうですわ……」

「ん?」

「普通、調査の依頼が一日で終わるなんてあり得ませんわよ」

 

 それは、うん。もともと私が詳しかったっていうだけだからね。楽に仕事ができたと思ってほしい。

 

『これもある意味で知識チート……なのか?』

『ちょっと違う気もする』

 

 巡り合わせ程度に思ってほしいと思う。

 

「それじゃ、そろそろ行く? また街の側まで転移するから、忘れ物ないように気をつけて。忘れ物しても気付いたら届けに行くけど」

「大丈夫ですわ。情報をまとめた書類も持ちました」

「ん」

 

 準備完了、ということで。私も最後に部屋を見回して、忘れ物がなさそうなのを確認してから転移した。

 




壁|w・)公爵家のナイフに出番があるかは謎である!
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